紅魔館を飛び立って直ぐに気づくことができたが、どうやら紅魔館が移動した先は、あの俺が凍らせていた湖の畔だったらしい。誰にも被害が及ばない場所で良かった。
チルノの家がちょうど紅魔館のある場所辺りにあった気もするが、まぁ、それは気にしても仕様が無い。あのくらいの家ならまた直ぐに作ることができるだろう。
頑張れ最強。強く生きるんだ。
向かう先は山神だか何だか知らんが、随分と偉くなりやがったあの畜生の元。良い加減、この巫山戯た畜生との物語を終わらせよう。
そんな、畜生の元へ向かって飛んでいると、ゾワリとあの感覚がした。
あら、もう気づいたのか。流石は大妖怪。
「どう言うこと? どうしてレミリアたちが? それに強い妖力が3つと魔力が1つ……これじゃあバランスが崩れてしまうわよ」
「あっちの世界は飽きたんだってさ。まぁ、大丈夫だろ。アイツらだって無闇矢鱈に人や妖怪を襲ったりはしないだろうよ」
支配するとか言っていた気もするが、どうしてか成功する気はしない。レミリアもかなり強いだろうが、肝心な時に抜けてそうだし。
それに、強い妖力のうち2つはほとんど機能しないよ。美鈴は優しい性格の持ち主で、フランドールは外にすら出てこないだろう。パチュリーも外で元気に動き回れるほど身体は強くない。外で元気に燥ぎ回るパチュリーとか見てみたいな。
「それよりも……アイツは?」
「……まだあの場所にいるわよ。じっと何かを待つようにただひたすら、あの場所に」
じっとあの場所に……ねぇ。随分とまぁ、律儀なことで。
あの畜生が言葉を理解するとは思えない。それでも、畜生が待っている奴が何なのかくらいはわかる。アイツが何を考えているのかなんて知らん。けれども、これは俺が終わらせなきゃいけないことだ。
「了解。そんじゃ、ちょっと行ってくるよ」
「……ねぇ」
「うん?」
どうしたのだろうか? なんだか意味深な問いかけっぽいが……
「……いえ、やっぱりやめておくわ」
むぅ、またこの流れですか。
ホント、皆何を考えているんだろうね。俺にはわからないことが多過ぎる。何年生きたって疑問はちっとも減ってはくれない。
「ただ……貴方が思っているよりずっとこの世界は、貴方に優しいはずよ」
そうなのかねぇ。そんなことを思ったことなんて一度も無いが……
どんなに頑張ったって上手くいってくれない方が多かった。この世界を恨んだことなど一度もないが、もう少しくらい優しい世界に生きたかったよ。
「なぁ、紫」
「どうしたの?」
「もし俺が、あの熊畜生を倒してきたらキスしてくれる?」
それくらいのご褒美は合っても良いのでは?
「莫迦言ってないでさっさと行きなさい。きっと青が来るのを待っているわよ?」
「先っちょ。先っちょだけでいいから」
ぶん殴られた。
やっぱりこの世界は優しくないと思うんだ。
――――――――
この東方projectの世界へ転生し、もう千数百年。俺の予想が正しければ、今いるこの幻想郷が、東方projectの舞台なはず。
東方がどんなゲームなのかはわからない。それでも、多くの可愛い女の子が登場するゲームと言うことくらいはわかる。神・妖怪・亡霊・人間と何でもありだ。
そんな素晴らしい世界に転生できたことは、幸運なこと。できれば、ずっとこの世界へいたいものだよ。できればだけどさ……
もう少しくらいきゃっきゃうふふといきたいところではあった。けれども、今までの長い人生振り返ってみても、俺は充分満足している。これ以上は贅沢と言う奴。
沢山の可愛い女の子と触れ合い、過ごし、時の流れに乗ってきた。そんな俺の物語だった。決して全てが全て上手くいったわけじゃない。むしろ、失敗の方が多かった。それでも、頑張ったんじゃないのかな。なんて自分でも思ってしまう。
幻想的で、美しいこの世界。どうせなら、綺麗なままで終わらせたいところ。穢してしまうにはもったいない。
だから――
「これで終わりにしようぜ。お前と俺の物語をさ」
これは俺の物語。
そんな俺の物語の主人公はお前でも俺でもない。あの可憐な幻想郷の少女たちだ。お前や俺のような、モブキャラが出しゃばるべきじゃないんだ。
木々や草花のない空間。相変わらず、体からはドス黒い妖気の様なものが流れ出ている。威圧感がパない。
どうせ、今の俺でもコイツには殺されるだろう。けれども、負けることだけはない。何度殺されようが、直ぐに生き返るのだから。最終的に勝てば問題ないのだ。
あの太い腕を軽く振るわれるだけで、その頑強な脚による蹴りを受けるだけで、俺の体は砕かれる。一発一撃。それほどの実力差。そんなバケモノになってしまったのは全て俺が原因。
きっと俺に対して恨み辛みいっぱいだろう。ちょいと長く生き過ぎだ。俺もお前も。
「……おい」
この畜生が何を考えているのかなんて、わかりやしない。それでも、俺に対して良い感情を持ってやいないことくらいはわかる。
本編から外れてしまった下らないサイドストーリー。そんなものはさっさと終わらせるべき。
「おい!」
けれども――適当に流せるような話でもない。
目の前にいるのは、畜生にとって殺したいほど憎い相手なはず。自分をそんな存在へと引き上げられた元凶。諸悪の根源。
そんな存在なはず。
そんな相手が目の前に、今直ぐにでも殺すことのできる位置にいる。
そうだと言うのに――
「どうして動かない?」
俺の問いかけに、畜生はやはり何も答えない。
畜生との間合いはもう1米もないと言うのに。
その巨体を横に倒し、顔だけを此方に向けたままピクリとも動かない熊畜生。いくらお前と俺に実力差があろうが、何もしないお前を殺すことくらいは俺にだってできる。
「良いのか? 死ぬんだぞ?」
俺は何を言っているのだろうか。コイツは倒さなければいけない存在。そんな相手に、何を問いかけているんだろうか。
……たぶん、今の状況に頭が追いついていなかったのだろう。今までの畜生と言えば、目が合うだけで殺された。問答無用で容赦なく。
そんな畜生が今は全く動かない。それがわからなかった。
「……良いんだな」
確かにお前はモブキャラだ。この物語に登場する意味なんてほとんどないようなキャラだ。それでも、それは俺の物語の中の話。俺には俺の、お前にはお前の物語があるはず。
そんなお前の物語は終わろうとしている。俺なんかに滅茶苦茶にされた挙句、俺なんかに終わらせられようとしている。お前はそれで良いのか?
畜生の顔に右手を当てる。
それでも畜生は動かない。
後は能力を使い、畜生の身体の中にある水分を気体へと変えるだけで、畜生の命は終わるだろう。そうだと言うのに、畜生は動かない。
数百回は殺されるだろうと覚悟していた。そんな俺の覚悟を笑われているようで、無性に腹が立った。
だって、これじゃあまるで……俺に殺されるために此処にこの畜生がいるようじゃないか。そんなことが有り得るのか? 数百年もの間、ただただ俺に殺されるためだけにコイツは此処に居たのか?
ホント何考えてんだか……なぁ、最期くらい教えてくれよ。
お前は……俺は何のために生きてきたんだ?
畜生は何も答えなかった。
霊力を強化。
そっと目を閉じ、少しばかり集中。
そして──能力を使った。
結局、最期の最後まであの熊畜生は動かなかった。
さようなら。
せめて安らかに眠ってくれ。
――――――――
熊畜生を殺し、無駄に入っていた力が一気に抜けその場に倒れ込んだ。
はぁ……これで俺も神様を殺した重罪人だ。誰に謝れば良いのかもわからない。
最期の最期まで、あの畜生が何を考えていたのかはわからなかった。俺のことを恨んでいなかったとは思えない。少しくらい抵抗しろってんだよ。そっちの方がよっぽど殺りやすかった。
目を閉じ、少しばかりの考え事をしてみる。
これでまた一つ、物語が完結した。
それは、決して後味の良い物語などではなかった。
緑の彼女や郵便屋にあの熊畜生と全員が全員、本来はこの世界に登場しないキャラ達だろう。そんなイレギュラー達の物語は終わり、唯一残されたイレギュラーな存在が俺。
残された課題は後一つ。今だ確証は持てない。しかし、恐らく最後の課題をクリアした時が俺の物語の終わりなのだろう。
バッドエンドは苦手なんだけどなぁ。どうせなら皆で笑っていられるようなエンディングを迎えたかった。
最後の課題をクリアした時、この身体がどうなるのかは教えられていない。もしかしたら、幻想郷の少女たちと笑い合える未来なのかもしれない。けれども、どうしてもそんな未来が想像できなかった。
いつか思ったように、この世界を越え記憶を拾い集めるための物語はバッドエンドだろう。きっと綺麗になんて終わってくれない。
それでも、俺なんかがこの世界へいつまでも残っているわけにもいかないんだよなぁ……
緑の彼女や郵便屋、そしてあの熊畜生は自分が消えるとき、何を思っていたのだろうか? 自分が消えることに対する恐怖? 現世への未練?
それとも――
目を開ける。
決めました。
最後の課題、終わらせよっか。
クマさんの出番はこれで終了となります
長い間お疲れ様でした
と、言うことで第71話でした
この作品もあと、2話だそうです
ホント、長かったですねぇ……
次話が終話となります
最後はやっぱりルーミアさんにお願いしたいところです
最後の最後までごめんね、あとちょっとだけあの変態のことお願いします
では、次話でお会いしましょう