ハルツィナ樹海に向かうまでの間に、俺とハジメは香織達から人を殺したことに関して質問された。
俺とハジメは香織達に人殺しをさせたくないのと、自分達が人殺しによる忌避感を調べるためであったのだが、俺とハジメに関しては《何も感じなかった》と言うのが答えであった。
「とは言っても、あの帝国兵達が外道に近いからだろうな」
「多分ね。何も無い人達なら罪悪感とか有るかも知れないけど、あの話内容もあってか、罪悪感とかがわかないからね」
ただ地球に帰ったら精神面でのカウンセリングは受けるとしておいたが、俺達にとっての大切でもある存在に手を出すなら、例え相手が神であろうと絶対に許さないと言う気持ちだけであると言っておいた。
因みに樹海に着くまでにシアが俺達の話を聞き、涙を流したのは仕方無いが、色々と残念ウサギであったことだけは再認識しておいた。
そして俺達がハルツィナ樹海に入ると、兎人族の族長でシアの父親であるカムから気配を消してほしいと言われて消すと、クスハは当初はダメ出しを食らったが、俺・ハジメ・香織の三人は兎人族でも見失うと言う位に気配が消えていたらしく、カムに言われて今のユエ位の気配にして進むのであった。
行く途中で魔物との戦闘もあったが、ハジメは義手に装備したニードルガンを使い、俺達は剣や槍の技で、ユエは魔法で対処するのであった。
だがしかし、最終的には虎模様の耳と尻尾を付けた、筋骨隆々の亜人に見つかり、当初は俺達とハウリア族を見つけて糾弾しようとしたが、俺が前に立ち、剣技《大地斬》を使った。
周りからしたら俺が剣を振り下ろしただけで大地に亀裂とも言える大きな跡が残ったので、目の前の虎の亜人すら目を見開き、俺への警戒度を上げた。
だがしかし、俺が殺気を出した事で目の前の虎の亜人は少しは力量の差が分かるのか、冷や汗を流しながら、恐怖で声を上げるのを我慢しているのを見てとれた。
「さて、お前達にも色々とあるだろうが、俺達の邪魔をするなら、この場にいるお前達全員を俺達はこんな風に真っ二つにする事ができるぞ?だが、この場を引くというのなら追いもしない。俺達にとっての敵でないなら殺す理由もない。さぁ、選べ。敵対して無意味に全滅するか、大人しく家に帰るか」
虎の亜人も俺の使った技を見て、危険だと判断したのだろうが、絞り出したであろう掠れた声で俺達に何の目的なのか聞いてきた。
端的な質問だが、俺達の返答次第では、ここを死地と定めて身命を賭す覚悟があると言外に込めた覚悟の質問だと判断した。
恐らく虎の亜人がフェアベルゲンや集落の亜人達を傷つけるつもりなら、自分達が引くことは有り得ないと不退転の意志を眼に込めて気丈に俺達を睨みつけた。
「目的は1つ。樹海の深部、大樹の下へ行きたい」
「大樹の下へ……だと? 何のために?」
虎の亜人もてっきり自分達亜人を奴隷にするため等という自分達を害する目的なのかと思っていたら、神聖視はされているものの大して重要視はされていない【大樹】が目的と言われ若干困惑する虎の亜人。
【大樹】は亜人達にしてみれば、言わば樹海の名所のような場所に過ぎないのだ。
「そこに本当の大迷宮への入口があるかもしれないからだ。俺達は七大迷宮の攻略を目指して旅をしている。ハウリアは案内のために雇ったんだ」
「本当の迷宮?何を言っている?七大迷宮とは、この樹海そのものだ。一度踏み込んだが最後、亜人以外には決して進むことも帰る事も叶わない天然の迷宮だ」
「いや、それはおかしい」
「なんだと?」
妙に自信のある俺の断言に虎の亜人は訝しそうに問い返した。
「大迷宮というには、ここの魔物は弱すぎる」
「弱い?」
「そうだ。大迷宮の魔物は、どいつもこいつも化物揃いだ。少なくとも【オルクス大迷宮】の奈落はそうだった。それに……」
「なんだ?」
「大迷宮というのは【解放者】達が残した試練なんだ。亜人族は簡単に深部へ行けるんだろ?それでは試練になってない。だから、樹海自体が大迷宮ってのはおかしいんだ」
「……」
俺の話を聞き終わり、虎の亜人は困惑を隠せない様子で、俺の言っていることが分からない様子であった。
この樹海の魔物を弱いと断じることも、【オルクス大迷宮】の奈落というのも、解放者とやらも、迷宮の試練とやらも、見た感じでは本人は全く聞き覚えのないと言えるものであった。
だがしかし、今この場において、俺が適当なことを言う意味はないと向こうも理解している。圧倒的に優位に立っているのは俺達の方であり、言い訳など必要ない。
しかし、虎の亜人も俺の話を聞いて今の俺達と戦闘になるよりも、さっさと目的を果たして消えてくれた方が良いと判断したのだろう。
「……お前が、国や同胞に危害を加えないというなら、大樹の下へ行くくらいは構わないと、俺は判断する。部下の命を無意味に散らすわけには行かないからな」
その言葉に周囲の亜人達が動揺する気配が広がった。樹海の中で、侵入して来た人間族を見逃すということが異例だからだろう。
「だが、一警備隊長の私ごときが独断で下していい判断ではない。本国に指示を仰ぐ。お前の話も、長老方なら知っている方もおられるかもしれない。お前に、本当に含むところがないというのなら、伝令を見逃し、私達とこの場で待機しろ」
冷や汗を流しながら、それでも強い意志を瞳に宿して睨み付けてくる虎の亜人の言葉に、俺は頷いた。
俺達の目的はこのハルツィナ樹海にある本当の大迷宮であり、それ以外は見れたら良いか程度でしか無いからだ。
「……いいだろう。だがしかし、俺の言った言葉、曲解せずにちゃんと伝えろよ?もし後で分かったら、どうなるか分かるな?」
「無論だ。ザム!聞こえていたな!長老方に余さず伝えろ!」
「了解!」
虎の亜人の言葉と共に、気配が一つ遠ざかっていった。だがしかし、今ならと言うような感じの目の前の隊長以外の面々の気配もあったが、俺は近くの木に《海波斬》を放つと、その木がずれ落ちたので、その気配達も動きを止めた。
「お前等が攻撃するより、俺達の方が早いぞ?試してみるか?」
「……いや。だが、下手な動きはするなよ。我らも動かざるを得ない」
「わかってるさ」
包囲はそのままだが、ようやく一段落着いたと分かり、カム達にもホッと安堵の吐息が漏れた。だが、彼等に向けられる視線は、ハジメに向けられるものより厳しいものがあり居心地は相当悪そうである。
「まぁ恐らくお前等の方でも時間がかかるだろうし、俺達も飯にでもするか。悪いがこの木とその周り、使わせてもらうぞ」
俺は近くにある実のなる小さな木を指差すと、虎の亜人も流石に不思議そうな顔をしたが、戦闘になれば負けると分かっているので普通に許可した。
「さてと、植物改造エキスと、動物は確か玉ねぎとかは基本駄目だから、念の為に、あ、後で警備のお前等は食っても良いぞ」
「???どう言う意味だ、それは?」
意味が分からないと言う感じの虎の亜人を余所に、俺は注射器ににアンプルを入れ、近くにある実のなる小さな木にアンプルを注入すると、花が咲いて大きな実がなるのであった。
ハジメ達を除く周りの亜人が唖然とするが、俺は無視して周りにある木にもアンプルを入れ、最初のと同じ大きさの実がなるのであった。
「カツ丼・カニピラフ・ラーメン・パンケーキ・どら焼きの実の完成。どうせ返事が来るまで時間かかるだろうし、さっさと食うぞ。残りは俺達が消えたらお前等が食えば良いぞ」
「・・・色々とツッコミたいけどよ、何で兄貴はそんな変な道具の使い道が分かるの?」
「・・・俺も知らん。だがまぁ、今の内に食っておくほうが良いだろ。少しは腹減ったからな」
そう言って周りにいるハウリア族には適当に配布し、隊長である虎の亜人にはカツ丼の実を渡し、俺達は外に出て最初の食事をするのであった。
因みに虎の亜人はカツ丼を見て当初は恐る恐る食っていたが、一口食べた後は貪るように食っており、ハウリア族も自分達の知らない食べ物なので、虎の亜人同様に当初は恐る恐るであったが、食べた後は貪るように食べていた。
そして1時間ぐらいして霧の奥から数名の亜人達がやって来て、その中央には金髪で尖った長耳を持つ森人(エルフ)族と言える姿の人がいた。
まぁこんな場所で普通に飯を食ってるのに来た面々も唖然としていたが、俺達がエルフであるアルフレリック・ハイピストと名乗る長から色々と聞かれ、オルクス大迷宮にあるオスカー・オルクスの遺品を見せると滞在が許可された。
因みに本来なら大樹の元に行こうと思っていたのだが、この霧が濃い時には亜人達ですら道に迷うらしく、霧が薄まるのが時期的にあと10日程しないと行けないとなり、霧に関してのことをハウリア達も忘れていたらしいので、残念ウサギでもあるハウリアの面々には悪いが、ユエによる魔法で一撃を受ける羽目になったのであるが、周りの亜人達ですら哀れと思うような目で見ていた程であった。
そして俺達は虎の亜人達ギルを先頭にフェアベルゲンへ向かう事になった。
フェアベルゲンに入ったら、そこは自然と調和したと言える素敵な景色であり、別世界と言えるほどであり、その景色に俺達自身も見惚れていた。
俺達の様子を見て、比較的に俺達に優しいアルフレリックさんが俺達を正気に戻し、自分達の国の姿を自慢したが、納得できると思うほどであった。
そしてアルフレリックが用意した場所で話し合いとなった。
そこで長老の座に就いた者には昔から伝わる口伝での掟があり、その掟が理由で解放者達の試練を突破した俺達に対してこのような話し合いの場を設ける事になったらしい。
だがしかし、階下が騒がしいので見に行くと他の亜人族がいた。
シアとカムの頬が腫れていたので殴られたのだろうと思ったら、ここにいるのは他の亜人族達の長老達らしいが、彼等からするとこの場に亜人族達全てにとっての裏切り者であり、異端の子であるハウリア族がこの場にいるのが気に入らない上に、俺達人間がいるのも気に食わないとしてアルフレリックに声を上げた。
話し合いで聞いていて知ったが、森人族の寿命は200歳くらいで、他の亜人族は100歳くらいらしく、オマケにここにいるのは最近長になったのだろう連中で、オマケにこれまでいなかったからとし、熊の亜人族の長がクスハに対して拳で襲って来ようとしたが、俺が殺気を出してその動きを止めた。
「・・・さて、どうやらお前達は全員死にたいらしいな。覚悟しろ」
『止めよ、我が巫女の守り人よ』
クスハの元から青い龍が現れ、それを見た亜人族の長達は驚愕としか言えない顔をした後、全員がすぐさまその場に土下座の体制になり、カム達ハウリア族ですら土下座の体制になっていたが、今の俺からすれば関係は無かった。
「・・・何の真似だ、龍王機」
『巫女の守り人よ。我が巫女やそなたの周りを悲しませる真似はするな。この場は我が収める故に、気を静められよ』
龍王機の言葉でクスハやハジメ達の顔を見て、相当ヤバい位の殺気を出していたらしく、龍王機の助言に従い、俺は一度深呼吸してから殺気を解いた。
「・・・すまない。流石に頭にきたのでな」
『構わない。さて、お前達。我が巫女に対しての無礼、どうしてくれようか?』
土下座状態の長達ですらビクッと震え、恐怖に怯えるような状態になっていたが、アルフレリックが震えながらも命だけはと声を上げ、龍王機の事を四神様と言っていたので、龍王機達の仲間関係は亜人族にとっても何かしろあるのだろうと判断した。
『此度は知らぬとは言え我が巫女と、巫女の守り人とその仲間達に手を出そうとしたのは事実。だがしかし、今回は我等への貸しとし、見逃してやろう。だがしかし、次は無いぞ』
「は、ははぁ!!ありがとうございます!!」
龍王機が消えると亜人族の面々は未だに土下座の状態で、アルフレリックに状況を知る為に声をかけて聞くことにした。
聞こうとしら未だに土下座状態のアルフレリックの頭を上げさせて聞いたら、龍王機達四神と一緒にいた巫女はアルフレリック達亜人族の祖とも言える人達と仲が良かったらしい。
「我々からすれば人族が我等亜人族を迫害するようにした神エヒトを崇めるよりも、四神様は我等亜人族が崇める唯一無二の存在なのです」
「・・・そりゃ自分達が崇める存在が出た上に、知らないとは言えその巫女に手を出した以上、頭を上げられなくなるのは仕方ないわな」
俺がそう言うと熊の亜人は土下座状態から動けず、更に他の亜人族、この時はハウリア族ですら土下座の状態であるが熊の亜人の長は滅茶苦茶に睨まれており、流石の俺達でも哀れ過ぎると思う事にしたが、これ以上は面倒なのでさっさとすませようと思う事にした。
「まぁお前等からしたら色々とあるだろうが、龍王機と巫女であるクスハの顔を立ててお前全員お咎め無しにしてやる。その代わり、ハウリア族は俺達が決めた仲間だ。このフェアベルゲンの外で生活させる事を認めろ。お前等からしたらハウリア族は処刑したいだろうが、どんな理由があろうとハウリア族に対して手を出す事を禁じる。いいな」
「・・・分かりました。元々このフェアベルゲンの掟では、樹海の外に出て帰ってこなかった者、奴隷として捕まったことが確定した者は死んだものとして扱う。樹海の深い霧の中なら我らにも勝機はあるが、外では魔法を扱う者に勝機はほぼない。故に、無闇に後を追って被害が拡大せぬように死亡と見なして後追いを禁じています。……既に死亡と見なしたものを処刑はできまいので」
「それで構わない。今をもってハウリア族に関しては俺達の仲間であるが、お前等フェアベルゲンや他の集落に近付かない事を約束する。同時に俺達やハウリア族に対し、危害を加えようとしでかしたら、そいつ等の自己責任とさせてもらうぞ」
俺がそう言うとアルフレリックは頷き、他の者達にもしっかりと伝えるとし、俺達はハウリア族の面々を連れてこの場から出て行くのであった。ハウリア族も自分達の命が助かったのを理解するのに時間がかかったが、全員嬉しそうにしていたのであった。
後に関しては長老衆が考えるだろうが、何事も無ければいいなと思うのであった
アンケートに関しては次回で打ち切りにします
因みに虎の亜人への飯がカツ丼なのは、異世界食堂で顔がライオンの亜人が食っているからです
それと今回の処罰ネタによる龍王機達の設定は今作でのオリジナルになります