速水厚志は精神的に疲れていた。ここ数日、連日で早朝の作戦会議が開かれていたためだ。しかも毎回、議題は『壬生屋による1番機の重装甲への改装』である。
「最良だと判断します」
「俺は反対だね」
「僕は反対だよ。効率が悪いもの」
パイロットたちは、当の壬生屋未央を除き反対に回る。速水は本当ならばさっさとこの議題を可決して欲しかったのだが、投票前の意見交換にて会議出席者たちの大半が反対意見を出していた事で、全体の和を壊す事を恐れて反対に回った。
整備員たちの投票もまた、反対意見がその全てを占める。
「フフフ、短絡的すぎます。なので僕は反対」
「エー、いきなりダメっぽいじゃん。反対だよ」
「馬鹿みたい。そんな容易にいくわけないでしょ」
最後に、整備班長の原素子が投票する。
「……適切でないわ」
速水の予想通り、壬生屋以外の面々は全員が反対に回っていた。速水は思う。
(壬生屋さんは……。ひたむきに訓練とか仕事とかに挑むのはいいんだけど、隊内の和とか気にしないからなあ……)
「委員長、ご決断を」
原が司令の善行忠孝を促す。善行は重々しく語った。
「駄目だ。委員長権限により、本件を否決する。
本日のミーティングを終了する。解散!」
壬生屋は残念そうな表情を浮かべるが、他の面々はよかったよかったと言う顔で会議室を出て行った。だが速水はこの件が少々気がかりで仕方が無かったりする。
(いつもいつも壬生屋さんの議題が否決されてばかりだとなあ。壬生屋さんの士気が低下して、戦闘にもパイロット部署の調整にも影響出るし。それに司令……善行さんに対する悪感情も少しづつ積み重なっていくし。
って言うか、壬生屋さんこれで何回目の否決だよ。もう既に、下手すると善行司令との関係性は相当悪化してない? 士気低下も酷い状態じゃない?)
そして速水は決心する。部隊内の面々に悪感情を抱かれていない、それどころか好かれている方の自分が提案すれば、作戦会議での議題は通るだろう。これ以上無駄に壬生屋に作戦会議を開かれるよりかはマシだ。
その日の昼、速水は教室で提案を叫ぶ。
「みんな! 聞いて! 作戦会議をやろう!
「よーっし、やるかぁ!」
「わかった。まかせるがいい」
「そうですね。じゃあ、頑張りましょう」
「では、私も励む事にしますか。
……わかりました。明日の早朝にでも会議を執り行いましょう」
速水は思う。
(これ以上、壬生屋さんに無駄な作戦会議させるよりかは4096倍マシだろう)
そして彼はタキガワスキーを誘って、味のれんへと昼食に行った。彼はサンドイッチを持っていたが、これは滝川陽平とお昼を一緒にしたかったため、あえて味のれんに行ったのだ。それに夜間の訓練に備えて、サンドイッチを残しておきたかったのもあるし。
まあその日の午後に、緊急の出撃が入ったために、せっかくのサンドイッチは危険なサンドイッチにワープ進化してしまったのだが。ヤケを起こした速水はその日の出撃で、20体の幻獣を狩り、銀剣突撃勲章を確定させてしまったりもした。
*
翌日の早朝の作戦会議、速水は壬生屋機である1番機の重装甲仕様への改装を提案した。壬生屋が提案したときと打って変わって、パイロット連中も整備員も、整備班長すらも提案に賛成意見を出してくれる。そして投票。
「最良だと判断します」
「俺はこれでいいよ。うん、いいや」
「うん、僕は賛成だよ」
「フフフ、賛成」
「あはっ。賛成ー!!」
「まあ、わかってたけど。いいんじゃない」
「それでいいと思うわ」
そして満場一致で、この案件は可決。
「……委員長権限により、本件を可決する」
速水はほっと安堵の息を吐いた。よかった、これで壬生屋が無駄に作戦会議を提案する事は無くなるだろう。今の段階でなら、善行と壬生屋の関係性もまだ修復可能なレベルだと思う。壬生屋自身の士気低下も、まだ致命傷では無い。
そう速水は思っていた。さあ、今日も一日頑張ろう。そう決意を新たにし、速水が席を立とうとした瞬間、善行が口を開く。
「では次の議題ですが……」
そうして善行は壬生屋を見た。え、と速水の口が半開きになる。
「壬生屋さんからの提案で、士魂号1番機軽装甲の重装甲仕様への改装ですね。何か意見は?」
いっせいに手が上がる。そして反対意見の嵐。あげくに投票で、壬生屋のみ賛成票で残りは反対票。善行曰く。
「駄目だ。委員長権限により、本件を否決する。
本日のミーティングを終了する。解散!」
ちょっと待ってくれ善行司令。ちょっと待ってくれ壬生屋さん。そう言いたかった速水の口からは、魂が抜け出ていたと言う。
先頃1stマーチをやり直したときの実話でございます。あのー、壬生屋さん。可決された議題を再び持ち出して、それで否決されるってのはどうなっとるんですかね。