東方拾憶録【完結】   作:puc119

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第64話~その地獄へ続く道を~

 

「それじゃ、行きましょうか」

 

 夏。満月の晩。

 なんとも妖艶な笑みを浮かべた紫が言った。

 

「うん、よろしく頼むよ」

 

 9番目の課題をクリアするためのまず第一歩。そうそう上手くいくとも思ってはいないが、動き出さなければ始まらない。そもそも、スカーレット姉妹が課題の対象なのかもわからないしな。

 それでも、戻っているわけではないのだ、一歩ずつ着実に進んではいるはず。

 

 

 

 

 この十日間は、まぁ、それなりに充実した日々だったと思う。ルーミアや妹紅と再会し、楽しい時を過ごすことができた。最初はおかしかった妹紅の様子も昔のように戻り、ルーミアともそれなりに仲は良さそうだ。ルーミアも、妹紅のことは嫌いじゃないと言っていた。俺のことは嫌いとも言っていた。

 

 山の上にいる巫女さんの場所へも行ってみたが、其処には随分と能天気な巫女さんが一人で暮らしていた。お世辞にも立派とは言えない神社。どんな神様を祀ってあるのか聞いても、巫女さんは知らないそうだ。それでも良いのか……

 神社の名前は博麗神社と言うらしく、巫女さんは其処で人里から依頼を受け、妖怪退治をするらしい。まだ若いのに大変そうだ。てか、それなら人里に住めば良いじゃんと思ったが、博麗神社ってのは幻想郷にとってとても大事なものらしく、離れるわけにはいかないんだって。

 神社にどんな役割があるのか聞いてみたが、それは忘れたらしい。もう少し頑張りなさいよ。

 そんな、なんとも不思議な巫女さんだった。まぁ、いただいたお茶はやたらと美味しかったから、また今度行ってみようかな。何より、巫女さん可愛かったし。

 

 他にあったこと言えば、ルーミアにぶん殴られたり、犬だか狼だかわからん妖怪に襲われている人間の女の子を助けたり、妹紅とお酒を飲んだり、ルーミアに怒られたりしたくらいで、特に珍しいことはなかった。

 もっと可愛い女の子が沢山いると思っていたんだけどなぁ。なかなか出会いに恵まれない。

 まぁ、ルーミアや巫女さん、妹紅のような可愛い女の子と知り合いってだけで充分か。

 

 それに、これからは紫との新婚旅行が始まるわけなのだ、其方を楽しむとしよう。吸血鬼の姉妹だってきっと可愛い女の子なはずなんだ。とても楽しみ。

 

「そう言えばさ、どうやって西洋まで行くんだ? 船? それとも飛んで行くの?」

 

 何方にしても大変そうだ。船とか辿り着ける気がしないし。だからと言って飛んでいくのも大変だろう。地球は広いのだから。

 

「そんなことするわけないでしょ」

 

 そう言ってから、紫は手に持っていた扇を軽く振り下ろした。

 そしてできる、あの不気味なスキマ。

 

 ……ああ、そう言えば普通に月まで行けたよね。そりゃあ、地球の中くらいなら簡単にソレで移動できるか。それに紫が空を飛んで移動するところとか見たことないし、面倒くさいことが嫌いなのだろう。

 いいなぁ、その能力。そんなのもうチートじゃん。まぁ、どうせ俺じゃあ扱いきれないだろうけれど。

 流石は大妖怪。やることのスケールが違う。

 

「ほら、中へ入りなさいな」

 

 むぅ、便利なのはわかるが、どうにもこのスキマの中へ入るのは抵抗がある。スキマから出たあと、頭がフラつくし。アレが車酔いと言う奴だろうか?

 しかし、言い訳ばかりしている訳にもいかないため、気は進まないがスキマの中へ入り込んだ。大丈夫、きっと可愛い女の子が俺を待っているはず。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 スキマを越えると、真っ赤な景色が広がっていた。あまり目に優しい景色ではない。

 

 たぶん建物の中だろう。此処が吸血鬼の住む家なのかねぇ? そして、目の前には青みがかった髪をした少女が一人。

 あら可愛らしい。背中から羽とか生えちゃってるけど、コスプレだろうか?

 

 ……まぁ、そんなわけないわな。きっと、目の前にいるこの可愛らしい少女が例の吸血鬼なんだろう。スカーレット姉妹の何方かはわからないが。

 いきなり、現れた俺のことを睨みつけてくれてはいるが、まず此処は挨拶をしなければいけない。日本語は……まぁ、通じないか。英語なら通じてくれるかねぇ?

 

「Hi would you like to go out sometime? So...we will enjoy the day being with each other. I am crazy about you」

「…………」

 

 少女が固まってしまった。

 むぅ、伝わらなかったのか? 困ったな英語以外は碌に喋ることなんてできないぞ。英語だってあやふやなんだ。これ以上はどう仕様も無い。

 

「何バカなことをやっているのよ。今晩はレミリア・スカーレット。月の綺麗な素敵な晩ね」

「……またお前か。今日も同じ用?」

 

 あれ? スカーレットさん、日本語喋ることできるんですか? 何それ聞いてない。これじゃあ本当に馬鹿みたいじゃないか。なんだよ、それなら最初からそう言ってくれよ。

 そして、どうやらこの少女がレミリアなんだな。しかし、レミリアは姉と妹の何方だろうか?

 

「ええ、そうね。どう? 幻想郷へ来る気にはなった?」

「はぁ、前も言った通りそんな場所へ行く気にはならない。私は此処で満足しているの。それに他人の言うことを聞くのは気に食わないわ」

 

 ん~……思っていたレミリアと目の前にいるレミリアはちょっと違うな。もっとこう、うーうー言ってカリスマの欠片もないような女の子だと思っていた。

 まぁ、あの手紙も当てにはならないし、こう言うこともあるか。

 

 んで、紫の用事と言うのはスカーレット姉妹を幻想郷へ誘うためだったんだな。どうなんだろうか? もしかしたら、スカーレット姉妹も幻想郷へ来ることになるのか?

 

「それで……其処の失礼な男は?」

 

 なんと……俺はただ貴女へ愛を伝えただけだと言うのに、それが失礼になってしまうのか。それは悲しい世界だ。

 

「名前は青。貴女たち姉妹と会うために此処へ来たんだよ」

 

 さてさて、スカーレット姉妹のもう一人である、フランドールは何処にいるのかな?

 

「……ねぇ、青。以前も言っていたけど、スカーレット姉妹? それはどう言うことよ」

「どう言うことって聞かれても……そのままの意味だよ。俺が会いたいのは、スカーレット姉妹の妹の方だ。んでさ、レミリア。君は妹さんなのかな? それともお姉さんかな?」

 

 どう考えても、このセリフは迂闊だった。今まで、知らなかったせいで失敗してしまったことはあったが、知っていたせいで失敗したのはこれが初めて。

 けれども、言い訳をさせて欲しい。まさか、レミリアが自分の妹のことを隠していて、あの紫ですらフランドールのことを知らなかったなんて思わなかったんだ。

 

 

「……確かに私たちは姉妹よ。そして私は姉。けれど、そのことはこの館に住む者以外には教えていない。どうして、今日初めて会ったお前が妹のことを――フランのことを知っている?」

 

 

 瞬間、空気が震えた。

 明らかにわかる怒り。

 

 ヤバい、完全にミスった。アホか俺は。どうして事前に紫へ確認しておかなかった。

 しかし、何故だ? 何故、レミリアはフランドールのことを隠していた? 其処にはどんな理由がある?

 

 困ったな、流石にこれは風の噂で聞いたでは、納得してもらえそうにない。嫌な汗が止まらない。随分と殺伐とした新婚旅行になってしまった。

 

「なるほどねぇ、君がお姉さんか……なんで、フランドールのことを隠していたんだ?」

 

 これが殺気と言う奴なのだろうか? ピリピリと肌の痺れる感覚が止まらない。これはこれでちょっと気持ち良いけど、此方を睨みつけてくるレミリアさんがマジ怖い。

 しかし、引き下がるわけにはいかないんだよなぁ。

 

「貴様如きに教えるはずがない。質問に答えろ。どうしてフランのことを知っている? お前の目的はなんだ?」

 

 そんなことを言われてもねぇ。こっちだって教えるわけにはいかない。どうしたものか。

 

 今回の課題の対象が、フランドールなのかはわからない。しかし、どうにかしてフランドールと接触しなければ始まらないのだ。それに、どうにも怪しいじゃないか。

 これなら賭けてみる価値は充分に、ある。

 

 

「目的か……んなもん決まっている。君の妹――引き篭ってしまったフランドールを、外へ連れ出すためだよ」

 

 

 俺のセリフを聞き、レミリアの表情が驚きへと変わった。

 どうだ? 賭けに勝つことはできたのか?

 

「……死ぬぞ? お前程度じゃ」

「大丈夫だよ。俺は不老不死だから……簡単には死なないさ。それに可愛い女の子に殺されるのなら本望だ」

 

 どうやら、今回の課題はフランドールで当たりらしい。しかし、どうにも雲行きが怪しい。

 俺が死ぬ? つまり、フランドールに殺されると言うことか?

 

「ちょっと青! 説明して。これはどう言うことよ?」

 

 まぁ、紫はフランドールの存在すら知らなかったんだ。そりゃあ、この状況についていくことなどできないだろう。俺だってよくわかってないし。

 半分がはったり、もう半分はノリで喋ってる。

 

「やらなきゃいけないことができたんだ。悪いけどさ、先に帰っててくれ。ああ、あとこのお酒、山の上の巫女さんにでも渡しておいてもらえる?」

 

 神便鬼毒酒の入った瓢箪を紫に渡しておく。いつ幻想郷へ帰ることができるのかわからない俺より、あの巫女さんが持っていた方が役に立つだろうしさ。

 

「不老不死、ね……お前程度には全く期待していない。けれども、いいわ。案内させてあげる」

 

 ありがとう。

 

「そう言うことだ。頼んだよ紫。大丈夫、用事が終わったら直ぐに戻るよ」

「……貴方は、何者なの?」

 

 さぁ? 何者なんだろうね、俺って。

 そんなもの、俺が知りたいくらいだ……ホント、誰か教えてくれませんか?

 

 ふぅ……んじゃあな、紫。暫しのお別れだけど、きっとまた会えるさ。

 すまんな。いつもいつも迷惑かけてさ。

 

「はぁ、もう慣れたから別に良いわよ。何をするのか知らないけれど、まぁ、頑張りなさいな」

 

 うん、ありがとう。できるだけやってみるよ。

 

 

「此方です」

 

 横からそんな声をかけられた。おお、本物のメイドさんだ。

 どうですか? この後、俺とお茶しませんか? ああ、無視ですか、そうですか……

 

 ふむ……さてっと、そんじゃ引き籠もりに外の世界の広さを教えてやるか。

 悲観することなど何もない。未来はきっと明るいはずだ。

 

 

「……青」

「どうした?」

 

 メイドさんについて行こうとした時、レミリアに呼び止められた。なんだろうか?

 

 

 ――フランをお願い。

 

 

 たった一人の家族。君達姉妹がどう生きてきたかなんて知らないけれど、きっと思うところはあるだろう。お姉ちゃんだって大変だもんな。

 

「ああ、任せとけ」

 

 レミリアにそう声をかけ、軽く手を挙げる。今会ったばかりの人間に、期待なんてしてはいないだろう。

 それで良いさ。

 さて、可愛い女の子のため、少しばかり頑張らせてもらうとしよう。

 

 

 決して、甘い考えではなかったと思う。

 今までそれが原因で失敗を繰り返してきたから。

 けれども、相変わらず不器用な俺。考えを変えた程度じゃ何も変わらない。今回の課題はちょいとばかしヤバいっぽいです。

 

 






最近、いただいた感想の数が話数を越えました
いつもありがとうございます

と、言うことで第64話でした
新婚旅行らしさは皆無です
まぁ、そりゃあそうですよね

さらりと書いた人間の女の子を助けたお話は、閑話としていつか書くかもしれません
たまにはカッコイイ主人公とか書きたいですよね


次話は、今までとはちょっと変わったお話になりそうです
今まで、良い思いをしてきましたし、そろそろ主人公にも痛い目にあってもらわないと

では、次話でお会いしましょう
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