竜化夢女子(男)が竜騎士学園で暗躍する話   作:ぷに凝

72 / 74
72 陰謀祭りだワッショイワッショイ

「もう終わりだな」

 

そこは広間だった。

 

天井は高く、高く……その果てが見えないほどに高い。

 

「……」

 

その高さに反して、一人佇む“竜騎士”はまるで小人のようだった。

 

ロジカフィールは、はるかな高みからこちらを見下ろす複数の視線を真っ向から射抜いた。

 

「“団長”よ。秩序とはなんだ? 人の世の理とはどのようにして守られる?」

「……“法”が遵守されることです」

「ほう。ではこの現状を一体なんと説明する?」

 

ホーンブレイブ士官学校、その校舎の中でも一際高く聳え立ち、天を突くほどに伸びた塔の、最上階。

 

“天上楼”の頂きにはこの世界を支配する“黒幕”たちが居座っている。

 

「我らが竜騎士団に寄せられた絶対の信頼の失墜。それがどれほど世界に悪影響を与えると思う?」

 

“元老院”。

 

それが遥かな高みから見下ろす彼らの名だ。

 

「……申し訳ありません」

「貴様に頭を下げられてもな。結局はあの泥男の失策よ」

 

そう言う彼らの声には嘲りが含まれていた。

 

「彼奴め、我らが利権のために世界を牛耳っているなどと、世迷いごとを申している所からすでに正気ではなかったのだろう」

「違いないな。さらには“翡翠の竜”に味方するとは。誉ある竜騎士の恥晒しよ」

「奴の首を晒し、再び騎士団の威権を見せつけぬことには事態は収まらぬな」

 

元老院は姿を見せず、ただしゃがれた声だけが闇の向こう側から聞こえてくるのみだ。

 

彼らにとっては、直属の部下たる竜騎士であっても自分の姿を晒すほどの価値もないという態度の現れだ。

 

あるいは、報復を恐れてのことか。

 

「やはり、あの女の“代役”を務めるには至らんということだな」

 

いかな者にも姿を見せぬ元老院。

 

例外は、前ホーンブレイブ竜騎士団団長。

組閣以来“史上最強”と呼ばれるに至った超人。

 

彼女に対してだけは、元老院もある程度は傲慢な振る舞いも鳴りを潜め、敬意ある態度で接したと言う。

 

確かに彼女がいた頃の竜騎士団は全てが強かった。

 

“竜よりも竜騎士の方が速い”と民に言わしめるほど騎士団の動きは洗練されており、竜災が起きる前に事前に被害は食い止められた。

 

確かにあの“黄金期”に比べれば、現在の竜騎士達のなんと頼りないことか。

 

……それも全ては“竜の巣”掃討作戦の失敗と、それに伴う団長と大部分の戦力を喪ったことが原因なのだが。

 

だがそもそも、あの作戦には穴が多かった。

全容の1割も解明できていないと言われる魔境に、騎士団の大戦力を投入することが大きな間違い。

 

団長、そして副団長もまた竜の巣への遠征は懸念が多いとして消極的な態度だった。

 

それを性急に推し進めたのが元老院だ。

 

準備期間と情報の不足は最悪の結果を齎した。それなのに、その遠因と言える彼らはまるで他人事のような態度。

 

“竜の巣”に取り残された団長の救出を嘆願する副団長を、“反抗的”として冷遇した。

 

結果、彼は選択肢を狭められ強引な策に打って出る他なくなった。

 

……“逆賊”に身を堕とすこととなっても。

 

「あぁ、だが、これはいいな。ふむ……」

「……?」

「よし、皇女エレオノーアを捕えろ」

「!?」

 

ロジカフィールは耳を疑った。

 

「だが表向きには“賊に捕えられた”としろ。解放するための金を祖国に出させろ。必要ならば演技ができる人を寄越す。彼女を解放するための身代金とあらば、帝国も嫌とは言うまい」

「ほ、本気ですか……? 彼女の立場は……いえ、それ以前に我々が庇護すべき生徒であって……!」

「守れておらんではないか。一人も二人も同じだろう」

「……」

 

二の句が告げないとはこのことだ。

 

ロジカフィールはいっそ、今聞いた言葉の全てが幻聴であればいいとさえ思った。

 

「ハッ、帝国が支配者であった時代など過去の話だ。我らが黒と言えばあの老いぼれは首を縦に振るしかない」

「左様。むしろ我々の制御下で事は済むのだから、本物の賊を相手にするよりかは余程有情だ。いくらふっかけられるかわかったものではないからな」

「そも、愛娘がかわいいなら目の届かぬ場所に送ることが大きな間違いというもの。非難される筋合いはないな」

 

元老院の身勝手な言い分。自分本位の正義。

 

そこには、彼らという組織の本質が如実に現れていた。

 

「……」

 

竜騎士は、竜という“悪”に対抗するために存在する。

 

しかし、実際にはどうだろうか。

 

倒すべき本当の悪というのは、本当に竜なのだろうか。

 

そんな彼女の問いに答える声は、どこからも聞こえてくることはなかった。

 

 

「本当にいいんですか?」

『うん?』

 

ベッドの上に寝かせられている少年。

 

クレオだ。

 

眠ったように……というか実際、彼は寝ている。死んではいない。

 

まぁ目覚めることもないんだけどね。

 

いわゆる“仮死状態”というやつだ。

 

「彼を始末することも、あなたなら容易だったはずです」

『うーん』

 

殺すだけなら、そりゃね。

 

クレオはどうやら、私だけじゃなくてロッド様の誘拐の件にも絡んでて、この後ノアたそにまで手を伸ばそうとしていたみたいだし。

 

正直に言って、殺しておけば安心なのは間違いない。

 

それでもクレオを殺さないのは、まぁ結局のところ私が日本生まれ日本育ちの日本人だからだろう。

 

人間じゃなくなろうと、世界中から忌み嫌われようと。

 

この最後の一線を踏み越えるのは、本当に、最後の最後だ。

 

それこそ、私の“大切な人達”に危険が及んだ時。

 

……まぁ、そういう条件だとすでに私は何人かヤっちゃっててもおかしくないんだけどね。

 

認めよう、私は甘い。到底人の上に立てるような器じゃない。

 

“聖竜教”も“元老院”の陰謀もまっぴらだ。関わらないで済むならそれが一番いい。

 

だから、これで終わりにしよう。

 

『セテンハイム』

「はい?」

『今から、“聖竜教”の全権を君に戻すね』

「!」

 

そう言うと、セテンハイムが息を呑んだ。

 

「……よろしいんですか?」

『よろしいも何も、奪ったものを返すだけだよ』

「……そうですか」

 

元々この地位に執着はない。

 

ノアたそが間違った道に進まないように、あらかじめその道を封鎖しておいただけのこと。

すでにノアたそは道を逸れた。誰も通らない場所をいつまでも封鎖してる意味はない。

 

ソフィアちゃんも取り戻して、隠居生活の準備も出来たしね。

 

『前もって言った通り、私は死んだことにしてほしい』

「……“大師会”にもですか」

『例外なく、だよ。まぁ君は知ってるからそれ以外の全員かな』

「……皆、寂しがるでしょうね」

『まさか』

 

セテンハイムの言葉に、私は笑ってしまった。

 

『私がみんなにしてあげたことなんて少しもない。きっとすぐ忘れてくれるよ』

「……私たちを幸せにしてくれるのではなかったのですか」

 

むっ。

 

痛いとこ突いてくるなぁ。

 

まぁ、でも……

 

『それは継続中かな』

 

結局のところ、この世界の全ての元凶は“竜”だ。

 

貧富の格差も、人間同士の戦争も、資源の奪い合いも、竜が何から何まで奪っていくから起こることなんだ。

 

全ての竜の元……“金剛の竜”さえ倒せば、色んな問題は解決する。

 

それがまだ倒せないから困ってるんだけど。

 

『さて、と』

 

と、私は立ち上がった。

 

『んじゃ、そろそろ行くね』

 

しばらくは表舞台に姿を現すこともせず、地味な期間が続くだろう。

 

……願わくば、その間に誰も彼もが私のことを忘れてくれていればベストだ。

 

私が死んだ後に、この世界に何かを遺したくはない。

 

「えぇ、わかりました……ですが」

『うん?』

「来客ですよ」

 

医務室の扉が、ゆっくりと開いた。

 

レイヴリーが嫌味でも言いに来たかな、なんて思っていたら。

 

「……酷いじゃない」

 

その向こうに立っていたのは、黒い少女だった。

 

「何も言わずに、女の元から去るつもりだったの?」

 

彼女は珍しく、その顔に明確な感情を浮かばせていた。

 

『……クロネ』

「お互い、隠し事は多いみたいね?」

 

それはどこまでも深い……“愉悦”の笑みだった。




いつも感想・高評価等ありがとうございます!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。