ピカ?ピッピカ、ピカピ〜!

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美醜逆転世界のピ○チュウに転生してしまった話

 

ピカァ(マジか)……」

 

 盗撮魔のような低い視線(アングル)に黄疸患者もビックリな黄色い手、発情した猫みたいに反り返ったギザギザ尻尾。それに加えて、どんな感情もたった二文字の鳴き声で勝手に表されてしまう。

 

 どうやら俺はピカチュウになっちまったようだ。

 

 

ピッカァ(ま、いっか)~」

 

 まぁこういう運命もあるだろう。

 前世が人間だったのが本当に偶々で、その前はサカバンバスピスだったかもしれないしな。それに比べれば、前ヒレが無くて上手に泳げないアホ面の魚よりも、今の方がかなりマシだと言える。

 

 なにしろこの黄色いネズミは、可愛いという1点だけでチヤホヤされている存在だ。

 十数年もアニメの主要キャラクターを演じ、人気ランキングのトップに君臨し続けている。見掛けたら「おっ、取り敢えず1匹はゲットしておこうかな」となるほどの愛されぶりだ。Tier0、人権キャラ。言い方は色々とあるが、今の俺は勝ち組ということになる。

 

 ではポケモンとしての人生、もといポケ生をどう過ごすのか?

 具体的にどうすべきかは、まだ分からない。だが親ガチャ学歴社会の前世ほど苦労はせずに済むだろう。俺は与えられた新しいポケ生を楽しむことにした。

 

 

「うっわ、ぶっさww」

 

 目覚めたトキワの森を抜け、マサラタウンにやってきた俺が掛けられた第一声がコレだった。

 タウンとは名ばかりで、家が数件と海が見える砂浜しかない寂れた漁村だ。だがその田舎者しかいない土地で、俺は余所者の洗礼を受けていた。

 

 

不細工ポケモン(ブサモン)のピカチュウじゃねぇかよ。コイツを捕まえるぐらいなら、マスターボールを雑魚(ポッポ)に使った方がマシだぜ」

「ハハハ、そうだよな。イーブイとどっちか迷うけど、やっぱ断トツでコイツが嫌われモンスターのナンバーワンだ」

 

 キャップを被り、キャタピーと思しきポケモンを肩に乗せた少年が見下ろしてくる。

 その隣では、彼の友人らしきチャラ男が一緒になって俺を嘲笑っていた。

 

 

「ぴ、ピカピ……?」

 

 間違いない。コイツがサトシと、ライバルのシゲルだ。しかしピカチュウに興味を示さないあたり、どこか様子がおかしい。

 

 シゲルはともかく、サトシはピカチュウに異様な執着をみせる異常者だ。電撃を喰らわされてもなお、嬉しそうに頬擦りをかます典型的なマゾヒスト。それほどまでにピカチュウを心から愛している変態である。それがどうしちまったんだ?

 

 

「どうするサトシ? ウサ晴らしにバトルでぶっ飛ばす?」

「今ならオーキドのジジイも居ないし、やっちまうか」

 

 

 その悪意のこもった会話は小声だったが、この無駄に長い耳はすべての音を拾ってしまった。

 

 恐ろしい。子供ゆえの残虐性もあるだろうが、コイツらはまるで、その辺の虫を遊びで殺すような感覚で俺を見ている。

 

 

「あっ、逃げたぞ!」

「チッ、逃げ足の速い奴め」

 

 俺は無我夢中で走った。

 最初は慣れない四足歩行も、転びながら少しずつ覚えてきた。

 途中からは高速移動を使い、PPがもつ限り電光石火のごとく1番道路をひた走る。

 

 途中ですれ違った駐在さんに助けを求めようかとも思ったが、彼女の足元にいたルージュラを見て諦めた。

 

 風を切る中でふと気付けば、両の瞳から自然と涙がとめどなく溢れ出ていた。

 ポケモンの涙も透明らしい。ふっくらした頬を伝う前に、雫となって後方へ飛んでいく。

 

 いったいどうしてだ? どうして俺は、こんなみじめな思いをしなければならない?

 俺はただ、この世界で存在していたいだけなのに。ピガァとなく声を置き去りに、俺は走った。

 

 

 気づけば俺はチャンピオンロードに迷い込んでいた。これからトレーナー界のトップを狙う者たちは、誰もが不細工なポケモンを連れている。

 だが彼らの目にはそいつらは強く、そして美しく映っているのだろう。

 

 美醜逆転。

 俺なんかの居場所があるはずがない。なんてこった、サカバンバスピスの方がマシだったなんて。

 

 

「俺は……とんでもない世界にきてしまった」

 

 見た目で愛されもせず、かといって優秀な技も持っていない。いっそのこと、このアイデンティティを捨て、かみなりの石で進化してしまおうか。そんな捨て鉢な考えがよぎったが、大した違いがあるとも思えず断念した。

 

 

「トキワの森に帰ろう」

 

 そして誰にゲットされることもなく天寿を全うしよう。同じピカチュウを見つければ、共に生きる伴侶となってくれるかもしれない。トボトボと疲れた四つ足を引きずるように森へ向けて歩いていると、

 

ピカァ(キミは)……」

「ブイ?」

 

 目の前にイーブイが居た。

 

 

「ブイ〜、ブイブイ(そうか、僕と同じか)

 

 彼は俺と同じく、この美醜逆転世界で疎まれたブサモンだったらしい。

 

 目覚めた時にはこの世界で筋肉ムキムキ男の元で飼われていた。その人物はサトシと違ってイーブイに対して手を上げることはなく、かといって育成もせずにただ放置していたんだとか。

 

 ポケモン虐待、ポケハラの典型的な駄目トレーナーだったようだ。

 

 

「ここにくれば、誰か僕を必要としてくれる人がいるんじゃないかって。何度も死にかけながらタマムシシティから逃げ出して来たんだ。だけど僕はもう、疲れてしまったよ」

 

 鼻息が荒く豚のようにブイブイと濁りがちな声は聞き取るのに難儀したが、翻訳するとそういうことらしい。彼なりに苦労を重ねてきたのが、言葉の節々から感じられた。

 

 聞けば少しでも不細工に見えるように、わざと太ってみたりもしたらしい。それで息が変なのか。舌が喉に下がってしまうのはポケモンでも同じようだ。

 

 だが俺は改めて落胆し、眉と肩の代わりに尻尾を下げた。つまりそこまでしても、この世界では俺たちは受け入れてもらえない。

 

 

「だけど君とこうして出逢えて、救われた気がするよ。この世界はあまりにも、僕らに対して冷たいから」

「イーブイ君……」

「やっぱり自分は自分らしく生きるのが1番だって悟ったよ。他人の評価に左右されるのは、浅ましい人間のすることだ」

 

 そう語るイーブイ君は思いの丈を吐き出せたおかげか、少しだけ晴れやかな表情だった。

 

 

「ピカチュウ君。もし、良かったらなんだけど。僕と友達になってくれないかな? 友達がいれば、こんなサイテーな世界でも生きていける気がするんだ……」

 

 モコモコの胸毛に埋もれるほど俯いてしまったイーブイは、人気を博していたポケモンとは思えないほどの哀愁を漂わせていた。

 

 だが彼はこの世界で初めての同志、仲間だ。

 同じ苦悩を持つ者として、もしかしたら良い友人になれるかもしれない。

 

「こちらこそよろしく――」

「あっ、野生のイーブイがいる!」

 

 言い切る前に、誰かが俺たちの存在に気が付いたようだ。ガサガサと茂みをかき分けながら、こちらへ近づいてきた。

 

 

「えー、ブサモンじゃん」

「進化させてリーフィアにしたら可愛いでしょ! 中途半端な強さもまたキュートでしょ?」

 

 リア充と思しきカップルトレーナーが楽しげな声を上げた。

 

 リーフィア? 金銀までしかプレイ経験のない俺の知らない進化先だ。

 

 

「いや、でもこれから俺と一緒に生きるって――」

「ぶいぶい〜♡」

「え?」

 

 およそさっきまでの陰キャポケモンとは思えない、甘ったれた裏声で媚びまくるイーブイ君。そこにはプライドも何も感じられなかった。

 

 ふさふさの尻尾を振りまくり、浅ましく擦り寄っていくイーブイ君だった何か。

 

 

「うわ、きっもww」

「ぶいーぶいぶいー♪」

「仕方ねぇな、しっかり働けよ?」

「ぶいー!」

 

 もはや俺の存在なんて、無かったものとして扱われている。2人と1匹は和やかなムードを醸しながら、俺の前からさっさと去っていった。

 

 

「……ロケット団にでも入るかぁ」

 

 堕ちるとこまで堕ちてみるのも、なんだか良い気がしてきた。

 そう決意した俺は、入団試験を受けるべくサカキのいる街と歩みを進めるのであった。

 


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