敵とか味方とか関係なく可愛い子って可愛いよねと言う艦これ二次 作:水代
「人ってのは環境に甘んじる生き物だ」
かつて、彼は私に言った。
「生まれた環境が人から見てどんなに幸運だろうと、どんなに不幸だろうと、そこに生まれた人間にとっては、それが当たり前になる」
だから――――――――
そう、だから。
「お前が今、自分を不幸だと思うなら、それはお前が自分を幸せにしようと行動しなかった結果でしかない。幸せなやつを皮肉ろうと、お前が幸せになれるわけではないし、不幸なやつを嘲ろうとお前は幸せにはなれない」
けれど。
「お前が心底幸せになろうと努力し続ければ、それはいつか実を結ぶ。例え最果てまで届かずとも、頂点には至らずとも、そこまで歩んだ道のりは、決してお前を不幸にはしないから」
だから。
「立ち止まるな、走り続けろ」
もう、それしか、道は無いのだから。
* * *
駆逐艦夕雲は、いつも朝六時きっかりに目を覚ます。
それは体に染み付いた習慣のようなものだ。
この鎮守府には現在二十弱の艦娘がいるが、その中でも夕雲は三年以上提督に付き従ってきた最古参の一人であり、それ故に長年この鎮守府で過ごしてきた中での自身のスタイルと言うものを持っている。
例えば提督が朝起きたら時折散歩に出かけるように、磯風が欠かさず艤装の点検をするように、北上が毎日十時間眠ることを自身に義務付けているように、電が寝る前に欠かさず日記を付けているように、大鳳が就寝前に提督への挨拶を忘れないように、大和が暇を見つけては潮風を浴びにいくように、利根が山盛りのブルーベリーを食べることをジンクスとしているように。
古くから鎮守府にいる艦娘ほど、自己を確立していき、そうして自分だけの生き方を見つける。
夕雲の場合、起きてから五分ほど、自室でぼんやりとその日の自身の予定を考えることがそれに当たる。
それとは別に、最近になって新しいスタイルが増えた。
「…………ふふ、良く寝てるわね」
同じ部屋の二人の妹たちの寝顔を見ることだ。
健やかに眠る巻雲と長波の寝顔に微笑し、ようやくベッドを抜け出す。
いつもの制服に着替える前に、鏡の前で髪を梳かしていく。
「あら、やだわ…………癖毛になっちゃってる」
櫛で丁寧に髪を梳かし、癖毛が無いか鏡でチェック。それが終わると、今度は制服に袖を通し、髪を編んでいく。
いつもの髪型がばっちりと決まったら、鏡の前で全身をチェック。
「うん…………大丈夫そうね」
くるり、と一回転。身だしなみが問題ないのを確認したら、ようやく部屋を出る。
一応ここは軍事施設と呼ばれるもののはずなのだが、信じられないくらいにここの住人の朝は遅い。恐らく提督がその辺を緩くしているせいだろうが、そのお陰で妹たちは今日も安眠中だ。
朝食にしても食堂が開くのが七時から九時の間、となっており、少なくともあと三十分ほどは閉まっている。
「巻雲さんたちを起こすのは食堂が開いてからでいいかしらね」
まだ朝だからか涼しい鎮守府の廊下を歩きながら、独りごちる。
時間はまだあるし、毎朝鎮守府へと届けられる荷物がそろそろ着くころだろう。
磯風は艤装の点検で忙しいだろうし、代わりに受け取っておこうか、などと考えつつ外を目指して歩いていると。
「ユーグモ! オハヨ!」
と、声をかけられる。視線をやると、最近提督が拾ってきた北方棲姫…………ほっぽが執務室から出てくるところだった。
「あら、おはよう、ほっぽさん…………提督はまだお休みなのかしら?」
「キョウ、オキタラ、イナカッタ」
「あら、そうなのね…………ああ、ところでほっぽさん。昨日提督のカップを割ったのを隠してたけれど、ダメよ? ちゃんと正直に言わないと、昨日は私がすぐに片付けたからいいけれど、誰かが知らずに触ったら危ないでしょ?」
言った瞬間、ほっぽが視線を逸らした。僅かに頬に汗をかいているようにも見える。
「ソ、ソレヨリ! ユーグモ、キョウ、ドコカシラナイ?」
誤魔化した、と内心で思いつつも、きっとそうなんじゃないだろうか、と思われる答えを返す。
「多分、提督なら朝の散歩に出かけたんじゃないかしら?」
「キョウ、オサンポ? サガシテクル!」
そう言い残し、走り去っていくほっぽを見て、元気ね、と苦笑し、すぐにほっぽが戻ってくる。
「ユーグモ、コップ、キョウニハナイショ!」
そう言って走り去る少女の姿にまた苦笑する。
最初は深海棲艦…………つまり自身たちの敵、と言うこともあって少しばかり緊張していたが、やはりそこは提督の勘、今ではすっかり鎮守府に溶け込んでいる。朝の挨拶まで交わすようにまで馴染んでいることに、正直驚きを隠せない。
「あれ? 夕雲さんだぁ、おはよー」
と、そうこうしていると、廊下の向こうから時津風がやってくる。
まだ眠いらしく、右手で半開きになった瞼をこすりながら歩いている。
「おはよう、時津風さん。なんだか眠そうね」
「うん、ちょっと眠いかなぁ、最近運動してるからかもねぇ」
いつも気づいたらどこか床に寝転がっていそうな時津風だが、最近は運動を始めていた。
まあその理由と言うのがまた苦笑物なのだが。
「そうよね、もうすぐ秋だもの、食べ物が美味しい季節よね」
言った瞬間、時津風がぎくり、と背筋を震わせた。
「体重計が怖かったり、スカートがきつくなってたり、昔着ていた服がいつの間にか着れなくなったり…………そう言うのにも気をつけないといけないわよね」
何気なく言葉を紡ぐたびに、時津風が蒼白になっていく。先ほどまでの眠そうな表情が嘘のようである。
「そう言えば、時津風さん最近良く海岸を走ってるわよね…………あと体操したり、健康的で良いわよね。でもダメよ? 最近あんまりご飯の時食べてないでしょ? 健康に悪いわよ、そう言うの」
「わわわわ、分かったから、分かったから、もういいから」
慌てて時津風が自身の口を塞ぐ。
そうして、深くため息を吐く。
「はあ、なんだか眠気も飛んじゃったよぉ…………気分転換に散歩でも行こうかなあ」
「あら、いってらっしゃい」
そう言って送り出す自身に、時津風がびしっ、と指先を突きつけ。
「それと夕雲さん、さっきのは絶対に内緒だよ? 言っちゃダメだからね?」
「あら、それって時津風さんがダイエ「わああああわわわわわわあああああああ!!!」…………もう、ダメよ? いくら朝って言っても、まだ寝てる人もいるんだから」
自身の言葉を、時津風が大声で遮る。そんな時津風をたしなめると、時津風が疲れたような声を絞り出す。
「はあ…………分かった、もう分かったから。絶対に言わないでよ? 約束だからね」
そう言って疲れたような表情で去っていく時津風を見送って――――
「何だったのかしら」
――――首を傾げた。
「む、夕雲か…………おはよう」
今日はなんだか朝からみんなと出会うわね、などと内心で思いながら、目の前の彼女、磯風におはよう、と返す。
「磯風さんは今から提督のところかしら?」
時間的に恐らく艤装の点検を終えて、これから提督を起こしに行くところ、と言ったとこだろうか。などと推理とも呼べない、彼女の生活スタイルと知っていればすぐに察することができる程度のことを語ってみると、磯風が頷く。
「提督ならもう起きているみたいよ、さっきほっぽさんが探してたわ」
「…………む、そうか。では散歩にでも行っているか」
さすがに今の秘書艦だけはある、すぐに提督の行動に察しを付けたらしい。
最初は随分と荒れていて、正直、大丈夫なのだろうかとも思ったが、今では素直に彼女が
と、言っても、だ。提督の拾ってくる子と言うのは大体問題を抱えているので、彼女一人が特別、と言うわけでも無いのだが。
「さて…………それでは、どうしたものか」
磯風がそう呟く、その様子は何か思案しているようであり…………。
「では、ここは一つ、朝食を私が――――」
「前にそれで調理場が爆発したの忘れてませんからね」
「う…………」
ぼそっと呟いた一言に、磯風が臆する。
基本的に生真面目で卒の無い磯風だが、どうにも料理だけは苦手らしい、そしてそれを本人が自覚しながら無謀にも挑戦しようと気概を見せるのが厄介だ。
「提督には秘密、と言うことだったけれど、あの時巻き込まれて大変だったんですからね」
「うぅ…………わ、悪かった、磯風が悪かったから、内密に、な?」
仕方ないわね、と言ったニュアンスで磯風を見ると、ばつの悪そうな表情をしながら。
「頼むぞ? 夕雲」
そう言ってそそくさと去っていく。
「もう…………本当に」
少しだけ呆れ混じりな視線でその背を追っていき…………。
「あれ? 夕雲さん? おはよう」
気づけば後ろから提督がやってきていた。
* * *
今更言うまでも無いが、夕雲はこの提督が好きだ。いっそ大好きだ、と言っても過言ではない。
夕雲の優先順位の中で、妹たちと同列、と言えば少しはその好感の高さが伝わるだろうか。
そんな夕雲が、提督に偶にはお話しようか、などと言われてそれを断ると言う選択肢は基本的には無い。
「こうして二人で話すのもなんだか久々だねえ」
「そうね提督…………いつの間にか、この鎮守府も人が増えたものね」
珍しく、提督が自室へと呼んでくれたので、畳の上に座って提督が入れてくれたお茶を飲む。
「美味しい…………提督ってば、昔からお茶だけは自分で入れるわよね、偶には夕雲にもやらせてくれたらいいのに」
けれど実際、自身より提督のほうが美味しいものを入れるのだからあまり強くも言えない。
否、決して自身の入れるお茶が美味しくないわけではないのだが、提督の入れてくれるお茶が本当に別格なのだ。空腹のはずなのに、不思議といくら飲んでもするりと入ってしまう。本当に魔法のような味わいだ。
「不思議、同じ茶葉なのに、どうしてこうまで味が違うのかしら」
「さあ? ボクだってそこまで深く考えて淹れてるわけじゃないからねえ」
適当にやってこの味、なんだか自信を失くしそうである。
「まあちょくちょく遠征組のお弁当作ってくれてるし、助かってるよ?」
「最初は巻雲さんたちにせがまれたから仕方なくだったのだけれど…………いつの間にか、だったわねえ」
遠征に出る艦娘と言うのは長い時は一日以上帰ってこれない時がある。そんな彼女たちのために、手が空いている時にお弁当を包んで持たせてあげているのだが、最初は妹たちにせがまれて始めたそれも、いつの間にか遠征に行く子たち全員からせがまれるようになっていたのだから、苦笑するしかない。
「みんなお弁当持って行った日はやる気出して、いつもより成果が多くなるんだよねえ」
苦笑する提督に、思わず笑みが毀れる。本当に、こんなやり取りも久々だ。
「一度だけ食べさせてもらったけど、実際美味しかったよ? あれ」
「あら、そうなの…………提督が食べたいなら、夕雲いつでも作るわよ?」
楽しみにしてる、なんて提督が言いつつお茶を啜ったところで。
「ああ、そうだ…………近い内に大鳳が戻ってくるよ」
「あら…………そうなの?」
ふと提督が零した一言に、目を丸くする。
「独走で戦果上げすぎて、艦隊の他の面子が自信無くなりそうだから帰ってくれって言われたらしいよ」
苦笑する提督に、あらあら、と自身も笑う。
「自分たちの都合で奪っておいて、よくまあ抜け抜けとそんなこと言えるわね」
……………………内心は表情ほど穏やかでは無いけれど。
「まあ構わないさ…………戻ってくるんだ、素直に喜ぼうよ」
「そうね、おかえりなさい、って言ってあげないといけないわね」
雪月の十、なんて呼ばれる彼女たち。あまりにも強すぎて、危険視されている彼女たち。
けれど、自身にとっては昔からの仲間だ。なんら特別などではない、ただの大切な仲間たち。
その仲間が帰ってくるのは、自身に否応は無い。
「で、その代わりに前線押し上げろって命令来た」
そうして続く言葉に、思わず頬が引き攣った。
「ここって確か最前線だったわよね」
「そうだね」
今日も今日とて北上を中心とした主力部隊が出撃予定となっている。
数日中には自身もまた出撃メンバーに入ることになるだろう。
「他に援軍は?」
「無いね」
「支援は?」
「無いね」
「勝ち目は?」
その言葉に、提督が一瞬だけ言葉を止めて。
「勿論、勝てるさ」
不敵に笑った。
「……………………そう」
だから。
「いいわ、夕雲も頑張りましょう」
自身もまた笑うのだ。
「夕雲型の力、見せてあげる」
妹たちに誇れるように。
* * *
「キョウー?」
遠くから聞こえるほっぽの声に、提督がおや、と呟く。
「ほっぽちゃん戻ってきたみたいだね」
「そう言えば、提督、散歩に行ってたんじゃないのかしら? ほっぽさんに会わなかったの?」
そんな自身の疑問に。
「まあ会わないようにしてたしね」
提督から返された言葉に目を丸くする。
そんな自身の様子に、提督が苦笑しつつ話を続ける。
「ほっぽちゃんだっていつまでもボクにべったりしてても仕方ないでしょ? 朝起きてボクがいなければきっと探しに行くだろうけど、その過程で色々な人に会えるし、話もできる。そうやって少しずつ周りの人にも慣れてほしかったんだよね」
つまり全部この提督の計算通りと言うわけである。
「人が悪いわね、提督ってば」
ほっぽが自身に懐いていることや、その性格まで計算した上での行動と言うわけだ。
本当に、分かってはいたが、この提督は人が悪い。
そんな自身の呆れた視線に、提督が人差し指を唇に当てて。
「言わないでよ? 夕雲さん」
そう言って苦笑した。
夕雲さんは、もし弥生と出会ってなかったらケッコンしてたかもしれない。
可愛いよね、夕雲さん。夕雲さんに甘えたい。
個人的に今回の冬イベはU-511がクリティカルだった。だが何故改二でああなった(
ああ、あと夕雲さんの妹さん増えましたね。朝霜さんE2でけっこう簡単に拾いました。