懐かしきガンパレードな日々   作:雑草弁士

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包丁人陽平、士魂号パイロットに

 今現在5121小隊において無職である滝川陽平は、ヨーコ小杉と共に三番機整備の仕事をしていた。つい先ほどまでは速水厚志と体力の訓練、そしてその前は中村光弘と指揮車整備の仕事、さらにその前は森精華と気力の訓練をしていたりもする。

 滝川の目的は無論のこと、士魂徽章持ちから戦車技能を教えてもらう事である。しかし今までのところ、その目的は達成されていなかった。

 

 

「フゥー、今日このへんにシマス。滝川さんのおかげでスゴク機体強度上がりマシタ」

 

 

 小杉は汗を拭きながら満足そうに言った。

 

 

「アリガトウございマス。そろそろワタシ帰りますネ」

 

「あ、ああ……。俺はまだちょっと訓練してくわ……」

 

 

 滝川は力なく笑うと、まだ残っている人間を探しに歩き出した。彼の表情は、いつになく暗い。

 

 

「ええと……。誰かいるかね……っと」

 

 

 滝川はテレパスセルを起動する。ちなみにこのテレパスセルは、彼のお手製だ。情報技能を最高レベルまで習得している上、実は整備技能までも彼は会得済みなのだから、自動情報収集セルを作って発言力を確保し、陳情で整備士にでもなれば無職から脱出できるはずなのだが。

 

 だがやはり彼は、士魂号のパイロットになりたかった。夢は諦めきれない。ならば素直に戦車技能の訓練をして戦車技能を獲得すればよさそうな物ではある。だが幼少期のトラウマによる閉所恐怖症が仇となり、士魂号のハッチを閉める事ができないため、まともに訓練ができないのだ。

 ただし彼の閉所恐怖症は、彼の必死の苦闘と友人たちの助けによって、幾ばくかは軽くなってもいる。おそらく訓練や仕事を通じ、友人たちから戦車技能のコツを教えてもらったならば、その事により自信がついて恐怖症を克服する事もできそうな所まで来ているのだ。

 

 閑話休題(それはともかくとして)、滝川のテレパスセルに反応した者達は、流石に数が少なかった。時刻が既に、0時を過ぎていたためである。

 深夜になっていたため、もう大半の生徒は帰宅している。今なお残っているのは、ほんの数名だけだった。

 

 

「え……と。来須先輩と若宮は確か士魂徽章持ってねぇし……。狩谷は俺のこと嫌ってっぽいから、付き合ってくれねぇだろうし。……それに校門ってことはもう帰ろうとしてるんだろうしなあ。

 委員長はいつもだったらいるんだけど……。今朝関東に帰っちまったしなぁ……。委員長の代わりの司令も、誰かやってくんねえかなあ……」

 

 

 いや、善行が関東に帰ってしまったのは、滝川が訓練や仕事をしつこく一緒にやりまくったため、善行との仲が良すぎる状態になったためなのだが。善行は滝川たちを護るために、関東に帰って政治闘争を含めた泥沼の戦いに身を投じたのである。

 そんなこんなでテレパスセルを使い、額に指を当ててブツブツ言っていた滝川は、ぱっと表情を明るくして顔を上げる。

 

 

「石津がいるじゃんか! たしか昨日の表彰式で、あいつも士魂徽章もらってたはず!」

 

 

 そして滝川は、満面の笑顔でプレハブ校舎一階の整備員詰め所へと駆けだして行った。

 

 

 

*

 

 

 

 そして滝川は、整備員詰め所へと突入した。そこでは石津萌が衛生官の仕事をしている。滝川は早速、石津に訓練か仕事を一緒にやろう、と申し出ようとした。

 しかしその時、石津はフラッと身体を泳がせる。滝川はぎょっとして、慌てて石津の身体を支えた。

 

 

(うわぁ、細っこい……。軽い……。じゃねえ!)

 

「あ……。た、きがわ……君……?」

 

「い、石津! 大丈夫か!? あ、わりぃ。うっかり抱きかかえちまって」

 

「い、いえ……。気に……しない……で」

 

 

 石津は立ち上がり、仕事を続けようとする。しかし再び彼女はふらつく。どうやら気力が尽きかけている様だ。滝川は頭をぐしゃぐしゃと掻きむしると、石津に向かって言う。

 

 

「そんな調子なのに無理に仕事したら、倒れちまうだろ!?」

 

「……だけど。雨……が……」

 

 

 そう、ここのところ数日間、雨が降ったり止んだりしていたため、素人建築の安普請プレハブ校舎は雨漏りしたり、天井裏に溜まった雨水が染み出してきたりで、衛生環境が非常に悪化していたのである。それすなわち、石津の仕事である指揮車銃手兼衛生官の仕事評価が、とてつもなく悪化するという事でもあった。

 そのため石津は、必死になって仕事に打ち込んでいた。今日の授業も午前中だけ出て、午後からはサボってその時間を衛生官としての仕事に充てていたぐらいである。ただ、あまりに根を詰めすぎて疲労の極致に陥り、今現在ぶっ倒れそうになっていたが。

 

 そして滝川は、石津の手を引っ張って椅子に座らせると、言った。

 

 

「いいから! とりあえずそこで休んでてくれよ! 1時間で戻ってくるから! 何もしないで休んでてくれ!」

 

「……う、うん」

 

 

 必死と言うか、ちょっと泣きそうな顔で言われては石津もどうしようもない。そうして滝川は再度、整備員詰め所を走り出て行く。石津は言われた通り、座って休んでいた。

 

 

 

*

 

 

 

 きっかり1時間後、滝川は戻って来る。その手には、このご時世らしく食材は質素でこそあるが、見事に美味しそうに仕上げられたお弁当があった。その出来は、自身も料理ができる石津から見ても、太刀打ちできないほど素晴らしいものだ。彼女は目を丸くする。

 

 

「ホレ! これ食って元気取り戻せ! 昼に弁当食ってから、晩飯とか食わずに仕事詰めだったんだろ!?」

 

「……うん」

 

「あと、食い終わったら俺が仕事手伝ってやっから! 一応速水から医療技能は教わったんだよ。あ、し、親切だなんて勘違いすんなよ? お、俺はお前から戦車技能教わりたいから言ってるだけだからよ!」

 

「……まかせて」

 

 

 うつむき加減で、ほのかに石津は微笑む。滝川はちょこっと照れた。そして石津は滝川の手作り弁当を食べ始める。

 

 

「……おい、しい」

 

「へへ、そりゃ良かったぜ。速水、中村、ヨーコさんの3人と必死で訓練や仕事したからなあ……。戦車技能のアドバイスも貰ったけど、なんか上手く活かせなかったけど……。家事のやり方とか、色々と教えてもらってさぁ」

 

 

 滝川陽平、今現在家事技能マックスレベル。5121小隊でも指折りの、料理人と化していた。これで戦車技能が無いのは、運がいいのか悪いのか。いや、速水から強運技能もしっかりと移っているのだが。

 石津は柔らかく微笑みつつ、言葉を紡いだ。彼女としては、必死に頑張って。

 

 

「う……ん。わたし……も……戦車……おしえ……る。上手く……教え……られるか……わからない……けど。

 だか……ら……。滝川……君……も、お料理の……コツ。教え……て」

 

「よーっし! やるかぁ!」

 

 

 そして滝川の手作り弁当で元気を取り戻した石津は、滝川と共に掃除洗濯と言った衛生官の仕事を徹底的にやったのだった。そして何とか衛生官の仕事評価が並程度にまで回復した後で、今度は2人でグランドはずれのサンドバッグを叩いて、体力を鍛えたりもしたのだが。

 まあ、今回は結局滝川は、戦車技能を手に入れる事は叶わなかった。代わりに幻視技能なんてものを手に入れたりはしたのだが。

 

 

 

*

 

 

 

「悪運しぶとく生き残って、この安っぽいメダルをお前の胸につけるとは、まったくもって嬉しい限りだ。

 がはははは、これだけ人を誉めるのは久しぶりだ。……生き残ってそのメダルが自慢できるのを期待する。以上だ。滝川」

 

「はっ!」

 

 

 いや、久しぶりもなにも、速水とか芝村とか速水とか速水とか速水とかが芝村準竜師から勲章貰うたびに同じこと言ってるらしいじゃん、と滝川は思った。思ったが、懸命にも口に出さない。空気が読めない事で有名な滝川だったが、経験によりそれぐらいはできる様になったのだ。

 そう、滝川はとうとう憧れの士魂徽章を胸に飾る事ができたのだ。結局彼が戦車技能を手に入れたのは、速水との訓練中だった。芝村準竜師が、滝川の胸に士魂徽章をつける。滝川は、感無量ではあった。

 

 

 

*

 

 

 

 速水がぽややんとしていない笑顔で、マジ顔で滝川を祝福する。

 

 

「戦車技能章を貰ったんだ。……よかったね。僕も新しい3番機パイロットができて、安心できるよ。滝川なら、士魂号複座型を任せられる」

 

「速水は今朝から司令だよな。善行さんが居なくなっちまった後釜はどうすんのか、正直不安だったんだよなあ」

 

「ふふ、とりあえず偉くなってみたよ。なにをするにも、立場ってものがあるからね。……この戦争、早期に終わらせるには九州に足掛かりを残す必要がある。でなければ国土回復に時間がかかりすぎる。国内難民の問題もあるしね。

 だから、ここで僕たちが自然休戦期までに優勢に勝てるかどうかが勝負だ。僕たち20人で最大限戦争を変えようとするなら、転戦しまくって、敵の頭を叩きまくる、その方法しか無い。毎回、強敵を相手に戦うことになる。……それしか、なさそうだ。悪いが、これから苦労かけることになるよ」

 

 

 滝川は、唾を飲み込んだ。だが自分を奮い立たせ、獰猛……だと自分で思っている様な笑顔を浮かべて言う。

 

 

「わかった、働けって事だな」

 

「いい返事だ。それと……」

 

 

 そして速水は、ぽややん笑顔に戻して語る。だが滝川には、そちらの方が怖い笑顔だと思えて仕方が無かった。

 

 

「複座型は任せるけれど、舞は任せないからね?」

 

「りょ、了解です司令!」

 

「いい返事だね♪」

 

 

 その後、翌日には芝村舞が指揮車運転手兼事務官に、滝川と石津が3番機パイロットに、加藤祭が指揮車銃手兼衛生官に、それぞれ異動した。まあ、速水司令の陰謀ではあったのだが。うん。

 

 

 

*

 

 

 

 そしてそれから数日もしない頃合いである。滝川は士魂号複座型とのパイロットとしてのマッチングを取るため、士魂号の整備ハンガーに入って行った。そこで彼は、とんでもない物を見る。

 

 

「……見苦しいですよ。顔洗ってきたらどうなんですか」

 

「……呪うわ。……血を……吐きなさい」

 

 

 森と石津が、まるで今にも血で血を洗う殺し合いを始めるかのごとく、憎悪の視線を交わして向き合っていたのだ。そして2人はいきなり滝川の方を向く。更には言葉を吐いた。

 

 

「「どっち」」

 

 

 滝川は、あっちと行って逃げた。逃げざるを得なかったのだ。そう、これが噂に聞く争奪戦である。森が叫ぶ。

 

 

「あー、逃げた!」

 

「……追うわ」

 

 

 石津もおどろ線を背負いつつ言った。滝川は逃げた。2人は必死で追って来る。

 

 

「なんで、なんで、なんでえええぇぇぇ!?」

 

 

 それはそうだろう。戦車技能欲しさに誰彼相手かまわずに仲を深め過ぎたのだ。彼にはまだ知る由もないが、この後小杉と田代香織による争奪戦、新井木勇美と壬生屋未央による争奪戦が待っている。困ったものである。

 

 

 

*

 

 

 

 ボロボロになった滝川は、必死になって男子トイレに駆け込み、そこに偶然居た岩田裕に泣きついていた。

 

 

「岩田ぁ~。お、俺どうしたらいいんだろ」

 

「フフフ、無節操に異性との仲を深め過ぎるからですよ。それもまたギャグっぽくてイィですね♪」

 

「んな事言わないでさあ……」

 

 

 ちなみに岩田とは、滝川は訓練をほとんどしていない。理由はイワタマンは今現在、戦車技能を保有していないからだ。岩田は笑みを浮かべつつ、思う。

 

 

(まあ、密会技能があれば上手く他の女の子の事を別の女の子たちに隠して、それで争奪戦を抑制する事もできるんですがねぇ。早目に僕か石津さんと訓練とか仕事とか、一緒にやるべきでした。争奪戦が起こってしまった以上、仕方ないでしょうね)

 

「どうすりゃいいんだよ、岩田~」

 

「フフフ、それは『今後について』の提案ですね! テンション上げていきましょう~!

 さて、もうこうなっては仕方ありません。『あやまって』しまいなさい。あやまりかたは、教えてあげますから」

 

「そ、そっか。それしか無いよなあ……」

 

 

 そして『あやまる』提案の方法を岩田より教えてもらった滝川は、恐る恐る女の子たちへの謝罪行脚(あんぎゃ)の旅に出たのである。途中で発言力が足りなくなって、整備員詰め所のパソコンで自動情報収集セルを作り、翌日も謝罪行脚(あんぎゃ)したのは言うまでも無かったりするのであった。

 

 

 

*

 

 

 

 その後の滝川は、流石に戦車技能を取ったのが遅れたために、幻獣の撃破数は100体になるかどうかと言うところだった。まあ充分なエースパイロットではあったのだが。絢爛舞踏章が獲得できなかったと言う事は、竜とも戦わなかったという事である。

 しかし5121小隊と彼の活躍によって人類優勢のまま自然休戦期の夏を迎える事ができた。そして滝川は、速水の腹心としてその後も戦い続ける事になる。

 

 

「いや、滝川は手放せないよね。何て言ったって、彼の作る料理は絶品だもの。基礎を教えたのは僕だけど、ここまでになるとはね。舞もわかってくれるよね?」

 

「ふむ、同意だ」

 

「ちょ! それ何か違わないか!?」

 

「……呪う、わ」

 

 

 その後速水が政治家に転身し、首相となって信じられないほどの長期政権を維持する事になるのだが、滝川は軍を率いる立場となり、速水を支え続けたらしい。軍籍にある間の幻獣撃破総数は、なんと299体であった。




 ループが解けない場合のお話です。滝川は75体撃破の勲章は貰ってますが、150体撃破の勲章を貰ったのは5121小隊解隊後の話ですね。速水も芝村も、75体撃破の勲章は貰ってますが、複座型を降りちゃいましたからねー。壬生屋さんは、75体までも行ってません。流石に単座型重装甲だと、難しいかな、と。
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