士魂号3番機複座型のガンナーを務める芝村舞が、相方である操縦担当の速水厚志に向かい、柔らかい表情で語る。
「……まだだ。友軍がいる限り、手を休めるわけがない。今回だけは、特に。これより戦闘を続行する。
厚志。われら芝村にとり、この戦場は故郷のようなものだ。我らは戦いの中で生を受け、戦いの中に死んで帰る。好んではいないが、故郷であるに違いない。」
「……」
「なんとも心暖まる、我らの故郷だ……。我らは友も、恋人も、信頼も、ここで得た。我らが選ぶ道は戦いの道。我らが戦っても死しても守るべき誇りは、そこにある。万民のために、我らは最前列で戦おう。
だが、お前までつきあう必要はないぞ。厚志。地獄は我らの故郷なれど、そなたは違おう……」
舞は速水を気遣い、自分一人だけでこの戦場での最後の戦いに赴こうとする。しかし速水は、いつものぽややんとした笑顔を浮かべて、その言葉を遮る。いや、表情だけはいつものぽややんとした笑顔だが、瞳はかけらも笑っていない。
「何言ってんの。つきあうよ、舞。……おっと、文句は聞かないよ?」
「……そうか。よかろう。そなたは我が一族だ。思えば私も拾われた時は芝村ではなかった。私は芝村に生まれたのではなく、芝村になったのだ。そなたもそうであると嬉しい。
我らの伝説は言う。竜はただのトカゲだが、空を飛ばねばならぬから、空を飛ぶ。火を吹かねばならぬから、火を吹く。最強でなければならぬから最強なのだと」
「うん」
舞の言葉は堅い。声音は堅い。だがそれでも、その何処かに嬉しさが滲み出ている。
「トカゲは、全ての不可能を可能にしても、やらねばならぬことがあったのだろう。不可能を可能にしよう。そうすれば、多くの者を助けられる。
ゆくぞ厚志」
「うん。さて、3番機は一応万全だけど、こっそり持ち出さなきゃね」
そして2人は士魂号3番機のトレーラーへと、連れ立って走って行った。
*
そして2人が去った後、その場の崩れ落ちた熊本城建造物の残骸の影から、人影が歩み出る。それは士魂号2番機パイロットの滝川陽平と、1番機パイロットの壬生屋未央であった。
「……今俺、すっげぇ自己嫌悪中」
「奇遇ですね。わたしもです」
2人の単座型士魂号パイロットたちは、悄然と肩を落とす。
「速水のやつ、俺が芝村と付き合うのやめろ、って言った時にさ……。言ってたんだ。舞は芝村だけど、舞だ……ってよ。そんときは、何言ってんだこいつって思ったけど。……芝村一族がどうとか、世界征服がこうとか、悪いとこだけ見てどうこう言ってたんだよ、俺」
「『万民のため、最前列で戦おう』、ですか。あの一族の傲慢さや悪辣さは、いまだに好きになれませんし、許す事もできませんが……。うちの部隊の芝村さんは、芝村一族の中ではまだ話が通じる様ですし。色眼鏡で見るべきでは無いのでしょうね」
滝川はその後、無言で踵を返す。壬生屋もまた、それに続いた。
*
速水と舞は、必死になって戦っていた。頼みのミサイルは予備弾倉にあと1回分。しかも予備のミサイル弾倉を装填するのは、このような敵に囲まれた状態では隙になるだけだ。
「次! 左ジャンプ2回連続で敵中を離脱するよ! そちらにいるゴブリンリーダーは、左斬りで潰す! 直後回避専念!」
「了解だ、厚志! それに繋げて右手Gアサルトで2連射を加え、
あまりに多勢に無勢であったが、それでもなんとか2人の乗った士魂号3番機は戦えていた。……戦えていた、だけである。先ほど移動の際に位置取りのミスにより、ミノタウロス型幻獣の一撃を受けて、機体性能が低下していた。
いつもであれば、壬生屋機である士魂号1番機がその重装甲に物を言わせ、敵を引き付ける囮になってくれる。あるいは滝川機である軽装甲の士魂号2番機が、近接支援でGアサルトの連射により、3番機を狙う敵を叩いてくれる。だがここには、1番機も2番機も居ない。
「! しまった!」
「きたかぜゾンビか!」
速水はきたかぜゾンビという、戦闘ヘリに幻獣が憑依した敵の機動力を読み誤った。ジャンプ2連直後の左斬りでゴブリンリーダーを
*
次の瞬間、きたかぜゾンビが爆散した。
*
「「……え?」」
一瞬目を丸くした速水と舞だったが、すかさず
『ハヤミスキー! 無事かぁっ!?』
「た、滝川!? い、いやタキガワスキー!? な、なんで!?」
「そ、そなた何故ここに居る!?」
『へへへ、俺らは親友だろ!? それに芝村だって、戦友でクラスメートじゃんか』
きたかぜゾンビを撃墜したのは、滝川の士魂号2番機軽装甲型による、92mmライフルの一撃である。
「いつもは2丁Gアサルトか、それかGアサルトと超硬度大太刀じゃなかったっけ?」
『俺は知っての通りチキンだからな! だから射程が長い92mmライフルで後ろからチマチマ撃たせてもらうさ! それよか早くミサイル弾倉交換!』
嘘である事は、その場の全員が百も承知であった。まあ滝川が少々チキン入っているのは本当だが、今回92mmライフルを選んだのは、純粋に3番機の支援射撃をする事を選んだがためである。射界は狭いが射程距離が長く、一撃の威力が高い92mmライフルを使えば、支援効果は抜群なのだ。
まあ、あとはGアサルトの残弾が補給車に少なく、逆に誰も使っていなかった92mmライフルの残弾が大量に残っていた、という事もあるのだが。それで滝川は、自機に92mmライフルと予備弾倉を大量に装備して、速水と舞の3番機を追って来たのである。
そして二度、三度、92mmライフルの砲火が3番機に近寄る幻獣を撃破して行く。そこへまた、3番機への通信が入った。
『遅くなりました! ……芝村さん。わたくしは芝村一族は好いてはおりません。いえ、嫌ってさえおります。ですが、貴女個人であるならば、話は別です。
貴女が万民のために戦う限り! わたくしも貴女の味方をさせていただきます! さあ、1番機が沈む前に、周囲の幻獣どもを焼き払ってくださいまし!』
舞と速水がレーダー情報を確認すると、戦場に壬生屋機である士魂号1番機重装甲型の姿があった。それはミノタウロスやゴルゴーンをはじめとした幻獣に、いつも通りに取り囲まれている。しかし両肩に装備した展開式増加装甲と、何よりいつもと違い攻撃よりも防御行動に集中している事もあり、余裕を持って持ち
速水は叫ぶ。
「舞! 前方にジャンプするよ!」
「了解! その後狙いをつけて、最後のミサイルを撃つ!」
「撃ったら回避体勢を取って、直後に右ジャンプで離脱!」
そして士魂号3番機複座型は前方にジャンプ。直後その背中が、爆発したかのように煙を
その一見乱射にさえ見えるミサイルの群れは、しかしその実ガンナーである舞の精密な制御により一発も外す事無く、全てが幻獣に叩き込まれる。無論射程内に居る1番機を誤射することなど無い。
ミサイルの射界内にいた幻獣たちは、一瞬の内に爆散して消滅して行った。
*
翌日の事である。速水、舞、滝川、壬生屋の士魂号パイロット連中および2番機整備士の茜大介は、全員揃って衛生官の仕事を手伝わされていた。具体的に言うと、掃除と洗濯である。衛生官の仕事は、戦闘での被害が出やすい士魂号関係に次いで、しょっちゅうトラブルが飛び込んで来るのだ。
ちなみに今回は、数日前まで降っていた雨のおかげで、5121小隊の根拠地である安普請のプレハブ校舎が、雨漏り他の被害に遭ったのである。そのためプレハブ校舎の衛生環境が悪化したため、パイロット連中4名と整備士1名が衛生官の仕事を手伝っていたのだ。
なお、何故に専業でないパイロット連中や整備士が手伝っていたのかと言うと、司令である善行の温情である。熊本城で敵追撃を防ぐ目的とは言え、まず速水・舞ペアが小隊司令に無断で出撃をし、そして滝川、壬生屋もまたそれを追って無断出撃した。更に整備士である茜は、滝川の土下座に根負けして2番機の装備変更を行い、その無断出撃を見逃すどころか
本来は軍隊であるが故、けっこうな罰を受けなければならなかったはずだ。しかし今回は善行司令の温情と、更にその上の芝村準竜師からの口出し……どう考えても口出しであり、口添えでは無かったが、それによって隊内処分で事を済ませたのである。その隊内処分が、衛生官の手伝いという重労働であった。
ちなみに茜2番機整備士はブツクサ言っていたが、それ以外のパイロット連中は一言も文句を言わずに作業を行っていた。体力的な訓練が足りていない滝川は、ヒーヒー言ってはいたが、少なくとも文句は言っていない。
「……ま。これが司令の温情だってのは理解しているさ。本来なら隊内処分なんかで済むわけが無いんだ。重労働だけど、公式記録にも残らず、賞罰にも汚点は付かない」
「ひー、ひー……。石津のやつ、こんな重労働を1人で……。ってか茜、やっぱ正式な処分ってなったら、ヤバかったんだな。茜、巻き込んじまってわりぃ……」
「あたりまえだ。もう少し軍法とか勉強しろ。……いや、いい。お前は生き残るために、体力や運動力、それに気力をつけるのが最優先だ。もうちょっと必死になれ」
茜の冷たい目線に、滝川はひきつった笑顔を返した。そこへ速水が声を掛ける。
「さて、仕事も一段落ついたし、小休止しようよ。クッキー作ってあるんだ。みんなで食べよう」
「よっしゃ、オッケイ!」
「そうですね。じゃあ頑張りましょう」
「フン! やってやるよ」
「わかった。まかせるがいい」
全員が一斉に同意を返す。そして速水がクッキーを配ると、皆でそれを食べ始めた。やがて舞が口を開く。
「……一度しか言わぬ。いいか、一度しか言わぬぞ。……お前たちに、感謝を」
「気にすんな! いつも戦場で助けてもらってるからな!」
「そうですね。それに私も、うわっつらの事で芝村さんを毛嫌いしておりました。それについて、謝罪申し上げます。戦友との仲がこじれていては、敵を倒すどころでは無いというのに」
「フン……。僕は滝川が土下座までして頼んだから、仕方なしに、だ」
そして速水が、いつものぽややんとした笑みではなく、キリっとした表情でいつもとは雰囲気の違う笑みを浮かべる。
「みんな……。僕からもありがとう。僕は決めたよ。この皆、いや、この部隊の誰1人として欠けさせない。だけどそれは弱腰で敵に当たって、被害を他部隊に押し付けて、とかやるわけじゃない」
「「「「……」」」」
「きっちりと戦果を挙げて、きっちりと成果を出して、きっちりと評価を貰って……。そして勝とう。なんとしてでも、自然休戦期5月上旬まで、生き残る。生き残るだけじゃなく、勝って生き残る」
滝川が、言葉を発した。今までの滝川であったら、『……お前、目つきが変わったよ。なんだよ、自信たっぷりに』とでも言っていただろう。否定的な雰囲気をにじませて。だが今、この時の滝川は違っていた。
「……っ、はは、わかったよ。んじゃ、何からはじめりゃいい?」
「滝川の得意な射撃の技量を、もっと研ぎ澄ます様に高めてくれると嬉しいね。体力も気力も最低限は欲しい。これは生残性に直結するから。ただ運動力の訓練を阻害しない程度に。
それと茜は勉強よりも身体能力系の訓練って言ったけど……。機体のパイロット側の調整にも頭は必要だよ。さっきまで言った事を優先して欲しいけど、勉強もおろそかにはしない程度に」
「お、おう……。よ、よおおおぉぉぉっし! やるかぁ!!」
速水の言葉に一瞬ひるんだ滝川だったが、めずらしくやる気に火がついた模様。彼の士気は燃え上がった。
「ふふふ、頑張ってくださいね。滝川さん」
「壬生屋。お前も未だ、不足な点はあるのだぞ?」
「えっ、芝村さん?」
「壬生屋は戦闘に於いて、一撃必殺の斬撃を送り込む事だけを考えて、体力の鍛練を最優先にしておる。それは問題ない」
怪訝そうな顔をした壬生屋だったが、舞の意見に真摯な表情で聞き入る。
「だが、その大威力の斬撃を命中させるにも、敵中に飛び込んで敵の攻撃を回避するにも、パイロットの運動神経は必須だ。特に壬生屋の戦闘スタイルでは、それは絶対とも言えよう。
また同時に、機体とのチューニングも徹底的にしなければならぬから、パイロットの頭脳も高めて置くに越した事は無い」
「た、たしかに……。言われてみれば、それらは疎かにしていた部分があります。わかりました、ありがとうございます」
「うむ、励むがいい」
不敵に笑う舞だった。壬生屋も以前であれば、この様な言い様には反発していたものだが、『この娘はこういう物だ』と割り切ってしまえば何のことは無い。こう言う言い方しか知らないのだと理解できてしまう。
そしてそれを眺めていた茜が、口を挟む。
「さて、小休止は終わりにしよう。掃除がだいたい終わったが、洗濯は掃除中に新しい洗濯物が運ばれてきている」
「やれやれ……。本っ気で衛生官、石津にゃあ二度と頭が上がらねえよ。って言うか、ほんとにこんな重労働をあいつ1人で……。これからも定期的に手伝った方、良くね?」
「それはある程度、お前の訓練鍛練がなんとかなった、と思える様になってからだな。正直今現在の5121小隊は、衛生官の手伝いに人手を割ける状態じゃない。今回の隊内処分は例外だ。
さあ、やるぞ」
そして茜の号令で、彼らは再度仕事を始めたのだった。
*
こうして士魂号パイロットたちの連帯が深まったことで、5121小隊の実効戦力は上がった。そして速水の言葉の通り、彼らの活躍により人類優勢のままで夏の自然休戦期まで、持ち
だがそれでも、とりあえず5121小隊に欠員は無いまま、今回の戦いは終わった。小隊はいったん解隊されたが、彼らの活躍により人型戦車の士魂号は再度量産され、あちこちの部隊に配備された。また旧5121小隊の一部の者たちは特にパイロット連中が、別部隊に集中的に配属される事となる。エース部隊となった彼らの活躍は、また別の話である。
このお話は、大嘘です。熊本城の三戦目で、タキガワスキーと壬生屋が援軍に現れる事は、ぜったいにありません。繰り返します、大嘘です。
でも、こうだったらなあ……って。そう思ってしまって。まあ熊本城三戦目は、ミスしなければまず勝てるんですけどね。
……え? わたしの熊本城三戦目、初めての時はどうだったかって?
ミスしないわけ無いじゃないですか。ミノさんにズタボロにされて、脱出しましたけど、何か? そして戦車兵用ウォードレスで太刀打ちできるわけないじゃないですか。何か?
慣れるまで、何度も何度もロードして熊本城やり直しましたともさ。
ああ、あと1stマーチでの話という設定なので、OVERSは速水です。