という訳でましろが悪夢を見たきっかけのお話です。
時系列は試着室が終わった後のお話です。
では!
それはましろと蓮の2人が試着室で色々会った日の事……。透子とつくしが隣の試着室から離れて行ったのを感じたましろと蓮はそっと外を伺い,何食わぬ顔でその服屋を離れた。
結局蓮はましろがおすすめしてくれた服の中から2セット選び,それを購入した。……因みに店員さんには怪訝に見られていた。
「その……色々ごめんね?」
それは先の試着室の件,確かにましろが蓮の着替えが終わったタイミングで突撃すると言う客観的に見たらとっても変態じみた行動の結果2人はちょっと酸素が足りなくなるまで試着室に閉じこもる事になったのだ。
あのままずっと2人で試着室に閉じこもっていたらつくしたちに見つからなくてもきっと,店員さんに見つかって注意で済むか分からなかった。
「ううん。しろちゃんがどうして嫌がったのか分からないけれど……大丈夫だよ」
蓮は蓮で先程の事がまだ頭から離れないのか,頬を薄く紅く染めて眼を泳がせいていた。そんな様子もましろには何だか可愛く見えた。
ましろはあれからどれくらいの時間経ったのか気になりスマホの時計を見ると既に15時を回っている所だった。そして……肝心なデュエットの事について全然話し合っていない事に気が付いた。
「あ……デュエットの話まだ全然出来てなかったね」
少し最初の目的とは違う集まりになってしまった事に若干の焦りを出したましろはどうしようと隣を歩いている蓮を見上げた。
「本当だ……。色々あってすっかり忘れていたね」
蓮もましろの一言で今日の本来の目的を忘れていた事にうっかりした様子で天を仰いだ。そして思いついたように,飛び切りの笑顔をましろに向けた
「しろちゃん,今からカラオケ行こ!」
七星蓮,かつてボッチ街道をひた走っていた時からカラオケに通っており,その時していた1人カラオケで今のバンドのメンバーである結人と航海に「運命だ―ッ!」叫ばれ色々あってArgonavisのメンバーになった身。
そしてバンドを組んでからも良くカラオケには行くので直ぐにカラオケという選択肢が浮かんだのである。
しかしましろは一瞬そのほっぺに熱が灯ったのを感じながら少し考えた
「カラオケ……うん。いいかも」
少し間があった理由は……また密室に蓮と2人きりになる事を一瞬考えてしまったからである。カラオケはそのシステム上基本的に密室なうえ大体防音が施されている。だから基本的に聴き耳を立てなければ中でどのようなことが行われているのか分からないものである。
だから最近テレビではカラオケがいかがわしい事に使われている……など偶に見る。
(だ……大丈夫。蓮君はそんなことしない)
別にましろはそんな事が起きると思っている訳では無く,さっきの今でまた密室で2人きりになると言う事が嬉しいのだと自分に言い聞かせる。
ましろと蓮はさっそくそうと決めたらショッピングモールを出て,近場のカラオケに向かった。この都会なので割と直ぐに見つけられ,2人は2時間とドリンクバーをそれぞれ注文して指定された部屋へと向かった。
(カラオケ……久しぶりだな)
ましろは蓮ほどカラオケによく言っている訳では無かったので何だか久しぶりな感じがしている。モニターに映っている映像は見ているだけでこれから何かが始まるんだと予感させてくれて,緊張とドキドキが身体を満たし始めている。
そう……この時までは普通だったのだ。蓮と一緒にカフェに行って,一緒に服を見て……そんなありふれたデートだった。でもそのありふれたデートが,離れ離れの時間を作っていた2人にとってとっても楽しくて大事な時間だった。
蓮が歌いたくてうずうずしているのを見たましろが先に蓮に歌う事を勧める。
蓮は嬉しそうにタブレットから歌う曲を選び,その曲がモニターに繋がれスピーカーから大音量の音が流れてくる。ましろはその曲があの幼き日に2人でよく歌っていた特撮の歌だと気が付いた。
(懐かしいな。よく2人で一緒に歌っていたよね)
あのディスフェスが終わり,音楽の火をつけられたあの日の事。ましろが引っ越してしまうほんの少しの間で2人が歌えるようになった唯一の曲。実際はソロボーカルだから確かに1人で歌えるのだが,蓮とましろはこの歌を一緒に歌って,2人で一つの歌を歌えた初めての曲なのだ。ある意味がこれが2人で初めてデュエットした時の思い出の曲。
でも今はもう殆どの歌詞を忘れていてしまったので,ましろは少し残念に思いながらイントロが終わり歌いだそうとしている蓮を見た。
そして……その差に内心愕然とした
(蓮君の歌……凄い)
彼の歌はかつての彼の面影を残しつつも,遥かな高みへと至っていた。確かに歌っている歌はあの日と同じ特撮ソング,しかしもうその曲はましろが知っている曲ではなかった。
歌っている蓮を見ると心の底から絞り出しているような声量に己で磨いた天性までの技術
(なに……これ)
彼にかかればただのAメロですら,そこらの有象無象が放つ盛り上がりを遥かに凌駕するほどに熱く激しく,青い炎がましろを焦がし始める。
彼の歌を聴いたのは別に初めてではない,ディスフェスの映像……そしてLRフェスで行われた3回のライブでその凄さは実感しているつもりだった。
だけどこうして間近で蓮の歌を聴き,そのレベルの高さを直接……肌に叩きつけられたかのように鳥肌が止まらなくなり歌う蓮の姿から目が離せなくなった。
(ずっと頑張っていたんだね,蓮君は)
彼の歌をこれほど間近で聞き,今まで”大好きな人”という色眼鏡で見ていた蓮の歌の凄まじさを直接感じた。
色眼鏡で見ていたからこそ蓮の歌が凄いと当然だと思っていた。しかし,こうして目の前で聞いたことによってその色眼鏡が全て打ち砕かれ,ただただそのレベルの高さに唖然とした。
(わたし……は?)
今彼が歌っている特撮ソング,かつては2人で歌っていたこの歌を自分がソロ歌ったとして彼ほどこの曲で人の心を熱くすることは出来るのか?
(むり……だよ)
歌詞を忘れたとか高音が出せないとかそんな次元の話ではない。
彼はましろと別れてからもこの曲を何度も何度も歌い続け己の限界に挑み歌唱力を磨いてきた。
対して,ましろは蓮と別れたあとに歌っていたか,そう聞かれるとyesと言えなかった。蓮との思い出を……寂しさをぬいぐるみに乗せて”平凡”な生活をしてきた。音楽と無縁になったましろがボーカルとして歌の練習を始めたのは高校一年生に上がってから。
11年間歌い続けて来た蓮の歌唱力と,今年バンドのボーカルとして歌う事を始めたましろの歌唱力には大きな差があった。さっきまでは全く考えていなかった事だった。
(私は蓮君と歌えるんだって思って嬉しかった。蓮君の隣で歌えるんだって……でも)
彼の歌唱力を真正面からぶつけられたましろは,蓮の歌から感じる圧倒的な量の努力と天才性の歌声と共に自分の声が重なる所を想像した。
自分が魂を宿した
だけど出来なかった。彼が自分の歌声に重なっても塵のような不協和音を生み出し,逆もまた同じだった。
(私は……蓮君と歌えるのかな……?)
彼と声を重ねられるのは彼の事を良く知っている人が添えるように歌うか……彼と同じ圧倒的な努力と才能を持った
──自分は……蓮と一緒に歌うのに値しない人間なのではないか
たかが商店街のデュエット大会,ましろにとってミッシェルのぬいぐるみが欲しいがためのイベントだった筈。だけどましろには既にそんな考えはなかった。
頭の中をチリチリと嫌な感覚が支配し始めて,ましろはそれを振り払うように自分が歌う曲を入れた。
お疲れさまです。
最初は那由多辺りにましろに「お前が七星と歌えるのか?」みたいなことを言わせようかと思ったのですが,蓮とましろが那由多に会う状況が浮かばなかったのでましろが直接感じたようにしました。
勿論今まで蓮達のライブを見て来たましろですが,2人で幼き日に歌った”二人で一つ”の曲を今の蓮はあの日よりも圧倒的な歌唱力で”1人で歌える”曲にしたんですよね。
そこで感じる蓮と己の差,そしてただ一緒に歌えると思っていたましろが感じた不安が”一緒に歌えるのか”という無意識の想いが悪夢となって襲ってきた感じです。
ぶっちゃけプロから既にスカウトを受けた事ある蓮と様々な経験をしたとは言えまだアマチュアの域を出ないましろの歌唱力が一緒なわけじゃないのはあるのでここら辺は妥当なのかなと個人的には思っています。
余りにレベル差がある人と一緒にするのはプレッシャーですからね,今作のましろは蓮の事が大好きなので余計に。
ただ自分は勿論ましろのというかモニカの歌はArgonavisと同じ位好きですし,ましろの歌声も勿論好きなので気分悪くなってしまったらいたら申し訳ないです。
ここから再起するためのましろと蓮の群像劇,楽しみにしてくれてたら嬉しいです。
ではまた次回!
恋人になった2人の関係性どんなのが良い?
-
今まで通りましろから蓮に激攻め
-
逆に蓮がましろに激攻め
-
寧ろお互いがお互いに激攻め
-
というか全部やれ