(あ、駄目だ)
勝てない、と目が合った瞬間わかってしまった。
かといって今更動きを急激に止められるわけもなく、私は負けを確信しつつも手を振り切る。繰り出した短剣は案の定軽くいなされ、勝てないのだからさっさと逃げようとした動きもあっという間に封じられた。マジか。私これでも腕に自信はあるほうなんだけど。
まぁでもそれも今日までの話。
仕事を失敗した暗殺者に未来はないわけで、ここは潔く歯に仕込んだ毒で自殺しとくか。
……と思ったんだけど、次の瞬間私の口に突っ込まれたのは男の指だった。これじゃ毒を噛めない。
何事、と思って固まる私に、その人は云った。
「お前すっげぇな!! 仲間になれよ!!」
――はぁ?
これは私の声ではなく、船中から上がった声だった。
◇◆◇◆
「名前は?」
「リン」
「年は?」
「25」
「仕事は?」
「殺し屋」
「特技は?」
「暗殺」
「好きな食いもんは?」
「特になし」
「嫌いな食いもんは?」
「特になし」
「仲間になる気は?」
流れるような問答の、ひっかけ問題のような問いに、私は首を傾げた。
まじまじとその問いを口にした男を見ると、私の視線に照れたように頬を染める。やめろキショい。赤いのは髪だけにしとけ。
「私、あんたのこと殺そうとしたんだけど」
「でも殺せなかっただろ」
「未遂だったとしても、一度でも命を狙った相手を仲間に誘うとか正気じゃないでしょ」
「そうかぁ?」
彼――赤髪のシャンクスは、がははと豪快に笑い。周りにいた男たちもケラケラと楽しそうに笑っている。
なんでよ。
あんたらの船長が私に殺されそうになったってのに、なんで笑ってられんのよ。
意味がわからなすぎて逆に怖い。
「ていうか、拘束の一つもしてないし、私のこと舐めすぎじゃない?」
「まだおれのこと殺す気なのか?」
「もうそんな気はないよ。だって私じゃあんたに勝てないってわかったもん」
「じゃあいいじゃねーか」
「いやそういう問題じゃ……」
いくら武器類は根こそぎ没収されたとはいえ、こちとらこの身一つで殺し屋稼業をこなしてきたプロだ。その気になれば武器なんかなくたって人を殺せる。
だというのに、この人たちは私を縛ったりどこかの部屋に閉じ込めたりもしないで野放し。
せめて見張りがいるとか、すごい警戒して見られてるなら百歩譲ってわかるんだけど、それも一切なしだ。いや、まぁ、おそらくこの男ならば私に警戒していることを悟らせないように警戒することもたやすいのかもしれないけれど、だったら目の前で酒なんか飲まないだろう。と、思う。やばい、自信なくなってきた。
確かにここは船の上で、問答無用で出航されたのですでに陸地も見えない海。逃げ場がない以上私がここで大暴れすることはないと踏んだのかもしれないけれど、それにしたって緩すぎる。
アングラ稼業で多少歪んだかもしれない一般常識と現状の乖離に頭を抱えていると、近くで新聞を読んでいたベン・ベックマンが笑いを噛み殺しながら云った。
「お頭に気に入られたのが運の尽きだ。諦めな、お嬢さん」
「副船長ならもっと張り切ってこの人のこと止めるべきじゃない?」
「出来たらやってる」
その一言に赤髪に対する苦労が詰め込まれているような気がして、なんというか、ちょっとベックマンに同情してしまった。殺し屋にすら同情されちゃうベックマン、マジで可哀想。でももっと頑張ってほしい。
というか。
答えを聞く前に船を出してるくせに『仲間になれ』なんてひどい話だと思う。
泳げないことはないけれど、さすがの私も陸の見えない場所から飛び降りて次の陸地を目指す無謀は出来ない。だったらもっと手っ取り早い死に方を選ぶ。とはいえ歯に仕込んでた毒も早々にここの船医に取り上げられてしまった。
つまり、次の島に着くまでは執行猶予ということなのだろう。仲間になるにせよならないにせよ、そこまで私はこの船で生活しなければならないわけだ。
勝手に船に乗せられた以上働いてやる義理もないわけだけど、何もしないでいるというのは性格上無理なので、何か仕事をくれ、とベックマンに進言してみれば、彼は少し考えたあと食堂に私を連れて行った。そうして明らかに挙動不審になったラッキー・ルウに私の面倒を見るように伝えると、頑張れよ、と私の肩を叩いて自分の仕事に戻っていった。
まぁ、新参者に出来る仕事なんて限られてるし、食堂手伝いは妥当だと思う。でもラッキー・ルウの様子を見る限り、彼からすれば私の手伝いは想定外だったのだろう。しばらく重い沈黙を挟み、彼はまともに私を見ることもせず、山盛りの野菜を渡して『皮むき』と一言だけ云って食堂奥の倉庫に籠ってしまった。きっと彼は私が仲間になるのは反対派に違いない。うん、存分に反対してほしい。
とにかく今は云われた仕事をこなすために食堂の隅で黙々と皮をむいていたら、頭がくるくるの軽薄そうな男が近付いてきた。一応云っておくけど見た目の話であって頭がイカれてるという表現ではない。念のため。
ヤソップと名乗った彼は、ラッキー・ルウが重度の女嫌いなだけで私を嫌っているわけではないのだと笑いながら説明した。
はぁ、と気のない返事をしながら作業を進めつつ、なるほど、さきほどの彼の挙動不審は女嫌い由来であって、私個人への不信感からあの態度だったわけではないのだと思い至る。そしてヤソップが彼のフォローのためにここにきたのであろうことも。
「あんた、お人好しって云われない?」
「優しい男だとはよく云われる」
「ははは」
「乾いた笑いヤメロ」
この作業中、何人かが入れ代わり立ち代わり私に顔を見せに来た。暇なのか、と思ったのは内緒。
ホンゴウは私の持っていた毒に興味津々だったらしくあれこれと質問をしてきたし、ライムジュースとボンク・パンチとモンスターは私が身体のあらゆる場所に武器を仕込んでいたのが面白かったらしく、コツなんかを聞きに来た。いつの間にかお茶が置いてあると思えば、それはでっかい図体をこそこそ気配を殺して近付いてきたガブだったようで、立ち去る前に慌ててお礼を云うと照れたように笑っていた。ギャップがすごい。
まぁそんなこんなでほとんどの人と顔を合わせ、本当に心底謎だけれど彼らがかなりフレンドリーなので私がこの船に馴染むのにそう時間はかからなかった。
「ねぇ、赤髪。あんたみんなと仲良くやれてんの?」
「え。なんだその怖い質問。おれみんなと仲良いけど!?」
「いや、だってさぁ、仮にも船長の首狙ってた相手にみんながやたらフレンドリーというか」
実は赤髪がものすごくみんなから嫌われてて、その首を狙った私に『よくやった!』って感じで褒めてくれてるんなら納得がいく。どうやら違うらしいけど。
私の何気ない質問に急に不安に駆られたのか、周囲の仲間たちに手あたり次第『おれたち仲良いよな?』と確認し始めて視線を逸らされる赤髪を眺めながら、なんて平和な船なんだ、としみじみ思った。
レッド・フォース号での生活は、びっくりするほど穏やかな日々だった。
殺し屋なんてやってるとどこに行っても心休まる時間なんてあるはずもなく、ゆっくりベッドで眠ったのなんていつぶりだろう。
私の戦い方は特殊だから参考に、と手合わせを頼まれていたので腕が鈍る心配はなかったし、夜に赤髪に呼ばれたので面倒だなぁなんて思っていたらただの酒の相手をさせられただけで終わったときは拍子抜けした。赤髪は何故だか私なんぞを気に入ったようだったので、てっきりそういう使い道なのかと思っていたのに。
結局その後も私が夜の相手として呼ばれることは一度もないまま、数週間後、待ちに待った島に到着。
みんなばたばたと作業をしているので手伝おうかと思えば、むしろ邪魔になるから何もしなくていいなんて云われてしまう始末。戦力外通告がはやすぎる。
かといって船をちょろちょろしているのもどうかと思うして、いっそ街に出てみようか。
物知りスネイクに訊いてみたところ、そこそこに栄えているこの街は目的もなくブラつくにはちょうどよさそうだ。
「赤髪、私ちょっと出かけてくるね」
「おお、夜には帰って来いよ~。ルウがいい食材手に入ったからお前の歓迎会だって張り切ってたからな」
「未だに私と目も合わせられないくせによく云う……」
どうせ宴の口実なだけなのはわかっているけれど、本当に物好きな人たちだと思う。つーか私まだ仲間になるなんて云ってないんだけど。
赤髪も、私がこのまま逃げるとか考えないんだろうか。暢気すぎると思う。
あとルウは私が毎日律義に手伝いをしていたおかげか、少しずつ会話が成立するようになっていった。最初は単語だけのやり取りだったのが、文章でやり取りできるようになったときはちょっと感動した。野良猫を手懐けたような気分だった。で、会話ができるようになってから改めてルウも別に私が仲間になるのは反対ではないという話を聞いてがっかりした。
いいんだよ、一人くらい思いっきり反対してくれても。そしたら私はそれを口実にここから逃げ出したのに。
――そう、口実に、出来たのに。
赤髪に見送られながらひとまず街に出て、おいしそうなクレープやホットドッグにしゅわしゅわはじけるサイダーなんかを買って食べ歩き、適当に気になった雑貨屋なんかを覗く。うん、こういうのもたまには悪くない。
依頼を受けて西へ東への根無し草な生活をしていたから、不必要な雑貨を買うなんて考えは今までしたことがなかったけれど、思えば赤髪のところには変なものがあれこれ置いてあった。芸術がわからないのでコメントに困るようなオブジェだとか、前衛的なデザインの柄シャツだとか、本当にいろいろ。ああいうのを面白いと思える余裕のある人間なのだろう、赤髪は。そりゃ、私が勝てないわけだ。
ズゴッと最後の炭酸を飲み干して容器をゴミ箱に捨てようとしたとき、前から来ていた男の人に肩がぶつかってしまった。
咄嗟に謝ると、彼は人好きのする笑みを浮かべて手を振って去っていった。
ふむ。
それから私は街を少し離れ、森のほうに足を向ける。
夜には帰って来いと云われたけれど、昼を過ぎたばかりの今の時間からはかなり猶予がある。ウィンドウショッピングや食べ歩きも十分したし、次は散歩というのは自然な流れだろう。
途中までは大きな公園の一部になっているこの森は、うっかり道を一本間違えると鬱蒼とした森になっていく。子供が迷い込まないか心配だが、まぁ大丈夫なのだろう。
そうして、うっかりではなくしっかり道を一本間違えて、もともとまばらだった人気がさっぱりとなくなった頃合いで足を止めると、不意に私の背後に人の気配が現れた。
振り返れば、先ほど肩がぶつかった男。顔見知りではないけれど、どこか親近感のわく雰囲気をまとった男だった。同業者なのだとすぐに分かった。
誰何の必要はなく、男は単刀直入に口を開いた。
「何故赤髪が生きている」
「殺せなかったから。それ以外に理由あると思う?」
「任務失敗ということだな」
その通りだ。
誤魔化す気もないので頷くと、彼は小さくため息を吐き。
「では、死ね」
ですよねー。
同業者に接触を持たれた時点でこうなることはわかっていた。任務に失敗した殺し屋ほどこの世で生きる価値のないものはない。
私は、赤髪を殺し損ねた時点で死んだも同然だったのだ。
目を閉じる。
逃げ出そうとも、反撃しようとも思えなかった。
恐ろしくはない。
今まで私は山ほど人を殺してきた。
今度は私の番になった、それだけのこと。
この男は腕利きだ。
きっと痛みも感じる間もなく殺してくれるだろう。拷問が目的でない以上、標的を長く生かす必要はない。速やかに殺して処理するのが正しいはず。
それでいい。
ここは人目に付きにくい場所だから、この男が逃げおおせるまで私の遺体は見つからないだろう。
赤髪たちは……私が逃げたと思ってくれたらいい。実際、似たようなものだし。
きっとこの男は、私を殺した後に赤髪のもとに行く。
でも、断言してもいいけど、こいつにだって赤髪は殺せない。
赤髪を殺せる人なんて、この世にいるかどうかも怪しい。
だから、心配なんかしないで私は死ねる。
――ああでも、さよならを告げられなかったことは、ちょっと残念。
次の瞬間、ぱっと生暖かい何かが私の顔面に降り注ぐ。
よく知る感覚と、よく知るにおい。
血だ。
それを感じられているということは、私はまだ生きている。
何故。
不思議に思って目を開けると、男の首がなくなっていた。
ああ、その返り血か、と冷静な部分が考える。
ごろりと私の足元に転がった生首と、遅れて倒れた男の本体。重力に逆らわず崩れ落ちた身体。切り取られた首の部分からだくだくと流れた血が靴についた。
何が起きた。
反射で反撃してしまったのだろうか、とも思ったけれど、今の私は丸腰だ。さすがに武器もなしに首を落とすのは難しい。
はて。
首を傾げていると。
「リン」
声のほうに顔を向ける。
そこには、赤髪がいた。手には剣を握っている。なるほど、それが男の首を落としたのだ、と合点がいった。
だけどどうにもわからない。
「……なんで来たの」
「呼ばれた気がして」
「何それ」
はは、と笑うと、赤髪は私に近付いてきて、そのマントで私の顔の血飛沫を拭う。便利なマントだ。黒いから血がついても目立たない。
ぐいぐいと力任せに拭うから、ちょっと顔が痛い。死ななかっただけ、マシなのかもしれないけれど。
赤髪が私を見る目は、なんだかすごく悲しそうだった。
どうして。
どうしてそんな顔をするの。
その顔を見たくなくて、私は俯いて、額を赤髪の胸に押し当てた。
「私、なんで生きてるのかわかんないの」
赤髪は何も云わず、私の背中に手を回す。その手の温かさに泣きそうになりながら、口を開く。
「家族が殺されて、その犯人を私が殺して以来、ずっと誰かを殺しながら生きてきた」
ある日家に帰ったら、家族が全員死んでいた。
母がいつも清潔に保っていた部屋には血の匂いが充満し、あちこちに血が飛び散って、男が一人、立っていた。
隣の家に住んでいた青年だった。
私は彼が母に思いを寄せていることを知っていた。
だけど当然ながら母には父がいて、二人の仲はとても良くて、近所でも評判のおしどり夫婦で、青年が入る余地などなくて。
玄関に、心臓を一突きにされた妹。
キッチンには首がほとんど落ちかけた母。近くに鉈が放置されている。
リビングの父は顔もわからないほど顔をぐちゃぐちゃにされて、すき間がないほど大量のナイフが心臓付近に刺されていた。
何が起きているのかわからなくて、立ち尽くしていた私は、ややあって青年と目が合って。
彼がニタリと歪んだ笑みを浮かべた瞬間、私の頭は真っ白になって、気付いたら男は死んでいた。
私の手は、血塗れになっていた。
私はその家から逃げた。
わけがわからなくて、なにもわかりたくなくて、ただ逃げて、泣いた。
大切だったものが全部なくなったという実感は、彷徨うように海に出て、海に映った三日月を見たときに遅れてやってきた。
死んだ家族。
家族を殺した男。
その男を殺した私。
全部壊れて、なくなった。
平和だった日常が一瞬のうちにすべて失われたという喪失感は私を絶望させるのに十分だったのに、どういうわけか死んでしまいたいとは思わなかった私はきっと心が壊れているのだろう。
死なないためには生きなければならず、生きるためには金が要る。
気付いたら殺し屋として生きていて、それなりに名前が売れていた。
「たくさん、殺した」
皮肉なものだ。
家族を失い、その犯人をこの手で殺したからこそ孤独になったのに、その手段が今の私を生かしている。
家族が死んで悲しい思いをしたのに、第二の自分をあらゆる場所で生み出している。
泥にまみれたこの世界の、更に奥深い肥溜めみたいな場所でしか生きられなくなっていた私は、今日まで死んだように生きていた。
「でも私はあの日あんたに負けたのに、まだ生きてる」
本当は私はあの日に死ぬはずだった。
命を狙ったのだから、返り討ちにされることもあるだろう。たまたま私はこれまではうまくいっていただけの話で、同業者がそうやって死んでいった話なんて酒の肴にもならないほどよく聞く話だ。
だから、赤髪に勝てないと悟ったあの瞬間、私は死んでいたのだ。
「ねぇ赤髪。私を殺してよ」
もう疲れた。
本当はずっと疲れていた。
死にたいけれど、自死を選ぶほど私は強くなくて、誰かに殺してもらえる日を待っていたのだ。
下手に殺し屋の才能があったせいでここまで生きてしまったけれど、もう、頃合いだろう。
ずるずると目的もなくこの陰鬱な世界を彷徨うのは、疲れてしまった。
――だからどうか、私を、殺して。
「駄目だ」
「なんで」
「お前がお前の命をいらないっていうなら、おれがもらう」
そりゃあ私は私の命なんてもはや惜しくはないけれど、おれがもらうってどういうことだ。
意味が分からない。
疑問を視線に乗せて投げつければ、赤髪はなんとも――屈託のない笑顔を浮かべて、云ったのだ。
「おれと生きよう、リン」
ハッと顔を上げ赤髪を見、嘘のなさそうなその表情に言葉を失う。
死にたいって云ってんのに、何云ってんだこいつ、頭沸いてんのか。
「……無理だよ」
「無理じゃねぇ。おれはお前と一緒に生きたい」
「なんで」
「惚れたから」
「私みたいな欠陥品に惚れるとか、馬鹿じゃないの」
「馬鹿でもいいよ、お前が生きてくれるなら」
喉が、詰まる。
大きく息を吸おうとしても、首を絞められたように詰まった喉がうまく動いてくれない。
意味が分からない。
だって私はそもそも赤髪を殺そうとしたのだ。
どこの誰ともわからないやつから依頼を受けて、金で、命を、奪おうと。
結果的に奪えなかっただけで、考えうる限り最低なことをしたはずなのだ。
それなのにどうしてこの人は、私を好きだと云えるのだろう。
「どうして、私なの」
私には何もない。
家族を失った日から、血の匂いのする場所でしか生きてこられなかった。
誰かに誇れるような志などなく、ただ死なないために他者の命を奪い続けてきた極悪人、それが、私。
ねぇ、赤髪。
私には、何も、ないのに。
私の疑問に答える前に、赤髪はそっと私の頬に触れた。
少しかさついた、大きな手。
私の頬を愛おしそうに優しくなでると、そのまま額にキスをした。
それから、右の頬、左の頬、鼻の先、瞼。私が抵抗しないのをいいことに、赤髪はどんどんキスを落としていく。
そうして最後に唇に触れるだけのキスをして、満足そうに彼は云った。
「リンの目が、綺麗だと思ったんだ」
どぶの沼を煮詰めてこのありとあらゆる汚いものを混ぜ込んだようなこの目が好きだなんて、きっとこの男は狂ってる。
――ああ、なら。
「……狂ったやつら同士、私たち、お似合いなのかも」
「ッはは、違いねぇ!」