朝になり、食事等も全てすませた俺達はライセン大迷宮の入口を探していたら、シアが見つけたのは良いのだが、入口が回転扉のようになっており、俺達も中に入ると光を反射しない漆黒の矢が飛んできたのだが、夜目の効くハジメと香織の2人が飛んできた矢を全て落とすと、同時に周囲の壁がぼんやりと光りだし辺りを照らし出した
自分達のいる場所は十メートル四方の部屋で、奥へと真っ直ぐに整備された通路が伸びていて、部屋の中央には石版があり、看板と同じ丸っこい女の子文字でとある言葉が掘られていた
〝ビビった? ねぇ、ビビっちゃった? チビってたりして、ニヤニヤ〟
〝それとも怪我した? もしかして誰か死んじゃった? ……ぶふっ〟
「「「「……」」」」
流石の内容分に俺達の内心はかつてないほど一致していると思う
すなわち「うぜぇ~」と
わざわざ、〝ニヤニヤ〟と〝ぶふっ〟の部分だけ彫りが深く強調されているのが余計腹立たしい上に、特にパーティーで踏み込んで誰か死んでいたら、間違いなく生き残りは怒髪天を衝くだろうとした文章だったからだ
そしてユエがシアがどうなったのかとなり、回転扉を回すと、シアは兎人族としての天性の感の良さみたいなので回避していたのだが、見た目が非常口のピクトグラムのような形で扉のオブジェのように矢で縫い付けられ、ウサミミも稲妻型に曲げて矢を回避していた
助け出されたシアはドリュッケンを持って石版の内容を見て即座に石版をぶち壊し、親の仇のように何度も石版を粉砕するのであったが、砕けた石板の跡、地面の部分に何やら文字が彫ってあった
そこには・・・
〝ざんね~ん♪ この石板は一定時間経つと自動修復するよぉ~プークスクス!!〟
「ムキィーー!!」
シアが遂にマジギレして更に激しくドリュッケンを振い始めた。部屋全体が小規模な地震が発生したかのように揺れ、途轍もない衝撃音が何度も響き渡る
発狂するシアを尻目にハジメがポツリと呟いた
「ミレディ・ライセンだけは《解放者》云々関係なく、人類の敵で問題ないな」
「・・・激しく同意するわ、これは(汗)」
ライセン大迷宮は、オルクス大迷宮とは別の意味で一筋縄ではいかない場所なのだと再認識するのであった
そしてライセン大迷宮は想像以上に厄介な場所だった
まず基本的に魔法がまともに使えない
谷底より遥かに強力な分解作用が働いているためで、魔法特化のユエにとっては相当負担のかかる場所であった。何せ上級以上の魔法は使用できず、中級以下でも射程が極端に短く、五メートルも効果を出せれば御の字という状況だった
何とか瞬間的に魔力を高めれば実戦でも使えるレベルではあるが、今までのように強力な魔法で一撃とは行かなくなり、香織の回復や防御魔法もユエと同じように使えないに近い状態になってしまった
また魔晶石シリーズに蓄えた魔力の減りも馬鹿にできないので、考えて使わなければならないと言える程に消費が激しいのだ
魔法に関しては天才的なユエだからこそ中級魔法が放て、香織も回復特化に近いから出来るので、大抵の者は役立たずになってしまうだろう場所なのだ
更にハジメにとっても多大な影響が出ている
【空力】や【風爪】といった体の外部に魔力を形成・放出するタイプの固有魔法は全て使用不可となっており、頼みの【纏雷】もその出力が大幅に下がってしまっているおり、ドンナー・シュラークは、その威力が半分以下に落ちているし、シュラーゲンも通常のドンナー・シュラークの最大威力レベルしかない状態だと言われた
更に俺も影響を受けて、魔力分解の力がゲキリュウケンやゴウリュウガンからも指摘され、一度ハジメと2人で変身して進んだのであるが、ゴウリュウガンの弾丸と必殺技の威力が低下し、ゲキリュウケンの必殺技の魔弾斬りもうまく収束できず、ちょっと強い程度の斬撃担ってしまっていたのだ
クスハに関しては符術と呼ばれる特殊な体系の力なので影響はあまり無いが、現状のクスハの力ではあまり多用できないので、使い所を間違えてはいけない感じになった
その結果、この大迷宮では身体強化が何より重要になっており、俺達の中ではまさにシアの独壇場となる領域なのだが、その頼もしきウサミミはというと……
「殺ルですよぉ……絶対、住処を見つけてめちゃくちゃに荒らして殺ルですよぉ」
大槌ドリュッケンを担ぎ、据わった目で獲物を探すように周囲を見渡していたが、明らかにキレている
それはもう深く深~くキレている
言葉のイントネーションも所々おかしいことになっている。その理由は、ミレディ・ライセンの意地の悪さを考えれば容易に想像がつくだろう
シアの気持ちはよく分かるので何とも言えない俺達で、凄まじく興奮している人が傍にいると、逆に冷静になれるということがあるが、俺達の現在の心理状態はまさにそんな感じである
それなりに歩みを進めてきた俺達だが、ここに至るまでに実に様々なトラップや例のウザイ言葉の彫刻に遭遇し、シアがマジギレしてなければ、俺達もシアに近い感じになっていただろう
遂に「フヒヒ」と奇怪な笑い声を発するようになったシアを横目に、俺はここに至るまでの悪質極まりない道程を思い返した
時間は少し前に遡る
皆で一緒にこの迷宮を進んで行ったのだが、いきなりから物理系の罠が発動し、ハジメが魔法罠を警戒し、魔眼に反応しない物理罠ばかりだと知って、俺達もハジメの魔眼の力に頼ってしまっていたという慢心があってしまったので、全員が気を引き締めたのであった
だがしかし、その後もある意味最悪で、階段がスロープになり、俺はクスハを、ハジメは香織とユエの2人を捕まえ、俺はこの前のブレスレット内の調査で得たスコープショットと言う特殊な望遠鏡のギミックを、ハジメは錬成魔法を駆使して靴底に仕込んだ鉱石を錬成してスパイクにし、何とか滑り落ちないようにしたのだが、連携不足とも言えるシアが俺達の連携に参加できずに俺とクスハが待ち込まれ、俺達側がハジメ達側に激突してしまった
ハジメの錬成魔法もここでは滅茶苦茶に魔力を大量消費する上に効果は低いと言う最悪な場所なので全員が滑り落ちて行く状態になり、ハジメがシアのドリュッケンのギミックで何とかしようとしたら、シアがこの先がヤバい事態だと声を発したので、落ちながら俺はこの前のブレスレットの中を調べた際に出たスコープショットを準備し、スロープが終わり、全員が空中に投げ出された
ユエの下級魔法である【来翔】と言う風系統の初級魔法を使い、強烈な上昇気流を発生させ跳躍力を増加させる魔法を発動させた。この魔法は熟練者は擬似的に飛翔の真似事もできるが、この場は魔法の力が及ばない領域なのでほんの数秒の間、何とか全員を浮かせる程度の効果しか発揮できなかった
だがしかし、ハジメと俺にとっては放り出された先でほんの少し周囲を確認する余裕があれば十分だった。ユエはその期待に見事に応えたのだ
ハジメが右手にユエを、首に香織、俺は左手にクスハ、首にシアをしがみつかせたまま、ハジメは義手を、俺はスコープショットを天井に向けて掲げた
ハジメの義手の内手首から細いワイヤーが取り付けられたアンカーが飛び出し、俺のスコープショットのアンカーが天井の壁に勢いよく突き刺さった
俺達はワイヤー一本で天井からぶら下がった状態で、アンカーが外れないのを確認するとホッと一息つき、全員が何気なく下を見て盛大に後悔した
カサカサカサ、ワシャワシャワシャ、キィキィ、カサカサカサ
そんな音を立てながらおびただしい数のサソリが蠢いていた
体長はどれも十センチくらいだろうが、かつてのサソリモドキのような脅威は感じないのだが、生理的嫌悪感はこちらの方が圧倒的に上だった
アンカーで落下を防がなければ、サソリの海に飛び込んでいたかと思うと、全身に鳥肌が立つ思いである
「「「……」」」
思わず黙り込む俺達であったが、下を見たくなくて、天井に視線を転じると、何やら発光する文字があることに気がつき、既に察しはついているが、つい読んでしまった
〝彼等に致死性の毒はありません〟
〝でも麻痺はします〟
〝存分に可愛いこの子達との添い寝を堪能して下さい、プギャー!!〟
わざわざリン鉱石の比重を高くしてあるのか、薄暗い空間でやたらと目立つその文字が、ここに落ちた者はきっと、サソリに全身を這い回られながら、麻痺する体を必死に動かして、藁にもすがる思いで天に手を伸ばすだろう
そして発見するのだろう、このふざけた言葉を。
「「「……」」」
また違う意味で黙り込む俺達であったが、何とか気を取り直すと周囲を観察した
「……ハジメ、あそこ」
「ん?」
ユエが何かに気がついたように下方のとある場所を指差し、そこにはぽっかりと横穴が空いていたので、ハジメが先にもう一本アンカーを射出し、位置を調整しながらターザンの要領で移動して横穴へと無事にたどり着いた
その後シアを先にハジメに何とか回収してもらい、俺はクスハと一緒に移動する感じでスコープショットの機能であるパラシュートを使って横穴までゆっくりと移動してから横穴にいるハジメ達と合流したのであった
その後も色々な罠があり、この中では1番ハジメの錬成魔法を使ったりしたが、ハジメの高速魔力回復が役に立たないと本人が宣言するほど魔力が回復せず、途中でハジメは魔力回復薬を飲んだのだが、微々たる程度の回復量らしい
序にミレディのウザい文字が記載された石板もあり、俺達のストレスはマッハと言えるものであった
そして色んな罠を潜り抜けた先にあった部屋は、長方形型の奥行きがある大きな部屋で、壁の両サイドには無数の窪みがあり騎士甲冑を纏い大剣と盾を装備した身長二メートルほどの像が並び立っていた
部屋の一番奥には大きな階段があり、その先には祭壇のような場所と奥の壁に荘厳な扉があり、祭壇の上には菱形の黄色い水晶のようなものが設置されていた
ハジメと俺は周囲を見渡しながら微妙に顔をしかめた。
「いかにもな扉だな。ミレディの住処に到着か? それなら万々歳なんだが……この周りの騎士甲冑に嫌な予感がするのは俺だけか?」
「……大丈夫、お約束は守られる」
「それって襲われるってことですよね? 全然大丈夫じゃないですよ?」
そんなことを話しながら俺達が部屋の中央まで進んだとき、確かにお約束は守られた
内心「やっぱりなぁ~」と思いつつ周囲を見ると、騎士達の兜の隙間から見えている眼の部分がギンッと光り輝き、ガシャガシャと金属の擦れ合う音を立てながら窪みから騎士達が抜け出てきて、総勢五十体の騎士が現れた
騎士達は、スっと腰を落とすと盾を前面に掲げつつ大剣を突きの型で構えた。窪みの位置的に現れた時点で既に包囲が完成している
「ははっ、ホントにお約束だな。動く前に壊しておけばよかったか。まぁ、今更の話か……みんな、やるぞ?」
ハジメはドンナーとシュラークを抜いた。数には機関砲のメツェライが有効だが、この部屋にどれだけのトラップが仕掛けられているかわからないのと、無差別にバラまいた弾丸がそれらを尽く作動させてしまっては目も当てられないからで今回は二丁のレールガンを選択したのだ
ユエもこの場所では一番火力が無いのは理解していたが、気持ちで負けるつもりは無いとしており、特に正妻とも言える香織には負けたくないと思っているのだ。クスハに関してはこの場所で影響化が低いと分かっている符術を使いたいのだが、最近使えるようなった力なので、制御等の方面もあって下手に使えないのだ
俺に関してはハジメの造った剣を手にし、この前のブレスレット調査で得た拳銃《リボルバッグ》を右側の専用ホルスターから何時でも使えるようにし、特殊警棒《トライシャフト》を服の裏側に装備しているのだが、状況によっては警棒による打撃が良いだろうとも判断していた
一方でシアだけは、少々腰が引け気味だった。このメンバーで一番影響なく力を発揮できるとは言え、実質的な戦闘経験はかなり不足しているからだ
まともな魔物戦は谷底の魔物との僅か五日程度で、ユエとの模擬戦を合わせても二週間ちょっとの戦闘経験しかない
もともとハウリア族という温厚な部族出身だったことからも、戦闘に対して及び腰になるのも無理はない。むしろ、気丈にドリュッケンを構えて立ち向かおうと踏ん張っている時点でかなり根性があると言えるだろう
そしてゴーレム騎士達が襲って来たので、俺達は全員で立ち向かうのであった
俺達はハジメ・香織・ユエのチームと俺・シア・クスハのチームでゴーレム騎士達を上手く連携して破壊していった
ユエに関してはハジメが宝物庫から出した大型の水筒を両手に持ち、肩紐で更に二つ同じ水筒を下げて、ユエがその水筒をかざして魔法名を呟く度にウォーターカッターが水筒より飛び出し敵を切り裂いていく。ユエが行使しているのは水系の中級魔法《破断》で、空気中の水分を超圧縮して撃ち放つウォーターカッターだ
ユエは魔法で空気中の水分を集めるよりも、最初からある水分を圧縮してやる方が魔力消費が少なくて済むと考え、照準は水筒の出口を向けることで付けており、飛び出たウォーターカッター自体は魔力を含まないものなので分解作用により消されることもない
香織とクスハの槍術、ユエの水刃による攻撃に、シアの爆発的な攻撃、ハジメの射撃、俺の剣による斬撃と射撃により確実に敵を倒しているのだが、何故か敵の密度が変わらず、よく観察していると倒した筈のゴーレム騎士達が復活させられていると知り、ゴーレムには核となる物があるとしていたのだが、ハジメから核が無いと言われてしまう
「核が無いって・・・ハジメ、こいつ等多分周りの床とかを使って俺達が倒した奴等を再構築してるだ!」
「えっ・・・兄貴、当たりだ!鉱物系鑑定したら《感応石》って特殊な鉱石を使って遠隔操作してやがる!」
「やっぱりか。何か床の一部とかが変なのがあるからまさかと思ったが、何とかここから脱出するぞ!」
俺が気づいたのは偶然で、床の一部がまるで削り出したようにかけている部分が見られ、ハジメの言葉が理由でゴーレムのかけた部分の補充に使われたのかもと知れないと思ったからであった
そして当たって欲しくないと思う答えは当たるもので、このままでは物量でヤラれるのが目に見えているので、何とか撤退しようとなり、一番奥にある祭壇のような場所まで移動し、奥の扉が封印されているので、ここでは戦力にならなちユエ、そしてここまでの錬成魔法での消費が多いハジメの2人に封印解除を任せ、俺・シア・香織・クスハの4人で封印解除までの間、襲って来る敵の相手をする事にした
そして2人から封印解除を言われ、シア達女性陣を先に行かせ、残っている敵の面々に対し、俺は不完全版であるかま、書物に書かれていた必殺技を放ち、襲って来るゴーレム騎士達で前側にいたのが倒れ、その隙に俺も扉の中に入ったと同時に扉を閉めて封印するのであった
そしてその部屋でミレディのやり方にシアが怒りの声を出すので、シア以外の俺達は何とか冷静を保てると言えるのだった。そして突然この部屋が動き、止まった後に全員で進んで行った先には最初に入ったウザイ文が彫り込まれた石板のある部屋だったのだ
よく似た部屋かもと思ったのだが、扉を開いて数秒後に元の部屋の床に浮き出た文字が証明していた。
〝ねぇ、今、どんな気持ち?〟
〝苦労して進んだのに、行き着いた先がスタート地点と知った時って、どんな気持ち?〟
〝ねぇ、ねぇ、どんな気持ち? どんな気持ちなの? ねぇ、ねぇ〟
「「「……」」」
俺達の顔から表情がストンと抜け落ちた、能面という言葉がピッタリと当てはまる表情になってしまった
全員が微動だにせず無言で文字を見つめていると、更に文字が浮き出始めた
〝あっ、言い忘れてたけど、この迷宮は一定時間ごとに変化します〟
〝いつでも、新鮮な気持ちで迷宮を楽しんでもらおうというミレディちゃんの心遣いです〟
〝嬉しい? 嬉しいよね? お礼なんていいよぉ! 好きでやってるだけだからぁ!〟
〝ちなみに、常に変化するのでマッピングは無駄です〟
〝ひょっとして作っちゃった? 苦労しちゃった? 残念! プギャァー〟
部屋の中で壊れた笑い声が辺りに響いた
その後迷宮全体に届けと言わんばかりの絶叫が響き渡ったのは言うまでもない
最初の通路を抜けて、ミレディの言葉通り、前に見たのとは大幅に変わった階段や回廊の位置、構造に更に怨嗟の声を上げたのも言うまでもないことだ
何とか精神を立て直し、再び俺達は迷宮攻略に乗り出したがやはり順風満帆とは行かず、特にシアが地味なトラップ(金たらい、トリモチ、変な匂いのする液体ぶっかけetc)の尽くにはまり、精神的にヤバくない?というほどキレッキレッになったりと、厄介な事に変わりはなかった
それが数分前までの出来事であったのだ
次でミレディとのバトルと思われるでしょうが、オリジナル展開になります