速水厚志は、森精華に詰め寄っていた。
「士魂号の調査、これ以上は絶対にやめてくれ」
「え?」
「お願いだ。頼むから絶対にやめてくれ。……僕は森さんを、死なせたくない」
速水の必死の懇願に、森は面食らっていた。しかし、一瞬の後にプッと彼女は吹き出す。
「死なせたくないって、大げさな……」
「大げさなんかじゃない!」
「!!」
激高する速水。その顔色は蒼白で、目は血走っている。
「僕は……。この部隊のために物資を手に入れようと、色々と情報収集して発言力を貯めている。毎晩遅くまで自動情報収集セルや電子妖精を作って、それを用いてヤバい情報を集めたりもしてるんだ。それを芝村準竜師に渡す代わりに、準竜師の権力で色々と生活物資から軍需物資まで集めてもらって……。
でも、そんな情報の中にも、使うに使えない情報が引っ掛かって来る事もある。……芝村一族に関する情報だ。それを使って芝村準竜師を脅そうもんなら、相手は手段を選ばずこちらを潰すだろうね。うちの部隊に芝村の末姫が居る事なんか、関係ない」
「……」
「そんな使えない情報、僕が握りつぶして無かった事にした情報の中には、士魂号に関する情報もある。と言っても、森さんが調べていた士魂号の制御系に使われている技術が何なのかって情報は、電子妖精でも見つからなかったよ。
……見つけた情報は、士魂号の開発技術者たちで芝村一族の直接の庇護下にない、言わば芝村一族の操り人形でない人材たちが、士魂号のシステムが完成した後に、ほぼ皆殺しになっているって事だ。更に言うなら、士魂号を調べていた人たちがいつの間にか『事故死』『病死』しているって事」
「そ、そんな!」
そして速水は泣きそうな顔で、森を説得する。
「あの一族は、戦争に勝つためならばどんな非道でもやるつもりだ。いや、そこまでしなければ勝てない、勝機の一欠片すら見出す事ができない状況なんだ。今は、ね。うちの部隊の芝村は、何故か純粋培養のお姫さまだけど。彼女がそう育てられた事にも、何かしら秘密があるんじゃないかとは思う……。
いや、今言いたいのは。僕は善行司令じゃない、って事」
「え? な、なんで善行司令が?」
「これも電子妖精で引っ掛かって来た、どうにも使い様が無い情報の1つだけど。整備班長の原さんは、以前士魂号の開発に関わっていた。殺されてもおかしく無い。いや、絶対に殺されていなければおかしい人間なんだ。それが殺されていない。何故か?
……善行さんだよ。あの人が、裏から手を回して、後ろ暗い事にも手を出して、ありとあらゆる手練手管を使って、原さんを護っているんだ。だけど、僕にはそこまでの
「そんな! 善行司令が昔、原さんと付き合っていたのは知ってるけど! それなら何で! そんな事するぐらいなら、善行さんはまだ原さんを……」
ガシャン!
速水と森は、音のした方を振り向く。そこには手に持った工具箱を取り落とした、原素子の姿があった。
「なん……で。善……行、が……」
「ちっ!」
そして速水は、凄まじいまでの速さで原の背後に回り込み、腕をねじ上げて彼女の首筋にシャープペンシルの先端を突き付けた。森が悲鳴を上げる。速水の顔は、冷血で冷徹で冷酷な氷の笑みを浮かべている。
「先輩!! 速水君!?」
「く!」
「黙って、森さん。静かに、原さん。……どこから話を聞きました?」
原は、ごくりと唾を飲み込むと、大きく溜息を吐いた。
「……森さんが、士魂号の制御系について違法クローンが使われているんじゃないか、って疑いを持って、調べていて。そしてそれを貴方が
「……それを誰かに言いますか?」
「死にたくないもの。
善行が必死になってくれているのを、無駄にしてしまう事になるでしょう?」
「なら、いいんです」
速水は表情を、いつものぽややん笑顔に戻すと、原を解放した。しかし眼だけは、深い闇を抱えたままだ。
「僕は善行さんほど
「え」
「善行……。あの人、馬鹿よね」
原の呟きに、速水は満面の笑みで頷きを返す。
「ですねえ。きっとあの人の事だから、こんな薄汚い自分は原さんの隣に居てはいけない、なんて思ってるんじゃないですかね? まあ、僕も気持ちはわかるんですけど。森さんに嫌われてでも、僕は森さんを護ります。好きになった人ですからね」
「ふ。森さん? こんないい男、逃がしちゃったら駄目よ? ちょこっとヤバいところもあるみたいだけど、今のご時世許容範囲でしょ」
「あ、え、う、うちは……」
原はそれ以上何も言わず、地面に散乱した工具を工具箱に収めると、整備テントの方に向かい歩み去った。
*
その後、森は速水に言われた通りに士魂号の制御系に関する調査を中止した。一時中断とかではなく、一切合切手を引いたのである。
「……よし!」
そして森は、意を決して立ち上がると、二組教室を出て一組教室へと向かう。今日の午前中は、一組生徒はずっと戦闘訓練で、昼休みまで教室には戻って来ない。その手には、綺麗に折りたたんだ手紙があった。
彼女はその手紙を、速水厚志の机に入れた。その手紙には、この様な内容が書かれている。
『屋上にて、待つ。森精華』
そうして彼女は、昼休みになるとプレハブ校舎の屋上へと向かった。やがて速水が屋上へ上がって来る。彼はいつものぽややんとした笑顔では無く、真剣な表情を浮かべていた。
同じく、森もまた真剣な顔で、しかし頬を赤らめている。彼女は必死の形相で、声を絞り出した。
*
速水と森が、恋人関係になりました。
*
速水はぽややんとした笑顔で語る。
「いや、正直森さんが恋人になってくれるとは思わなかったよ。前回のアレで、引かれちゃうと思ってたもの」
「それは……。少しは。でも、あれはウチを護ろうとしてくれたんでしょうに……」
「うん。それだけは嘘じゃない。ふだんの僕は、嘘だらけかも知れないけどね。薄っぺらい笑顔で、仲間たちの和をなあなあで保つ事に汲々として。そして本性は、自分でもなんだけど、ヤバい奴だと思うよ」
「ヤバくても、かまわねえっす……。そのヤバさの使い道を、間違えなければいいんです……」
森は満面を朱に染めて、速水の頬にキスをした。
*
「うわぁ、これがHな雰囲気か……。ハヤミスキーに先を越されっちまった……」
「これは……。ちょっと入っていけねえな。入ってったら、『お、おのれー』とか言われっちまう」
「あ、そう言や田代。屋上で俺に何の用事だったんだ? この『屋上で待つ』って手紙……」
「え゛。あ、え、え゛、そ、そんな事聞くんじゃねえっ!」
『
恥ずかしさのあまり、滝川を血の海に沈めた田代は、我に返ってあわてて彼に応急手当を施したらしい。めでたし、めでたし。
森さんのイベント潰しと、原さんは善行のこと知るべきだと思うのと、なんであれだけHな雰囲気が乱立してるのに屋上での告白がダブらないのかってのと。
それと最近、掌編ばっかりだなあ……。そろそろちゃんとした短編(6,000字くらいの奴)を書かないとなあ……。