東方拾憶録【完結】   作:puc119

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第20話~鬼の酒~

 

 

「そう言えばさ、ずっと疑問に思っていたんだけど、萃香って人間を食べなくても大丈夫なの?」

 

 本当の意味で漸く完成した我が家の中で、のんびり萃香とお茶を飲みながら、疑問に思っていたことを聞いてみる。鬼と言えば人を食べたり攫ったりするイメージがある。

 しかし、萃香から人を食べているとかそういうことは聞いていない。

 

「食べようと思えば食べられるけど、私は食べなくても大丈夫だよ。それにお酒の方が好きだし」

 

 そうだったのか。全部の妖怪が全部、人を食べるわけではないんだな。それなら、幽香も人を食べる妖怪ではない気がする。人を食べているところとか想像できない。幽香はベジタリアンなイメージが強い。

 まぁ、そもそも妖怪がどう言う存在なのか俺にはわからないが。

 

「まぁ、流石に人間へ何もしないと私の力がどんどん弱くなっちゃうから、たまに人里へ行ってお酒を奪うために暴れたりするくらいかな」

 

 ああ、なるほど。やはりそうやって、人間と関わらなければいけないのか。

 諏訪子達、神様の場合は人間の信仰が必要と言っていたし、それと似たような物なのだろう。妖怪の場合は人の恐怖心とでも言ったところか。

 

「鬼ってのは皆そうなのか?」

「いや、人間を食べる奴もいるよ。私も一度食べてみたことがあるけど、美味しいとは思わなかったな~」

 

 食べる奴もいるのか……たぶん、ソイツらが酒呑童子だったり桃太郎に出てくる鬼だったりするのだろう。ソイツらのせいで、萃香みたいな人間を食べない鬼まで悪いイメージをつけられてしまっている。とんだ風評被害だ。

 まぁ、萃香だって人里を襲っているらしいし、人間から見れば悪い奴には違いないが。

 

 難しいものだね。人間と妖怪の関係と言うのは。

 

 

 

 建築は一段落し、相変わらず妖怪桜の情報は何も入って来ない。現在、やることがほとんどありません。

 しかし都の状況は変わり始めているらしく、大和の国から平安京へと移り始めていた。元々、都の外れに暮らしていたこともあり、平安京までの距離は大和の時とほとんど変わりがない。

 一度平安京の様子を見に行ってみたが、平安京が広すぎることもあり、大和の国と比べて閑散としている気がした。まぁ、そうのうち発展していくとは思うが。

 今度からは平安京へ物を売りに行く必要がありそうだ。

 

 京が移ったことは別に良いのだが、妖怪桜は大和と平安京のどちらにあるのだろうか。時代的に平安京だとは思うが、どうしても不安が残る。困ったものだ。

 

 まぁ、考えてもわからないものはわからないが。

 

 

 さて、久しぶりに熊と戦いにでも行ってくるか。あれから100年も経ったのだ。あの妖怪になり始めていた熊が、まだ生きているとは思わないがたまには身体を動かすのも悪くはない。

 建築で鍛えた力を見せる時が来た。

 

「おや? 何処かへ行くの?」

 

 家を出ようとした時、萃香が聞いてきた。

 いい加減、熊ごとき倒せるようにならなければ。

 

「ちょっと自分の力を試してくるわ」

「ん~? まぁ、いってらっしゃい」

 

 行ってきます。

 

 

 

 

 

 山へ入り、暫く進むと木が全く生えていない場所へ着く。100年もの間、建築材料に使われ続けた木々があった場所。

 

 

 そして、その場所の中心にソイツがいた。

 ソイツの体長は3mを越え、禍々しい何かも感じた。なんか妖気みたいなのも漏れてる。なにこれ。

 

 たぶん、100年前に出会ったあの熊なのだろう。

 完全に妖怪となっていた。

 

 ヤバいヤバい。アレはちょっとヤバい。勝てる気がしない。

 けれども、此方をガン見しているし逃げることはできそうにない。冷や汗が止まらない。

 覚悟なんてありもしない。どうすんだよコレ。

 ソイツと目が合った。あら、意外とつぶらな瞳なんですね。

 

 そしてソイツが雄叫びをあげながら襲いかかってきた。マジ洒落にならん。

 

 目と目が会った瞬間、殺されるって気づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、まぁ、うん。アレは仕様が無い……うん」

 

 同情の眼差しを向けてくれる緑の彼女。やめて、優しくしないで。余計に悲しくなるから。

 それにしても、何であの熊は生きているんだよ……いや、生きていたからアレだけ強くなっていたのか。そのうち能力とかも使ってきそうで怖い。

 

「ああ、聞きたいことがあるんだけどさ。妖怪桜って平安京にあるの?」

「うん、確かそうじゃと思う。まぁ、あの桜が妖怪になるのはもう少し先じゃろうが」

 

 おお、これは良いことを聞けた。やはり聞いてみるものだな。

 いつもいつも、この緑の彼女には助けてもらってばかりだ。有り難い。

 

「そかそか、了解したよ。それで……君って此処から出ることはできないの?」

 

 ずっと気になってはいた。彼女が言うには此処は俺の心の中らしいが、こんな灰色の空間にいつまでも閉じ込めていたら可愛そうだ。一応この世界にも、お酒や食べ物はあるらしいが。

 

「できるはずじゃよ。わしには肉体などないのだし。ただ、それにはお前さんがもう少し力をつける必要がある。あと課題を3つほどクリアしてくれれば出られると思う。じゃから、わしのためにも頑張ってくれ」

 

 うん? 俺が強くならなければいけないのか? いったい、どういうことでしょうね。まぁどの道、課題はクリアしないといけないのだしやることに変わりはないが。

 

「もし外へ出られたら結婚してくれる?」

「するわけないじゃろ。アホか」

 

 現実は厳しいものだ。

 

「まぁ、お前さんの好きに生きていけばいい。これはお前さんの物語じゃ」

 

 そんな彼女の言葉が、何故かやたらと印象に残った。俺の物語、か。

 

 

 次の日から、平安京で物を売る生活を始めた。大和の国と同じように売れるかはわからなかったが、別にお金もそこまで欲しいわけではない。のんびり売らせてもらおう。

 

 先日、萃香が仕留めてくれた猪と川魚を持ち京へ移動。練習も兼ねて空を飛んでいった。流石に走るよりは速くなったと思う。

 やはり、平安京の中は大和と比べて何処か寂しく人通りも少なく感じる。それでも持ってきた品物は直ぐに売り切れた。相変わらず人気なことで。いや、まぁ、嬉しいことだが。

 

 そろそろ肉や魚、花だけではなく違う物も売ってみようかな。フライドポテトとか良いかもしれない。馬鈴薯がこの時代にあるのかわからないが。

 

 品物を売り終わった後、萃香へのお土産として団子と今回はお酒を買ってみた。ちょいと高かったが、たまにはね。萃香の持っている瓢箪からは、ほぼ無限にお酒が出てくるためいらないかもしれないが、まぁ嫌いではないだろうし、買って損もないだろう。

 

 

「ただいま」

 

 家の中には萃香の姿がなかった。たぶん、いつものように薄くなっているのだろう。『密と疎を操る程度の能力』萃香はそう言っていた。詳しいことはわからないけれど、ようは散らしたり集めたりできるそうだ。

 

「おかえり。むっ、お酒の香りがする!」

 

 今まで誰もいなかった空間へ急に萃香が現れた。最初は驚いていたけれど、いい加減慣れてきた。

 それにしても、やたら鼻が良いな。持っている俺ですらお酒の香りなんてしないのに。

 

「たまにはと思って買ってみた。飲む?」

「飲む!」

 

 そりゃあ、良かった。

 

 

 つまみに猪肉を用意して、二人でお酒を飲んでみる。萃香のお酒と違い、アルコールの香りはあまりしなかったが、代わりに果実のような甘い香りがする。

 

 一口含んで舌で転がし、お酒と空気を少しだけ触れさせた後、喉を流す。

 

 

「……うん?」

「いやぁ、人間の作るお酒もやっぱり美味しいね! んで、青はどうしたの? 美味しくなかった?」

 

 いや、まぁ、美味しかったと言えば美味しかった。仄かに感じる甘味や果実のような香りは確かに美味しい。

 

 美味しいとは思うけれど……

 

「なんか薄くないか?」

 

 そう、萃香のお酒と比べて滅茶苦茶薄いのだ。味ではなくアルコール分が。これでは味と香りのついた水と言っても、おかしくはない気がする。

 

 しまったなぁ、もしかして不良品だったか? 結構高かったのに。正直、お酒として飲むのなら萃香のお酒の方が美味しい。

 

「ああ~そう言えば青って初めて飲んだのが私のお酒なんだっけ?」

「うん、まぁそうだな」

 

 その後、倒れたが。二日酔いも酷かったし。まぁ、今は美味しく飲めているのだし問題はない。

 

「……勘違いしてそうだから言っておくけど、普通のお酒はこんなものだよ。むしろ、このお酒はかなり美味しい方」

 

 なんと、そうなのか? えっ……俺の味覚っておかしいの?

 ヤバい、これはショックだ……今まで流石に物を食べなさ過ぎたか。味覚って正常に戻る物だっただろうか。

 

「んで、青がいつも飲んでいたお酒……まぁ、私のお酒は人間の作るお酒と比べて、かなり強いの。鬼が飲むためのお酒だしね。だから、青は人間の作ったお酒が薄いって感じたんじゃないかな」

 

 美味しそうにお酒を飲みながら萃香が言った。

 なんだ、そういうことか。つまり、別に俺の味覚がおかしかったわけでは……ないのかな?

 ま、まぁ、たぶんそのうち人間のお酒も美味しく飲めるってことなのだろう。

 鬼用のお酒ねぇ……うん?

 

「その鬼用のお酒って俺みたいな人間が飲んでも大丈夫なのか?」

「……普通の人間なら、青と同じ量を飲めば死んでると思う」

 

 俺から目を反らしながら萃香が言った。とんでもないことを言われた。

 

「おい、コラ。なんて物をお前は……」

「だって、青ったら普通に飲むんだもん……それに青は不老不死だし、実際私のお酒、美味しかったでしょ? それなら良いじゃん」

 

 まぁ、確かに美味しかった。

 ん~それなら良いのかな? これから萃香のお酒を飲めなくなるのも嫌だし。

 

「また、今度お酒を買ってきてよ。私も人間の作るお酒は好きだし」

 

 笑顔の萃香。そんな顔をされると文句を言う気にもなれない。

 

「了解」

 

 気がつくと、俺の買ってきたお酒は既になくなっていた。

 もう少しくらい飲みたかったのに……

 

 






~お酒豆知識~

日本酒の匂いについてですが『香』と『臭』の二つを使います
この時、一般的に日本酒の世界では『香』は良い匂いを表し『臭』は悪い匂いを表します
つまり「果実『香』」と書いてあれば良い匂いで
「日光『臭』」と書いてあれば悪い匂いです

と、言うことで第20話でした
お酒の話が入ると筆が進みます

物語はあまり進みませんでしたが


次話は……どうなることやら

では、次話でお会いしましょう
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