超絶美少女は夢を見る   作:秋元琶耶

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未来の海賊女王、無茶をする

「エン……」

「ごめんなさい。本当にごめんなさい」

「わかってるならいいけど、お前もう一人で倉庫入るの禁止な」

「どんどん禁止事項が増えていく……」

 

誰のせいだ、と思いっきり睨まれて、エンは肩を縮こめるしかないのだった。

場所は医務室、怖い顔でエンを睨むのは当然ホンゴウだ。

 

「お前なぁ、なんで貧弱なくせに誰も手伝いに呼ばないんだよ? うちじゃ倉庫の中でエン一人で動かせる荷物なんか探すほうが大変だぞ」

「や、だってみんな忙しそうだし……いけるかなって」

「いけなかった結果がこれだけどな」

「うす、反省してます……」

 

エンが加入するまで赤髪海賊団は完全な男所帯だった。しかも、どこを見ても屈強な男たちばかり。ゆえに、荷物の一つとってもだいたいが最大積載量ギリギリになっていることが多かった。

そのうえエンがやってきてからも、彼女に荷物を運ばせるなんて考えは全くなかったのでそのあたりの配慮は全くしていない。エンが何かを必要だといえば、誰かが運んでやればいいと誰もが思っているからだ。

エンも一応そのあたりの話は最初にされている。少なくとも、力仕事を頼むことは絶対にないとシャンクスにもベックマンにも云われていた。

だというのに、今回のこの怪我。

このままホンゴウのちくちく説教タイムか、と半ば諦めていたところで、ひょっこりと医務室に顔を出したのはシャンクスとスネイクだった。

 

「エンが怪我したって?」

「うわー誰よお頭にチクったの!?」

「おれですけど?」

「スネイク酷い!」

「ほお」

 

キラリ、とサングラスが光り、エンはちょっとギクリとした。スネイクが見た目とは裏腹に面白いし優しい男であることは知っているけれど、見た目のインパクトが強いのは変わらない。

しかも今、スネイクはちょっと怒っている。

心当たりがあるだけに、エンは思わず逃げ腰になってしまった。

 

「じゃあでかい音がして倉庫に行ってみたら荷物の下敷きになってるエンを見つけた瞬間のおれの気持ちとか考えたことあるか? トラウマになっておれが倉庫に近付けなくなったら責任取れるか?」

「ごめんね、見つけてくれて本当にありがとねッ!!」

 

そう、倉庫で荷物の下敷きになって身動きも取れず、重さのあまり大声で助けも呼べずにいたエンを発見したのはスネイクだった。

たまたま近くを通りがかったときに倉庫のほうから大きな物音がして、誰かが片付けでもしているのかと思いスルーしようとしたのだが、その後全く人が動く気配がしない。もしやと思って顔を出してみれば、荷物の下から白く細い手が覗いている。ぎょっとして荷物をどけると、目を回したエンが出てきたわけだ。驚かないはずがない。

一応声を掛けてみたら反応はあったけれど、頭を打っている可能性があるので下手に動かすのはまずいと判断し、まずは急いでホンゴウを呼びに医務室に走った。そして事情を簡単に話してホンゴウにはすぐに倉庫に向かってもらい、その足でスネイクはシャンクスに報告に行ったのである。

この判断について文句を云われるのは、いささか心外だった。

エンもスネイクの判断が正しいのはわかっているので文句を云いたいわけじゃない。むしろ荷物をどけて救出してくれたことには感謝の意しかないし、ホンゴウを呼んでくれたこともありがたい。

 

しかし、シャンクスに知られるとなると困るのだ。

何故ならシャンクスはエンに対して過保護である。

あの島で初めてエンに会ったときから一目で気に入って船に誘い、エンがその手を取ったときから、シャンクスには単なる仲間として以上に優しく甘やかされている自覚がある。

船にいてさえくれたら仕事なんて何もしなくていいとまで云い切ったのを、ただ飯食らいになるのは絶対に嫌だと云い張って仕事をさせてもらっているのはエンだ。

ホンゴウやベックマンの下で常識的な範囲でなら、ということでなんとかシャンクスを納得させて働いていたのに、いつの間にやらあれもこれもと自分に出来ることはなんでもし始めたことについては文句を云われていた。

一度うっかり寝食を忘れて仕事を続けていた結果ぶっ倒れたときにはかなり怒られたし反省もしたけれど、結局根っからの仕事人間であるエンが仕事をまったくしない、というのは無理だった。

だからそれ以来はいろいろと気を付けて仕事をしていたのだ。働きすぎず、かといって暇にもなりすぎないように、と考えていたし、周囲もエンの働き具合を気にかけていた。

それでも時折どうしても手が空いてしまう時間があって。

 

「エン」

「うぇ」

 

怒っているわけではない声だった。

だけど、呆れてはいる。

エンはまともにシャンクスの顔が見られなくて、あっちこっちに視線を彷徨わせながら頭を下げた。

 

「あの、ごめんなさい」

「それは何についての謝罪だ?」

「えっと、迷惑かけたので」

 

はぁ、というため息は三人分聞こえた。もちろんシャンクス、ホンゴウ、スネイクである。

そうして、自分が悪いという自覚があるのでビクビクとしているエンに、改めて云う。

 

「お前がかけたのは迷惑じゃなくて、心配な」

 

そう云ったのは手当てを終えたホンゴウで、シャンクスとスネイクも深く頷いていた。

処置された痛々しい身体を見ると、居た堪れない気持ちになる。ホンゴウは続けた。

 

「今回は打ち身と捻挫程度で済んだからよかったものの、打ちどころが悪かったり、すぐにスネイクが来なかったらもっと大変なことになってたんだぞ」

「う……」

「何かしようとしてくれるのは嬉しいけどな、エン。それでお前が怪我したら元も子もないんだよ」

 

諭すようなシャンクスの言葉に、エンは罪悪感でいっぱいになった。

働きたいのは自分だ。

それを許してくれているのはみんなだ。

自分のわがままで仕事をしているのに、それでこんな怪我までして、情けない。

役に立ちたいという気持ちばかりが先行してはいけないとわかっていても、どうにも暇な時間に慣れていない自分の性分が恨めしい。

 

「ごめんなさい……」

「今度からちゃんと周りを頼れよ。お前の頼みだったら、断る奴なんてこの船にはいねぇんだから」

「う、はい……」

「むしろこき使われてぇってやつのほうが多かったりな!」

 

わははと笑ってみたものの、その可能性が大いにある気がして笑えない気がしてきた。ドSなんだかドMなんだかわからない面子が多すぎる。誰とは云わないが。

まぁそれはともかくとして、エンの性格的に何でもかんでも誰かに頼る、というのは難しいかもしれないけれど、これを機に周りに頼るということを覚えてくれたらいいとシャンクスたちは思う。

エンに出来ることがないからではない。

適材適所なのだ。

現に、エンは力仕事は出来なくとも、ベックマンやホンゴウの手伝いは出来る。この船の中ではむしろそちらのほうが希少性が高い。物理的に難しい荷運びなんかよりもよっぽどそちらを手伝ってくれたほうがみんな助かる。

 

エンもそれは自覚があるはずなのだが、今はまだエン一人に任せられることが多くないから、二人の手伝いもすぐに終わってしまい、手持無沙汰なのだろう。

おそらく忙しくしているほうが合っている性分なようで、だから他に出来ることはないかと探してしまう。

そして今日の怪我である。

 

反省しなければ、とエンは己の行動の軽率さに落ち込んだ。

あのままもう少し荷物の下敷きになっている時間が長かったら、ぺしゃんこになっていた可能性もある。かなりのグロ現場になるところだった。

改めて自分を発見してくれたスネイクには頭が上がらない。

今日はもうモンスターあたりと遊んで癒されてさっさと休め、と医務室を追い出されたエンは、同じタイミングで医務室を出たスネイクを呼び止めた。

 

「あのね、スネイク」

「うん?」

 

くん、と引っ張られてスネイクは足を止める。

エンはスネイクの半分ほどの身長なので、スネイクも気を使って屈みはするけれど、どうしたって話すときは見上げなければならない。

考えるように視線を彷徨わせたり、何かを云おうとして口を開けてはまた閉じたりを繰り返すエンを、スネイクはおとなしく待った。もとより待つのは苦ではないタイプだ。一生懸命言葉を探すエンを急かすつもりもない。

そうしてようやく自分の言葉を見つけたのか、エンは意を決したように顔を上げて云った。

 

「助けてくれて、本当にありがとうね」

 

その、まっすぐな感謝の言葉にスネイクはぱちくりと目を瞬く。

いくらスネイクたちが気のいい海賊だとは云っても、海賊は海賊。基本的には快楽主義者で自分本位な性格な彼らが、無条件になんでも助けてやりたいと思うような相手は稀だ。それこそ、船長であるシャンクスくらいなもので、他の仲間たちは持ちつ持たれつだが無条件にというわけではない。

けれど。

 

「お前が無事で、よかったよ」

 

そう笑い、スネイクはエンの頭を撫でてやる。

この飛び切りの笑顔が見られるのなら何でもしてやりたいと思える希少な相手は、きっとエンだけだった。

 

 

 

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