敵とか味方とか関係なく可愛い子って可愛いよねと言う艦これ二次 作:水代
「名前、なんて言ったっけ?」
そう尋ねる彼に、けれど私は声にもならない声を絞り出すようにして、自身の名前を告げる。
「は? 今なんて言った? き…………と、よ…………だけは聞こえたけどよ」
けれど漏れた声は彼に耳には届かない。それが悔しくて、けれど自分にはどうしようも無くて、なんだが無性に泣きたくなった。
「お、おい、泣くなよ? いいな? 泣くんじゃねえぞ? えっとだな、き…………よ…………そう、キョウ! お前のあだ名だ、今日からお前のあだ名はキョウだ。え? いや、駄洒落じゃねえぞ? 違うからな? ほら、あだ名も付けたしこれで俺たちは仲間だ。だから泣くなよ? 絶対に泣くなよ?」
彼のオロオロとするうろたえた姿は今思えば少しだけおかしかったが、けれど当時に私にはそんな余裕は無くて、結局泣いてしまったことだけは覚えている。
そう、覚えているのはそれくらい。
それがいつのことだったのか、私は忘れてしまっていた。
それが本当にあったことなのか、今では分からなくなってしまっていた。
けれど、
「今日からよろしくな、キョウ」
そう告げ、私に笑いかけた彼の笑顔だけは、
ハッキリと覚えていた。
* * *
艦隊旗艦正規空母赤城は一人ため息を吐いた。
金剛、比叡、榛名、霧島と金剛型戦艦四隻に自身、正規空母赤城。さらにそこにさらに空母一隻を加えた戦力過多と言っても過言ではない艦隊。
その旗艦を勤めると言うのは、赤城にとって誇らしいものであり、当初は浮かれていた部分もあったことは事実だ。
だが、その熱もすぐに冷めた。
自身の隣を進む彼女の存在によって…………。
「………………………………」
気だるそうな表情で欠伸をかみ殺しながら半分落ちかけた目をこする少女。
艦隊最後の一人、名を大鳳と言う。
装甲空母と言う、通常の空母よりもさらに装甲を厚くした空母で、中破以上の被害を受けると艦載機の発艦に問題をきたすため攻撃が出来なくなる空母の弱点を克服し、大破状態…………つまり轟沈寸前でない限り発艦が可能なようにされた空母だ。艦載機数はともかく、その火力と装甲は正規空母の中でも頭一つ分飛び抜けていると言わざるを得ない。
そう、凄い艦なのだ、彼女は。性能だけ見れば、赤城にも勝る、総合的に見れば本来の赤城の相方、加賀のほうがやや勝るが、とにかく空母の中でも一、二を争うほどの性能を持つ艦なのだ。
特に彼女はそんな大鳳の中でも特に有名な存在で、負傷し修理のため前線から退いた加賀の代わりに彼女がやってくると言う話を聞いた時、そしてそんな彼女が自身の艦隊に入ると聞いた時、さすがの赤城も高揚を隠しきれなかったほどだ。
だと言うのに…………今の彼女を見て気持ちが冷めていくのを感じる。
何だと言うのだこのやる気の無さは。まだ敵に出会ってないから良いものの、この調子で敵と遭遇してしまっては戦線に問題を起こしかねないのではないか、そんな不安が赤城の中にある。
それでも赤城がこれまで口を閉ざしていたのは、大鳳が他所の艦隊からやってきた言わばお客だったからだ。それでも彼女ならばいざと言う時はやってくれるのではないか、と言うその名声から来る期待を抱いていたからだ。
だがこのままの状態が続くようなら、さすがに一言言わなければならないかもしれない。
そう、赤城が考えた…………瞬間。
「全艦載機発進」
突如、大鳳がぼそりと呟き、真上に向け、クロスボウを構え…………引き金を引いた。
「大鳳さん?! 一体何を!!」
突然のことに、赤城が悲鳴を上げるような声で大鳳を問い詰めようとし………………。
空を覆うソレに気づいた。
「え…………あ………………嘘…………」
鳥? 一瞬芽生えたそんな疑問、けれど赤城は知っている、ソレに見覚えがある。
何せ自身も使っているものだから。
空を覆う、イナゴの大群のようなソレは、艦載機だ。
二百を優に超える大量の艦載機が空を舞っていた。
一瞬でも空母たる自身がそれを見間違えたことに、赤城は自身を恥じた、だが無理も無い。
本能が理解を拒否したのだ。あまりにも非現実的過ぎて。
一隻の空母が搭載できる艦載機は通常七十から八十と言ったところだ。加賀などは九十以上の艦載機を搭載できるが、空母と言えど全ての装備を艦載機で埋めているわけではない以上、八十以上あれば多いと言える。
軽空母の場合、四十から五十とさらに少なくなる。装甲空母たる大鳳の場合、全ての装備を艦載機で揃えたとしても八十六、空母としては第二位の艦載機数と言える。
だが、目の前の少女は文字通り桁が違った。
空を覆う艦載機の群れは、全て目の前の少女が生み出したものだ。
その少女…………大鳳が先ほどまでの気だるげな、眠そうな目を一転、猛禽類のような鋭い目つきへと変えており、その視線は赤城を射抜いていた。その視線に、ぞくり、と背筋が凍るような錯覚に咄嗟に捉われる。
「敵襲よ…………いつまで呆けてるの? 旗艦なら号令をかけなさい」
その言葉にはっとなる、気づけば視線の先、遥か遠くに敵の影が見えていた。
彩雲を出していたのに気づけなかった? 一瞬そんな疑問が芽生えるが、よく見れば彩雲は確かに敵の反応を伝えてきていた、それに気づかなかったのは自分だ。
「砲撃戦用意! 慢心せず行きましょう」
旗艦として、配下の艦隊に号令をかける、攻撃の準備を即座に整える。
そんな中、一人だけ目を細めていた大鳳が呟く。
「慢心…………ね。不思議よね、どうして命のかかった
呟き、前方の敵影へ向けてもう一度クロスボウを構える。
「気を抜けば死ぬ…………そんなこと、最初から分かっているでしょうに」
直後、引き金を引いたクロスボウの先から次々と飛び出していく艦載機に赤城は驚愕する。
上空にあれだけの数の艦載機があって、まだ全部ではないのか、と。
「…………空は制圧したわ、一足先に行かせてもらうわよ」
ニィと、口元を歪めながら大鳳が呟き。
直後…………海が割れた。
そう錯覚するほどの大爆発。
視界から一瞬で敵の姿が消えた。それが艦爆隊による攻撃なのは明らかであった。赤城も同じようなことがある、ただ規模が桁違いだが。
そして視界を遮る水飛沫へと真っ直ぐ突っ込んでいくのは直前に大鳳が放った艦載機…………艦攻隊である。
本来、低位置を飛ぶが故に撃墜されやすい艦攻隊だが、水飛沫のお陰でその姿は隠れている、逆に上空を飛ぶ艦爆隊は水飛沫に隠されていない。
上手い、素直にそう思った。艦爆隊との連携により艦攻隊の攻撃はダイレクトに通る。上空はすでに制圧済と言っていた、と言うことは艦爆隊が早々に落とされるはずも無い。ある意味、空母の理想と言ってもいい連携がそこにあった。
上に気をとられていた敵へと、艦攻隊の魚雷が発射される。より近距離で直接的に爆破するが故に、艦攻隊の威力は敵戦艦すらをも撃ち抜く。
二度目の爆音が海上に響き渡った。
こちらも負けじと艦載機を上げようとした、その時。
水飛沫を切り裂き、一体の敵が飛び出してくる。その姿を見て、僅かに臍をかむ。
戦艦だ、それも高火力として知られるル級。
「金剛さん!」
「任せるネー!」
咄嗟にこちらの戦艦組みに声をかけると、すでに砲戦準備に入っていた金剛たちが敵へと砲を向け…………。
ほぼ同時に、互いの砲が火を噴いた。
金剛たちの撃った砲撃が敵戦艦を直撃、一瞬で轟沈させる。
だが敵の撃った砲撃が、自身のすぐ傍に着弾、そこにいた大鳳へと直撃した。
「大鳳さん!!!」
思わず叫び、一体どれほどの損害を受けたのか、戦々恐々して…………。
「ふう、少し驚いたわね」
目を丸くし、額の汗を拭う大鳳の姿に硬直する。
大鳳が自身の視線に気づいたのか、笑う。
「この程度、問題無いわ」
その言葉に改めて認識させられる。
目の前の少女の規格外さを。
空母数隻分に匹敵する大量の艦載機。
戦艦の砲撃をものとしないその装甲。
これが、これが…………。
雪月の八【機動要塞】大鳳。
雪月少将の生み出した、至高の
その異常さに、愕然としていた赤城は、だから聞き逃していた。
目の前の規格外が漏らした、その一言を。
「もうすぐ帰れるわ、待っていてください…………提督」
* * *
「キョウ! キョウ! オキテ!」
体を揺さぶられる感覚に、意識が覚醒していく。
薄く目を開くと、自身を覗き込む少女の姿が視界に映る。
「……………………おはよう、ヒメ」
「オハヨ!」
ぱたぱたと両手を上下させながら深海棲艦の少女、ヒメが自身の上に跨ったままそう言う。
とりあえず、とヒメを自身の上から退かせ、起き上がると枕元の時計を見る。
「五時半…………早いよ…………あと一時間は寝たい」
そう言って布団に潜り込もうとする自身をけれど、ヒメが懸命に止める。
「オサンポ! イキタイ! ウミノソバ!」
ヒメの言葉に、少しだけ寝ぼけた思考を回す。そうして出した答えは…………。
「仕方ないなあ…………三十分くらいだけだよ?」
「ウン!」
この子一人外に投げ出すわけにもいかないよなあ、と言うものだった。
起き上がり、布団を畳む。それから、寝巻きを脱いで行き、下着姿になる。
「キョウ、フク!」
そうしてヒメがタンスをごそごそと漁り、引っ張り出してきた服に袖を通し、鏡で寝癖などをチェックしたらそのままヒメと手をつなぎ扉を開く。
一般的な女性のする化粧などは無い、そもそもこんな絶海の孤島にある鎮守府に人間など自身以外いないのだから見せる相手もいない。
まあ、磯風はその辺り淡白と言うか、化粧とかどうでも良い性質なので何も言わないのだが…………。
「あら、提督、おはようございます…………って、あら? 提督、またお化粧してないわね、もう」
彼女はその辺りとても気にしてくるので、朝は余り出会いたくない相手だ。
赤いベストのような服を着た、緑髪の少女、駆逐艦夕雲が執務室の前にちょうどいた。
「おはよう、夕雲」
「オハヨー!」
自身とヒメの挨拶に、夕雲が微笑んで返す。
「ええ、おはようございます提督………………それに、おはよう、ヒメちゃん」
そう言ってヒメの頭を優しく撫でる。ヒメも満更でも無さそうに、笑んでおり、自身はそれを微笑ましく見守っていた。
と、一通り撫でて満足したのか、夕雲がこちらに視線をやってくる。
「もう、提督ったら、やっぱり夕雲がお化粧手伝わないとダメなのかしら?」
「別にいいじゃない、誰かに見せるわけでも無いんだから」
「またそんなこと言って…………提督も女の子なんだから」
長くなりそうだ。直感的に悟り、ヒメの手を引いて歩き出す。
「また次に会った時に聞くから…………じゃ、行こうかヒメ」
「イイノ?」
「あ、提督! …………もう」
ぷんすか、と怒る夕雲から逃げて鎮守府の廊下内を歩いていく。
外へ出るため、さして広くない鎮守府内を歩き、玄関へと差し掛かったところで…………。
「……………………何してんの時津風」
「シタイ?」
思わずヒメがそんなことを呟いてしまうのも理解できてしまう光景がそこにあった。
玄関の床に時津風が倒れ伏している。だが時折もぞもぞと動いているので生きてはいるようだった。
そして、時津風がそんな自身たちに気づいたのか、ゆっくりとこちらへ顔を向けてくる。
「あーしれぇだー…………おはよーございまーす」
「あ、うん、おはよう」
「オハヨー!」
「ヒメちゃんもおはよー」
ヒメが時津風の傍まで小走りに行く、そしてしゃがんで時津風と同じくらいの高さになると、二人が両手を合わせて、イェーイ、と言いながら叩く。
「仲良いね、キミたち」
「それほどでもー」
「トキツカゼ、スキ!」
照れるような時津風の声音に苦笑する。と、時津風が直後、こんなことを言う。
「そう言えばしれぇ、思うんだけど」
「…………ん? 何?」
「ヒメちゃんの名前、他の姫種が着たら、被っちゃいません?」
「いやまず他の姫種が来るってことがおかしい…………けど、良く考えたらもうあり得てるのか」
自分がやったことながら、なかなかに無茶苦茶な話だ。
「それで、何が言いたいの?」
「北方棲姫だからほっぽちゃんなんてどうだろ?」
「ホッポ!」
時津風の言葉にヒメが繰り返す。
「おーヒメちゃん…………いや、ほっぽちゃんも気に入った?」
時津風の言葉に、ヒメがこくりこくりと頷く。どうやら気に入ったらしい。折角ヒメって名前つけたのに、と軽く落ち込むと、時津風が続ける。
「ヒメを苗字、名前をほっぽちゃんって考えたらいいんじゃないかな? しれぇ」
「なるほど…………じゃあ、私もほっぽちゃんって呼んだほうがいいのかな?」
「そーしましょーよ、しれぇ………………ところでしれぇ、ほっぽちゃん、なにしてるんですかぁ?」
そう言われ、時津風から隣にいるはずのヒメ…………ほっぽちゃんへと視線を移すと、何故か両手を大きく広げていた。
「何してるの? ほっぽちゃん」
「ンー? バンザイ?」
何で疑問系? と思わなくも無い。
それと、だが。
「何していると言えば…………お前何してるの? 時津風」
ここまでの会話中、ずっと床に寝そべったままの少女に、思わずそう尋ねた。
雪月の八【機動要塞】大鳳
それはまさしく動く砦。改修に改修を重ね、戦艦の砲撃であろうとビクともしない鉄壁の装甲で身を覆い、正規空母数隻分にも及ぶほどの大量の艦載機を吐き出す。更には完璧なまでのダメージコントロールにより、例え大破状態であろうと艦載機の発艦を可能とし、たった一隻で戦場の制空権を奪い取る最強の空母殺し、それが彼女と言う存在である。
元の艦とのステータスの違い→火力140、対空130、装甲180、全スロット艦載機数85,70,70,55
特異能力→接触効果常時最大、常時制空値+150、砲撃戦時大破状態での攻撃可能、損害度による能力値減少無効
個人的に、弥生が嫁なことは当たり前の事実だが、夕雲もけっこう嫌いじゃない。