敵とか味方とか関係なく可愛い子って可愛いよねと言う艦これ二次 作:水代
駆逐艦磯風の朝は早い。
朝五時には起きて身支度を整えると、自室に蓄えてある携帯食料をひとつ齧りながら同室の他の艦娘たちを起こさぬように気を使いながら部屋を抜け出すと、朝なのに蒸し暑さを感じる鎮守府の廊下を僅かに睥睨し、一つため息を吐いて歩きだす。
途中、廊下の窓から差し込む朝日に目を細めつつ、向かった先は工廠。
自身たち艦娘の艤装の保管された部屋へと向かうと、自身の艤装を取り出す。
艤装は磯風たち艦娘の戦うための力の全てを言っても過言ではない。これがなければ磯風たちはただの少女となんら変わらない存在と成り果てる。いや、成り果てる、と言うのが正しい表現なのかは分からないが、少なくとも磯風にとっては成り果てるだ。
部屋の中には、艤装の整備のための簡易的な設備もあり、磯風はそこに自身の艤装を持っていくと早速整備を始める。
こう言ったことは、基本的に妖精たちの仕事として任されるはずなのだが、磯風はこうして毎日自身の手で艤装を整備している。自身の命を預けるものだからこそ、自身の手で万全の状態にしておきたい、理由としてはそんなものだった。
最近は司令の秘書艦として事務仕事のほうに従事していたので、久々に使ってやりたいな、などと考えつつ手馴れた手つきで三十分ほどで整備を終わらせる。
手持ち無沙汰になってしまった磯風は、ふむ、と一つ呟くと工廠を出てまた鎮守府内を歩き始める。
時刻は午前五時半。すでに日の出の時間であり、食堂の従業員ならばすでに起きて朝食の準備を始めている頃合だろう。
そんな中、磯風は黙々と廊下を歩いていく。その足取りはどこかを目指しているようで、特段無目的に歩いているわけでもないらしい。
と、その途中、磯風の前方のほうの部屋の扉が開いて、誰かが廊下へと出てくる。
「む?」
「…………あら? 磯風さん、おはよう」
部屋から出てきたのは緑色の髪の少女だった。磯風と同じ駆逐艦夕雲である。因みに磯風の数少ない友人でもある。
喋り方のせいで、堅い性格に見られがちな彼女だが、気遣いもできれば馴れ合いや冗談にも理解のある、割合にコミュニケーション能力は高い性質だ。ただし性格的にはかなり難ありで、戦友はいても、普通の友人は少ない。
そもそも座右の銘が常在戦場な彼女だ。まともな友人だと数えるほどしかいない。否、数えることができる程度にはいる、と言うべきなのだろうか。
そう考えれば、夕雲と言う少女は磯風にとっては得がたい貴重な友人であった。
「夕雲か、ああ、おはよう、良い朝だな」
まだ多少眠気を引きずっているのか、目をこすりながら夕雲が小首を傾げる。
「磯風さんは今日も提督のところかしら?」
「ああ、放っておくと際限無く怠けるからな、あの司令は」
ふん、と磯風が鼻を鳴らしてそう言うと、夕雲が苦笑する。
「提督は無茶なさってないのかしら、夕雲は心配だわ」
「あの司令なら怠けすぎはあっても無茶などせんだろ」
磯風が一蹴すると、夕雲はそうかしら、と少し考え、そうかも、と呟いた。両者のこの鎮守府の最高責任者に対する印象と言うのは案外似たり寄ったりだったらしい、と言うか恐らく誰に聞いても同じような印象だろう。
まあそれはさておき、今度は磯風が夕雲を見て問いかける。
「そう言うお前はまた妹たちのところか? 夕雲」
「ええ…………今日は早起きするんだって巻雲さんも長波さんも張り切ってたのは良いのだけれど」
ふう、と困ったようにため息を吐く夕雲に磯風は首を傾げる。
「どうした、お前が妹絡みでそんな表情をするとは、また何かあったか?」
「二人とも今日が出撃なのだけれども、昨日から張り切り過ぎて、遅くまで起きてたみたいなの」
「ああ…………まああの二人ならな」
自身の提督や姉へと良いところを見せたい巻雲と、単純にそう言ったノリが好きな長波が相乗効果で暴走した結果そうなったのだろうことは磯風にも容易に想像できた。
「なるほど、それで心配していたわけか」
磯風がそう言って納得した様子を見せるが、夕雲が曖昧な笑みでそれを否定する。
「出撃自体は北上さんが一緒らしいからそれほど心配はしていないのだけれども」
「北上が? 一体どこの深奥海域に挑むつもりだ?」
そんな話聞いてないぞ司令、と内心で磯風がジト目をしていることには気づかず夕雲が話を続ける。
「5-1海域…………南方海域のほうね。大丈夫かしら、寝ぼけて転んだりしたら大変だわ、寝ならがら戦って回避が間に合わなかったりしたら」
やっぱり私もついていくべきかしら、と呟く夕雲に磯風が一つため息を漏らす。
「それはさすがに過保護過ぎるぞ、そもそもすでに艦隊は組みあがっているのだろう? なら今更どうこうできるわけないだろ」
「そうよね、分かってはいるのだけれど、やっぱり心配だわ」
「そもそも北上が一緒の時点でもう何事も無いことは確定だろう、そもそも砲撃戦が始まるかどうかすら怪しいぞ」
というか寝ながら戦うってなんだ、お前一体自分の妹をどんな目で見てるんだ、と言いたい磯風だったが我慢する。ここで言っても多分、馬の耳に念仏である。この過保護少女に何を言っても意味が無いことは周知の事実である。
「まあいい、珈琲でも飲ませてしっかり目を覚まさせてやれ」
「そうね、そうするわ…………それじゃあ、またね」
適当なところで話を打ち切り、夕雲と分かれる。そうでなければあのまま妹の話で朝食までずっと話が続くのが目に見えていたからだ。
気づけばすでに時刻は六時に近くなっている。起こすついでに先ほどの出撃の話を聞いていないことに対してじっくりと話をしようか、と磯風が内心でほくそ笑みながら執務室を目指す。
執務室は司令の寝泊りする部屋を唯一繋がっており、逆に言うと、司令の寝泊りする部屋へ行くには執務室を通るしかない。
鎮守府自体はそれなりに大きくはあるが、一階層あたりの広さはそれほどでも無いので、すぐに執務室へと辿り着く。
中から感じられる気配が無い、まあ予想通りまだ寝ているのだろう。起きていれば執務室に出てくるはずだから。
そんな内心を表情には出さず、執務室を通り、その隣の扉をノックする。
「司令。起きているか? 朝だぞ」
返事は無い。声はかけた、それでも出てこないのなら、と躊躇も無く磯風がドアノブを回し扉を開ける。
そうして開いた先にあった光景に、僅かに硬直する。
和風の部屋だった。床は畳が敷き詰めてあり、壁はライトグリーンの和風の壁紙が張ってあり掛け軸なども置かれている。部屋の隅には本棚が置かれており、読みかけらしい本が数冊散らばっている。
畳の上には布団がしかれ、そこに眠る二人の少女の姿。
一人は磯風たちの司令、この鎮守府の提督。十五歳、と言われても納得できるほどの童顔で、その実二十はとっくに超えたベテラン提督。
そしてもう一人は…………昨日司令が拾ってきた白い深海棲艦の少女だった。
司令に寄り添うように、縋るようにして安らかに眠る司令がヒメと呼ぶ白い少女。その姿は司令の外見年齢もあいまって、仲の良い姉妹のようにも見える。
“助けてって、この子が言ったから、だよ?”
磯風が僅かに苛立ちを覚える。
“それに、ね…………予感がするんだ”
仮にも敵だぞ、と呟くその声に力は無い。
“深海棲艦との戦い、この子を基点として何か変わりそうな…………そんな予感”
磯風の脳裏に、昨日の司令の言葉がぐるぐると駆け巡る。
“ごめんね…………厄介な司令で”
「…………はあ」
本日何度目になるのか分からないため息は一体、誰に対して吐いたものか。
「ほら、起きろ、司令、朝だぞ」
こうして、駆逐艦磯風は今日もそう告げて眼下の司令を八つ当たり気味に蹴り上げた。
* * *
「ロリコン」
執務室へと入ってきた磯風の第一声がそれだった。
生ゴミでも見るような冷たい視線でこちらを一瞥する磯風に首を傾げる。
「いやいやいやいやいやいや、磯風さん? 突然何を仰るのかな?」
「あ゛?」
何言ってるんだこいつ、と言った表情でこちらを見てくる磯風。と言うか声にドスが聞いていて軽く怖い。
「怖い声出さないでよ、ヒメが怖がってるでしょ」
そう言って自身の膝の上でびくり、と肩を震わせたヒメ(アリューシャン方面作戦通称“AL作戦”最終目標深海棲艦特殊固体姫種命名呼称“北方棲姫”と言うのが海軍が彼女につけた正式な名前だったので略してヒメ)の頭を優しく撫でる。
僅かに涙で潤んだ瞳でこちらを見てくるヒメに、大丈夫だよ、と笑んで声をかける。
「ロリコン」
そんな自身を、調理場に発生する黒いアレを見るような目で見る磯風。先ほどよりも嫌悪感がアップしてる感があるが、気のせいだろうか。
「一体何を根拠に人をそんな不名誉な呼び方するのか納得のいく根拠が欲しいね」
「ロリコンッテナニ?」
一連のやり取りに興味を持ったのか、ヒメがそう尋ねてくる。
「小さいの子が大好きな人のことだよ」
「キョウ、ロリコンナノ?」
「いやいや、違うよ? 違うからね?」
「キョウ、ワタシノコトキライ?」
「あ、いや、それも違うから、えっと、ロリコンって言うのはね」
なんと答えたものか分からずしどろもどろになる自身に、磯風がため息を吐いた。
「随分と仲良くなったものだな、たった一日で」
* * *
「随分と仲良くなったものだな、たった一日で」
そんな皮肉交じりな言葉に司令が苦笑する。
チクチクと刺す胸の痛みを表情に出さないようにしながら、磯風は続ける。
「磯風は司令に決めたことにあまり口を出すつもりは無いが、本当に大丈夫なのか?」
そんな磯風の問いに、司令が笑う。笑って、ソレの頭を撫でる。瞬間、ズキン、と胸の痛みが強くなる。
「大丈夫だよ」
そう断言するその根拠が勘だと言うのだから、対処に困る。ましてやその勘が外れてことが無いのだからなおさら性質が悪い。
「そうか…………まあいい、それよりも今日の出撃について聞きたいことがあるのだが?」
そう尋ねると、珍しく、本当に珍しく司令の表情が真顔になった、珍しいこともある。どのくらい珍しいかと言われれば、チョ○ボールで銀のエンゼルを引くよりかは珍しい。そんなこともあってか多少面くらいながらも話を続ける。
「北上を出すらしいな、磯風は何も聞いてないぞ」
「うん、昨日の晩決めたからね」
「また突然だな…………また勘か?」
「そうそう、勘だよ。何かありそうだからね、本当は大和が出せればいいんだけど」
そんな司令の一言に、頬が引き攣る。
「あの最終兵器を出すとまた報告書が増えるぞ」
「そもそも今は大本営に出向してるからねえ…………早く戻ってきて欲しいね」
そんな軽口を叩く司令だが、早々簡単には返してもらえないことは明白だ。
そもそも北上が戻ってきただけでも奇跡に近いのだから。
大和や北上だけではない、大鳳も、扶桑と山城も、島風も、利根も、天龍も、電も。
全員一度は大本営に出向したことがある艦、と言うか、未だに北上以外は戻ってきていない艦たちだ。
主戦力のほとんどを奪われた状態で、けれど何も問題が無いかのように鎮守府を回す司令はさすがとしか言いようが無い。
とまあそれはさておき、例え話とは言え大和を出す、とまで言った辺り、どうやら相当に嫌な予感がしているらしい。
「ならば、巻雲や長波を使うよりも夕雲を向かわせたほうが良いのではないか?」
夕雲は普段はあの通りのやつだが、いざ出撃すれば頼りになるやつだ、この艦隊の中でも上位に入るだけの練度と実力を持っている。だが今回は夕雲は使わないらしい。
「今回はあくまで哨戒程度でいいんだ、適当に敵を倒しながら南方海域の様子を見てくるだけ、だからまあそれほど危険は無いとは思ってる」
なるほど、と磯風は一人納得する。勘だけで動くような司令ではあるが、人選に関してはそれなりに根拠を持ってはいるようだ、曖昧な部分がやや気になるが。
「哨戒の結果次第だけど、もし面倒なことになっていた場合、南方海域に最前線のこの鎮守府としては動かないわけには行かないだろうね…………その時はキミにも出てもらうよ? 磯風」
「うむ、了解した。第十七駆逐隊磯風、いつでも行けるぞ」
そんな磯風の言葉に、司令が微笑んでこう告げる。
「ああ、頼りにしてるよ、第一艦隊旗艦殿」
そんな司令の言葉に。
気づけば胸の痛みは消えていた。
磯風ちゃんってけっこう構ってちゃんなんじゃないかと思う時がある。
そしてそんなこと考えながら書いてたらこんな内容になった(
因みにほっぽーちゃんがいつデレるの? って質問があったけど、前回のアレで一度折れてますから今回からもうデレます。まあデレデレってほどでもないけど。
因みに、この小説って基本的に艦これの体を成した何かでしかないので、ぶっ壊れ性能な味方とか、超壊れ性能な敵とかけっこう出てきますよ。
原作? ナニソレ美味しいの? って感じなバトルしまくるので、嫌な人は今のうちに読むのを止めましょう。