東方拾憶録【完結】   作:puc119

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第31話~そのために~

 

 

 日は完全に沈み、東の山から月が出てくるのを待つだけ。

 今宵は満月。ちょうど太陽と反対に位置する日だ。

 

 月、か。

 どんな景色でどんな世界が広がっているのだろうか。地球から見ている地球。月から見る地球。そいつは同じようで全く違うのだろう。

 そんなことも少しだけ楽しみだ。

 俺が今いる世界だって、少しだけ遠くから見ると全く違う顔をするのだから。

 

 月が昇り始めるに連れ、少しずつ緊張感が高まる。

 あと数時間もすれば、俺は空で輝くあの月の上にいる。そんなことが信じられなかった。

 

「ルーミアちゃんは何か食べる?」

「お饅頭が食べたい」

 

 輝夜や郵便屋の言葉を聞く限り、俺たちみたいな地球の者には想像のできないほどの力が月の民にはあるのだろう。

 其処へ今から俺たちは行かなければならない。それも侵略と言う形で。

 

「ほいほい、お饅頭ね。飲み物は?」

「あの甘いやつがいい」

 

 侵略……それは強者が弱者に対してする行為。今までの話を聞く限り、どうしても俺たちが強者だとは思えなかった。

 じゃあ、今から俺たちがやろうとしていることはなんだ?

 

「ああ、『ミックスオレ』ね。了解。羊羹は?」

「それも食べたい」

 

 ……下克上。とでも言うのだろうか。宙の上で輝き続ける月へ攻め入るのだ。そんな言葉があっている気がする。

 しかしだ。月から見れば、この地球もまた宙の上に青く光る一つの星。どちらが上で、どちらが下なのか……俺にはわからない。

 

「はい、どうぞ」

「ん、ありがと」

 

 

 そして、だ。

 

「さっきから何やってんの?」

 

 せっかく緊張感を高めようと頑張っているのに、この二人のせいでどうにも調子が上がらない。いや、別に何をしていようが自由だし、俺がいくら緊張しようが何も変わらないけどさ。

 ほら、雰囲気は大切にしたいだろ?

 それに紫だって、貴方たちを見て呆れ顔してるぞ。

 美味しそうに饅頭や羊羹を食べるルーミアを見ると癒されるが……

 何処から出したよ、その食料。

 

「向こうに着いてからお腹が減るのもアレですし、先に腹拵えをしています。月にあるのは桃ばかりですので」

 

 はぁ、ホント貴方って自由だよな。

 なんだか一人で緊張するのが馬鹿らしくなってきた。気張っていても仕様が無い。此方もいつも通りにいかせてもらおう。

 

「俺にもその饅頭をいただける?」

「もちろんです。どんどん食べてください」

 

 いただいた饅頭はほんのりと甘く。何処か懐かしい味がした。

 

 

 

 

 

 

 

 その後も、この時代では珍しい炭酸の入った甘い飲み物や、煎餅なんかを郵便屋からもらい、それらを食べながらその時が来るのを待った。

 完全に遠足気分。俺はもう気にしないことにした。紫から受ける視線は痛かったが。

 

「繋がった……行けるわよ」

 

 紫の声。

 ついに、その時が来たようだ。

 湖には真ん丸に輝く月。これが入口になるのか。

 

「ふぅ、少しだけ食べ過ぎました。ああ、そうだ。ルーミアちゃんはどうする? 一緒に月へ行く?」

「それって、どれくらいで戻ってくるの?」

 

 相変わらず、緊張感のない会話。

 まぁ、この郵便屋は一度月へ行っているのだし、そんなものなのだろうか?

 そう言う話ではない気もするが……

 

「ん~……どうだろう? もしかしたら遅くなっちゃうかもしれないかな」

「それなら私もついていく。桃食べたい」

「そかそか、桃ならいっぱいあるから大丈夫だよ」

 

 あんたら何しに行くんだよ。

 そろそろ紫に怒られるぞ。

 

 ほら、紫を見ろよ。眉間に皺が寄ってるじゃん。おこだよ、激おこだよ紫さん。

 

「……準備は良いかしら?」

「あ、ああ大丈夫だよ」

「僕はいつでも」

「私も」

 

 なんとも締まらない雰囲気。

 傍から見れば、これから攻め込もうとしているとは思わないだろう。まぁ、全部この郵便屋が原因だが。

 こんなんで本当に大丈夫なのか?

 

「他の妖怪たちは先に月へ着いているはず。だから、いきなり戦場になっているかもしれないことは頭に入れておいて。それじゃあ、行くわよ」

 

 紫の言葉が正しければ、この湖に映った月へ飛び込むことで、宙に輝くあの星へ行くことができる。

 

 いきなり戦場か。

 今まで随分と生温い生活をしてきた。なんとも締まらない雰囲気ではあるが、やはり少しばかりは緊張しておいた方が良さそうだ。

 

 一度だけ大きく深呼吸。

 よしっ、行ける。

 

 この先にどんなものが待っているのかわからない。それでも前へ進まなければいけないのだ

 

 そして一斉に俺たち4人は、湖に映った月へ飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「依姫様! あ、新しい侵入者です!!」

「……落ち着きなさい。向こうは何もできないのだから」

 

 気がつくと砂浜のような場所に立っており、ウサ耳を付けた少女たちに囲まれていた。ウサ耳少女たちの手には銃のような物。

 後ろからは波の音が聞こえる。へ~月にも海があったんだな。

 

 ……ホントに此処って月なのか? 真っ白でゴツゴツとした大地に着くのだとばかり思っていた。

 

 いやいや、流石に海はおかしいだろ……それにいつもと比べて、身体が少しだけ重い。おかしいな。確か、月の重力は地球の六分の一なはずだよな。

 

 

『おめでとうございます。これで課題5はクリアとなります。霊力が上昇しました。現在の貴方の能力は「水を創造する程度」の能力です』

 

 

 うん? なんだ。やはり此処は月なのか。これで課題も半分が終了。新しい能力も使えるようになり、なかなか良いペースなのかな?

 

 まぁ、そんなことよりも、だ。

 

 なんだ? この状況は?

 ウサ耳少女たちは可愛らしくて良いのだが、考えていた状況とは違う。これでは出落ちも良いところである。

 

「さて、聞きたいことがいくつかあります。貴方たちですか? 地上から攻めて来た主犯は?」

「さぁ? どうでしょうね」

 

 いつもの扇で顔を隠しながら、依姫と呼ばれた女性に紫は返事をした。

 

 依姫……そう言えば、この女性もあの手紙に書いてあったな。確か豊姫と言う人と姉妹なんだっけかな。うん、美人さんだ。是非罵られながら、おしおきとかされてみたい。

 

 さて、そんなことよりも、だ。

 横目で紫の様子を確認。

 一見、余裕そうな表情。しかし、扇と顔の間にできたスキマから見えたその表情は歪んでいた。

 

 あれ? もしかしてヤバい感じですか?

 

「はぁ、まぁ別に良いですが……因みに、先程この地へ現れた有象無象は全て処理しました。今、残っているのは貴方たちだけです」

 

 紫の舌打ちが聞こえた。

 やはり、状況は良くないらしい。

 

「ああ、能力なら使えませんよ。私たち以外の霊力も妖力も魔力も神力も、この結界の中では無力です」

 

 そうか、身体が重くなったのも、霊力が使えなくなったと言うことか。

 えっ……それはまずくないか? 俺の場合は元々がそれほど強くないから影響は少ないが、他の奴らは……

 どうりで、紫も苦い表情をしているはずだ。

 

 ……これは、ちょいとマズイな。文字通り手も足も出ない。郵便屋とルーミアは両手を挙げ完全に降参状態。そして紫もキツそうだ。

 詰んでいる。

 

「んと、俺たちはこの後、どうなるのかな?」

「とりあえず捕まえます。その後は地上に送り返すか、捕虜となってもらうかのどちらかでしょう。どの道、もう二度とこのようなことをできないようにはさせていただきますが」

 

 そりゃあ、そうか。殺されないだけマシと言ったところだろう。

 

「そうですね……今までの記憶は消させていただくことになるかと」

 

 依姫の声が響いた。

 

 記憶を……消される?

 

 急に嫌な汗が吹き出た。

 いや、待て。それはまずい。

 だって、今の記憶が消されてしまったら、前世の俺を救うことができなくなるかもしれないじゃないか。

 殺されたりするのは別に構わない。けれども記憶を消される。それだけはマズイ。せっかく拾い集めようとしていた物を此処で手放す訳にはいかない。

 

 どうする? どうすれば良い?

 

「……青。あの方を呼ぶことはできる? 今のままでは、全く抵抗ができない」

 

 此方を見ないまま、紫が小さく呟いた。

 

 いや、それはちょっと厳しい。生きたままの状態の俺では、あの緑の彼女と連絡を取る方法がないのだから。

 

 

 そんなことを伝えようとした時だった。

 郵便屋の口から小さく言葉が溢れ落ちた。

 

「アイツは呼ばない方が良いと思います……アイツでも、この結界の中では力を出せませんよ。それほどに月の力は強いです」

 

 

 ……貴方は知っていたのか。俺の中に彼女がいることを。

 

『会わなきゃいけない奴がいるんです。会って言わなきゃいけない言葉があるのです……』

 

 あの日にした会話を思い出す。

 そうか。漸くわかってきた。どうしてこの郵便屋が俺に協力してくれていたのか。全部が全部そうなのかはわからないが、あの彼女のためだったのか……

 

「……じゃあ、どうするのよ?」

 

 紫が言った。

 郵便屋の事情は、少しずつわかってきた。けれども、状況は好転しない。

 

 郵便屋を見てみる。

 いつもと同じ笑顔。

 

 そして――

 

 

「そのために僕は来ました。ルーミアちゃん。紫さん。少しの間、我慢していてください」

 

 

 郵便屋が言った。

 

 郵便屋の言葉を聞き終わると、ポツリと一粒の雨が顔に当たった。

 

 






誰が主人公なのかわからないですね
もう少し進める予定でしたが、文字数が増えるのも嫌でしたし此処で止めました

と、言うことで第31話でした
これで漸く半分が終了です
この調子でいけばあと30話くらいで完結できそうです

緑の彼女や郵便屋にとってこのお話の主人公はあの変態さんですが
あの変態さんにとってこのお話の主人公は誰でしょうね?

次話は月でのお話っぽいです

では、次話でお会いしましょう
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