先ほど届いたばかりの新しい士魂号M型の予備機が、整備ハンガーに入る。現在1番機整備士の茜大介は、ほっと溜息を吐いた。
「……今の1番機は、故障だらけだ。激戦区だからな……。修理している暇なんてない。
今の1番機には『済まないが』、廃棄して早速この予備機と交換しよう」
「おや、感情移入ですか~? ソレはつらくなるだけですねえええぇぇぇ~」
「岩田……。『知ってる』クセに……」
「フフフ、ソレについては口に出さない方が良いでしょう」
「……フン」
茜も岩田裕も、それどころか士魂号整備士の面々はほぼ全員がソレを知っている。現在2番機整備士の原素子が整備班長だった頃に、士魂号の残骸の中身を見せてもらった事があったのだ。原はその際に口止めをしていたが、であるならば最初から話さない方が良かったと言うものである。
人型戦車である士魂号M型の制御系……神経系には、かつて人間であった『部品』が使われているのだ。原は戦死者か、はたまた幻獣共生派の物が使われていると予想していた。
「……士魂号の量産が、続く事になったらしい。僕らの小隊が活躍し過ぎたせいかな」
「それはそれは! まあ戦力的には有難いと言うべきか、それともご愁傷様と言うべきでしょうかね~」
「お前こそ、口に出さない方がいいだろ」
「フフフ、わかりました」
そのとき、現2番機パイロットの田代香織が整備テントに入って来る。そして妙な顔をした。今現在、原は善行忠孝整備班長と共に速水厚志司令へと報告に行っているため、この場には居ない。だがもし居たなら、彼女に何かしらツッコミを入れていた事だろう。『何か見えるのか』と。
田代には、『視える』のだ。士魂号たちが絶望と悲しみの声を上げているのが、『聴こえる』のだ。彼女は幻視の
田代が溜息を吐く。
「1番機、交換すんのか」
「する」
「そ……っか。なんか、また『
「そうだな」
茜は生返事に見せかけた、苦悩のこもる返事を返す。如何に
ただ逆に、ようやく『彼』だか『彼女』だか分からないが、ソレが『終わり』を迎えられると言うのは救いにも思える。この悲痛な悲鳴の中で、延々と整備作業をしている身としては、だが。
*
以前の1番機が廃棄され、新しい1番機が定位置に着いた。だが茜は、その新たな1番機に違和感を感じる。この新たな1番機は、苦痛の声を上げてはいたものの、同時に歓喜の声を上げていたのだ。
「なん……だって?」
「フフフ、これは……」
岩田も咄嗟にギャグが出せず、目を見開いている。と、そこへもう1人の人物が現れた。
「あ。新しい機体なんですね」
「芳野先生……」
そこに居たのは、芳野春香教諭である。幻獣との戦いで、子供たちを教え導く大人たちが大量死した事で、即製で作り上げられたクローン。大人の身体に、とりあえずの知識だけを埋め込まれて送り出された、粗製乱造の教員。
……そして、2人目、である。
1人目の芳野教諭は、教え子たちが戦場に赴き、傷つき戦う事に耐えきれず、精神が破綻。そして回収されて、新しい2人目の芳野教諭が送り込まれて来たのだ。『今度のは、もう少し長く保つぞ』との申し送りと共に。
「先生、教員の会議があるとか言ってませんでしたか」
「あ! いけない! ありがとう茜君、すっかり忘れてたわ!」
芳野教諭は、ばたばたと走り去って行く。それを見て、茜は深い、深い、溜息を吐いた。そして次の瞬間、彼は驚愕する。
士魂号1番機の『声』が、聞こえた気がしたのである。
「『子供たちの事を、おねがい、あたらしいわたし』って……」
「ええ、そう聞こえましたねぇ……」
クネクネとした異様な動きだが、しかしその瞳に悲痛な色を浮かべて、イワタマンはそれだけ言うと黙する。茜は、何度目かわからない深い、深い、深い溜息を吐く。そしてぽつり、と呟いた。思わず涙が
「……おかえりなさい。芳野先生……」
せっかく帰って来たのに、でも新しい『1番機』ってのが、ちょっと不幸過ぎる気もしなくも無い。このループの茜とイワタマンは、必死で1番機を保たせようとするんでしょうけれどね。でも1番機パイロットさんが……。それにナントカ無事であっても、速水か舞あたりが士翼号陳情すると、1番機瞬時に交換されちゃうし。
このループはのんきに整備士やるかと思ってた茜OVERSでしたが、特大の地雷を踏んだ模様。