ただでさえはちゃめちゃに可愛い存在にうさ耳なんか付けさせたらどうなっちゃうんだ!?!? という検証をしたい天下の赤髪海賊団大頭がおねだりする話です。
「何も云わずにこれを着てほしい」
そう真面目な顔でお頭が差し出してきた袋を受け取り、開いてみて、私は固まった。
なんだこりゃ。
「どういうこと?」
「頼む。お願いします」
「理由」
「見たい」
率直すぎる理由。そんなにまっすぐな瞳で見つめられたらどうしていいのかわからない。
「前の島って、無人島だったよね。どこで仕入れたの、これ?」
「その前の島で」
「私、部屋の掃除結構してるけど、こんなの見覚えないよ」
「ベックに預かっといてもらってた」
「いやこんなもんお頭に預けられるベックの気持ちも考えな」
前の前の島、ということは、一か月以上前からベックはこの荷物を持たされていたということになる。どんな顔して持ってたんだろう。
少なくとも一緒に仕事をしていておかしなところは何もなかったと思うけれど、そういえば最近妙に私に気の毒そうな視線を送ってくるなぁとは思ってた。それに気付いたのが仕事中にお頭にくっつかれて引っぺがしてを繰り返してたときだったから、てっきりクソガキムーブが止まらないお頭をあしらわなければならないことに対してだと思っていたのだけれど。
なるほど。ベックは知ってたのか。裏切り者め。
「あの島の飲み屋の姉ちゃんが、バニーさんの日ってのがあるって云ってたんだ。それが今日。で、盛り上がるから是非にって勧められてよ」
「盛り上がる前に盛り下がってるんだけど」
「絶対に似合うから!!」
「普通に嫌」
「エン~!!」
逃げ出そうにもしっかり足を絡められていて逃げられず、あれこれ理由を付けて拒否しようにも、こういうときのお頭はものすごく頭と舌が回る。
何を云っても最終的にはコレを着る方向に持っていかれてしまい、三十分ほど無意味な攻防を続けた結果、結局私が根負けしてしまった。く、悔しい。私だってそれなりに口は達者な方なのに、こういうときのお頭って迫力がすごいのよ。
さすがに目の前で着替えるのは嫌だったので一旦お頭は部屋の外に追い出すことに成功。
それはいいけど、一人になった部屋で改めて紙袋を開いて、中身をベッドの上に並べてみて、私は頭を抱えた。
マジでコレ着るの?
確かに私は可愛くて、似合わない服なんてほとんどないと云っても過言ではないだろう。例えばフリルたっぷりなドレスや、セクシー路線爆発のものだって、普段のタイプじゃないってだけで似合わないことはないと思う。
でもこれは、似合う似合わないの問題じゃなく、マジで着たくない。
いっそ逃げてしまおうか。窓を開けてコハクを呼んで、おじ様に匿ってもらおうか。
一瞬とてもいい案に思えたけれど、そうすると戻ってきたときにもっと酷いことになるのは想像に難くない。そう考えると、逃げるのは現実的なことではない。あとおじ様に『お頭に恥ずかしいこと強要されたから匿って』って云うのめちゃくちゃ恥ずかしいわ。やっぱ駄目だ。
ものすごく気が進まない。が、投げやりにでも着ると云ってしまった手前、嘘つきにはなりたくないのでとりあえず一度は着てみるべきだろう。
そうしてのたのたと着替えて、数分後。
なかなか私から声がかからないことに痺れを切らしたらしいお頭が、ノックもなしに部屋のドアを開けた。
「どうだー? って、なんでシーツ巻いてるんだ」
「や、その」
シーツを身体に巻き付けて蹲っている私を見、お頭は不思議そうに首を傾げた。
寒いわけじゃない。今は夏島に近く、季節は秋らしいのでどちらかというと涼しくて過ごしやすい。
だからこれは寒くてやってるわけじゃなくて。
「着てみたら、思ったより……恥ずかしくて」
これに尽きる。
ぱっと見で布面積が少ないのはわかってたけど、いざ着てみると羞恥心がとんでもなかった。これなら裸でいたほうがましだ。
もしかしたらお頭は、どんな格好でも私が堂々としていると思っていたのかもしれない。だから、恥ずかしくてシーツを巻いている私をしばらくポカンと見つめていた。
それから、にこーっと心の底から嬉しそうな笑顔を浮かべて、ずんずんとこちらに近付いてくる。
あ、ヤな予感。
「わ、わ、ちょっと待ってってば!」
「やだ。待たん」
「あ、もうっ……!」
咄嗟にぎゅっとシーツを掴んでみたけれど意味はなく、あっという間にはぎ取られてしまった。
そうして晒された、お頭リクエストの格好をした私。
「可愛い」
「……どうも」
「絶対似合うと思ったけど、予想以上に似合う、可愛い。天才。最高」
上から下までじっくり見られて、お頭は満足そうに頷いている。
気に入っていただけたなら何よりですよ。
「もう満足したでしょ、着替える」
「何云ってんだ。こっからが本番だろ?」
「本番って」
何の、と。
首を傾げた私に、お頭はにっこりと――否、にやりと笑った。
その瞬間、とっさに私はお頭から距離を取ろうとして、あえなく失敗する。くそう、頑張れよ私の運動神経。まぁ多少頑張ったところで四皇相手に逃げられる奇跡はないんだろうけど。
ベッドに腰掛けるお頭に背中から抱き締められ、器用に足を絡められて身動きが取れない。ぐるりとお腹に回った右腕はそのまま私の左の太ももをいやらしく撫でた。
それだけで、お頭がこの格好の私と何をしたいのかわかってしまい、照れて赤くなるより先に青くなって私は必死に首を横に振った。
「や、やだ!!」
「なんでぇ」
「だって、な、なんでわざわざこんな格好で……」
別にね、今更お頭とスるのが嫌だとかそういうことはないんですよ。あれちょっと変かも、と思ことがたまにあるけど、基本的に優しいし気持ちいいから、全然嫌じゃない。時と場所と場合さえ考えてくれたら。
なんか今までもお頭の服を着てほしいとか下着だけなしで服着たままでとか妙なお願いはされていた。でも正直私はお頭しか知らないし、私にはよくわからないけど、男の人的にはこういう楽しみ方もあるのかな、と納得していた。一応は。
でも、これは、明らかに駄目だと思う。
――だって私今、破廉恥バニーな姿だよ!?
下から赤いピンヒールに網タイツにハイレグきっついバニー衣装、胸のところだってほとんど布がなくて心もとないし、ただのカチューシャかと思ったら頭に付けた瞬間長いうさぎの耳がぴょこんと生えて、しかも自分で触ってみたら感覚がある。ナニコレ。こんなの市販されてる世界怖すぎない!? 恐怖のあまりパッケージを上から下までじっくり読んでみたら、短時間だけそういう効果があるジョークグッズらしい。カチューシャしたらうさ耳生えて感覚共有できる代物をジョークグッズで終わらせていいんだろうか。なんかもっと、ほら、医療とかに役立てそうじゃんこういうの。なんでエロい方向に特化させてんの。
とにかく、スるのは良くてもこの格好は嫌だ。
せめて着替えないと無理。
不満げに唇を尖らせるお頭を肩越しに睨みつけるが、太ももを撫でる手は止まらない。
「普段やらないことだからだろ。ほら、こことか超エッチ」
「ばか!! とにかく、着替えるから一回出てってよ!」
「え~」
「もう、駄目だってば、こら、ぁッ」
「んー」
びくりと身体が震える。
なんとお頭が、カチューシャのうさ耳を食んだのだ。
え、嘘。
なんか、それ、ゾクゾクする。
「お、お頭、それだめ……」
「ん? なんで?」
「だから、その……その耳、今私と感覚繋がってるみたいで……」
「へーぇ!」
失言だったか、と思ったけれど、よく見るとお頭はにこにこ嬉しそうにしている。
あ、これ知ってたな。
まぁ一か月以上も大事に隠しておいたものだし、そういうところはちゃんと調べてあるか。ということは、わかっていて、耳を。
私がじわじわと顔が赤くなるのを自覚するのと同時に、お頭の表情がどんどん獲物を狩る肉食獣のように獰猛になっていく。やばい。この目は、逃げられないかもしれない。
「このうさ耳が感じる?」
「感じるとかじゃなくて……変な感じが、するから」
「どんなふうに?」
「ッもう! 意地悪!」
こんな赤い顔でお頭を睨みつけても逆効果ということはわかっているけれど、睨まずにはいられなかった。だってただ流されるなんて癪だし。
お頭の手はするすると太ももから上に移動し、私の下腹部を撫でた。慈しむような優しい手つきだけれど、行為を意識せざるを得ないいやらしい触り方。たったそれだけで身体の奥が熱く疼くようになってしまったのは、絶対絶対お頭のせい。
油断した隙にお頭は私を膝の上に横抱きにするものだから、バランスを崩しそうになって慌てて抱き着いた私に嬉しそうにしている。その間も楽しそうにうさ耳に頬ずりするので、私はずっと背筋がぞくぞくしていた。最初は違和感しかなかったそれも、徐々に快感に近い感覚になっているのは、私が動物的感覚に引っ張られているからだと信じたい。このジョークグッズ本当に他の使い道を探してほしい。
ねぇ、と上を見上げればすぐに噛みつくような口付けが落とされる。ちゅ、ちゅ、と何度か触れるだけのキスを角度を変えて繰り返し、そのうち呼吸のために開けた口にはぬるりと舌が差し込まれた。絡まる舌のざらつきと唾液の混じる音は何度キスをしても慣れなくて、くっついた部分から伝わる熱が足りなくて、無意識に私は胸を更に押し付ける。やばい。これは、やばい。
ハッとして慌ててお頭の胸を押して離れようとするも、しっかりと頭を抱え込まれて逃げられず、貪るようなキスから逃げることが出来ない。
私が逃げようとしているのがわかっているからか、お頭はわざと私が抵抗できないようなキスをする。舌を吸い、粘膜が擦れあう音をわざと立て、喘ぐような呼吸の合間も快楽になる愛撫で逃げ場が一切なかった。
漸く解放されたときにはすでに私に逃げる余裕なんて欠片もなくなっており、ぐったりとお頭の胸に寄りかかることしか出来ない。上がった息は整わないし、相変わらずうさ耳に頬ずりしてるし、もう駄目だ、と私は観念した。
「……絶対絶対、一回だけだからね」
「わかった」
「一晩中じゃなくて、一回だからね!?」
「わかったわかった」
「本当にわかってる!?」
「だいじょーぶ、最高に可愛いバニーなエンをしっかり堪能するからなっ」
めちゃくちゃ嬉しそうに云うけど、話が通じてない気がする。
でも、はっきりとわかったって云ったし、あんまり疑いすぎるのもな、と思って流された私も悪いかもしれないけど、一番悪いのは結局一回なんて約束はなかったことにして一晩中バニー姿のままの私を離してくれなかったお頭だと思います。最低! 嘘つき! エロおやじ!!