呪術師 白起 渡   作:跳躍類

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今回から第二章です。


朔下鼎立(さっかていりつ)

 2016年 5月25日

 

 京都駅、中央口前。白黒髪の男、白起渡が携帯電話を耳に当てていた。通話相手は補助監督の橘弘美。橘は報告書のため、白起目線からの「神端村」の話を聴いていた。

 

「はい。結界の性質としては天元様のソレに近かったですね。体感した限りだと。防ぐよりも隠すことに特化した結界。そのせいであそこらへん全部異界化したんでしょうね。

 そういう異界化した領域は物理法則歪みますから、村の所在地のズレやら生得領域の兼合いとかが原因で、ちょうど、あの森にすっぽり収まる位置に異界の守妻村が誕生した。現実の守妻村と結界によって生まれたもう一つの守妻村、その二つの守妻村をアイツは自由に切り替えていた。それが『かみはし村』の正体だったわけです。

 ま、俺が帳でそのあやふやな異界を現実にさらけ出して固定させてぶち壊してやりましたけどね。所詮は森、外殻が無いので炙り出すのは楽勝でした」

「えっと、つまり…………森にもう一つの村が隠れてたと?」

「そういうことです」

 

 長セリフで十日前の「神端村」の詳細を語る白起。その調子は得意げであり、少しヒートアップしていた。

 

「はい。ありがとうございます。後はこっちでなんとかなりそうです。今日も任務で遠出らしいですね。がんばってください」

 

「このままでは話し込んでしまう」報告書というノルマを背景に、そんな危機を察知した橘は、早々に話を切り上げる。

 

「京都ですね。土産要ります? 八つ橋とか」

「お任せします。では」

「では」

 

 ツーツーと電話が切れる。白起は携帯電話をポケットにしまい、慌ただしく行き交う人々を数秒ぼうっと見つめると、一言ぼそりと呟いた。

 

「四人目の特級術師……ねぇ」

 

 

 

 二十六時間前、呪術高専東京校内

 

「よっ。渡」

「うげ」

 

 高専に待機していた白起の自室に来訪者が一人。それは、白起と同じ無下限呪術の使い手であり、師匠でもある呪術師、五条悟だった。

 白起は面倒事の気配を感じ取った。

 

「聞いたよ。領域持ちを祓ったんだってね。やるねー。僕の教え方がよかったのかな?」

 

 まずは褒める五条。白起の嫌な予感が増す。五条が面倒事を押し付けてくるときはいつもそうなのだ。

 

「アレは運がよかっただけです。相手がこっちを舐めて安易に領域を展開してくれてなきゃ、負けてたのは俺でした。アイツがもっと慎重だったらと考えると寒気がします」

 

 白起は謙遜という形の事実を言う。実際、あの特級呪霊が領域を展開せずに災穣呪術をメインに攻めてきた場合、白起の本領である短期決戦内で相手を祓い切れるかは不明瞭だった。「寒気がする」と両手で自分の肩を抱く仕草を見せる白起に、五条は指摘する。

 

「寒気? 武者震いの間違いでしょ。渡」

 

 にやりと口角を上げる五条に、ため息で返しながら話題を本題に移そうとする白起。

 

「はあ、それで? 何の用なんです? まさか労いにきただけってわけじゃないでしょ?」

 

 そんな白起に不服そうな顔をする五条。

 

「いやいや、僕だって元生徒兼後輩を労うくらいするよ……まあ、そうだけどね」

 

 長い前置きを挟んで、ようやく五条は本題に差し掛かった。

 

「渡には一つ任務を受けてもらいたい。とある人物の護衛ね」

「とある人物……?」

 

 白起の頭にハテナマークが浮かぶ。それは一級術師が出張るほどの案件なのだろうか。

 

「うん。高専でスカウト予定の子。この子を巡って色々上層部が面倒なことになっててね。簡単にいえば、奪い合いが起きてる。もうバチバチよ」

「はあ!? 奪い合いって……子どもですよね? マジで?」

 

 五条が語った話に、白起は驚きながら問う。

 

「大マジ。その子、いやその子の術式にはそれだけの価値が、ポテンシャルがある。残念ながらね」

 

 忌々し気な表情を見せる五条。白起はそれを見て、今回の任務が重要なものだと理解した。そして、任務を受けることを決断した。

 

「それで? その上層部が奪い合うほどの術式って、なんなんですか?」

 

 任務を受けるのならば、そこは知っておかなければならない。白起は五条に問う。五条は静かに答えた。

 

「約二千年前、かつての倭国大乱。当時、たった一人で日本列島を制圧した呪術師が有していた……特級に値する式神術だよ」

 

 

 

 現在、呪術高専京都校

 

「お待ちしておりました。白起一級術師」

 

 京都校に到着した白起を補助監督の女性が出迎える。

 

「出迎えご苦労様です。それで、例の護衛対象は……」

 

 挨拶もほどほどに、白起はさっそく今回京都に来訪した主目的、護衛対象について問う。

 

「三日月様ですね。彼女にお会いになられるのは、もう一人の術師と合流してから、という決まりです」

「了解しました。一級査定も兼ねてるとか」

(わざわざ合流してからとは。政治も大変だな)

 

 白起は内心を隠しつつそう言う。今回、護衛任務とは別に白起は一級推薦を受けたとある術師の査定も任されていた。

 呪術高専入学時点で既に二級。そして、それから僅か一か月ほどで一級推薦を得た超新星。それが今回の白起の相方である。

 

「はい。待合室に案内いたしますので、そこでお待ちください。すぐにあちらも着くと思います」

 

 そう言いながら、女性は白起を先導し、高専内を進む。ちょうど、高専内に設置された自販機の前に来たときだった。

 

「あっ」

 

 女性が小さく声を漏らす。白起はその視線の先を見た。そこには男がいた。そして、白起はその男の風貌には見覚えが、というよりついさっき資料で見たばかりだった。

 相手も白起に気付いたのか。ずんずんと白起に向かって歩み寄ってくる。

 

(デカいな。高一のくせに俺よりデカい。百九十は超えてるな)

 

 両者の距離が五メートルほどになったタイミングで、相手は歩みを止めた。つられて白起も歩みを止める。

 

「白起一級術師とお見受けするが、そうかな?」

 

 堂々とした態度で、白起に問う男。高校一年とは思えぬほどの貫禄である。

 

(オーラあるな……流石の天才か)

「そうだが。そういう君は、誰なんだ?」

 

 目の前の男が放つ威圧感に負けぬように、白起も年長として相応しい態度で挑む。

 

「自己紹介、の前に一つお聞きしたい」

「へえ。何を聞きたいんだい?」

 

 男は大きく息を吸い込み、それに見合った大声で白起に問いをぶつけた。

 

「どんな女がタイプだ!」

「………………ああ!?」

 

 呪術高専一年、東堂葵。白起にいきなりとんでもない質問を投げつけた男の名である。

 

「いや、ちょっと待————」

「ちなみに俺は身長(タッパ)(ケツ)がデカい女がタイプです」

 

 白起の顔から余裕が消える。回答に困る。だが、年長者、査定者としての威厳を保とうと苦し紛れに口を開く。

 

「なんで初対面のヤツにそんなコト……」

「ああ、男でもいいぞ。心配するな。ただの品定めだ。言いふらしたりはしないさ」

 

 東堂が被せ気味、早口で言う。明らかに気が急いている。その姿には、十六やそこらの子どもとはまるで思えない凄味がある。

 

(めんどくせえな。ま、付き合ってやるか)

「はあ、乳のデカい女、かな。それが一番大事だろ」

 

 沈黙。白起は回答に自信があった。良い事を言ったと思っていた。東堂の頬に涙が伝う。

 

(泣くほどか?)

「『一番大事』か。はあ、期待していたのに…………退屈だよ。オマエ」

 

 瞬間、射貫くような眼光が白起に突き刺さる。東堂の身体に呪力が漲ってゆく。白起の背に怖気が走る。

 

「半殺しにして、別の一級を引っ張り出す!」

「マジか。まさかやる気————」

 

 次の瞬間、東堂は白起の眼前にいた。そして、拳を振るう。まるで砲弾のような圧を発するそれを白起は一旦腕を交差させて受け、後ろに飛んで衝撃を殺す。その勢いで二人は外に出た。

 

「良い腕力じゃん。天才クン」

 

 白起はわざと上から目線で喋る。それは年長としての見栄ではなく、敵対者としての戦略である。

 

「今のを受け流すとはな。腐っても一級、というわけだ」

 

 軽薄に煽り合う二人。だが、その間には鉛のように重い緊張感が横たわっている。

 

(素の身体能力、呪力量、出力共に俺と張るか。それだけなら『無限』の絶対防御がある以上俺が殴り勝てるが、相手の術式次第ではこちらが負けかねない)

「次はこっちの番だ。一年坊!」

 

 白起が一気に東堂との距離を詰める。狙うは鳩尾。だが————

 

「直線的だな」

 

 瞬間的に距離を詰めた白起の顔面に、東堂の蹴りが迫っていた。防御回避ともに不可能なドンピシャを捉える神速の蹴り。だが、白起はそれをまたもや腕で防いだ。

 もちろん種はある。『無限』を一瞬だけ展開することで、東堂の攻撃を止め、タイミングをズラしたのだ。

 

「どこが、直線的だって?」

(今のを防ぐとは……タイミングミスったか?)

(今のはドンピシャだった。センスヤバいな。コイツ)

 

 戦況が拮抗する。しばらくのにらみ合い————それを引き裂いたのはまたしても白起だった。

 空中に跳び上がり、蹴りを東堂に打ち込もうとする。

 

「甘い! 撃ち落とす……!」

 

 東堂は白起の蹴りの側面。脛の部分を狙う。またもやドンピシャのタイミング。次こそ防御も回避もできない。東堂は白起の脚を確実に破壊せんと拳に力を込める。

 だが————

 

「術式装填・蒼」

 

 東堂の視界から白起が消えた。「蒼」の高速移動で東堂の背後に回り込んだのだ。白起が選択したのは金的。白起の蹴りが股間を潰さんと迫る。

 

「それがオマエの術式だな」

 

 パァンと小気味良い破裂音が鳴る。それは東堂が両手を打ち鳴らす音。その音を合図に白起の視界から東堂が消える。

 

(消えた……! いや、後ろか!)

 

 東堂は白起の背後に移動、否、白起と東堂の位置が入れ替わったのだ。これが東堂の術式、不義遊戯(ブギウギ)。東堂が狙うは白起の脚部、脛を破壊しにかかる。

 

(まずは脚を壊す。次は腕だ)

 

 東堂は勝利を確信した。脚を奪ってしまえば、圧倒的有利になる。

 

(これで勝ちだな。次は退屈しないようなのが良い)

(本当に? それでいいの?)

 

 東堂の脳内に声が響く。その正体を東堂の反射神経は最速で突き止めていた。

 

(たっ、高田ちゃん!!!)

 

 東堂の推しのアイドル、高田ちゃんが脳内に出現した。

 

(さっきの蹴り。覚えてる?)

(ああ、もちろん覚えているとも! 俺が未熟なばかりにタイミングを外し————)

(本当にタイミングを外しただけ?)

(……? どういうことだ。高田ちゃん!)

(よく、思い出してみて。あなたの蹴り……一瞬だけ止まってた)

(はっ!!!)

(それにさっきの瞬間移動……あの何かに吸い込まれるような挙動。どこかで見たことがあるよね。どこだったかな?)

(……………………! 無下限呪術!!)

 

 この間0.01秒。

 

(脚を狙ってくるか。無限で防いで顔面に一発————)

「なに!?」

 

 東堂が蹴りを止め、構えを取る。まるで居合のような体勢。それは————

 

「シン・陰流『簡易領域』!!」

(簡易領域!? なぜ今のタイミングでそれを————まさか俺の術式に気付いた!? だが、ソレは領域を中和するだけで、俺の無限、術式は中和できないだろ————いや、マニュアル……! もしやマニュアル操作ならば、無限も中和できるのか!?)

 

 白起の脳内では常識と東堂のセンスへの信頼がせめぎ合っていた。東堂の簡易領域の展開により、白起の選択肢は、自身の無限に簡易領域が通用するか否かという二択に追い込まれていた。

 もし、簡易領域が無限を突破しうるのならば、白起が無限を展開する一瞬が命取りとなる。逆に簡易領域がブラフの場合、無限を展開せずに回避行動を取ってしまうと、無数の好機を東堂に与えることになる。

 

(回避だ! そちらは少なくとも詰まない!)

 

 白起は回避を選択した。簡易領域から離れるべく白起は後ろに飛ぶ。だが、無情にも拍手が鳴り響く。

 

「不義遊戯!」

 

 簡易領域はブラフだったのだ。位置が入れ替わる両者。東堂が白起の背後を取った。そして、東堂は全力の上段回し蹴りを白起の後頭部に叩き込んだ

 蹴りを受け、白起は前方向に吹っ飛んで思いっきり壁に叩きつけられ、沈黙した。

 二択の賭け。もし、白起が無限を展開していたのならば、今頃地に這いつくばっていたのは東堂だったろう

 だが————

 

「相打ち……か」

 

 東堂の腹にくっきりと足型が浮かぶ。白起は東堂に背後を取られた瞬間、回避を諦め、後ろ蹴りを放っていた。それが東堂の鳩尾に突き刺さったのだ

 

「退屈は、しなかった、な。白起渡————」

 

 よろめき、尻餅をつく東堂。奇妙な発端から生まれたこの勝負は、引き分けに終わった。

 

 

 

「乳がデカくて包容力のある女だ」

「あ?」

「俺の好きな女のタイプだよ。そういう女が最高だと思ってる」

 

 壁に埋まった白起が、壁から自分の身体を引き抜き、東堂に向き直る。

 

「悪かったな。オマエは俺の一番やら二番、妥協するときの優先順位なんざ訊いちゃいなかった。なのに、俺は妥協することを前提に答えちまった」

 

 胡坐をかき、東堂と向き合いながら白起は自身の非を認めた。いつもの口調を捨て、本来の口調に戻っている。

 

「退屈はしない、が。やはり性癖は合わんな。だが、まあいい」

 

 東堂は少し不満げにそうこぼした。白起はそれを聞いて、「フフッ」と笑みをこぼした。

 

「……めんどくせえヤツ」

 

 




果たして東堂は初対面かつ目上の人間にどういう口調で接するのだろうか。
五条にも楽巖寺学長にもタメ口だったから一応今回タメ中心にしてみたけど……
ちなみに最後の白起のヤツは独自解釈です。
あと、朔下鼎立はオリ四字熟語です。
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