東方拾憶録【完結】   作:puc119

28 / 75


ラプソディー口ずさみながら読んでいただければ、ちょうど良いかもしれません





第27話~一人でぽてぽてと~

 

 

『課題5,「月へ行け」』

 

 ……いやいや、行けねーよ。月とか絶対行けねーよ。

 この時代ではロケットだってないだろうし、あったとしても俺なんかを連れて行ってもらえるとも思えない。

 流石にロケットは作れん。知識も全くないし。

 そして何よりタイミングが悪い。この課題がかぐや姫の課題の次だとしたら、月へ行くこともできたかもしれない。けれども輝夜は既に帰ってしまっているし、地球へ来ることもないだろう。

 

 あれ? これツンでないか?

 

 正直、今のままでは行ける気がしない。このまま文明が進んでくれるのを待つしかないのだろうか。確かに課題の時間制限には、まだまだ余裕はある。

 しっかしなぁ、そんな課題を用意するとも思えん。幽々子の時の課題などなんとも巫山戯た内容の課題はあったが、あれもクリアできないわけではなかった。それなりにヒントもあったわけだし。まぁ、ほとんどがあの緑の彼女のおかげだが。

 

 そして、今までの課題は全て東方のキャラと直接関係のある課題ばかりだった。しかし、今回は違う。月と言えば輝夜だと思うが、輝夜の課題は既に終わらせている。じゃあ、今回の課題のキーマンは誰だ?

 

 はぁ、考えていてもわからん。

 空を飛び続けたら月へ着いたりしないだろうか。こう、なんか上手くいって大気圏を突破できたりとか。

 ん~……まぁ、どんなに行けても対流圏を超える辺りが限界だろう。成層圏まで行ければ充分くらいだと思う。

 

 これは、マズイな。割りと手詰まり感がする。

 一度、死んで彼女に聞いてみるか?

 ……いや、でもなぁ。そのためだけに死ぬのは違う気がする。それに、自分で死ぬのはあまり好きじゃない。好きな奴なんていないだろうが。

 

 ホント、どうすっかね。

 

 

 うだうだと考えていても仕方がないため、とりあえず動くことにした。俺、旅に出ます。目的地は諏訪。ちょうど良い機会だしそろそろ一度帰って、あの二柱に顔を見せるとしよう。

 

 萃香には此処で待っているなんて言ってしまったが、此処に居ても課題は解決できない。すまんな萃香。

 一応、俺がまた戻ってくる前に萃香が帰ってきても良いよう、諏訪に行ってくることを書いた文を残しておくことに。

 

 諏訪子たちからもらった外套を羽織り、腰にお酒の入った瓢箪をぶら下げ、菅笠を被り、幽香の傘を持って旅に出る。幽香からもらった傘があるため、菅笠はいらないけれど、ほら、菅笠を被るといかにも旅をしてますって雰囲気になるじゃん。

 そう言えば、旅に出るのも随分と久しぶりだ。諏訪を離れてからもう300年ほど経ってしまった。

 時間の流れと言うのは早いものだねぇ。

 

 季節は春。天気は晴れ。思い立ったら吉日。

 

 何にも良いことなかったけど、流れる雲とラプソディー口ずさみ、少し歩こうか。

 

 ……誰の言葉だったかな? そんな記憶も残ってないや。

 そんじゃ、ま。そろそろ行くとしましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 別に今回の旅は急いでいるわけでもないが、ちゃんと道を歩いて諏訪へ向かうことにした。まぁどの道、山を超えなければ諏訪には行けないため、山の中を歩くことになるとは思うが。

 

 この体は食べることを必要としないため、食料はいらないが干肉や塩なんかは家から持ってきた。残しておいても腐るだけだし。それと、お金も持ってきてはいるが京以外で使えるのかはわからない。もしもの時は、干肉を売って路銀に変える魂胆だ。

 

 今は一人で京から東に伸びている道を、ぽてぽてと歩いているわけだけど、なんだろうか随分と寂しい気分になる。

 諏訪から旅をした時も一人であったが、最近はずっと俺の隣に誰かが居てくれた。一緒に居てくれる人がいないというのは、まさか此処まで寂しいものだとは思わなかった。

 女々しくなったものである。

 

 残る課題はあと6つ。時間的にはかなり余裕がある。しかし、これからどんどんと難しい課題になっていくのだろう。既にもう詰まりかけているわけだし。

 4つ目の課題をクリアしたことで、俺の霊力や能力は強化されたわけだが、残念ながら能力が変わったわけではなかった。

 

 変わらず『水温を操る程度の能力』のまま。

 能力が強化されたらしいので試してみたが、確かに水温を変える時間はかなり早くなった。けれども、水に手をつけていないと水温は変えることはできず、自分の手が耐えられない温度にすることもできなかった。熱くなると水から手を離してしまう。水温を下げる方も零度以下にすることはできないのか、水が凍ることもなかった。

 正直、戦闘では使えそうにない。40℃ほどのお湯を相手にかけたところで、ダメージなどほとんどないのだから。前よりも、風呂を沸かすのにかかる時間が減ったというだけだ。

 

 どうやら俺の能力は水に関係するらしいが、なんだかなぁ。せめて水を操ったりとか、氷を作ったりくらいはできるようにしてもらいたかった。

 

 どうしよう。いっそもう、銭湯でも始めてみようか。燃料費は只なのだから。まぁその代わり、湯が冷めてしまう前に俺が温めなければいけないが。

 あれ? もしかして、それなら合法的に女湯に入ることもできる? だってねぇ、冷めたお湯になど入りたくはないだろうし……これはいけるか?

 

 ……いやいや、落ち着け。絶対そんな銭湯に、女のお客さんなど来てはくれない。野郎共は来るだろうが、野郎の裸なぞ全く興味がない。水風呂にでも浸かってろってんだ。

 

 むぅ、なかなか上手くはいかないものだな。

 

 

 そんなことを考えていると、ポツリと一粒の雨が手の甲に当たった。

 

「雨……か」

 

 傘は持ってきているので、それほど困ることはないが、できれば晴れていてもらいたかった。出発した時は晴れていたのにな。

 この傘には何度もお世話になった。雨や雪の時はもちろん。京で商品を売る時もこの傘を持っていたが、どうやらかなり目立つらしく、良い目印になっていたそうだ。

 お客にはお前になぞ似合わないと何度も言われた。ほっといてくれ。まぁ、この傘は日傘なんだけどさ。

 

 ラプソディーなんて口ずさむことはできないから、傘に当たって響いた雨音をバックミュージックに、どんより雲の下をぽてぽてと歩を進める。

 

 

 そして、道端に雨に濡れなんとも寂しさを感じる、一人ぽっちの地蔵菩薩を見つけた。

 今までも六地蔵は何度も見かけてきたが、一人で立っている地蔵菩薩を見つけたのは初めてだ。まぁ、俺が気づいていなかっただけかもしれないが。

 

「お前も一人なんだな」

 

 なんとなく声をかけてみた。菩薩相手に『お前』呼ばわりはどうかとも思ったが、別に俺は仏教徒でもないし、気にしないことにした。

 

 地蔵菩薩と言えば、57億年後くらいに弥勒菩薩が現れるまで、釈迦の代わりをする偉い菩薩……だったかな? なんとも曖昧な知識であるが、そんな感じだと思った。

 

 57億年後、ねぇ。莫迦みたいに遠い話だな。想像もできない。たぶん、その頃には太陽だって寿命を迎えているだろうし、地球だって巨大化した太陽に飲み込まれているだろう。

 まぁ、仏教ってのはそう言う話ではないだろうけどさ。物理的に人間や地球が死んだところで、仏教が導かなければいけないのは精神的なものなわけだし。

 

 話がそれてしまったが、地蔵菩薩は六道の衆生を救う大事なお仕事以外に、子どもを守る役目や、道祖神みたいな仕事もあったはず。

 何処かの俳諧師みたく、道祖神の招きにあってみると言うのも悪くはない。

 

 雨に打たれ続ける地蔵菩薩をなんとなしに、眺めてみる。

 この一人ぽっちの地蔵菩薩は、六道の内どの道を救ってくれるのだろうか? まぁ、俺みたく六道から外れた外道を生きる者には関係のない話だが。

 

 このまま雨に打たれ続けるのも可哀想だから、被っていた菅笠を外し、代わりに地蔵菩薩に被せる。やっぱり俺には菅笠なんていらないしな。傘は二つもいらない。

 

 まるで笠地蔵の話みたいだなんて思い、一人で笑を溢した。

 

 

「別に、お礼とかそういうのはいらないけどさ、俺のこの旅が良いものになるよう、君にも願ってもらえれば俺は嬉しいかな」

 

 

 そんじゃ、ま。お地蔵さんにもお願いしたことだし、そろそろ行くとしましょうか。雨のせいで遠くの景色だってよくは見えないけれど、旅ってのはそれくらいがちょうど良いのだ。

 

 これくらいで良いことをしたとかは思わないし、天気は雨で湿った空気が流れている。それでも、足取りは悪くない。

 傘に弾けた雨音に合わせて、音楽にすらなっていない歌を口ずさみながら歩き始めた。

 

 






登場人物は一人しかいませんし、会話なんてなく主人公の独り言が3つだけ
それでも私は、このお話が今まで書いてきたお話の中で一番好きです

と、言うことで第27話でした
あの変態、映姫さん登場フラグを見事にへし折ってくれました
このお話で出そうか迷いましたが、私の好きな流れになったので今回は我慢してもらうことに

そのせいで、いつもよりちょいと短いです

次話は映姫さんが出るかもしれませんね
出たらきっと主人公がひたすら説教されることでしょう
彼、真っ黒ですもんね

では、次話でお会いしましょう
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。