【完結】好きになった方が負け、なので。   作:とくめ一

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マトの秘密

 

 大きな一軒家──マトの家の門の前に到着した旨のメッセージを送ると、マトはフリフリの可愛らしい服を身に纏い、いつも通り長い金髪をツインテールに結んだ姿で門を開けた。

 

「バチコちゃん、来てくれてありがとうっ☆

 入って入って!」

「おー」

 

 嬉しそうにそうあッチを迎え入れたマトは、あッチの手を引いて家の中へと案内する。

 

 ……やはり、あの時感じた違和感は気のせいだったのだろう。

 

 家に来てもいつも通り。

 おかしい所など一つだってない。

 

 …………ま、そりゃそうか。あッチの考えすぎだな。

 

 そう考えて、あッチはずっと隅に残っていた違和感を今度こそ放り捨てた。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「つッかれたー!!」

「つかれたねぇ~」

 

 マトの部屋で数時間に渡るファッションショーごっこを満喫して、二人してクイーンサイズだと思われる大きなベッドに全身を預けるように倒れ込む。

 

 きちんと服が必要な分チェルーシルよりも使用魔力が少なくて済む更衣魔術を駆使してもこの疲れようだ。普通に着替えたりチェルーシルを使ったりしていたら……と考えると恐ろしい。

 

「でも楽しかったぁ」

 

 寝転がったままで微笑むマトに、あッチも笑い返した。

 

「おう、楽しかったな!」

 

 「またやりたいね」「暫くは御免だけどな」なんてやり取りをして、一瞬の沈黙が走って。

 あッチは、なんとはなしにポツリと呟いた。

 

「……来年も再来年もその先も……これまでと同じように楽しく過ごせたらいいよな」

「…………」

 

 口に出してから数秒。

 何故か何も言ってこないマトに、自分の顔が赤くなっていることを自覚しながら文句を言おうとした、その時だった。

 

「──“同じように”じゃ、困るんだよね」

 

 脳ミソがその言葉を正常に処理する前に、あッチは魔術で両手を一纏めに頭上で固定された状態で馬乗りになられた。

 

 誰に?

 脳内でそう自問するが、あッチを見下ろすその顔は何度まばたきしても変わらずよく知っている顔のままだ。

 

「ま、と……?」

 

 困惑のあまり抵抗すら出来ないあッチはさぞかし滑稽だったことだろう。しかしそんな姿を見たマトは、いつものように笑顔を作るでもなく、声をあげて笑うでもなく、ただただ不機嫌そうな表情であッチに覆い被さった。

 

「バチコちゃん、おかしいと思わなかった?」

「……おかしいって、何が」

「マトがクラスで着替える時絶対別室に行くこととか、海とかプールでは絶対見学以外しないこととか、何があっても絶対髪を降ろさないこととか……他にも色々」

 

 ……たしかに、疑問に思うことはあった。あったが、しかし……。

 

「……ヒトには言いたくねェような事情があンだと思って……」

「あははっ、それで追及しなかったの?

 バチコちゃんはやっぱり優しいね」

 

 「そういうところも大好きだよ」といつも通りの言葉を吐きながら、いつもとは違う話し方で、いつもとは違う薄っぺらさを感じさせる表情で笑んでマトは続ける。

 

「まあ、悪いのはマトなんだけどね。

 正直どれくらい気付かないかなって余裕ぶって遊んでたとこもあるし、バチコちゃんの優しさに乗っかってたのも認める」

 

 そのままマトが小さく何かを呟くと、『パキン』と音をたててマトの髪を留めていた道具が外れて、そこに現れたのは──

 

「……サキュバスの、角……?」

 

 そう。サキュバス族の全員がその角というわけではないが、しかしサキュバス族によく見られるハートのような形の角だ。

 

「マトお前、サキュバスだったのか?」

「惜しいけど違うよ。…………まあ、種族に関しては今はどうだっていいや。」

 

 今話しているのは、本当にあのマトなのだろうか。

 それすらも確かではないと感じてしまうほどに混乱しているあッチを見つめて、そのマトである筈の相手が話しながらゆっくり、ゆっくり顔と顔との距離を詰めてくる。

 

「マトが言いたいのは、こういう風に隠し事ばっかりの相手にそんなに警戒心ナシになるまで気を許しちゃいけないってこと」

 

 言いながら、近付いて、近付いて、近付いて、──互いの唇同士が接する寸前で、ぴたりと動きを止めた。

 

「じゃないと──」

 

 ……こんなに真剣な顔のマトは見たことがないな、なんて他人事のように考える。

 頭と心が分離したようなおかしな感覚の中で、それでもマトの発言はしっかりとあッチの脳に突き刺さった。

 

「──()みたいな悪い悪魔(やつ)に、簡単に食べられちゃうよ」

 

 

 ……は?

 

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は……??」

 

「……はぁ……。その感じだと、やっぱ『もしかしたら』って予想したことすらなかったかぁ……」

 

「は???」

 

「まあいいや。でも、逃がしてあげるのは今回が最後。ってことでよく考えてね。

 ……明日、バチコちゃんの家まで行ってちゃんと『好きです付き合ってください』って告白するから」

 

「は???????」

 

「あれ、まだ分かんない?うーん、もっと分かりやすく言うと……」

 

 マトが何やら考え込むような素振りを見せた辺りで、完全に停止してしまっていた思考が漸く、ギギ、と錆びたような音をたてながらゆっくりと動き出す。

 

 つまり、何だ。

 マトは女じゃなくて、マトは男で、多分インキュバスで、それから、聞き間違いでないなら、何か勘違いをしていないなら、マトはあッチのコトが──

 

「──……は……はぁ……ッ!!?」

 

 意味分かンねェとか、騙してたのかとか、告る相手間違えてンだろとか、言いたいことは色々ある筈なのに、それら全てを融かすようにぶわりと一気に顔が熱くなる。

 

「……あぁ、伝わった?

 ならいいね。じゃあまた明日」

「あっオイ!!ちょ、待っ、」

 

 赤面するあッチに気が付いたらしいマトは緩く微笑んで、直後こっちの言葉を聞こうともせずに魔具らしき物であッチを入口の門の外へと瞬間移動させたのだった。

 

 

 

 

 

「……あの野郎覚えとけよ……!!」

 

 移動させられた門の外。

 そんな恨み言を吐きながら、あッチはまだ火照ったままの顔を隠すようにずるずるとその場にしゃがみ込んで蹲った。

 

「クソ、どうしろってんだ……」

 

 

 

 

 

 

 

(熱くなるばかりの顔が答えだと言われたら、きっともうそれまでなのだろうけど。)

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