続きでございます。タイトルを不穏にしてしまいましたが,今回のお話は割と辛目というか,必要な過程を踏まさせていただくので気分悪くなったりしたらごめんなさい。
では!
懐かしい夢を見ていた
『アンコール! アンコール!』
北の大地で行われた何かの野外フェス,まだ小さかった私は幼馴染のお父さんに連れられて見に行った。最初は何なのか全く分からなかった。どうせつまらないものだろうって思っていた。
それは当時私の右手を握ってくれていた人も同じだったと思う
だけど
つまらないなんて事は全くなかった。寧ろそれは,まだ小さかった私の中に入り込むように熱を灯してくれた。
爆発寸前のエネルギーは,力強い歌声で解き放たれた
「すごい……! 私も……いつか!」
そう……私は初めてあの瞬間に”歌”に出会って……
「じゃあ約束しよう! 2人で歌を歌ってあの人みたいな大きなところで一緒に歌うんだ!!」
あなたのその輝くを笑顔を見たくて,私もあなたと同じステージで……もっと大きな舞台で……2人で歌を歌いたいって……私達は約束を交わした。
だけど……
「ここ……どこ……?」
気が付くとましろは上下左右,光も差さない暗闇の世界へといた。周囲を見渡しても何もない。何も光がない。
そんな空間に唐突にやってきてしまったましろは,焦燥感が胸の内を支配されながら誰かいないか声を張り上げる
「お母さん,お父さん!」
だけど帰って来たのは反射したように戻ってきた自分自身の声,まるで明かりのない四角い箱に囚われてしまったようにましろは動けず,手だけは動かせたから両手を握りしめ必死に叫ぶ
「つくしちゃん! ななみちゃん! 透子ちゃん! 瑠唯さん!」
自分のバンドのメンバー……月の森女子学園に来て出来た初めての友達にして仲間。彼女らとならきっと自分達が求める”輝く”ステージを見る事が出来ると信じてこれまでやって来た。
そうだ……その筈だ……
「みんな……どこ……?」
その声は徐々にすすり泣くようなものになり,その場で立ち止まったましろの脳裏に映ったのは自分が蓮の事を好きになったきっかけのヒーローショー。
今のように不安に押しつぶされそうになりながら蹲った4歳のましろ,そんな彼女を見つけた蓮が手を指し伸ばして2人は出会った。
『だって,泣いてる女の子をたすけるのが
あの日と同じ曇りなき晴れ晴れするような笑顔……今も昔もましろが大好きな蓮の笑顔。
暗闇にいるましろも,その笑顔が脳裏に浮かんだだけで不安だった気持ちが和らいだのを感じた。記憶の中の蓮はヒーローソングを歌ったり,応援していた
──だけど
「は……あ」
ましろが呆然と呟くと,彼女の脳裏に確かに存在したはずの蓮との記憶が黒く塗り替えられて……
「どうして……?」
その事にましろが呆然としていたら,ふと前に人影があるのに気が付いた。
11年前よりも背が伸び,大人っぽくなった彼の存在……ましろは彼がいたことに光を見出して彼に近づこうと足を動かした
「蓮君! まって!!」
無我夢中で叫びながらましろは走って蓮に追いつこうとした。上下左右,その認知すらできない暗闇の中でましろは必死に前に足を動かした。
しかし,前を歩いている蓮との距離は一向に縮まらない。
「おねがい……蓮君……待って……待ってよ……!」
そう懇願しても,止まってくれない冷たい背中のましろに大粒の涙を溜めて必死に走る。
──どうして待ってくれないの?
「はぁ……はぁ……」
蓮との距離は縮まらず,更に……更に遠くへと行ってしまう。
──どうして止まってくれないの?
ましろの胸中の想いがどんどん大きくなり必死にもう一度叫んだ
「蓮君! どうして待ってくれないの?!」
彼女の眼から溢れる涙,そしてそれが零れ落ちる音……それがこの暗闇の空間に響いた時,ようやくましろの遥か先を歩いていた蓮の歩みが止まった。
「蓮君……」
今の内と,ましろは更に走って蓮との距離を詰めようとするが……蓮の足はその場に留まり続けているはずなのにも関わらず何故かましろがいくら走っても走っても全く距離が縮まらない
「どうして……」
ましろはその内その事実に絶望し,顔を真っ青にしながら足を止めてしまった。すすり泣きながらましろは目の前の蓮が何かを言うのを待った。
彼はましろが立ち止まったのを察したのかゆっくりと振り返って来た
「……ッ!」
そしてましろは振り返って来た蓮に対して息を飲み思わず一歩,足を下げてしまった。蓮? は,いつもキラキラしていた瞳を混濁に染め,いつもの覇気がまるで感じられず……その癖して人を傷つけるようなナイフのような切れ味を雰囲気として纏っていて……今までましろも,そして誰も見たこと内であろう蓮の姿にましろは直感的に”恐怖”を感じてしまった。
それは,先程脳裏にあった蓮の姿が真っ黒に染められたことにも拍車をかける。
「れ……ん……くん?」
だから少しの震え声で蓮? に尋ねると,彼がするはずのない嘲笑の笑みを浮かべて言った
「倉田,どうしたんだい?」
「……え?」
倉田……ましろの名字であるその名前は呼ばれる分にはなんら違和感のない呼び方。だけどましろにとって蓮からの呼ばれ方は何時の間にかそう呼ばれるようになった”しろちゃん”しかなかった筈なのだ。
だけど……
「君の名前は倉田だろ? 僕との約束を忘れた裏切者」
心底小馬鹿にしたような蓮の笑みは,蓮を拠り所にしていたましろの心を簡単に砕いた。
蓮が何を言っているのか全く分からずましろは,その顔を更に青くしながら呆然と呟いた
「や……く……そく……?」
頭がもう殆ど機能停止しながら,残った思考能力で必死に蓮のいう”約束”を思い起こそうとする。だけど……いくら思い出そうとしても思い出す事は出来なかった。
ましろのその顔を見て察した蓮は続けた
「思い出せないなら思い出させてあげるよ」
そう言われてましろの中に蘇った昔の記憶,昔蓮の父親に連れられて見に行った北海道で一番大きな野外フェス……ディスティニーロックフェスティバルの記憶。
今と寸分も違わぬ大勢の観客の中で,幼きましろと蓮は手を繋ぎ同じステージを見て,同じステージに興奮していた。そして場所は映り,帰りの車の中で蓮とましろはライブの話をずっとして……そして約束を交わした
「じゃあ約束しよう! 2人で歌を歌ってあの人みたいな大きなところで一緒に歌うんだ!!」
「……! うん! やくそく!」
過去の自分が,過去の蓮と交わした約束。
「あ……」
思い出させられ呆然としたましろに叩き込むように蓮? は続けた
「だけど……君は僕達が離れ離れになったあと歌を続けていたのかい?」
「それ……は」
ましろの瞳孔が大きく開き,徐々に心臓の鼓動が酸素を欲するように激しくなっていく。
「わた……しは」
徐々にましろは呼吸がままらなくなりその場に蹲り始めた。今の今まで忘れていた己の過去,2人の約束。そしてその為の努力をましろは蓮と別れた後に……していなかった。
大好きな人と離れ,彼との記憶を繋いでいた歌を……彼がいない事で歌う事が出来なくなっていたから。そう……2人が別れたあの日からましろは歌の練習をしてこなかった。
それを再開したのは戸山香澄との出会いの際,バンドをすると決めた時から。だけどそれは蓮と交わした約束の為ではなかった。
だからこその蓮の言葉。しかし,蓮? の追撃は止まなかった。
「僕は努力した。君と別れた後もずっと歌い続けた。だから僕はディスフェスにも,LRフェスにも出ることが出来た」
それはある事を除けば事実だ。蓮はディスフェスという大舞台に行くために,ましろと離れた後も歌を歌い続けた。それが合唱部の件に繋がり,そして今の蓮を形成した。
彼にとってディスフェスの舞台……そしてましろとの約束はかけがえのないものだった。
「でも……君はまだそんな所で立ち止まっている」
「あ……あ……」
そうして蓮? がましろに見せたのは月の森音楽祭,そしてこれまでライブハウスで行ってきたCiRCLEも含めた様々なライブ。
ましろにとっては一世一代ともいえるステージの数々,今でこそ少し慣れてきたが最初の頃はステージに立つ前には緊張でお腹もよく痛くなっていた。
「ちが……私は……」
だけどそれだけは反論したかった,例えこの蓮? にとっては2人の約束の言う大舞台じゃなくても……モニカの皆と一緒に駆け抜けて来たこの時間を否定される事は……例え蓮? だとしても許せなかった。
でも……言いたい事はあるのに,伝えたい言葉があるのに頭の中でぐるぐると回ってしまい口を閉じてしまう。
「そんな君と僕は歌いたくなんかない」
「え……?」
嘲笑,侮蔑,軽薄な笑みを浮かべた蓮? はそのままましろに振り返ることなく先へ……遥か先へと歩いて行った。まるで”君は僕に追いつけない”,そう言っているように。
それを漠然と思ったましろは追いかけても追いかけても縮まらないのにも関わらず走り蓮? 叫んだ
「蓮君待って! おいて行かないで! 蓮君!」
しかし,彼は振り返る事はなく……涙で視界が歪んでいたましろの世界は深淵へと沈んだ
★
心臓の音が……私の呼吸を止めようと聞こえなくなっていく
沈んでいく世界の中で私は彼の……蓮君の名前を呼んだ。だけど……蓮君が現れる事はなく
「待って,おいて行かないで!」
私は無我夢中で待ってって声をかけて……現実に目覚めた。
「は……あ……あ」
眼を開けた先には真っ暗な部屋の天井が見えて……違う。目元が何かで滲んで見えなくなってた。それが涙だと気が付くのに少しの時間が必要だった。
私は天井に誰かを追い求めるように手を伸ばしてた……だけれどその手を掴んでくれる人はいなくて……私は1人だった。さっきの事が夢だって……ようやく気が付いた。
意味が分からなかった……さっきの……私の……夢
「蓮君は……あんなかおしない」
人を見下したような嘲笑の眼……蓮君なら絶対にしない顔……違う。
「違う……違う違う……絶対に……違う!」
何が何だかもう全然分からなくなって近くにあったミシュラビのぬいぐるみを力一杯抱きしめてみるけれど……それでも胸の中にあった不安は消えなかった。
それどころかどんどんさっきの蓮君の……蓮君じゃないあの顔を思い出して私はもう……なにも考えられなくなっていた。蓮君の事を考えようとしたらさっきの夢の蓮君の顔に上書きされていく。
私との時間を楽しんでいない顔。私の事をどうでもよさそうに見る混濁した眼。
私の中の不安と絶望が……私の記憶まで塗り替えていく。
蓮君と初めて会った日の事,蓮君の事を好きになったあの日の事,蓮君の事を探してCiRCLEで再会した時の事,他にも沢山あった……この短くても沢山あった蓮君との思い出が……変わって行ってしまう
「おねがい……やめてよ……」
誰に頼んだのかも分からない私の嘆願は……虚しく暗闇に消えていってしまった。
『ましろの悪夢』
身体が……重い……まるで鉛みたいに動けなくなって……起きる気力も湧かない。
身体を起こす事は出来ても,ベッドから降りる事が出来ない。
学校に行こうって思っても……身体が言う事を聞いてくれない。
「蓮……くん」
私があの悪夢から起きてどれくらいの時間が経ったのだろう……今はようやくお日様の光がカーテンから差し込んできたから……もう7時位かな?
でも……私は……動こうと思っても金縛りにあったみたいに動けなくて……頭も……ちょっと重い。
「ましろちゃん起きてる?」
「お母さん……うん。おき……てる」
「……入るわよ」
お母さんはそう言ってドアを開けて入って来て私を見ると,とっても心配気にベッドに座って優しく顔に触れてくれた。
「どうしたのましろちゃん?」
その優しい声に私は今にも崩れかけた。だけど……お母さんに心配させたくない。だってこんな夢ってだけで動けなくなるだなんて知ったら……これからもきっと心配してくれる。
それはとっても嬉しいけれど……私は成長出来ない気がしたから。
……違う……私は言葉にするのが怖いんだ。
「……言いたくない」
ああ……私はまた駄々っ子みたいに周りの声を聴かないんだ。
でも仕方がないんだ……私はそうやって生きて来たから。
「そう……無理はしないでね?」
お母さんはそう言って無理に聞こうとしないでくれた。
「学校,どうする?」
その言葉の中に「無理にいかないで良いんだよ」って意味を感じて少しだけ……ほんの少しだけ心が温かくなった。だから私はそれに答えたくて……自分でも声が出ていないって分かるけれど小さな声で言った
「いく……。今日は練習があるから」
蓮君とあのショッピングモールで色々あった日から2日後……あんなに幸せだったのに……なんでこんな夢を見たんだろう……?
私と蓮君が交わした約束を私が忘れていたから……?
私が蓮君と2人で歌を歌えるって舞い上がってたから……? 私も蓮君と同じ舞台で歌えるって思い上がっていたから……?
私はただ……蓮君と歌えるのが楽しみなだけだったのに。
なんで……どうして……なんで……?
私の疑問は尽きることなく……頭と身体が重いまま学校に登校した。
お疲れさまです!
悪夢系のお話,僕は割と好きでよく使うんですけれど夢だからこそ自分の心の底に思っていることが具現化したような出来事を映し出す事が出来るのです。
夢を夢だとで終わらせるのか,でもそれが悪夢だった場合割と精神に支障きたすのは自明の理。
あ,先に言っておくと夢の中の蓮は口調もそうですけど大事なことを忘れている…或いは誰かと出会わず,またある人と出会って影響受けまくってしまった世界線の蓮です。ぶっちゃけると偽物です(知ってたって声がめっちゃ来そう)多分ここだけでしか見れない蓮です笑。
書いててデュエット編サクッと終わらせようとしたらそうできなくなり始めた計画性のない筆者なのでした。
次回は多分明日の朝くらいでます。明日はましろが悪夢を見るきっかけのお話ですね。
それからアンケート,今日の0時には締め切らせていただきます。一位は今の所変わらずですが,2位が接戦です笑。
ではでは!
あ,ちゃんと最後はましろも蓮も幸せにするので是非ご拝読お願いします!
恋人になった2人の関係性どんなのが良い?
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今まで通りましろから蓮に激攻め
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逆に蓮がましろに激攻め
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寧ろお互いがお互いに激攻め
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というか全部やれ