東方拾憶録【完結】   作:puc119

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第30話~月照らす湖へ~

 

 

「起きないな」

「どれだけ飲んだのよ……」

 

 朝になりルーミアは起きたが、郵便屋が起きない。

 規則正しい寝息をしているし、寝苦しそうには見えない。ただ寝ているだけだとは思うが、やはり飲ませすぎたらしい。

 

 さて、どうするか。このまま、郵便屋が起きるのを待っていても良いけれど……

 

「どうするルーミア? このまま、待つ?」

「いい、私がコイツを背負っていく。前もそうだったし」

 

 なんて、ルーミアは言って、ひょいって感じに郵便屋を背負った。

 ずるい。俺もやってほしい。女の子におんぶしてもらいたい。

 

「……あんたにはやらない」

 

 まぁ、そんなことだろうとは思ったが。

 

 やはり、この二人の仲は良いのだろう。そのことが、少しだけ羨ましかった。俺にも、そんな信頼できる相手のできる日が来るのかねぇ……

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えばさ、前も郵便屋を背負ったことがあるって、さっき言っていたけど、その時の郵便屋も飲みすぎて起きなかったの?」

 

 郵便屋を背負ったルーミアと二人で諏訪へ向けての旅を続ける。もう諏訪までのかなり近くなったのか、最近は山の中を歩くことが多くなってきた。

 山と言えば熊。熊、怖いです。

 

「うん、鬼の里へ行った時に今日と同じような感じになった」

 

 鬼の里ねぇ……なんでそんな場所へ行ったのやら。

 もしかして、萃香も其処へ行っているのだろうか?

 

「あと、天狗の山へ行った時もこんな感じになった」

 

 ……なんだか、郵便屋が可哀想になってきた。笑う門には福来るなんて言葉もあるけれど、この郵便屋、幸薄そうだしなぁ。

 それにしても天狗、か。あの手紙に書いてあったが、東方のキャラの中にも天狗は何人かいたはず。

 けれども天狗と言えば、山伏の装束に身を包み、一本歯の高下駄を履き、葉団扇を持った赤ら顔。さらに、長い鼻。高い鼻の女性は好きだが、長い鼻の女性を好きになれるかと聞かれると、少々怪しい。赤ら顔はまだ許容範囲内。

 長い鼻か……どの程度のものなんでしょうね?

 

 まぁ、天狗にも色々な種類があったはず。全ての天狗が長い鼻、と言うわけでもない気もするが。

 

 ん~……今気にしたところでどう仕様も無いか。その時に考えれば良いのだ。

 

 

 その後も、ルーミアと会話をしながら、山の中を歩き続けた。例のごとく、いつものように現れてしまった熊はルーミアが美味しくいただいた。一人旅なら確実に俺は殺されていただろう。ルーミアには感謝だ。

 

 そして、日は既に真上を越えたところで、漸く郵便屋の目が覚めた。

 

「起きます」

 

 そんな言葉がルーミアの背中から聞こえた。

 おお、ようやっと起きてくれたか。

 

「って、あら? 悪いねルーミアちゃん。もう降ろしてくれて大丈夫だよ。ありがと」

「ん、いい。いつものことだし」

 

 この二人の出会いとかは、どんな感じだったのだろうか。人見知りなルーミアが此処まで懐いているのはなんとも不思議な気分。この二人の話を基にした小説の一本くらいは書けそうだ。

 

「いやぁ、お酒はどうにも苦手で……」

 

 なんて言って郵便屋は笑った。少しばかりふらついている気もする。大丈夫?

 貴方って苦手な割に、お酒を飲むのは好きだよね。まぁ、苦手だから嫌いとか、得意だから好きと言う話ではないが。

 

「それでルーミアちゃん、あとどれくらいで諏訪へ着くのかわかる?」

「あと一日あれば着くと思う」

 

 あら、もうそんなに来ていたのか。別に方向音痴と言うわけではないが、そんなに近づいているとは思わなかった。

 それにしても、よくルーミアはそんなことがわかるな。ああ、そう言えば、諏訪へ行ったことがあるのか。俺の場合、諏訪から出たことはあるが、諏訪へ行くのは初めて。それに、出た時もちゃんとした道を歩かなかったしな。

 

 諏訪も久しぶりだ。あれから数百年。きっと人里も変わってしまっただろう。変わらない街並みは優しいが、変わってしまった街並みも悪くはない。

 

「ん? てか、ルーミアみたいな妖怪が諏訪の中へ入っても大丈夫なのか?」

 

 諏訪子や神奈子に怒られそうだが。俺は妖力とかを感じることはできないが、アイツらならわかるだろう。

 それに、この郵便屋だって人間ではない。大丈夫だろうか。

 

「前に来た時は大丈夫だった。そんなに長居もしなかったし」

 

 あら、そうだったのか。それは良かった。

 

 ん~……それは別に良いのだが、そもそもこの二人は何の用事があって諏訪へ訪れたのだろうか? 郵便屋と話をした時は、俺以外の相手にお届け物をしたことはないらしいが。観光なのかな?

 相変わらず疑問は尽きない。

 

 

 

 

 郵便屋の意識も戻り、また三人での旅が始まった。

 今までのように、明るい内に進み夜は休憩。流石にその日の夜、郵便屋がお酒を飲むことはなかった。

 まぁ、ルーミアが止めなければ飲んでいた気もするが。学習する気が全く見えない。

 貴方も存外自由だね。

 

 そして、次の日。時刻は夕方と言ったところか。西の山へ沈んでいく真っ赤な夕日が眩しい。

 その辺りの時間で懐かしい場所へ、漸く着いた。

 

 信州諏訪。

 思っていたよりは早く着くことができた……のかな? まぁ、着けたのだし良しとしよう。

 懐かしい風景に懐かしい匂い。数百年経ったのにも関わらず、此処が諏訪なのだとしっかりと認識することができた。

 

 さて、さてさてとりあえずあの二柱に挨拶をしないとだ。たった、一年ほどしか暮らしてはいなかったが、俺にとっての故郷はこの諏訪の地だろう。あの二柱も元気だと嬉しいが。せっかく帰ってきたのだし、何かお土産でも買っておけば良かったな。

 

 ただ、その前に一つ問題がある。

 諏訪に着いたのは良い。そして、此処は間違いなく、俺が過ごしたあの諏訪なのだろう。

 けれども――

 

「な~んで、人が誰もいないんだ?」

 

 諏訪へ着いたばかりであるため、確かにまだ人里の中心地にはいない。しかし、人影が全く見えない。

 民家は見えるのだが……

 

「何処かへ出かけているのでしょうか?」

「……違うと思う」

 

 郵便屋とルーミアが言った。

 うん、俺も違うと思う。けれども、全く人影が見えないと言うのもおかしな話だ。これでは、まるであの時のようだ。

 

 初めて俺が紫と出会ったあの時と同じような……

 

 

 そんな俺の勘は当たっていたらしく、ゾワリとあの独特な不快感に襲われた。

 

 神出鬼没って奴だろう。

 

「久しぶりね。青」

「久しぶりだな、紫」

 

 誰もいなかったはずの場所へ紫が現れた。

 はぁ、タイミングの良いのか悪いのかはわからないが、俺に何の用事だろうか?

 

 ああ、そうだ。紫なら月へ行く方法を知っているのかも知れないのか。それはちょうど良い。

 

「んで、どうしたの?」

「これから月へ攻め込もうと思うの。それで、貴方も一緒にどう?」

 

 ドクリと心臓が跳ねた。

 郵便屋の顔を見る。いつものような、柔らかな表情だった。

 

「月ねぇ……何のためにさ?」

「ふふっ、貴方は知らないでしょうけれど、あの場所には地上にはない大きな力がある。私はそれがほしいのよ」

 

 大きな力ってのは、まぁ、科学の力なのだろう。妖怪と科学……俺には相容れない二つに思えるが。

 

「そうだな。月への観光ってのも良いかもしれない。んで、どうやって月へ行くのさ?」

 

 問題はそこだ。ロケットでも作ったのか? 正直、そんな技術がこの時代にあるとは思えない。飛んで行くはずもないだろうし。どうやって行くのやら。

 

「湖に映った月へ飛び込むの。普通なら表の月へしか行くことができないけれど、実と嘘の境界を弄ることで彼方の世界へ行けるようになる」

 

 紫の言っていることは、よく、わからなかった。表の月とか、彼方の世界とか……けれども、まぁ行けるのなら問題ない。

 

「難しい話はわからないけれど、よろしく頼むよ。もう直ぐに行くのか?」

「ええ、そうね。もう準備はできているわよ」

 

 ありゃ、せっかく諏訪へ着いたと言うのに……仕様が無いか。この時を逃してしまったら、課題をクリアする時がなくなってしまうかもしれないのだし。

 そう言えば、郵便屋とルーミアはどうするのだろうか? 諏訪に用事があるわけでもないと言っていたが。

 

「その月への旅行に僕もついて行って良いですか?」

 

 郵便屋が言った。

 

「貴方は?」

 

 紫の問いかけ。

 あ、あら? 紫は郵便屋のことを知らないのか? いや……じゃあ何故、紫が月へ行こうとしていたことを?

 

「僕はただの郵便屋です。まぁ、お邪魔することはありませんから」

「……別に構わないわよ」

「ありがとうございます」

 

 怪訝そうな顔をして、じっと郵便屋を見つめる紫。

 

「貴方はいったい……」

「今の貴女では僕を操れませんよ。壊れていますし」

 

 紫と郵便屋の言葉。

 壊れている? ……何の話だ?

 

「まぁ、僕のことは別に気にしないでください。もう既に終わった物語なんです。今更、始めるつもりもありませんから」

 

 なんて言って、郵便屋はいつものように笑った。

 そんないつもの笑顔は少しだけ、悲しそうに見えた。

 

「……そうね。それでは、場所を移します。スキマの中へ入ってもらえるかしら? まだ時間はかかるけれど、その先にある湖に準備をしてあるから」

 

 紫はそう言って、持っていた扇を軽く振った。

 そして、その場所に薄気味悪い裂け目のようなものが。

 

 えっ……これの中へ入るのか? そいつは、どうにも気が進まないのだけど。

 

 そんな感じで、俺はこの裂け目の中へ入るのを戸惑っていたが、郵便屋は『懐かしいな』なんて言いながら、躊躇なくその中へ入っていった。それに続いてルーミアも。

 

 よくこんな薄気味悪い中へ入っていけるな。それに懐かしいってなんだよ。

 

「ほら、青も早く行きなさい」

 

 紫が言った。

 はぁ、あまり時間をかけても仕様が無い。腹を括るとしよう。

 

 恐る恐るといった感じで、俺もその中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、気がつくと見覚えのない場所に着いた。

 少しばかり、頭がぐるぐるし足元がフラつく。気持ちの良い感じではない。

 

 目の前には大きな湖。何処だろうか? 諏訪湖には見えないが。

 

「此処は?」

「諏訪の地から、もう少しだけ北東に進んだ場所よ」

 

 俺の問いかけに紫が答えてくれた。

 

 諏訪の北東と言うと……上田や軽井沢辺りか?

 

「そう言えばさ。月へ攻め込むのは俺たちだけなのか?」

 

 俺は戦力にならないから、実質的には三人だけ。

 攻め込むとは言うにはあまりにも寂しい人数だ。これではただのタチ悪い観光客だ。

 

「流石に違うわよ。それなりの戦力は集めたつもり。ただ、アイツら暑苦しいから別の場所から月へ行ってもらうつもりよ」

 

 ああ、そういうことね。それなら問題ない……のかな?

 

「ふふっ、まだ月が昇るまで時間はあるけれど、今宵は満月。楽しい夜となりそうね」

 

 なんとも胡散臭い笑を浮かべて紫が言った。

 

 月……か。

 どんな世界が広がっているのだろうね? 輝夜と会えることができれば嬉しいが。けれども、そんな余裕はない気がする。

 

 

『まぁ、戦争と言っても此方から勝手に攻め込み、一方的にやられるだけですが』

 

 

 あの時に言った郵便屋の言葉を思い出す。

 太陽はもうほとんど見えなくなった。天気は晴れ。

 

 しかし、どうにも雲行きは怪しい。

 

 






どうやら郵便屋がいると、この主人公さんなかなか巫山戯てくれないみたいです
何を遠慮しているのやら……

と、言うことで第30話でした
気づけば30話早いものです

諏訪の北東にある湖ってことで、北軽井沢にあるあの湖です
蛍が綺麗ですよね
ちょいと値段は高いですが……


次話は月での話っぽいですね
そろそろ主人公にもはっちゃけてもらいたいところですが、どうなることやら

では、次話でお会いしましょう
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