先日無謀にも赤髪海賊団に戦いを挑んて来た哀れな雑魚海賊たちは、たいそう宝石をため込んでいたらしい。
負傷者ほとんどゼロで圧勝し、めぼしいお宝は根こそぎ頂き、その日の夜はいつも通り勝利の宴をした。宴に理由はなくてもいいが、あったほうがより気分がいい。
奪った宝箱の一つに宝石がぎっしり詰まっている、と気付いたのは翌日の昼も過ぎたところで、さっそくお披露目兼鑑定会が始まった。
専門の鑑定士はいないけれど、一応ベックマンがそれっぽいことを出来る。いくつか見てみたところ、どうやらどれも本物らしい。
無造作に一つの箱に突っ込まれていたせいで傷がついてしまっているものも多いのが惜しいが、これだけあればそれなりの金額にはなるだろう。
「しかしすごい数だな」
「確かに。コレクターってわけじゃないんだろうが」
「なんでコレクターじゃないってわかんだよ?」
「コレクターならこんなあほみたいな保管の仕方しねぇよ」
「ああ、なるほど」
吐き捨てるようなベックマンの言葉に、一同は納得する。そりゃそうだ。真にコレクターなのであれば、しっかり一つ一つ個別に丁寧に保管するのが当然だ。しかも、ベックマンの見立てでは、保管さえちゃんとしていれば一千万ベリーはくだらなかったはずだった。しかし大なり小なり傷がついたり劣化したりしているせいで、売り払っても半額になるかどうかだろう。
これだから物の価値もわからずただ集めるだけの馬鹿は嫌いなのだ、と苦い顔で呟くベックマンは過去に何かあったのだろうか。面白いので今度訊いてみようと思う大幹部組であった。
とにかく、今は目の前の宝石だ。
次の島で全部売ってしまうのも手だけれど、ある程度は現物のまま山分けしよう、という話になった。金はあっても困らないが、宝石だって然り。場合によっては現金よりも有用なこともあるので、多少は残しておくのも悪くない。
好みもあるので適当にそれぞれが選ぶ中、そうだ、と声を上げたのはシャンクスだ。
「せっかくだし、エンも一つくらい持ってくか?」
そう、一応この場にエンもいたのである。
宝石にまったく興味がないので黙って事の成り行きを見守っていたエンは、きょとんと首を傾げる。
「宝石を?」
「そうそう。次の島で加工してもいいし、そのまま持っててもいいし、まぁ売ってもいいし」
「んー」
机の上にごちゃっと積み上げられた宝石の山を一瞥したエンは、すぐに肩を竦めて首を横に振った。
「いい、やめとく」
「別に遠慮しなくていいんだぞ? ほら、これとかどうだ? おれの髪みたいで綺麗だろ~!」
そう云ってシャンクスがエンに差し出したのは、真っ赤なルビーだった。ここまでの大粒はあまり見ないが、見事なカットだ。しかも、奇跡的に傷がない。これならば相当高値が付くだろう。
エンが宝石に限らず光物に興味がないのは知っていたけれど、一つくらい持っていたっていいとは思うのだ。金銭に困ったときに売ってもいいし、お守り代わりに持っているだけでもいい。
というか、パッとこのルビーを見たときからシャンクスは、エンに持っていてもらいたいと思ってしまったのだ。
理由は特にない。ただ、なんとなく。
けれどはっきりとそう云うのは重たい気がしてへらへら笑いながら云えば、エンはちょっと困ったように眉間にしわを寄せながら、一旦その差し出されたルビーを手に取った。
そうして何かを確かめるように目を細めたり空にかざしてみたりと一通りしてから、小さくため息を吐いてシャンクスに返してしまう。
やはりお気に召さなかったらしい。
やっぱりだめかぁ、とがっかりしていたシャンクスに、エンは次の瞬間爆弾発言をかました。
「こんな宝石より、お頭の髪の色のほうがずっと綺麗だよ」
茶化すでもなく、さらりと当たり前のように口にされた言葉だった。
思わずこの場にいた全員が息を飲み、エンに注目するが、本人は大したことを云ったという自覚がないらしい。
宝石には興味がないし、これ以上この場にいても自分に出来ることはないと判断したエンは、仕事に戻るといってさっさと船内に戻っていってしまった。何せ仕事が山積みなので。
完全に置いてきぼりな赤髪海賊団大幹部である。
「おれも今の言葉、参考にさせてもらおう」
「ハイパープレイボーイのベックが参考にするとか、とんでもねぇな」
「やば~、自分が云われたわけじゃないってわかっててもおれちょっとときめいちゃったぜ」
「うわキモ。じゃあお頭なんか心臓爆発しちまうだろ。なぁ、お頭……お頭?」
エンが姿を消してすぐ、やいのやいのと騒ぎ出した彼らだったが、肝心のシャンクスの返事がない。
それどころか、何の反応もない。
怪訝に思ったライムジュースがシャンクスの顔を覗き込むと、赤髪ではなく白髪になっている我らがお頭。
というか呼吸もしていないし脈も止まっている。
これは。
「し、死んでる……」
キャパオーバーで死んでいた。