竜化夢女子(男)が竜騎士学園で暗躍する話   作:ぷに凝

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24 魔女ルゼフィール

「“学術対抗戦”を知っておろう?」

「知りません」

 

ゼフィに呼び出された彼女の部屋で、フロナは“ユノミ”なる陶器に入った緑色の不思議な茶を飲みながら彼女の話を聞いていた。

 

「……騎士クラスの生徒30名全員が参加して合同で行われる対抗戦じゃ」

 

ドヤ顔で話を切り出したゼフィが出鼻をくじかれ、改めて説明を行う。

 

「本来、入学後1ヶ月で開催される伝統の催しじゃが……今年は諸々のアクシデントのせいで開催時期がずれ込んだらしい」

「……襲撃事件ですか」

「左様。中止になる可能性もあったが、むしろ例年通りに開催することで学園の体制の盤石さを誇示する意味合いもあろうな」

 

それを聞いて、フロナは僅かに表情に影を落とした。

 

ゼフィはフロナのその様子に片眉を上げながらも、続けて言う。

 

「30名の生徒は、この学術対抗戦の折に、無作為に3チームに振り分けられる。それぞれ10名のチームからなる三つ巴の模擬戦。それが学術対抗戦じゃ」

「模擬戦……ですか」

「そうじゃ。騎竜に搭乗しての空中戦……求められるのは騎竜の操縦技術は勿論、戦術眼、チームワーク、そして統率力……何が言いたいかわかるか?」

 

フロナが黙って首を振ると、ゼフィは人差し指を立てて答えた。

 

「入学時の成績は所詮、小手調べに過ぎぬ。この学術対抗戦で生徒たちは真にその力量を見られることとなるのじゃ。結果を残せば、わらわの発言力は大きくなる」

「発言力が大きくなれば、あなたの声を学園は無視できなくなる」

「理解が早いな。その通り。わらわが欲しいのは“勝利”じゃ。所属チームが勝利した、というだけでは不十分。わらわの指揮がチームを勝利に導いたと、そう断言できるだけの状況証拠が必要となる」

 

ゼフィは扇を広げて、目を細めた。

 

「求めるのは完璧な勝利じゃ。おぬしにも手伝ってもらうぞ」

「……私は見習いです。騎士クラスの催しをどれほどお手伝いできるかは分かりません」

「そんなこと最初からわかっておる。しかし、おぬしがこの行事に無関係だからこそ、人目を集めずに動くことも可能なのじゃ」

 

フロナが首を傾げると、ゼフィは「いいか?」と前置きして言った。

 

「学術対抗戦の組み分け。これを意図的に操作するのじゃ」

「……えっ!?そ、それって……良いんですか?」

「良くない。バレれば退学じゃな。場合によっては祖国からも追い出されることになろう」

「えぇ……」

 

そして飛び出したゼフィの堂々とした不正発言。フロナもこれには流石に苦い顔をせざるを得なかった。

 

「やめた方がいいですよ……そんなの、バレた時のリスクが大き過ぎますし、私だって協力は……」

「“酒龍草”」

「……え」

 

ゼフィはなんてこともなさそうにそう言った。

 

「おぬし、先の襲撃事件に加担しておったろう?」

「ッ!?」

 

しかし、その一言を聞いた瞬間フロナは大きく跳び退いた。

 

「あーあー、そう警戒するでない。別におぬしを兵士に突き出そうなどとは考えておらぬ。このことを知っているのはわらわだけ。口外する気も……おぬしがわらわの“味方”でおる内はない。安心するとよいぞ?」

 

ゼフィは細い指先を眺めながら、あっけらかんと言い放つ。

 

「……あなたは、一体」

「うん?あの白髪の言ってたことを聞いておらんかったのか?」

 

彼女はそう言って、口を三日月のような弧の形に歪めた。

 

「わらわはトトロイゼ共和国中央議長の娘、ルゼフィール。一部の者はわらわを“魔女”などと呼んでおるが……気にするな。騙された馬鹿な人間どもがそう言っておるだけのことじゃ」

 

フロナはこの時、初めて理解した。

 

「おぬしは、そんな馬鹿どもとは別口じゃろ?」

 

目の前の小さな少女が、“魔女”と呼ばれ恐れられている意味を。

 

 

さてさて。フロナちゃんがゼフィ様とお部屋にこもってしまって、私は手持ち豚さんになっちまったブヒね。

 

いい機会だ。ここらで久しぶりに“聖竜教”に顔を出しておくとしよう。

 

あ、モチロン手土産も忘れずにね。

 

ビュオッ、と学園内を一陣の風が吹く。

 

その風は一瞬で、真横を通りがかっても弱めの隙間風が吹いたという程度の感覚しか感じない。誰かがいた気がして振り向いても誰もいない。

 

小さな風切り音と、何者かがそこにいたという残滓だけが残るばかりだ。

 

「……」

 

そして私は“聖竜教”本部の最奥にとうちゃーく。

 

『教祖セテンハイム』

「っ!?なっ、い、いつから……!?」

 

執務室に齧り付いて書類を整理していたセテンハイムのおっさんに、私は後ろから話しかけた。

 

名前を思い出すのに少し時間がかかったが、全く気づかれない辺り相当目の前の書類に集中していたのだとわかる。

 

ちなみにすでに私は声も姿も不明瞭な透明人間モード。この手に限るわ。

 

『そんなことはどうでもいい。今日はこいつを引き渡しに来た』

「……?その、袋は……」

『“祭り師”の死体だ』

「っ!?」

 

そう。今日はここに祭り氏の遺体を処理しに来たのだった。

 

「こ……殺した、のか」

『正確には生きている。だがすでに意識はない。死んだも同然だな』

 

セテンハイムは私の言葉に、私が持参した布袋の中を一瞬覗き込んでぎょっとした。

 

その中にはきっと、人の形をしていない肉の塊が入っていたはずだ。

 

『だが、そいつは命令もろくに聞かずに独断専行を行った。生きていても害にしかならん』

「……」

 

私のあんまりと言えばあんまりな物言いに、セテンハイムは冷や汗を垂らして緊張していた。

 

……まぁ正確に言えば、私が殺したわけじゃなくて単純に無茶な戦いをした結果、体が自壊してしまったんだけどね。

 

祭り氏……もとい“ディー”はかつて私が捕まってた実験棟にいた同い年の男の子だ。

 

てっきりあそこにいた実験体となった子供達はみんな死んだものとばかり思っていたが、実は生き残りがいたらしい。とは言っても私はディーのことあんまり覚えてなかったんだけどね。

 

竜として目覚めたあの日以前の記憶は、私の中から殆ど消えてしまったから。

 

それがいつからかはわからない。あっ、忘れてるな〜。と気づいたのは学園に入学した時、ノアたそと少しの間一緒にあの場所で暮らしていたという記憶はあるのに、具体的に何をしていたのか思い出せなくなってしまっていた。

 

実に惜しい。あー、でも私のことだからノアたそにドン引かれるようなオタク行動連発してた可能性も高いな。そうだった時立ち直れないから、忘れてラッキーと前向きに捉えよう。

 

ともかく、“ディー”のこともいた気はするけど具体的にどんな奴だったかは思い出せないのだ。だから肉体的に死んだ時にもそんなに悲しくならなかった。

 

一応この“聖竜教”を恐怖で支配する者として冷酷な言動を心がけてはいるけど、今の言葉がまるっきり嘘ってわけでもない。

 

だって彼は私の推しを殺そうとしたんだから。どうしても好きにはなれん。

 

「……承知した。この遺体はこちらで処理しておこう」

『あぁ。後始末はそちらに任せよう』

「一つ……聞いてもいいだろうか」

 

セテンハイムはそう言って、瞳に複雑な感情をないまぜにしながらこちらを見た。

 

『なんだ。早く言え』

「あなたはこの聖竜教に、一体なにをさせたいのだ」

 

セテンハイムが続けた言葉に、私は小さく首を傾げた。

 

だってなにをさせたいも何もないんだから。ノアたそが悪の道に落ちないために予防線を張っているだけのことだ。

 

そのために、世界中色んな場所を飛び回って得た金になりそうな紛争地域の情報や裏社会の情報、国家対立の種などの役に立ちそうな情報をこの教団に横流ししているのだから。

 

「あなたが現れてから、我々の勢力は拡大し続けている……正直に言って、私には手に余るほどに」

 

そんなこと言われても知らんがな。

 

運営をしてるのは私じゃなくてこのおっさんだ。組織が大きくなったならそれはおっさんがやったことじゃないのか?

 

「もはや聖竜教という看板を背負っているだけの無法者が、世に蔓延るようになっている。だがその責を担うのは私と……あなただ。世界を敵に回すつもりなのか?」

 

……そんなことになってたのか。

 

むぅ、確かにそれは問題だ。私が流した情報がまさかそこまで教団の拡大を誘発する結果になろうとは。

教団から裏切り者が出るようなら、それに対処するのは私の義務……ってことをセテンハイムは言いたいのかも。

 

なら、私の方からちゃんとそれはやっておくって言って安心させないとな。

 

『その時は、ちゃんと敵を始末しないとな』

 

そう言った瞬間、セテンハイムのおっさんが顔面を蒼白にしてしまった。

 

……なんか間違えたかも。




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