超絶美少女は夢を見る   作:秋元琶耶

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ウルトラ可愛いが天元突破している未来の海賊女王がちょっとばかり嫉妬したりする話です。


未来の海賊女王だって嫉妬する

柔らかな光に瞼を刺激され、目を覚ます。

何度か瞬きをしてから窓に目をやると、まだ暗い。夜明け前だろう。ということは朝日ではないし、そもそも光源は窓とは反対側だ。

ゆっくりとそちらに首を向ければ、ベッドに背を向けるソファにお頭がいて、おそらくランプを付けて新聞か何かを読んでいるらしい。

気怠い身体を起こしてベッドから降り、服が見つからなかったので身体にシーツを巻き付けてそちらに足を向ける。

 

「何か気になる記事でもあった?」

「ん? ああ、まぁな」

 

ソファ越しに背中から抱き着き、お頭の手元を覗き込む。するとそこにあったのは。

 

「……モンキー・D・ルフィ?」

「また懸賞金が上がったらしい」

「へぇ……」

 

最近なにかと話題の、ルーキーの名前だ。

東の海出身で、一時期赤髪海賊団が拠点にしていた島で知り合った昔馴染みだと云っていた。私がこの船に乗る、前の話。

彼が海に出たのはつい最近らしいけれど、行く先々でとんでもないことをしでかして、あっという間に有名海賊の仲間入り。懸賞金も最弱の海出身とは思えない速度でポンポン上がり、今や飛ぶ鳥を落とす勢いで名を上げている海賊の一人だという。

初額が三千万ベリーなだけでもぶっとんでるのに、どうやら次は一億ベリーにまで跳ね上がったようだ。そういえば今日は忙しくて新聞を読んでる暇がなかった。ちらりと覗き見た限り、なんでもエニエス・ロビーを襲ったとか。

いや馬鹿じゃん。馬鹿がやることじゃん。落とせる落とせないは別問題として、後のことを考えたら面倒くさいしあんなところ襲う馬鹿がいるなんて驚きだ。

とはいえたかがルーキーの懸賞金が上がったところで私は何の興味もないわけで、特に面白くもなんともない。

私の気のない相槌の何が面白かったのか、お頭は愉快そうにわははと笑った。

 

「お前、本当おれら以外に興味ねぇよなぁ」

「そんなことないよ。最近会えてないけどおじ様たちは今でも大好きだし、ミポりんはたまにわけわかんないことしてて面白いし」

「その呼び方やめろって、前に云われてなかったか?」

「云われたけど、あっちだって私のこと『小娘』って呼ぶんだからお互い様じゃない?」

 

そういえばこのあいだの新聞に、ミポりんこと鷹の目のミホークがクリーク海賊団を壊滅させた上に単身東の海に乗り込んで残党狩りをしてた、なんて記事があったっけ。暇なの? と思ったけど暇なんだろうなぁ。あの人たまーにお頭の顔見に来て飲んで帰るけど、特に何か実のある話をするわけでもなく、本当にただ飲んで帰るだけ。これで実はめちゃくちゃ忙しいとかなさそうじゃん。そういう自由なところは面白くて好き。ただし私を小娘呼ばわりする限りは私だってミポりん呼びをやめるつもりはないです。

そう、だから私は、赤髪海賊団以外に興味がないというわけではない。

なんなら、ルーキーに興味がないわけでもない。だって北の海出身のトラファルガー・ローの動向は気になるし、海軍上がりのX・ドレークのことだってちょっと気になっている。一つ上の世代だとキャベンディッシュも面白いから小さくても記事は追ってるし、他にも一応同じ四皇に名前を連ねてるビッグマムやカイドウのことも情報は集めてる。

 

それに、興味がない、というのは厳密には間違いだ。

モンキー・D・ルフィ。

赤髪海賊団の昔馴染み。

お頭が左腕を失った、原因。

そこに好意がないというだけで、興味はある。

 

――私はただ、こいつが嫌いなだけ。

 

「これは私のわがままだから」

 

少し身体をずらして、私はお頭の肩に自分の額を押し付けた。

私は今から全然可愛くないことを云うから、こんなことを云う私の顔を見られたくなかったのだ。

 

「お頭が後悔してないことも、一度だって彼を怒ったことがないこともわかってるよ。でも」

 

左手を伸ばす。

一度だって触れられなかった、お頭の左腕があった場所。空っぽの、左腕。

私の掌が、空虚なその場所を握り締める。

 

「おかげで私は、お頭に両腕で抱き締めてもらえない」

 

涙声になってしまったのは、自分でもちょっと予想外。こんなことで泣く面倒な女になりたくなかったのに。

頭の片隅に常にあった気持ちを言葉にしただけで、こんなにも胸が苦しくなるなんて思わなかった。

 

私が赤髪海賊団に加わって少しした頃、思い切って左腕と左目について訊いたことがある。

だって右腕一本でもお頭はものすごく強くって、昔はミポりんともライバルだったなんて話なのに、一体そんなお頭がこんな怪我を負うなんてどんな相手だったんだろうと気になったのだ。

もしこの二つの怪我についてお頭が何かトラウマのようなものを抱えているのであればそっとしておいたけれど、たまに笑えない自虐ネタみたいにしてお酒の席でゲラゲラ笑っているところを見るに、そういうわけではなさそうだったし、嫌でなければ話してくれるかな、という私の予想は当たっていた。

 

左目の傷はずいぶん昔におじさまのところのティーチさんと戦ったときにやられたらしい。油断したわけではないのに、気付いたらやられていた、でもやり返して半殺しにしたしおあいこだ、なんて笑われて、私はちょっと反応に困ってしまった。でも、あんな傷跡が残るような怪我だったのに失明しなかったのはラッキーなのかな?

ティーチさんとはちょっとだけ話したことがあるけど、イゾウちゃんやサッチさんたちとは違ってあんまり仲良くなれる感じがしなかったので、あの人のことはよくわからない。でも、正直そんなに強そうに見えなかったから、お頭と互角に戦えるなんて意外だった。

 

そして、左腕。

誤ってゴムゴムの実を食べカナヅチになったモンキー・D・ルフィを助けるため失った、とお頭は云った。

愛おし気に空っぽの左腕の袖を握り締めて、優しい目をして。

フーシャ村で過ごした当時の思い出なんかも交えて話してくれるお頭の顔は終始穏やかで、とてもじゃないが左腕を失ったことを嘆いている様子なんてなかった。

まったく後悔をしていないのだと、嫌でもわかった。彼を助けるために利き腕を失くしたことなんて、なんでもないことだと、心底そう思っているのだ。

 

この話を聞いた当時、私は特にお頭に恋心なんて抱いていなかった。

ただ、自分がこのままずっと赤髪海賊団にいたいと、ここのみんなが大好きなのだと自覚を始めた時期だったのは覚えている。

そんな時期の私ですら、この話を聞いてとても複雑な気持ちになったのだ。

お頭の交友関係にケチをつけるつもりはないけれど、何故そんな子供相手に、と思ってしまった。

そんなことを考えた自分が嫌で、自分の中にそんな醜い感情があることが嫌で、見て見ぬふりをしていた。

だけど、こうしてお頭の隣に立つようになって、あのとき自分が抱いた醜い感情をいよいよ無視出来なくなったのだ。

 

これは、嫉妬だ。

 

よりにもよって、会ったこともない年下の子供相手に、私は長い間ずっと嫉妬し続けていた。

よくも私の大事の人の大事な身体を、と、面識のない相手に怒り続けていたわけだ。

逆恨みもいいところで、ただの八つ当たりだし、わがままだ。

自覚はある。

それでも、この胸に渦巻いたドス黒い感情は消えてくれない。

 

「エン、それは」

「云ったでしょ。わがままだし、単なる八つ当たりなの」

 

諫めるような声音のお頭の言葉を遮って、私は首を横に振る。

共感してほしいわけじゃない。

ただ、と。

私は、一度言葉を切ってから、続けた。

 

「右腕しかなくてもあなたが好きだよ。それでも、たまに、考えてしまう」

 

もしもお頭に、今も変わらず左腕があったなら。

私を抱き締めてくれる温かい腕が、もう一本あったなら。

 

そんなどうしようもないたらればに思いを馳せて、勝手に悔しがって、勝手に寂しくなって、勝手に虚しくなって、勝手に怒っている。本当に何から何まで自分勝手すぎて、我ながら呆れる。

結局自分のことしか考えていないのだ、私は。

だからお頭自身が過ぎたことだとしているものを、割り切れずにいる。

 

あーやだやだ、こんなの私に全然似合わない。

お頭も何も云わないし、私は別にお頭を困らせたいわけじゃないのだ。

きっとお頭は、この記事を読んでいい気分なのだから、邪魔ものは退散しよう。もう遅いとかいうツッコミはナシです。

 

「……へへ、ごめん、つまんない話しちゃった。私、もう一回寝るね」

「え、なんだ寝るのか?」

「え?」

 

からかうような声音に、思わず私は首を傾げた。

不眠症の私が、寝ようと思って眠れるのか、という捻りの利いた嫌味なのかと一瞬考えたけれど、肩越しに振り返って妙にニコニコ笑うお頭を見てハッとする。

お頭の胸の前にやっていた手を柔らかく握られて、その触れ方に下腹部が疼いた気がした。咄嗟に手を離して代わりにシーツをぎゅっと握りしめ、ゆっくりと後退り。

 

「……だって、もういっぱいしたよね?」

「いやぁ、どうやらもう片手分愛し方が足りなかったみてぇだからよ」

「十分! 十分だしそういう意味じゃないし!!」

 

間合いはあっという間に詰められて、気付けば私はベッドに押し倒されている。早業すぎて何がなんだかわからない。なんでよ、一瞬前までソファの向こうにいたじゃん、なんで瞬きの間に移動できるのよ! っていうかだから、そういうつもりで云ったんじゃないのに!

眠りに落ちる前にも随分深く愛されて、私は気絶同然に寝たっていうのにこの人はまだそれでも足りなかったっていうんだろうか。勘弁してよ、私とお頭じゃそもそも体力が全然違うんだから。

なんとか逃げ出せないかともがいてみても、片手は頭上でベッドにに付けられて、もう片方の手でお頭の胸板を押してもびくともしないし、足と足の間に膝を付かれては起き上がることも出来やしない。

詰んでる。

しかももうお頭の下半身は臨態勢。さっきまでの会話でなんでそうなるの? 割と付き合いも長いし、恋人になってからもそれなりに時間経ってるけど、やっぱりお頭の興奮するツボが全然わからないです、私。

 

でも数時間前の行為ですでに私の身体はガッタガタなわけで、少なくとも今日はこれ以上無理だ。

急ぎの仕事はないけれど通常業務はあるし、時間があったらロックスターくんの赤髪海賊団語りに付き合う約束もしているのに、今からもう一回なんてしたら午前中は絶対起き上がれなくなる。

困る困る。

ということを控えめに主張してみると、黙って、しかし私の拘束はそのままに聞いていたお頭は、途端に捨てられた子犬みたいに情けない顔になり、ゆっくりと私の耳元に口を近付けて、懇願するように云った。

 

「なぁ、駄目か?」

「……も、もう……ッ!」

 

――私がその顔と声に弱いのわかってるくせに、ずるい人!

 

 

 

 

 

(ねぇ、ベック)

(なんだ、改まって)

(お頭って、その、……特殊性癖持ちだったりする?)

(ゲホッ、ン゛ッ、ま、またなんで?)

(いやなんか、あの人が興奮するツボが未だによくわかんなくて……もしかしたら普通じゃ考え付かないようなことに興奮するタイプなのかなって……)

 

直後、ベックマンの大爆笑がレッド・フォース号に響き渡る。

滅多にそんな笑い方をしないベックマンの様子を見に執務室まで来た大幹部組は、机に突っ伏したまま大爆笑するベックマンと、その前で心底不服そうに頬に空気をためてベックマンを睨みつけるエン、という摩訶不思議な光景を目の当たりにすることになるのであった。

 

ちなみにエンの質問に対するベックマンの答えは、『中らずと雖も遠からず』だった。

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