東方拾憶録【完結】   作:puc119

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第2話~その変態って言うのやめませんか?~

 

 

 水の冷たさが体の奥まで届いたけれど、不思議と嫌な感じではなかった。水泳の練習なんてした記憶がない。それでも体は勝手に動いてくれた。水面に上がったあとは服の浮力を利用して背浮きをし、軽く足を動かしてゆっくりと進む。

 水は淡水だった。どうやらどこかの湖らしい。

 多分季節は夏。水面にぷかぷかと浮かんでいる今ばかりは、さんさんと輝く太陽も憎らしくない。

 いつまでものんびりとしてはいられない。少しばかり頭の整理が必要だ。

 

 

 けれども、まぁ、今だけはこのまま何も考えずに浮かんでいたい。

 

 

 のんびりと泳ぎ続けること数分。漸く、足の届く場所まで辿り着けた。名残惜しいけれども、そろそろ自分の足で立たなくてはいけないようだ。

 水を吸い重くなった服のことが嫌になりながらも、陸まで歩く。替えの服なんてあるわけもないし、このずぶ濡れになった服はどうするべきか。このまま着ていても乾くとは思うけれど、なんだか気持ち悪そうだ。

 それなら、いっそ全裸になって――そんなことを考えている時だった。どこからか声が聞こえてきたのは。

 

『あー、あーマイクテス、マイクテス。うんっ、よし大丈夫そうだ』

 

 何が大丈夫なんでしょうね? こちらは全然大丈夫じゃないのですが……この状況に全くついていけない。先ほど聞こえたあの無機質な声とは違った。

 

『コホンッ。最初に言っておきますが、この連絡は一方通行です。ですので、貴方の声はこちらに届かないということを理解しておいてください。それでは、簡単に今の貴方の状況を伝えますね』

 

 そう言って、一方的な説明が始まった。

 所々で、明らかにどうでも良い情報が入っていた気もするが、声の内容をまとめると。

 

 此処は『東方Project』と言うゲームの世界で、俺はその世界に転生したらしい。俺の記憶が無いのは、記憶の無くなる前の俺がそう契約したから。そしてその無くなった記憶は、制限期間までに10の課題をクリアすることで、取り戻すことができる。制限期間は2000年。その間は老いることも死ぬこともない。さらに課題をクリアする事に能力などが強化されていく。

 そんな内容だった。あと、声の主はグラマラスな天使のお姉さんらしい。グラマラスな天使のお姉さん……ありだと思います。

 ゲームの世界。『東方Project』がどんなゲームなのかは知らないけれど、俺が選んでくれた世界なんだ、悪くはないと思う。

 

『これで私からの説明は終わります。あと、転生前の貴方から今の貴方への手紙もあり、それは念じればすぐに読めると思いますので、しっかりと読んであげてください。それでは、素晴らしき転生ライフをお楽しみください。以上、グラマラスな天使さんでした~』

 

 転生前の俺から手紙?念じれば読めると言っていたけれど、どうすれば良いのさ?

 そんなことを考えていると、目の前に十数枚程度の紙束が現れた。

 なるほど、ただ考えるだけで良いのか。随分と便利ですね。

 

『未来の俺へ』

 

 そんな言葉からその手紙は始まっていた。最初の一枚目はたったそれだけの言葉。お世辞にも上手い文字ではない。俺って字下手なんだ。

 

『とりあえず、この手紙を読めているということは、無事に転生できたということだと思う』

 

 いきなり、水の中からスタートだったけどね。まぁ、五体満足。不満はありません。

 

『上手く全てを伝えることはできないけれど、君もなんとか理解してくれると助かる』

 

 どうやら文章力はないらしい。まぁ、全部自分のことなんだけどさ。

 

『本当は記憶を保持したまま、転生をしたかったけれどそれが許されないため、君の記憶は失われることになった。君には申し訳ないけれど、なんとか頑張ってほしい』

 

『運悪く、俺は死んでしまった。けれども、君はそんなこと気にしないで今の転生ライフを楽しんでもらいたいかな。そしてあのグラマラスな天使様から聞いていると思うが、君には10の課題に取り組んでもらいたい』

 

 “グラマラスな天使様”の部分だけ丸文字になっていた。なんとなく想像はつくけれど深くは考えないようにしよう。夢は夢のままで終わるべきなんだ。

 

『君は未来の俺だ。できれば課題をクリアして記憶を取り戻してもらいたい。けれども君と俺は違う。だからこの課題をクリアする義務なんてないし、課題を無視して2000年という時間を全力で楽しんでもらって構わない』

 

『やめたくなったらやめても良い。逃げたくなったら逃げても良い』

 

『楽に考えてくれ、これは君の人生なんだ』

 

 ……どうやら、過去に色々とあったらしい。

 10の課題をクリアすれば失われた記憶が戻る、か。

 手紙はまだ続いていた。

 

『と、言うのは建前で。頼むから課題をクリアしてください!クリアしてもらわないと、君ではなく俺が地獄へ落ちる。ほんっとお願いだから頑張って!!』

 

 台無しだった。

 あれ? ちょっと良い話じゃないか? とか思っていたら見事にぶち壊された。これ本当に俺が書いたの?

 

『君は未来の俺だ。だから自分を救うためだと思って頑張ってほしい。俺だって東方のキャラとキャッキャウフフしたいんだよ!』

 

 なんでこの人は逆ギレしているのだろうか。しかし、アレだ。過去の自分に怒られるって随分と複雑な気分になる。

 

 手紙は、まだ続いていた。

 

『すまないとは思っている。君に全てを押し付けてしまって。また、転生を楽しんでほしいとも思っている。そして、できれば課題をクリアしてもらいたいかな。これから続いていく君の人生が幸せなものとなるよう、心から願っているよ。ここから先は簡単にだけど、東方Projectのキャラの説明を書いておいた。きっと役に立つと思う。じゃ、あとは任せたよ、未来の俺』

 

 手紙はそこで終わっていた。

 

 なんだかなぁ。話が転び過ぎていて、本当に伝えたいことがなんなのかわからない。それに過去の俺がどんな性格だったのか知らないけれど、うん、まぁ、少しだけやる気にはなれたかな。

 俺だって記憶は取り戻したいしさ。自分のために少しだけ頑張ってみよう。

 そう言えば、能力がどうとか言っていたけれど、俺にはどんな能力があるのかね?寿命が2000年って言うだけで十分すぎる気もするけれど。

 

『課題1,「洩矢諏訪子の帽子を被れ」現在の貴方の能力は「湿っぽくする程度の能力」です』

 

 またあの無機質な声が頭の中で響いた。

 なるほど、課題と能力はいつでも聞くことができるってことか。それでこの『湿っぽくする程度の能力』ってのが俺の能力らしい。この世界で強い方なのか? そうとは思えないけれど。『雰囲気を湿っぽくする』とかだったらどうしよう。下手に使えない。

 そして課題は、たぶん諏訪子って言う東方のキャラがいて、そいつの帽子を被ればクリアってことなんだろう。すごく簡単そうに思えるけれど、最初はこんなものなのかな?

 相変わらず諏訪子が誰なのか分からない。でも俺の残してくれたあの紙に書いてあると思う。書いてなかったら、課題は諦めよう。

 

 紙束をペラペラと捲っていくと『洩矢諏訪子』と書かれた文を見つけた。

 そして、その文にはこう書かれていた。

 

『洩矢諏訪子』

 神様。蛙。小さい。帽子。あーうー。ヒロイン候補。

 

 なるほど、わからん。

 特に『あーうー』がわからん。

 ……伝えようとする気が全く感じられなかった。もう課題なんて諦めてやろうか。

 

 まぁ、『あーうー』は無視するとして、この文をまとめると、諏訪子と言うのは蛙の小さい神様で帽子を被り、ヒロイン候補らしい。

 えっ? 何? 東方Projectってそう言うゲームなの? 恋愛シミュレーションゲーム(ただしヒロインは蛙)的な感じのゲームなの?

 とんでもない世界に来てしまったらしい。転生前の俺の性格を疑う。

 つまり、この世界に人間はいないってことなのか? この世界に来てまだそんなに時間は経っていないけれど、周りを見ても人はいない。決めつけるにはまだ早いが、少なくともこの湖周辺にはいない気がする。

 そうだとすると今だけは都合が良い。この濡れた服を乾かすとしよう。

 とりあえず上着を脱ぎ、太陽の力を借りて乾かすことに。季節が夏で良かった。まぁ、もし冬だったらきっと湖には氷が張るだろうし、今は生きていないだろう。

 

 いや――死ねないのか。

 

 不老不死。どうにも実感が湧かない。

 

 服を乾かしている間は俺が残してくれた紙を眺めていた。諏訪子の情報と同じく他のキャラも禄な情報は書かれていなかったが、なんとなくこの世界を理解することができた。

 どうやらこの世界には、蛙だけではなく、吸血鬼や天狗、鬼などの妖怪。魔法使いや巫女、メイドのような人間もいるらしい。とりあえず一安心。

 それにしても、キャラが多すぎないか? 未だに何のゲームなのかは分からないけれど、流石に多すぎる。そしてそのキャラ全員にヒロインと書かれていた。

 服が乾くまで、まだまだ時間がかかる。もう少し考えてみるとしよう。

 

 そんな時だった。俺が洩矢諏訪子と初めて出会ったのは。

 きっと第一印象は最悪だったと思う。

 

「へ、変態だ。変態がいる……」

 

 声が聞こえた。透き通るような綺麗な声だった。

 そちらを見ると、目玉の付いたヘンテコな帽子を被った女の子が立っていた。こちらの服装は下着一枚。

 

 ……まずい、非常にまずい状況だ。

 

「いや……ちょっ、あの……その待て、ちょっと待て。落ち着け。とりあえず落ち着いてくれ」

 

 とりあえず釈明をしなければいけない。

 これは、あれだ。違うんだ。別に下着姿を見せびらかすことで、己の欲求を満たそうとか、そういうのではなくてだな。

 驚かせないよう、女の子に一歩ずつゆっくりと近づく

 

「く、来るな! この変態!!」

 

 女の子がそう言い、強く手を振ったのが見えた。

 次の瞬間、地面から土柱が突き出て俺の顎へ直撃した。そして視界が暗転。

 

 人生、なかなかどうにも上手くいかないものである。

 

 






漸くケロちゃん登場です
ちょっとだけでしたけど
物語がなかなか進みませんが、これからゆっくりと進んでいくかと思います
主人公の能力が活躍するときはあるのかな?

たぶん、これからもシリアスな展開はないはず

次話はケロちゃんメイン回っぽいです

では次話でお会いしましょう


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