星落ちる世界に祝福しろ!   作:つがう

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 黒いなにかのその言葉に、雪香ははっと両手で口を塞いだ。柔らかな声音の言う通りにすることにして、足早に家へと帰ることにした。

 

 この黒いなにかはなんなのか、そう考えながら歩いているとあっという間に家に着いた。家の中に入ると、母親のホリィが雪香を出迎えてくれる。

 

「お帰りなさい、雪香ちゃん! 承太郎はまだ学校?」

「うん。掃除当番なんだって。待ってようかと思ったんだけど、先に帰っててって言われたから帰って来たの」

「あらそうなの。おやつはどうする? もう食べる? それとも承太郎を待つ?」

「承太郎が帰ってきてからにする」

「そう、じゃあそれまで宿題でもやってたらどうかしら」

「そうする!」

 

 元気の良い返事をして自分の部屋へと向かう。ランドセルから教科書を取り出して机の上に置く。それから椅子に座って、宿題に取り掛かる……前に、あの黒いなにかに話しかけた。

 

「えーっと、君についていろいろ聞いてもいいかな?」

『勿論にございます』

「それじゃあ、君の名前! 私は空条雪香。ずっと呼んでいるけど、雪香でいいからね」

『はい。わたくしの名前はO.E.(オーイー)と申します。そのままO.E.とお呼びください』

 

 4本の腕をすべて揃えてぺこりと礼をする。その際に頭を覆う白い布が揺れるが、中は見えそうにない。次に雪香は、気になっていたことを質問した。

 

「どうして私の前に現れたの? いつからいたの?」

 

 それに答えるように、O.E.は口を開いた。

 

『雪香がこの世界に生まれて初めて脅威と呼べるものは先ほどの出来事であったため、雪香を助けるために発現いたしました。ですがわたくしがわたくしとして存在していたのは厳密には貴女が生まれ落ちた瞬間からとなります』

「私が、この世界に生まれたとき? それじゃあ前世やその前、ずっと前はいなかったの?」

『はい。この世界で雪香の魂が確立したときにわたくしという存在が生まれました。それがこの世界の摂理ですから』

 

 O.E.の語る言葉は少々雪香には難しかったらしく、雪香は首を傾げていた。いくら転生を繰り返したところで爆発的に頭脳が賢くなるわけではない。別に雪香の頭脳がお粗末というわけではないのだが、O.E.の言葉は少々哲学じみているというか、難解だったのだ。だがそれ以外にも疑問はある。

 

「さっき、O.E.のことは同じような能力を持っている人しか見えないって言ってたよね。それってどういうこと?」

『はい。それに関してはわたくしが存在する際に、教えていただきました』

「教えていただいた……? 誰に?」

『それに関しては答えられません。というより、わたくしにも正直よくわかっていないのです。ただ声が降り注ぎ、わたくしのようなものが何なのかを教えてくださっただけですので』

「そうなんだ。重ねて質問してごめんね。さっきの続き教えてくれる?」

『はい。姿・形はあるけれど、目には見えない力、傍に現れ立つというところから、その像を名付けて"スタンド"……そう規定されております』

「スタ、ンド……」

『わかりやすく例えるならば、超能力がありますね? 宙に浮かぶ、スプーンを曲げる、遠くのものを動かす……そういった事象はわたくしのようなスタンドの像が本体である貴女を抱えて宙に浮かべる、わたくしがスプーンを曲げる、わたくしが遠くのものを動かす……といった風に起こしていると考えてください』

「超能力の擬人化、ってわけだ」

『その通りでございます!』

 

 雪香が指をぱちんっと鳴らしながら言うと、O.E.は2本の腕でぱちぱちと拍手をしながら褒め称えた。その様子が可愛くて、雪香は思わずくすっと笑ってしまった。

 

『わたくしたちスタンドには能力のパラメータが存在致します。色々ありますが、特に大事なのは射程距離かとわたくしは思います』

「射程距離とな」

『はい。わたくしの射程距離、本体である雪香からどれだけ離れられるか、並びにどれだけ能力の効果が及ぶか……といった次第になります。これも声に簡単に教えてもらったのですが、最低で2メートル以下、最高で100メートル以上となります』

「ふんふん」

『それを踏まえてわたくしの射程距離をお教えいたします。わたくしの射程距離は厳密には規定されておりません』

「…………うん?」

『わたくしの能力は事象改変。わたくし、または雪香がとある事象を"在る"といえばその事象は存在し、"無い"といえばその事象は消失する。それは全世界に及ぶものであり、わたくしの射程距離とは即ち、この世界全てということなのです』

「な、なんかスケールが凄すぎてよくわからない……」

 

 O.E.の説明に雪香は目を回していた。雪香は頭の中で必死に整理しながら理解しようと努める。

 

『勿論わたくしが勝手に能力を、事象改変を行うことはありません。それに加えてあまりにも大きすぎる事象改変は同等に雪香、または別のどこかで大きな負担がかかります。わかりやすい例を挙げるならば……何者かの死を否定すれば、否定された者とは別の存在の命が終わることでしょう。絶対ではありませんが、改変が大きくなれば大きくなるほど、どこかで帳尻合わせが起こる可能性が高いです』

「そりゃあまたおっかない……」

『なのであまりこの能力を乱用する、多くの人間に話すことは推奨致しません。わたくしもできる限り雪香をお守りしたいと思っておりますが、限界というものがございます』

「うーん……まあ、同じスタンドを持っている人にもなるべく話さないようにするよ。自分のことをべらべら話すのは不得意だしね」

 

 雪香の座る椅子がギッと音を立てる。背もたれに体重をかけて、雪香は天井を見上げた。

 今度の転生は普通には終わらないような気が既にして、雪香は不安を感じてしまっていた。

 

 

 

 

 O.E.から様々な説明を聞いてから簡単すぎる小学校の宿題を終えてベッドに寝転がりながら本を読もうとした時、部屋の扉からノックの音が聞こえた。雪香がどうぞと言うと、承太郎が部屋へと入ってきた。

 

「承太郎~! おかえりー」

「ただいま、姉さん。母さんがおやつを用意してくれたから、居間の方においでって」

「はーい」

 

 雪香は返事をして本を閉じると、承太郎と一緒に居間へと向かった。そこにはホリィが用意してくれたクッキーがテーブルの上に並べられていた。雪香は早速席に座って食べ始める。さくっという食感と共に口の中に甘さが広がっていく感覚はとても幸せだった。雪香が満足そうにしているのを見てか、承太郎も微笑んで自分もクッキーを食べ始めた。それからしばらく他愛もない話をしていると、ふと雪香が思い出したように言った。

 

「今日変な人に腕掴まれたんだよね。怖かったなあ」

「……は」

 

 世間話のひとつとして何気なく口に出した言葉だったが、ピリッと空気が張り詰めたのを感じた。それに雪香は少し驚いた様子を見せた。

 

「あ、え、承太郎? 大丈夫だよ、運良く何事もなく逃げられたし。だから平気だったよ」

「……本当に、何もなかったのか?」

「うん。ちょっと怖かったけど……。でもなんともなかった! だから、ね? そんな怖い顔しないで?」

「……今度からはどっちかが掃除当番でも一人で帰らないようにする。いいな?」

「う、うん」

 

 承太郎がぐっと雪香に顔を近づけながら言うものだから、雪香は首を縦に振るしか無かった。

 

(承太郎は心配性だなぁ)

 

 そう思いながらも、自分が大切だからこそこうやって過保護になるのだと考えるとその気持ちがくすぐったくて嬉しかった。それに、雪香だって承太郎がそんな目に遭ったとしたら同じだけ心配するだろう。結局のところお互い様なのだ。

 だってこの世界に他にない己の片割れなのだから。

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