主人公「AC6の発売日前に死んだらしい。今なら神殺しが出来ると思う」 作:サイバーパンク好きの海牛
火星某所。流線型の無人隠蔽戦闘機が高度二千メートルを高速で移動している。
無人隠蔽戦闘機『エヴェルテ』は巨大な羽を広げ、飛翔──と言うには異質な速度で飛行していた。重力制御による無理な姿勢制御。推進力はつい先日に実用化された仮想質量の放出の反動だ。人工筋肉と超伝導体繊維からなる複合素材製の翼は真っ赤に熱を帯びている。全長は三十メートルほど。機体色はオリーブ色。機首には歪に
《──識別番号112。本艦より連絡。当部隊は任務の遂行を最優先する》
人型の内部に居たのは緑尽くめの少女だった。真っ白な肌を除いて髪や目や爪が全て緑色に染まっている。おまけに頭頂部から緑色の触覚が生えている。少女は頭部を覆うように被った半透明のバイザーから網膜投影される映像を見つめていた。その瞳には感情がない。識別番号112、個体名『エリシア』である。
《繰り返す。当部隊の任務は〈レギオン〉支配域奥への斥候偵察である。敵性存在を発見した場合、即時殲滅を許可する。これは訓練ではない》
エリシアは無言のまま、だがしっかりとした動きで機体の操縦桿を握った。彼女の脊髄に接続された
《繰り返す。これは訓練では無い。繰り返す。これは訓練では無い……》
同じ言葉を繰り返すだけのシステムメッセージを聞きながらエリシアは機体を操る。あまりに無機質な合成音を脳内の端末──”電脳”と呼ばれる
「──ったァ、転生二日目で負けイベとは、”ツイてない”」
俺は喉仏が無くなり透き通るような声に違和感を覚えた。少し俺の話をしよう。俺が転生する前は美少女では無かった。日本生まれ日本育ち、しがない会社員をしていた。
攻殻機動隊で育ち、宇宙チャンバラ映画に憧れ、サイバーパンクを好み、某シン・汎用人型決戦兵器で泣いた生粋の『男の浪漫』オタクである。
それが、アーマードでコアな最新作を予約して四日の有給を獲得した仕事帰りに交通事故で死んでしまった。で、目が覚めたら、異世界ってワケ。
火星開放軍とは名ばかりの、倫理観ゼロの組織で遺伝子組み換え美少女になって決戦兵器に搭乗させられて突撃役である。
……あんたバカァ!!!!!?『来い』とだけ書かれた手紙を渡された碇くんも真っ青である。畜生、俺は帰って、”とっつき”浪漫砲で脳みそ気持ち良くしたいんだ。お分かり??
まあ良い。核弾頭で一度、傭兵人生を終えた俺の本気を見せてやる。赤い砂漠の中の工場と形容すれば良いだろうか。眼前に映る巨大企業の本社を観察する。
俺が転生した肉体は優秀だ。思考速度も戦闘センスも記憶力も前世とは比較にならない程のスケール感である。若いって素晴らしい。ビバ!人体拡張!
《敵信号検知》
突然、飛翔してきた"槍"によって僚機が爆散した。嘘だろ?! 多重概念防壁に超硬性素材の対策をしてるんだが?
《脅威度は……SSS、識別名『
隊列を組んでいた無人隠蔽戦闘機を散開させ、第二種戦闘配置に移行した。槍を投げつけてきた機体を拡大した。
あぁ、ヤバいな……。
敵機は汚れや傷跡が残る古い機体だった。継ぎ接ぎされた手足はお世辞にも美しいとは言えない。全体的には黒、重要機関部は洗練された白い艶のある機体は強者の風格が漂っていた。肩部から伸びる羽の様な十本の槍が並んでいた。武骨にして洗練された機体。
俺はこの感覚を知っている。無敗を誇る最強のレイヴン、ナインボール。何度も負けたトラウマ。……ヤツに似ている。
《識別番号113及び116……
俺の味方がどんどん削られて行く。正確な投擲に高度な操作技術、圧倒的な能力差。
それに対して俺は……
《心拍数上昇、アドレナリン過剰分泌》
酷く醜悪な顔で笑っていた。
「"コードZ2"を管理者権限で強制使用」
俺が乗り込む機体の機関部が暴走する。無人隠蔽戦闘機『エヴェルテ』の巨大な羽が広がり分裂、ヤツに音速を超えた速度で飛翔する。羽が更に分裂し続け、無数の鋭利な弾丸がヤツを襲う。コイツ程度は対応してくれよ。
地面に脚を付けているヤツは防御形態を取り、右腕を伸ばした。紫電が奔り、多重概念防壁が発生する。
(やはり、人間が操縦してるッッッ!)
魔術さえ科学に頭を垂れた世界では非物理的性質を持つ防御手段は多く存在する。概念操作。最もメジャーな魔術であり因果にさえ綻びを産む強力な能力。これは人の魂が生み出すのだ。興奮した俺は思わず叫んだ。
「素晴らしい!映像以上の強さだ!」
◆
エリシア計画──人類種の上澄みの更に上澄みの変態の一人が好奇心から発案し、莫大な予算案の提示でご破産になった計画。
地球外生命体との接触から数世紀。人類種は火星を舞台に戦争をしていた。超巨大企業による統治によって過度の資源争いが勃発していた。
しかし、『地球との外交事情』という政治的な諸々によって戦争は名実共に終戦という結末が決まった。超高度教育を受けた人的資源の輸出入が経済基盤と化した現代において、物理資源の優先度は低かった。
そしてメンツの為に超巨大企業vsその他勢力という最終決戦で建前上総力戦が行われている真っ最中である。
各界隈の天才達が最終決戦である『火星の開放』という建前のもと莫大な予算を使えるようになり、半分完成された器に別次元の魂を移植する高次魔術的によって生み出された人造人間シリーズ第三号『エリシア』は最高傑作である。
最高の血統を素体に"闘争に飢えた強い自我を持つ魂"を埋め、現代の最先端技術で改造した秘匿技術の塊である。
◆
「よそ見は、命取りだなァッッッ!」
ヤツに肉薄して機体右腕の
内部モニターに投影された緑髪の美少女、俺は狂気的な笑みを浮かべながら操作桿を傾けた。腹部に走る痛み、機体のフィードバックを感じで更に脳内物質が分泌される。
中距離──ヤツの得意なレンジに引きずり出され、俺の下腹部が疼いた。最高だよ。俺は笑いながら機体の肩に装備してきたチェーンガンの引き金を引く。痛いだろう、嫌だろう、俺の任務はお前を殺すことだ。お前に"メタ"を張ってすまないが、これも仕事でな。悪く思うなよ。
トリガーハッピーに成りつつ、冷静にヤツを観察する。味方は既に内部に侵入して居るようだ。捨て駒の彼らとは違って俺は、『生きて新作をプレイする』という存在意義があるんだ、早く殺して退避したいが──
金属同士が激しくぶつかり、火花が散る。
ジリ貧から逃げる為にヤツは接近戦に持ち替えて、俺は落下していた羽の破片で防御した。破片を投げ捨てる。
距離を起き、お互い構えを取る。
両方とも接近戦の一撃が致命傷になり得る。極限の緊張の中、ヤツの頭部と目が合った……同感だ。命のやり取りは楽しい。
長居は無用、次で決めようぜ。そう目を合わせると、ヤツは頷いた……刹那の間、動いたのは同時だった。
俺は防御を一切考えず、半身を逸らし右腕の
「強かったぜお前、敵で無ければ背中を預けたいくらいには……な」
まさか左腕を持っていかれるとは思わなかった。痛む腕を抑えると、作戦成功の合図が出た。機体越しに届く爆発音。巨大な塔が吹き飛んでいく。
ヤツが握っていた槍を拾う。鈍く研ぎ澄まされた槍、多重に魔術付与がされている。折れず曲がらず硬いな。使い込まれた良い槍だ。銘を見ると硬いフォントの文字。分析すると古ノルド語『Gungnir』と表記されている。
グングニル、神の槍か……。
「コイツは貰ってくぜ。神殺しを目指す俺には最適な逸品だ」
沈黙したヤツの傍から離れる。回収部隊が来るまで時間がある。憂いを帯びながら赤い砂漠を見ていると遠くから敵の強襲艦が見えて来た。
《──識別番号112。本艦より連絡。回収部隊到着まで別部隊の援護を要請する》
「はいよ、金は払ってくれよ」
俺は狭い操縦室の中で伸びをする。戦争は終わったが次は金稼ぎが必要だな。奈落まで向かうには、それも大量の金が必要になる。
《……》
俺は機体の損傷を確認する。損傷率二十パーセントか……うん、行けるだろう。
「よし。槍も手に入ったし、第二ラウンドと行きましょうか!」
─これはTS転生したロボゲー難民が、新作ロボゲーをプレイする為に神殺しを実行する物語である。
不定期更新です。
『アーマード・コア』も
『サイバーパンク2077仮初の自由』も
『Starfield』も待ちきれないです。