懐かしきガンパレードな日々   作:雑草弁士

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岩田代大作戦

「……困ったねぇ」

 

「困りましたね……」

 

 

 5121小隊の2大ヘッド、速水司令と善行整備班長は、小隊隊長室で頭を抱えていた。彼らの頭を悩ませているのは、戦闘があるたびに突撃し、包囲され、袋叩きに遭い、大破する一番機……。壬生屋機のことである。

 昨夜の戦闘で、あいも変わらず壬生屋機は特攻し、そしていつもどおり戦闘終了後に全損状態で回収されたのだった。

 

 

「……いざ司令の座についてみて、壬生屋さんの恐ろしさがよく理解できたよ。……善行を整備班長に推してくれた来須には感謝しなくちゃね」

 

 

 速水はタメイキをつく。

 

 

「そうですね。おかげで原さんを一番機整備士に回すことができましたからね。原さんのおかげで一番機が保っているようなものです」

 

「そうじゃなくて……。いや、確かにそれもあるけど」

 

 

 速水は苦笑する。

 

 

「ですが……。問題は壬生屋さんのことだけではありませんよ」

 

「田代さんと岩田か……」

 

 

 現在の一番機整備士である田代と岩田は仲が悪い。いやどちらかというと、田代が一方的に岩田を嫌っているという方が正しいだろう。

 岩田はいつもアノ変態チックな調子で、何を考えているのかわからないが、少なくとも誰を嫌っているということもなさそうである。ともあれ、田代と岩田の仲が悪いせいで、どちらもハンガーに立ち寄ろうとしないのだ。

 

 おかげで原は毎日青息吐息である。大破した一番機を、ほぼ独力で修理しているのだ。茜や森が、ときどき原を手伝ってはいるらしいが、彼らも自分の仕事がある。

 彼らは部隊の主戦力である三番機の整備士であるから、そちらの手を抜いてもらうわけにもいかない。

 

 

「喧嘩だっ!」

 

「田代が岩田を殴ったばい!」

 

 

 校舎裏の方から叫び声が聞こえてくる。

 

 

「あ~あ……。とうとうやっちゃった」

 

「まいりましたね」

 

 

 その時、隊長室の扉が開いて森が飛び込んできた。

 

 

「しゅ、主任! 司令!」

 

 

 善行は、森に笑いかける。

 

 

「どうしました? 精……森さん。ああ、田代さんと岩田君の喧嘩なら、こっちにも声が聞こえて……」

 

「ち、ちがいますっ! 原さんが倒れました! 今大……茜君が整備員詰め所に運びましたけど……」

 

 

 速水と善行が表情を引き締める。一拍置いて速水が口を開いた。

 

 

「……茜がついているなら原さんは大丈夫だろう。それよりも今は一番機だ。出られる状態なの?」

 

「いえ、まだ駄目です。先ほどここへ来る前にチェックしてきましたが、操縦系統の故障率が70%を超えていました。それから一時間足らずでは、いくら原の腕でも……。

 単座の予備機は使いきってしまいましたし、これから陳情しても明日までは……。それに先日複座の予備機を陳情したばかりですし、新しい機体を頼むのはしばらく無理ですね」

 

 

 応える善行の顔が暗い。

 

 

「……出撃命令がかからないことを祈るしかないな。パイロット側の故障も似たようなものだろうし。森さん、三番機は大丈夫だね?なら善行と森さんは一番機整備の部署を手伝ってあげて。僕はまだ書類が残ってるから手伝えないけど、狩谷や小杉さんを見かけ次第一番機を手伝うように頼んでおくから」

 

 

 そう言うと速水は扉から顔を出し、通りがかった滝川と来須(現在三番機パイロット)、そして遠坂(現在二番機パイロット)を呼び止める。

 

 

「みんな! 壬生屋の部署を手伝ってあげてくれないか!?」

 

「よっしゃ、オッケイ! ……今すぐにか? はは、わかったよ。やるよ。先輩、遠坂、いこーぜっ!」

 

 

 ハンガーへ駆けていく三人の後姿を見ながら、速水は森と善行に話し掛ける。

 

 

「……壬生屋さん本人は、僕の方で手を打つよ。君たちは一応の修理が終ったら、やって欲しいことがあるんだけど。……ふふふふふふふふふふふふふふふふふ」

 

((く、黒い……))

 

 

 森と善行は、ちょっと背筋が寒くなった。

 

 

 

*

 

 

 

「岩田君、ちょっとよろしいですか?」

 

「フフフ、ずばり提案ですね? なんでしょう」

 

 

 善行はクネクネ踊る妙な生き物に話し掛けた。

 

 

「ああ、いえ……。君は靴下を集めているんでしたよね。(本当はイヤなんですが)私と速水君の靴下ですが、よろしければさしあげますよ。ははは、無論下心はありますがね」

 

 

 靴下と聞いて、岩田の踊るスピードが増す。

 

 

「イイィ~ですねぇ! フフフよろしいでしょう! どんな下心か知りませんが正直でイイィ~!!」

 

「ああ、いえ少々訓練に付き合って欲しいんですよ。その後、できれば整備主任の仕事も手伝っていただけたら、と」

 

 

 にこりと笑いかける善行。……ただちょっと腰がひけている。

 

 

「フフフ、テンション上げていきましょう~♪」

 

 

 岩田は善行の首根っこ引っ掴むと、足取りも軽やかに(というより宙を飛んでいるようにも見える)玄関脇の泉へと駆け出して行った。彼らが去った後、物陰から森が姿をあらわす。

 

 

「忠孝さんの方は、順調みたいですね……。次は私ですか」

 

 

 十分後、森は田代をグランドはずれで発見した。ジーンズのポケットから速水メモを取り出して、じっくりと読む。

 

 

(……う、うそだべ?)

 

 

 こめかみに汗が伝う。森はどうやら半信半疑のようである。よほど意外なことが書かれていたらしい。

 さらに速水と中村が共同制作したという『小道具』を紙袋から取り出して、再び絶句する。

 

 田代の方を見ると、田代は一心にサンドバッグを叩いており森に気づいた様子は無い。森は、必死にさりげなさを装いつつ田代の後ろを通り過ぎるフリをした。その挙動はいかにも不審でわざとらしい。なんと言っても、緊張でガチガチなのだ。

 そして田代の真後ろにさしかかった時、森は『小道具』を落とした。涼やかな鈴の音が周囲に響く。その音は熱心に訓練を続ける田代の耳にも届いたようだ。

 

 

「?」

 

 

 田代が振り向くと、落し物をしたことに気づかないフリをした森が、校舎はずれの方へ歩いていく所だった。

 

 

「あ、おい森。落し物だぜ」

 

 

 そう言って、田代はその『小道具』を拾い上げた。……そして、『ぽっ』と頬を染める。

 それは兎のぬいぐるみ(クレーンゲームの景品サイズ)だった。

 何故か兎なのに、猫のように首に鈴がついているのはご愛嬌というものだろう。鈴がついてないと田代に気づいてもらえなかっただろうし。

 

 

「あ、どうもありがとうございます」

 

 

 森は田代に向かってこわばった笑顔を向ける。しかし、田代の顔もこわばっているのを見て、彼女はムッとした表情になる。

 

 

「……ど、どうせうちにはそんな可愛いもの似合いませんよ」

 

 

 まんざら演技でもなくそう呟くと、田代は慌てたように否定する。

 

 

「あ、い、いや違う違うっ! 確かにちょっとイメージ違うかなっては思うけど、ぜんぜん悪くねぇっ! ……お、俺よりはずっと似合うだろに」

 

 

 田代は、最後の方は小声になった。その頬は真っ赤で、視線はちらちらとぬいぐるみに向けられている。

 それを見て、森は『ああ、速水メモは本当だったんだ……』と理解した。

 

 

「ウサギ……。好きなんですか?」

 

「ばっ!ばばばばば馬鹿言えっ! ここっここっここっこんな可愛いモノ俺にゃ」

 

「よろしかったら、ソレ差し上げましょうか」

 

 

 田代は頬だけでなく顔面全て真っ赤に染まった。

 

 

「なっ!」

 

(……可愛い。うちもこれぐらい可愛かったらなぁ……)

 

 

 森はちょっとジェラシーを感じた。

 

 

「だ、だだ、だけどよ……。あー……。悪ぃし……」

 

 

 田代は兎が欲しくてたまらないようだった。森はもう一押しすることにする。いつの間にか、肩の力もすっかり抜けていた。

 

 

「タダでもらうのが心苦しいなら、いっしょに仕事してもらえませんか?」

 

「お、おう……。けどハンガーは岩田がよ……」

 

「岩田君なら、善行さんがさっき玄関の方へつれていきましたけど」

 

 

 それを聞いて田代の表情が明るくなる。

 

 

「おう、それならまかせとけ! さ、行くぞ!」

 

 

 一気に元気になった田代は森の首根っこ引っ掴んでハンガー二階へと駆け出した。

 

 

 

*

 

 

 

 善行は訓練後、ハンガー一階で岩田に整備主任の仕事を手伝ってもらっていた。

 

 

(……なかなかやりますね。……さすが岩田だけのことはある。でも、あのクネクネした動きはどうにかならないものでしょうか……)

 

「フフフ、イイィ~! 92mmライフルの銃身調整も超硬度大太刀の重心調整もカ・ン・ペ・キ♪ おおっと銃身と重心、シャレてしまいましたねぇ!」

 

 

 岩田の金切り声が響く。

 

 

(……寒いですね)

 

 

 善行の思いは別にして、仕事成果は今までに無い効率で急上昇した。

 

 

 

*

 

 

 

 二組教室で、田代は岩田に話し掛けようかどうか迷っていた。しかし、意を決して呼びかける。

 

 

「お、おい!」

 

「フフフ、なんでしょう?」

 

 

 岩田はいつもどおりクネクネと踊りながら応える。田代はいらいらした風情でガリガリと頭を掻いていたが、思い切った様子で再び口を開いた。

 

 

「おら、これやるよ!」

 

「おや、お弁当ですね? よろしいのですか?」

 

 

 岩田は怪訝な顔をした。まあいつも怪訝というか変なというか妙な顔をしているのでよくわからないのだが。

 

 

「あ~、森から頼まれたんだよ! お前と少しでいいから仲良くしろってよ」

 

 

 田代はそっぽを向く。岩田は満面の笑顔――いや、ほぼいつも笑っているが――で答える。

 

 

「フフフわかりました。ではありがたく頂戴しましょう~! おお、そうだ。どうせならこれから一緒にお昼でもいかがで?」

 

「はぁ? ……だから俺の弁当は今オマエにやっちまったじゃねーか」

 

 

 岩田は少しも慌てない。

 

 

「フフフ、だから私のお弁当を差し上げましょう。これであなたも私も弁当持ち~♪ な~んの問題もありませんねええぇぇ~!」

 

「……ったく強引な野郎だ。……わーったよ、行きゃいいんだろ行きゃ。どこ行くんだ」

 

 

 連れだって教室を出て行く二人を眺めながら、森と善行は安堵のタメイキをついた。

 

 

「なんとかあの二人、関係修復できたみたいですね」

 

「まだこれからですよ。田代さんはやはり岩田君と多少相性が悪いようですし。まあ、岩田君の真価を知れば認識も変わるでしょうが……」

 

 

 眼鏡の位置を直す善行に、森がたずねた。

 

 

「……あの岩田君のイカスネクタイ、忠孝さんがあげたんですか?」

 

「ええ。ですが彼の服にはあんまり似合わなかったですね。少しでも身だしなみを整えて田代さんに好印象を与えてもらおうと思ったんですが……。麦藁帽子にでもしておくんでしたか。……いや東原さんのリボンでももらってくるんでしたかね」

 

 

 ふと善行が見ると、森が田辺の方に憐憫の視線を向けていた。

 

 

「どうしました? 精華」

 

「いえ、田辺さんがさっき落ち込んでいたんで理由を聞いたんですよ。今日ようやくお金が貯まって、意気揚揚と遠坂君へのプレゼントを買いにいったんだそうです。そうしたら売店にあったはずのネクタイが売れてしまっていたそうで……」

 

「あ……」

 

 

 善行が岩田に贈ったネクタイが問題のソレであろうことは容易に想像がつく。必死に明るくふるまう田辺が痛々しい。

 

 

「わ、悪いことをしましたね」

 

「あ、で、でも忠孝さんのせいじゃ……。あ……」

 

「?」

 

 

 急に黙ってしまった森に、善行は怪訝な目を向けた。

 

 

「……岩田化してますよ」

 

 

 善行は無意識に踊っていた。

 ……その後善行はしばらく落ち込んでいたらしい。

 

 

 

*

 

 

 

「……というわけですよ」

 

 

 善行と森は小隊隊長室で、速水司令に事の顛末を報告していた。

 

 

「先日の日曜日には、二人で泳ぎにいったみたいですし……。う゛っ!?」

 

「うちもたまの日曜ぐらい、善行主任と一緒に出かけたかったのに……」

 

 

 半泣き状態で睨み付ける森の視線に、善行は硬直している。どうやら彼が趣味でやっている『奥様戦隊』、いわゆるデートのデバガメ活動で、自分たちのデートはポシャったらしい。

 

 

「ご苦労様。おかげさまで、もうあの二人は大丈夫そうだね。あ、でもそういえば、先日岩田が田代をのした後、背負って帰ったそうじゃない」

 

「アレは痴話喧嘩だ。以前のような深刻なものではないから心配はいらん」

 

 

 今朝から事務官に異動した芝村舞が、作業の手も休めずに口を挟む。

 

 

「ふ~ん、そっか。なら安心かな。あ、噂をすれば影、だね」

 

 

 隊長室の窓から、田代と岩田が騒いでいるのが見える。岩田がなにか寒いギャグをやったらしく、田代が光る拳で突っ込みをいれたらしい。

 田代は、血を吐いて倒れた岩田を担ぎ上げ、無理矢理ハンガーへと連行していった。

 

 

「田代さんも仕事熱心になってくれて、本当によかったよ。めでたしめでたし、だね」

 

 

 笑う速水につられて善行と森も笑った。……しかし、二人とも速水の口元が『ニヤリ』という具合に動いたのは見逃していなかった。

 

 

「さ、さて。それじゃ我々も仕事に戻りましょう森さん」

 

「あ、は、はい主任」

 

 

 芝村がギクリとして声を上げる。

 

 

「あ、もう行くのか? な、何なら茶でも進ぜようか?」

 

「「いえ、仕事がありますので」」

 

 

 善行も森も、速水の『めでたしめでたし、だね』の台詞が『じゃあ後はもういいから二人きりにしてくれるかな?』という意味だというのは、よく理解しているのだ。

 

 ……二人は急ぎ、小隊隊長室を立ち去った。あとであの二人がピンク色の雰囲気になろうが妙なメロディーが流れようが知ったことではないのである。それよりは自分たちの身の安全の方がずっと大事なのだ。

 芝村の断末魔が聞こえたような気がしたが、二人はとっとと逃げ去って行った。

 

 

 

*

 

 

 

[おまけ]

 

 

 

 森はふと思い出したように呟く。

 

 

「……ところで壬生屋さんの方は速水司令がどうにかするって。……あれ、どうなったんですか?」

 

「ああ、あれですか。あれはですね……」

 

 

 善行はこめかみを手で押さえた。

 

 

『速水の陰謀で壬生屋がスカウトに異動しました』

 

『速水の陰謀で茜が一番機パイロットに異動しました』

 

「……だそうです。茜君の機体を整備するとなれば、原さんも気合が入るでしょうし。ちなみに茜君の後釜には、先日整備士資格を取得した加藤さんが入りましてね。それで事務官に芝村さんが入ったわけですね。加藤さんは、狩谷君と仕事ができると喜んでました。狩谷君は迷惑そうでしたがね」

 

「それは知ってますよ、うちも二組ですもん……。でも、なんで部署異動を今まで待ったんですか?」

 

 

 不思議そうな森に、善行が応える。

 

 

「レールガンが手に入るまで待っていたんだそうです。おととい私が裏マーケットで買ってきましたよ。さすがにレールガンに乗せれば特攻はできないでしょう。先任スカウトの若宮もいますし。

 何も速水君は必要も無いのに壬生屋さんを殺したいわけではないですからね。ですが彼女はラインオフィサーしかできない人ですし」

 

「じゃあ岩田君と田代さんも、あんな手間をかけずに部署異動した方がはやかったのかも……。いえ、田代さんと岩田君、どうにか仲良くなれましたし、結局は良かったんですけど」

 

「そう……。それですよ」

 

「え?」

 

 

 森の顔を正面から見ながら、善行は優しげに言う。

 

 

「こんな小さな敷地ですからね。部署異動したところで、どうしても顔をあわせないわけにはいきません。喧嘩になれば周囲に迷惑もかかりますし。

 部隊の人間関係を円滑にするのも必要なことです……。少なくとも険悪にはしない必要があります」

 

 

 善行は一拍置いて続ける。

 

 

「私も表面ではわからない岩田君を、色々知ることができましたしね」

 

「……また踊ってますよ」

 

 

 ……善行はしばらく落ち込んだという。




 懐かしの、ガンパレード・マーチ二次小説です。このような拙い駄文をお見せするのは、本当に心苦しいところではありますが……。どうか笑って許してください。ちなみに、善行が司令ではなく整備主任になってしまうのは、私の当時やっていたプレイではいつものことなんです。

 ……何故って。……いや、速水の強運技能が欲しくて(滝汗。それで『一緒に訓練』するうちに速水が覚醒をば(滝汗。
 でも善行は無職にしておくには勿体ないですからね。関東に帰還させるのも、それはそれで勿体ないですし。あと原さんも班長技能よりも整備技能の方が圧倒して高いですし。それで、原さんを整備士に、善行を主任にしちゃうわけなんです。

 でも、当時も最近再びプレイしてみたのでも、仲人プレイは成功したことありません……。こんなに簡単にくっつけられたらいいのになあ。



 ちなみにこのお話でのOVERSは滝川(笑)。
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