背中に背負ったリテルゴルロケットが、轟々と噴射炎を吐く。司令である速水厚志が陳情してくれたウォードレス武尊に包まれた身体が、凄まじい速度で敵集団のド真ん中まで運ばれる。食いしばった歯の奥から、思わず漏れ出そうになる悲鳴を飲み込んで、滝川陽平は幻獣集団のド真ん中に降り立った。
狩谷の陰謀でスカウトに回された事を憐れんでか、田代香織が教えてくれたすり足で敵との位置を微調整し、ゴルゴーンを蹴り飛ばし消し飛ばす。同じく憐れみの表情で壬生屋未央が教えてくれた右斬り左斬りで左右にいるゴブリンリーダーを血祭りに上げる。
「……や、べぇっ!!」
遠距離の射程から、スキュラがレーザーで滝川を狙っている。位置取りに失敗した。ゴブリンリーダーなんかに構っていないで、奴の射界から逃れるべきだったのだ。
と、その時である。指揮車が
『滝川機、前進。今のうちにスキュラを始末して』
「了解!」
滝川は心の中で、司令である速水に礼を言う。それでもスキュラの威容に突撃をかますのは恐ろしかったが、どちらにせよ
そして滝川は武尊ならではの異様な移動速度でスキュラに近づくと、跳躍してその不気味な躯体へと蹴りを見舞った。
*
「いやぁ、昨日はしんどかった~」
「でも、ゴルゴーン×2、ミノタウロス×1、ゴブリンリーダー×3、ナーガ×1、キメラ×1、そしてなんとスキュラ×1の戦果だよ。凄いじゃない」
「いや、速水が
「今度は銀剣突撃勲章でも狙ってみようよ」
「無茶言うなーーー!?」
速水司令はぽややんと笑いながら、無茶な事を言う。だがその表情が引き締まり、眉を
「ところで、だけどさ。発表があったから知ってるだろ? 石津の事なんだけど」
「あ、う、うん。原さんの陰謀で……」
そう、今朝の事である。原素子の陳情によって、指揮車銃手兼衛生官の石津萌がスカウトへ異動の憂き目に
「今のままじゃ、指揮車が出撃できない。僕が陳情して、茜を早急に衛生官に押し込む。……本当は石津を戻したいところなんだけど、どうせ原さんが何度でもスカウト送りにするだろうから……」
「原さんも、なあ……」
「それでこの際だから、押し出し無職になった若宮さんが班長技能を持ってるから、彼を整備班長にする。そして原さんは2番機整備士に異動させる。その2番機パイロットには、善行さんになってもらうよ」
「あー、うん。そっか……」
可能であるならば、2番機パイロットには自分がなりたいところであった滝川としては、複雑な気持ちであった。しかしながら幼少期のトラウマによる閉所恐怖症で、士魂号のハッチが閉められないため、戦車技能の訓練がまともにできずに士魂徽章を獲得できない以上、滝川には何も言う事ができない。
ちなみに3番機は、来須銀河と芝村舞がパイロットである。速水が覚醒して司令になったのを見計らったかの様に陳情して、来須が3番機パイロットに異動したのだ。その異動がきっかけになったのか、陰謀でのスカウト送りが多発したのは問題ではあったが。
速水の言葉は続く。
「滝川は、石津の事を頼みたいんだ。僕は5121小隊から殉職者は出したく無い。
「いらねえよな。アレと極楽トンボ章だけは、マジいらねえよ」
「彼女がスカウトで死なない様に、滝川が気を遣ってやって欲しいんだ。頼めるかな」
「よっしゃ、オッケー……。とりあえずスカウト同士、少しでも仲良くしてくらあ。昼飯誘って来る」
席を立った滝川を、速水は呼び止める。
「あ、滝川。だったらコレ持って行きなよ。石津はたぶんお弁当持ってるだろう? 味のれんに誘っても、来てくれないだろ」
「お、サンドイッチか! 悪いな、貰ってくわ」
そして今度こそ滝川は、石津を昼食に誘うために自席を離れて行った。その直前、同調能力による『恋のおまじない』を使って交渉能力を向上させたのは言うまでもないのだが。
*
楽しすぎて、料理の味を覚えていない……。
*
その日の放課後、滝川はグランドで石津と話していた。
「んじゃあ、若宮さんから教わった事の受け売りだけどよ。スカウトについて教えてやるよ。って言っても、結局はスカウトは体力と運動力だって話なんだけどな?」
「……う、ん」
「死にたく無いなら、鍛えて、鍛えて、鍛えまくるしか無いんだ。あとは精神力も要るな。それと幸いなことに、ウォードレスなんだけどよ。速水が陳情してくれて、武尊のストックがあるんだ。
けど武尊は『あたらなければ、どうと言う事は無い!』ってウォードレスなんだけどよ。でも敵の攻撃があたったら、薄いから大ダメージだ。機動性やそれから来る移動性能は桁外れだから、なんとしても敵の射界から逃げまくれ」
んじゃ時間もったいないから、さっそく走るか、と言う滝川に頷いた石津は、ひたすらにグランドを走る事に専念する。滝川も同じく、余計な事を考えずにただひたむきに、グランドを走った。
*
滝川はいつもとは違い、リテルゴルロケットを使わずに地上を走っていた。理由は、リテルゴルロケットで敵中へ
(よし、今のところ無事だな)
石津は格闘戦重視の装備にした滝川とは異なり、滝川を支援するように言い含めてレーザーライフルを装備させている。本当は滝川も射撃戦の方が得意ではあったのだが、以前の戦場で弾切れのときに幻獣に取り囲まれ、蹴りだけで敵陣を突破した事があったのだ。それ以来、白兵武器に傾倒しているのである。
石津にも白兵武器を保険として持たせたかったのは、滝川の本音である。しかし残念ながら、彼女は体力的に劣る――それでもスカウトの水準にはぎりぎり達する事ができたが――ため、レーザーライフルでの中~長距離支援に専念させる事になったのだ。
とりあえず彼は目の前のゴブリンリーダーに斬りかかり、そして剣を振り上げてその隣のキメラめがけて斬り下ろす。更に再度超硬度カトラスを振り上げると次は左前に居たキメラを斬り裂く。そしてすり足で、敵大半の攻撃範囲からほんのわずかだけ逃れる。
「石津! そのナーガ頼む!」
『……まか、せ……て』
唯一そのレーザーの射程内に滝川を捉えていたナーガが、石津のレーザーライフルに撃ち抜かれて消滅していく。彼女は指揮車の銃手をやっていただけあり、射撃能力は高い。滝川は予想したよりも頼もしい石津の働きに、自然と笑みが浮かんでくるのを
彼らはしばらくその調子で、敵陣を好き勝手に切り裂いて行く。そして彼らが今いる北側とは反対の南側の戦域で、来須と舞の士魂号3番機がミサイルを放ったのが見えた。と、幻獣が一斉に逃げ出す。
『上から通達が来た。敵は撤退に入った。これより掃討戦に移行する』
「了解!」
『了……解……』
そして5121小隊は、撤退する幻獣を追撃。壬生屋の士魂号1番機がキメラをなますにする。善行忠孝の士魂号2番機がGアサルトでゴルゴーンを撃つが仕留めきれない。そのゴルゴーンが逃げ切る直前に、士魂号3番機がGアサルトで背後から蜂の巣にする。
滝川と石津も、逃げるナーガを背後から斬り下ろし、キメラをこれも背後からレーザーライフルで狙撃し、敵を順調に片付けていた。しかし、好事魔多し。
「なっ!?」
『増援!? やられたのか!?』
敵の増援が、こちらに向かっているとの報告。通例として、増援が到着するより前に残敵掃討を完了すれば、敵増援も非実体化してこちらに到着する事は無くなるのだが……。今回は、間に合わなかった様である。
次々に、戦場に敵の増援が出現する。次から次へ、戦場に幻獣の増援が実体化した。通信から、速水司令が歯を噛み鳴らす音が響く。
そして、石津の目の前に唐突に、巨大な要塞の様な幻獣……スキュラが実体化した。その赤い眼が輝き、躯体にずらりと並んだレーザー発振機関が唸りを上げる。滝川は叫んだ。
「石津うっ!! 蹴れえええぇぇぇ!!」
『……!!』
滝川は同時に、左肩に装備していた煙幕手榴弾をもぎ取って投擲する。彼は心の中で、必死に祈っていた。
(間に合え、間に合え、間に合えええぇぇぇ!!)
そしてスキュラのレーザーが石津を狙い、撃ち放たれた瞬間。煙幕手榴弾が炸裂し、周囲は
例えば、
ばぎぃっ、と嫌な音を立てて、スキュラの胴体が
そして滝川と石津がすり足で後退する中、スキュラはその形を崩し、消滅して行った。
*
翌日、尚敬高校前の玄関前で、滝川が速水と話しながら歩いていた。
「うええぇぇ……。本っ気で昨日の戦闘はヤバかったぜぇ……」
「確かにね。でも見事だったよ。滝川も、もちろん石津さんも、ね。知ってる? 昨日の戦闘でさ? 君らの撃墜数、来須先輩と芝村のコンビよりも多かったんだよ?」
「へっ!? か、数えてなかった……」
「瀬戸口や東原が、きっちり数えてたから。その様子だと、今日の
速水の台詞に、滝川は唖然とするばかりだった。
*
滝川が、銀剣突撃勲章を受章しました。
滝川が、黄金剣突撃勲章を受章しました。
*
あまりの事に、滝川は唖然とするばかりだった。一応授章式はなんとかこなしたのだが、後になってから何か偉いさんたちに失礼をかまさなかったか、不安になったほどである。
「ははは、まだ3月も半ばだよね? この調子でいけば、夏の自然休戦期までに
「さ、流石に今言い淀んだソレは無理だろ。って言うか、フツーなら
「そう、かな? 少なくとも150体撃破までは楽に行きそうな気もするんだけど」
「無理無理無理!」
そして滝川は、苦笑しつつ自分の席に着いた。
*
その後も滝川は、石津と共にスカウトの部署で戦い続けた。かつての本職スカウトである若宮整備班長が、補給車からその戦いぶりを見て、あれこそがスカウトの極致だとまで賞賛したほどである。そう、まるで息をする様に幻獣を殺し続けたのだ。
そして滝川は、3月末頃に石津と付き合い始め、恋人関係になった。田代と壬生屋が少し不満気な顔をしていたらしいが、であるならば彼女たちは、もっと早く積極的に動くべきであっただろう。滝川と石津は部署も一緒なので、しょっちゅう訓練も仕事も一緒に頑張っていたのだし、そう言う関係になるのも時間の問題であったはずなのだ。
ちなみにタキガワスキーの親友たるハヤミスキーは、一足先に森精華さんとラブラブになっている。森の交通事故イベントも必死の泣き落としで、士魂号の秘密の調査を止めさせて回避しているし。
それはともかくとして、滝川は4月上旬にあっさりと150体撃破を成し遂げて、
そして彼は、友人たちの態度の豹変に少しばかり気落ちしていた。何と言うか、友人たちは彼を恐れ、敬して遠ざけると言った態度の者や、ひどい場合もろに化け物扱いしてきたのだ。だが速水がそれほどまでは拒否反応を示さなかった事や、来須、岩田、そして誰よりも石津の反応が悪いものでは無かった事で、彼は気を取り直す。
「やれやれ……。ん?」
彼が見遣ると、狩谷がプレハブ校舎前で、階段を昇れなくて困っているところであった。狩谷は車椅子であり、他人の手助けが無くば階段を昇る事はできない。……正直滝川は、狩谷が苦手である。彼を陰謀でスカウト送りにしたのも狩谷である。しかしそうでなくば、もしかしたら今も彼は無職であったかも知れない。
「狩谷ー。よかったら二階まで連れてってやろっか?」
「……!? はっ、絢爛舞踏。……失礼いたしました。これより任務に戻ります」
狩谷は泡を喰って車椅子の向きを変えると、士魂号整備ハンガーの方へ必死に急いで行った。まるで逃げるかの様に。
「やれやれ、奴も、か。ま、仕方ねえか」
「滝川……くん……」
「お、石津!」
そこへ階段の上から降りて来た石津が、滝川に声をかけた。まあ、無駄に善行が脇の方に居るため、Hな雰囲気にはならないが。ちなみに善行は今現在2番機パイロットであり、司令や副司令ではないので、真面目な雰囲気にもならない。
そして石津が微笑んで言う。
「……日曜……一緒に……居て……いい?」
「よーっし! やるかぁ!!」
「……うれ……しい」
こうして5月10日を迎え、彼ら5121小隊の戦いは終わった。5121小隊はいったん解隊されたのだが、史上5人目の絢爛舞踏滝川とその相方である石津は、後日再招集された際にも同じ部隊へと配属される。それを画策したのは更に出世していた速水であったらしい。いい友人である。
5月10日に至るまで、今話の滝川は戦車技能を獲得しておりません。せっかく狩谷君が準備万端整えて待ってたんですがねー。士魂号乗らないと、彼の出番は無いのですだよ。