蓮とましろが小さい頃に別れた幼馴染だったら   作:レオ2

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こんにちはこんばんわ!
大変お待たせしました,大会編でございます。
短編を踏まえて少し書き直したりしたので結局前後編に分ける事にしました。

では!


[デュエット編]大会開始!

 商店街活性化の為のイベント,カップルデュエット大会。Afterglowを始めとした様々なガールズバンドがあるこの地域だからこそ出たと言っても過言ではないこのイベントの前評判は宣伝に力を入れていたからか結構な人で賑わっていた。

 まるでお祭りのように屋台が立ち並び,まだ大会は始まってはいないと言うのにこの盛り上がりはましろに確かなプレッシャーを与えていた。

 

「うぅ……人とっても多い。何だかお腹が痛くなって来た……」

 

 夏祭りと同じような雰囲気……いやある意味夏祭り以上に盛り上がりを見せるこの人の流れから見て知らない内にもしかすると大きな大会だったのかなとましろは思ってしまった。

 そして,ましろが先程から胃をキリキリさせているのにはもう1つの理由があった。

 

「……カップルが多い」

 

 そう言う事だ。

 元々カップルを呼び込んで街に住ませようという魂胆の大会ではあるので,流石にカップルでこの大会を……ついでのように開かれているミニ祭りを楽しんでいる人達が先程からチラチラと見える。実際に屋台ではカップルで食べられるようなメニューも用意されてそれを2人で食べていると言う光景も見受けられていた。

 

「私も……いつか……」

 

 蓮と並んで食べさせあいっこをしたり,同じものを一緒に食べたり同じ時間をいつまでも過ごしていたい……と考えたましろだが欲にまみれた考えを急いで振り払った。

 この2週間ずっと蓮の事を考えて尚更に蓮の事を求めてしまっていた。幸い最近はデュエットするからという体裁で週に何度も蓮に会う事は出来ていたが,今日が終わればその理由も無くなってしまう。

 

(いや……だな)

 

 この1か月間,嫌なこともあったけれどそれ以上に楽しい思い出が増えていてましろの部屋には蓮と2人で撮った写真が既に何枚か飾られている。だけど今日が終わればその写真も少なくなってしまうのかなと……ましろは寂しく思った。

 だけど,2人は今日の事をずっと楽しみにしていた。だからこそ今日を楽しむと2人は決めていた。

 

「しろちゃん!」

 

 そんな事を考えていたましろを,屋台でりんご飴を買っていた蓮が帰ってきてましろもつい微笑みかけた。

 

「凄い人だね」

「うん。すごくビックリした」

「歌うの楽しみだね」

 

 蓮もそう微笑んでりんご飴をましろに渡す。ましろはそれを笑顔で受け取り,2人は並んで大会の待機所まで向かった。あと1時間ほどで大会が始まるのでそろそろ準備する必要があったのだ。

 ……主にましろがだが。

 

「そう言えば結人さん達も来てるの?」

「うん。少しだけどArgonavisの物販をするって万里が言ってたよ。それから凛生が観戦しながらでも見れるような軽食を作って売ってるみたいなんだ」

「そっか。ふふっ,皆しっかりしてるんだね」

 

 ついでに言うと航海と結人は呼び込みだ。実はArgonavisはこの大会が決まった時点で屋台申請をしておりこの大会に出店している1団体として迎え入れられていた。

 万里は持ち前の経済戦略で物販出来ているし,凛生の作る軽食は既に美味しいと話題を呼んで今の所大盛況のようだ。

 

「皆僕達の番にはお店を閉めて応援に来てくれるって!」

「うぅ……それはちょっと恥ずかしいかも」

 

 今日の大会にはMorfonicaのメンバーも見に来ると言っていたし,ましろのお母さんも見に来ると言っていたし……モニカのメンバーから広まったのか他にも知り合いのバンドが何人も見に来ると聞いていたのでもう既に羞恥の針に刺されまくっているましろだが,もう賽は投げられた。

 あとは2人で楽しんで歌うしかないのだ。

 

「じゃあ……蓮君後でね」

「うん」

 

 蓮とましろは出場者の待機所へとやってきて,ましろは蓮と別れて女性の更衣室へと向かって行った。蓮も男性用の更衣室で何故か今日の為に結人達が見繕った白色のスーツに着替えた。

 スラリとした蓮の姿は様になっていて,蓮本人は少し恥ずかしいと思っているが見繕った結人達に言わせれば完璧なのだそうだ。

 着替えを終えた蓮は一足先に出場者達の控室へとやって来た。

 

「わぁ……」

 

 蓮の目の前に広がった光景は,色々な男女が緊張やワクワクといった感情を共に共有して今か今かと大会を待っているという光景だった。

 参加条件がカップルと言う事は,2週間前にましろから伝えられたばかりだが2人で歌うと言う事は何も変わらない事実の為に今の今まで気にした事が無かったが今まさに本物のカップル達を見て……一瞬自分とましろが”そうなっている”所を幻視した。

 

(し,しろちゃんとは幼馴染だから……!)

 

 そう言って自分の感情に名前を付けようとするのを止めて,蓮は近くの椅子に座ってましろが来るのを待った。だけど,周りで幸せそうな男女の声を聞いていると不思議と落ち着かなくなってしまう。

 まさか周りの男女と同じことをましろとよくしているだなんて全く自覚がないようである。

 

「————」

 

 緊張と不安を自分の中で抑え込んで,恐らく20分後。あと10分という所で殆どの参加者が控室に集まって来たと言うのにましろの姿がまだ見えなくて蓮は緊張とかよりも心配の方が勝り始めてきた頃……控室の扉が開き少し部屋の空気が変わったのを蓮は感じた。

 扉の方を見ると──美しい姿をしたましろが姿を現していた。

 

「しろ……ちゃん」

 

 ましろは薄い青色をメインにした,金色や青色のブローチが付いているドレスを着ていて蓮はまるでましろから眼を動かせなくなってしまったのかのようにましろの事を凝視していた。

 更にましろのヘアスタイルもよく拘っているのか,頭にはピンクのコサージュが付いているカチューシャに普段の彼女にはなかった編み込みがされていた。

 

「れ……蓮君。ど……どうかな?」

 

 そしてましろ本人もこの格好が恥ずかしいのか……或いは蓮にどんな反応をされるのか分からなくてドキドキしているのかほんのりと頬を紅くして蓮の事を見ていた。

 その蓮と言えば……ましろに見惚れていて言葉を返すことが出来ず,ただ恥ずかしそうに頬を紅く染めたままましろを見つめていた。

 

「蓮君……?」

 

 まさか蓮が自分に見惚れている訳がないというましろのネガティブさと,もしかして……という密かな希望がましろの中に混在した。

 そしてようやくましろに声をかけられたことに気が付いたのか蓮はハッとしたように上ずった声で言った

 

 

「えっとその……しろちゃん凄く似合ってて……見惚れてた」

「……え? ……!!?」

 

 蓮の言った事を自分の中でリピートし,咀嚼し,その意味を理解したましろは驚愕の声と一緒に体温を上昇させた。

 

(蓮君が……見惚れ……)

 

 ただその事実がましろにとって心臓が爆発しそうなほど嬉しくて,はにかみながらそっと蓮に近づいて手を握った。

 

「し……しろちゃん?」

 

 その大胆な……カップルなら誰でもするような事でも今のましろにとっては勇気がいる事であり,それで反応してくれる蓮が嬉しくて天女の笑みを浮かべて言った。

 

 

「蓮君のスーツも……凄く似合ってるよ」

「……! あ,ありがとうしろちゃん」

 

 

 そう言って何だか2人して恥ずかしくなったのか,全く同じタイミングで笑いあって一緒に他の参加者の所まで行った。そして参加者の誰もが2人を思わず見てしまう位,レベルが高い衣装と……カップル度的なものが高かった。

 2人とも自分達がそんなに見られてしまう理由が分からなくて握っている手を少し強めた。

 

「皆さん揃ってますね!」

「あ,つぐみさん」

 

 そしてそんな参加者が揃ったのを見て現れたのはイベント委員会の腕章をはめている羽沢つぐみだった。参加者と歌う曲の名簿が書かれているボードを抱えながら周囲を見渡すと,蓮とましろが視界に入ったのか一瞬眼をぱっちりと大きくした後に微笑んだ。

 

「……~ぅ!!」

 

 そのつぐみの視線の意味を理解したのか,ましろは恥ずかしそうに目を伏せた。そんなましろを放っておいてつぐみは今回のカラオケ大会について話し始めた。

 

「本日はこのカップルデュエット大会にお越しくださりありがとうございます! 今回の参加者は20人……10組のカップルの人が参加してくださって本当に嬉しいです。今日は皆さんで今回のデュエット大会を盛り上げてください!」

 

 つぐみのその気合が入った声を受けて各カップルは楽しそうに笑う者,緊張で少し硬くなっている者,様々な人がいた。因みにましろと蓮は最初からこの舞台を楽しむと決めているため前者の反応ではあるが……2人ともお互いの存在を確かめ合うように手を握り安心を得ていつしかそこが桃色空間に見えた人がいたとかなんとか。

 

「それじゃあルールを説明しますね。今大会ではカラオケ機器を使って歌っていただきます。順位の決め方は商店街の入り口にあるこのチラシやあちこちに置いてあるQRコードから特設ページに入ったお客さん達の投票によって決まります。それから今回は配信もあるので楽しみにしてくださいね」

 

 言われる中で蓮とましろは先程着替える前に貰った紙を見る。簡単に今回の大会についてのルールが書かれているもので概ねつぐみの説明通りの事が書かれていた。

 控室からはステージの様子を見る事が出来るようになっていて,それを見た蓮が疑問を浮かべていた。

 

「景品については最後まで秘密ですが,優勝賞品が皆さんの期待に応える事が出来るというのは保証しますので頑張ってくださいね!」

 

 確かにまだ目的であるミッシェル人形については何位に貰えるのかはまだ知らないが,例え何位の景品だろうとましろと蓮は手を抜くことなんて絶対にしない。

 それをする事は今日の為に色々してくれたそれぞれのバンドのメンバーや,お互いの事……そして音楽に対する冒涜だからだ。だから自分達は全力で楽しんでお客さんに自分達の歌を聴かせる,それだけのことなのだ。ぶっちゃけお互いいつものライブと変わらない。

 

「ここまでで何か質問がある人はいますか?」

「あ……良いですか?」

「蓮君……?」

 

 隣で蓮が手を挙げて質問した

 

「その……どうしてステージにドラムやキーボードが置いてるの?」

 

 蓮がさっきステージを見て思った疑問,何故か自分達が歌うはずのステージにドラムやキーボードが置かれていてバンドマンである彼が気になるのは無理もない。さっきつぐみが言った通り今回のイベントは楽器じゃなくて機械を使うはずだったからこその質問。

 つぐみはその事を理解したのか少し苦笑いしながら答えた

 

「あれは今大会に有志でライブが開かれてその名残です。大会が始まる前には片付けられるのでお気になさらないでください」

「そっか,ありがとう」

 

 蓮はつぐみの言葉に納得して一歩下がった。正直そのライブの事は何一つ覚えていないが,ましろを待つことに集中を割けていたので気が付かなかったのは今の蓮の状態を考えれば当然かもしれない。

 つぐみは蓮が下がったのを見て,他の参加者からの質問もないと見るや後ろの係の人から何かを受け取りながら言った

 

「それじゃあ順番を決めるので代表者1人このくじを引いてください」

 

 そう言ってつぐみが取り出したのは中が全く見えないようになっている箱で中には1から10と番号が書かれた棒が入っている。その引いた番号によって歌う順番が決まるのである。

 そしてこの順番と言うのが存外大事な物でありで一番最初のカップルはその後のカップル達の基準ともなり,逆に最後はトリを務める関係もあって一番印象に残りやすい場所。そして真ん中は印象を残しにくい場所というのはよく言われている事である。

 蓮とましろは小声で少し相談した後,蓮がくじを引くことになり彼が引いてきたのは──

 

「えっと,七星蓮さんと倉田ましろさんは……10番,最後になります!」

「ええっ!?」

 

 つぐみのその宣言にましろは驚きの声をあげてしまい,蓮は蓮で最後を引き当てた事にはビックリしていたが自分達のやる事は変わらないと思いなおしその10番の棒をつぐみに返した。

 そしてましろがつぐみとすれ違う瞬間

 

「頑張ってね,ましろちゃん」

「——ッ! ……はい」

 

 ほんの小さな声で,ましろとつぐみにしか聞こえない位の声で交わされたエールにましろの胸の中にあった緊張が少し解けたのが分かった。

 2人はそうして自分達の番が来るまで控室で待つことになった。

 

 

 


 

 

 

 商店街ステージには既に多くのお客さんが入っていて,アマチュアどころかただのカップルが歌うだけという企画なのにもかかわらずよく賑わっていた。

 それはArgonavisも例外ではない。先にステージの席を取りに行っていた航海に提示された場所に屋台を閉めて来た結人達が来ると4人分の椅子に座るように言った。

 

「航海サンキュー,席取ってくれて」

「ほんと助かったよ。もう足が棒みたいになっちゃった」

「白石はそうでもないだろう。普段から色んなバイトをしてるのだから」

「あ,バレた?」

 

 凛生と万里は同じ屋台のスペースで物販や軽食を販売していたので2人ともずっと立って接客をしていた筈なのに疲れが見えないのは流石マルチバイトホルダーの万里と高校野球児の凛生だと言った所か。

 

「それより,蓮と倉田さんの順番が出たよ」

 

 そう言って航海が指さしたのはステージにある電光掲示板で,そこにはカップル名……あるいは参加する2人の名前が順番に並んでいて蓮達はまさかのトリだった。

 

「蓮達は最後か,良い所を貰ったな」

「これは優勝間違いなしだね」

 

 この大会はそもそもアマチュアな人が出るものではなくある程度歌に自信があるカップルだけ。だから実際はレベルもたかが知れていると言うのは正直ある。そしてトリを飾ると言う事はお客さんの印象にも大きく影響を与える事になると分かっているからこその万里の発言。

 

「何が起こるか分からないから断言は出来ないけどね」

 

 航海もそんな事を言ってはいるが,見た所参加者に有名な歌手とかがいる訳でもないからきっと大丈夫だろうと思った。そんな彼らに声がかかった

 

「あ,結人さんたちじゃん! おーい!!」

 

 人混みの中からそんな声が聞こえ,4人が振り返ると見知った少女達が手を振っていて自分達も振り返すと彼女達はこちらまでやって来た。

 やって来たのは透子とつくしと七深の3人,1人瑠唯がいないがどうしたのだろうと思った。

 

「Argonavisの皆さんこんにちは! 早いですね」

「こんにちは二葉さん。俺達は元々出し物をしてたからな」

 

 だから来るのも早かったのだ。

 

「あ,知ってます! 万里さんと凛生さんが出してすっごく人気だったんですよね!」

「ありがとう。俺もあそこまで売れるとは思っていなかった」

 

 凛生が軽食として作ったのはメンバーからも好評だったサンドイッチだったのだが,どういう訳か直ぐに売り切れるほどの人気を誇った。

 まあ凛生曰く

 

「俺は天才だからな」

 

 四字熟語になりそうな男にノミネート寸前の男は言う事が違う。

 

「そう言えば八潮さんはどうしたんだ? 一緒にいないのか?」

 

 モニカのメンバーの内ましろは今控室で蓮と一緒だろうからいないのは当然として,彼女たちの最後のメンバーである瑠唯がいなかったのは少し意外に思って問いかけた。

 

「瑠唯の奴は家の用事で来られないそうなんですよ~! せっかくシロの晴れ舞台だってのに」

「まあまあ透子ちゃん。お家の用事じゃ仕方がないよ。配信は見るって言ってたから許してあげようよ」

「ははっ,とーこちゃんは私と一緒に作ったしろちゃんの衣装を生で見せられないのが悔しいんだよね~」

 

 透子をなだめるようにしてたつくしだが,七深は透子が少し不機嫌な理由を完璧に言い当てて見せた。その作った衣装というワードがArgonavisの注意を引いた。

 

「倉田さんの衣装を……って作ったのか? 今日の為だけに?!」

 

 ステージ衣装ならまあ分かる。長く使うものだから自分達でデザインしてそれを着るのは何も不思議ではないだろう。しかし今回はただのデュエット大会……カップル限定という制約はあるがまさか新しい衣装をましろの為だけに作ったと言う2人に驚きを禁じ得なかった。

 

「流石お嬢様学校の人はやる事が違うね」

「まあ流石あたし達って感じですよね! さっきもシロの着替えを手伝いに行ってたんですよね」

「だから今まで姿が見えなかったのか」

 

 この3人は先程まで大会関係者として控室に通してもらい,女性更衣室でましろの着替えを手伝ってつくしは得意のヘアアレンジでましろの髪を結っていた。あのましろの衣装は三人の集大成とでも言うべきものだったのだ! 

 

「あ……でももう座れるところがないね」

 

 しかしそこでつくしは辺り見渡してみると,既に席は超満員で座れなかった人達は立っていたりしている。中には知り合いのバンドの先輩達もいて後で挨拶に行こうとつくしは思いながら困ったように顔を難しくする。

 

「あ,マジじゃん。立ってみるしかないか~」

「俺の席座りなよ」

 

 万里はそう言って自分の席をつくしに譲り,それを見た航海と凛生もそれぞれ立ち上がり透子と七深に席に座れるようにした。

 

「え,わ,悪いですそんなの!」

「良いって良いって。俺達の方が体力はあると思うし立った方が蓮君達をよく見えるしね」

 

 嘘だ,蓮達の出番は一番最後の為こんな理由が通じるのはこの大会の最後のみ。そうやって理由を付けて自分達を座らせようとしてくれたのだとつくしは察して──少しましろの気持ちが分かってしまった。

 

(万里さんって……凄く優しい)

 

 以前ArgonavisとMorfonicaのメンバーで合同練習をした際もつくしと万里は同じドラムで,STARTING OVERの先輩は万里なので結構話したり一緒に練習を行っていた事がある。その時も万里は優しくしてくれたのを思い出した。

 

「じゃあその……ありがとうございます」

 

 そう言ってつくしが万里が座っていた席に座ると,七深は凛生にお礼を言って,透子は航海にお礼を言って席に座った。残りは結人が座っている場所なのだが……何やら近くにいた子供を呼んでそのまま席を譲っていた。

 4人はそのまま立ちながら苦笑した。結局こうなるのだが,レディーファーストという奴だから仕方がない。気を取り直して今大会の司会であるつぐみがステージに上がってマイクのテストや,先程のライブのドラムやキーボードを片付けている光景を見ながら呟いた

 

「さて,蓮達は大丈夫かな」

「あいつらなら大丈夫さ,きっと」

「そうだな」

「うん。2人のお手並み,拝見しよう」

 

 そうやってArgonavisのメンバーが楽しみにしていた頃,また違う席ではこんな会話が繰り広げられていた。

 

「あ,有希那先輩! リサ先輩!」

 

 ポピパの戸山香澄がポピパのメンバーと共にましろと蓮の雄姿を見届けようとしている中で,やってきた鼠色のロングヘアの女性達に明るく声をかけると,彼女は香澄たちがいる事に気が付いたのか一瞬口元に笑みを浮かべこちらに近づいて来た。

 

「こんにちは,戸山さん」

「やっほー。皆お揃いだね」

「有希那先輩が来るなんて少し意外」

 

 湊有希那,Roseliaというプロも注目しているバンドのボーカリストでポピパの年より一つ上の高校三年生だ。そして花園たえが思わずといった様子で口に出た疑問は香澄以外は思った事である。

 実力主義の本格派バンドとしては,今回の趣味の延長線上でしかないデュエット大会に興味を持つとは思わなかったのだろう。そしてたえの疑問に答えたのは有希那の隣にいた赤茶色の女性……今井リサだった。

 

「あたしが誘ったんだ。ましろちゃんも出るからって」

「勿論倉田さんを応援しにきたのは嘘ではないけれど,私は彼女のパートナーの事が気になっただけよ」

「パートナーって……あ,蓮さんの事ですか?」

「そう言えば,戸山さん達はArgonavisと面識があったわね」

 

 2週間前に行われたMorfonicaとArgonavisの共演の事は有希那も知っていた。ましろが歌えなくなってしまった事も含めて話には聞いていたが,確かポピパの前座としてこの2バンドが出演したと言っていたのでポピパとArgonavisに面識があるというのは当然の話である。

 

「ArgonavisはあのLRフェスに出場したバンド,まだ彼らのライブには都合が悪くて行けなかったからこの機会にボーカルの彼の歌をチェックしたいと思っただけよ」

「あー,なるほど」

 

 研究の為なら有希那が来るのも一応納得が出来る。問題は有希那ではなくて……

 

「いやー,でもあたしらの中で一番彼氏作るのが早かったのはましろちゃんだったか」

 

 今井リサ,今時の女子高生らしく流行を必ずチェックはするし必要ならば自分もする身。恋愛という事をまだした事がない……かっこよく言うのなら音楽やRoseliaという存在自体が恋人のようなものだが,やはり女子高生らしく恋愛には興味はある。自分の知り合いのバンドの子達は皆可愛いのに,バンド一筋みたいな人が大概なので恋人がいるましろの事をリサは応援しに来たのである。

 

「リサ先輩,それはまだちょっと違うって言うか……」

「え,何が?」

 

 有紗はそう言って今のましろと蓮の状態……つまりまだ付き合っていないと言う事を明かした。

 

「ええっ?! それってこの大会の趣旨的に大丈夫なの?」

「まあつぐみさんはノーコメントだったから多分大丈夫だと思いますけど……」

 

 ましろのやる気に満ち溢れた姿を見たからこそ言い出しにくかったのかもしれないが,それはやっぱり大会の趣旨とは違うと言うのは本当なのでリサは戸惑っている様である。

 だけどもそんなリサの心配も裏腹に有希那は

 

「倉田さん達の歌を聴けるなら何でもいいわ」

「有希那……少しは興味持とうよ」

「私の音楽に恋愛は必要ないもの。ただ,私の気持ちを倉田さんに押し付ける気もないわ」

「でもでも,参加資格がカップルってどうやって判断するんでしょう? ましろちゃんみたいに男女で出られたら分からないと思うんですよね」

 

 香澄が至極当然の疑問をその場にいた人たちに投げかけると,リサは少し考えても分からなかったのか苦笑気味に答えた

 

「うーん,確かにね。男女は皆カップルって訳じゃないだろうし……」

 

 別に順位が低くて景品を貰えないような人達がカップル詐称をしていたとしても,景品が貰えないから大した意味はないのだが仮にましろと蓮が優勝してしまったら一応カップル詐称中の彼女たちなのでそれはそれで優勝賞品を貰うのは少し違う気がする。

 なら少なくとも優勝したカップルにはカップルだと証明する何かをする必要があると考えるのは普通である。

 

「んー! ましろちゃん達の歌,楽しみだなぁ!」

 

 しかし,言い出しっぺである香澄の興味は既にましろと蓮が歌う事にあったのだった。

 

 

 ★

 

 

 西新宿にあるシェアハウスGYROAXIA,LRフェスの為に上京してきたGYROAXIAのメンバーが住んでいるこのシェアハウスには今Argonavisの航海の兄である里塚賢太と,リズムギターの美園礼音,その圧倒的な歌唱力と作詞作曲でGYROAXIAの絶対王者として君臨している旭那由多……そしてペットのにゃんこたろうが好きに時間を過ごしていた。

 ダイニングテーブルの上でなにやら音楽を聴いている那由多はいつも通りなので,ソファーの上でにゃんこたろうと共にパソコンを見ている賢太に礼音は声をかける事にした

 

「賢太さん何見てるんですか?」

 

 那由多は音楽を聴いていると言っても,何故かあるワードには必ずと言っていいほど反応する。それは……

 

「地蔵通り商店街のデュエット大会の配信だ」

「デュエット大会……ですか?」

「ああ,これに七星君が出るらしい」

「……」

 

 七星蓮,那由多が意識するボーカリスト。北海道にいた時は彼を同じ観客の前で,同じステージで叩き潰したいが為にらしくないことをしたこともある彼の名前はイヤホンを入れている那由多の耳にも入ってきて音楽を止めてイヤホンを付けたまま賢太の言葉を聞き耳を始めた。

 

「デュエットって……七星ならやっぱり結人とですか?」

 

 礼音はそう言いながらコーヒーを啜る。彼からすれば蓮とよくツインボーカルをしているのは同じバンドの結人であり,以前は那由多やεepsilonΦのギターボーカルである二条遥とともしていた事はあるが那由多はここにいるしこんなお祭り騒ぎのイベントで遥がデュエットをするとは思えない。

 消去法で結人だなと軽く流していたのだが

 

 

「いや,今回のデュエットは男女……カップル限定だから結人じゃない」

「ブーっ!!」

 

 

 その余りに賢太の口から出ないと思っていたカップルというワードに,啜っていたコーヒーを噴き出してしまった。

 

「汚ねえな,ちゃんと掃除しとけ」

「ゲホッゲホッ!! うっせえ那由多! ……じゃなくてカップル?! じゃあ七星は誰と歌うんですか?」

 

 そもそも蓮と歌える人間自体がすくない。結人だって真正面からぶつかった様なツインボーカルじゃなく,どちらかというと蓮を支えるような歌だから今の所蓮と対等に歌えるのはそれこそ遥や那由多位なものだ。

 だから失礼ながら蓮と歌える人間が誰なのか純粋に気になったのである。

 

「倉田ましろという女の子だそうだ。Morfonicaという女子高生バンドのボーカルだな」

 

 そう言って賢太が別のタブを開いてMorfonicaのライブ映像を出し,そのまま那由多にも聞こえるようにパソコンから音声を出しながら再生した。

 

「七星に女の子の知り合いがいたことの方がびっくりですけど。それも彼女だなんて」

 

 カップル限定の大会に出ると言う事はこの映像の真ん中に映っている少女が蓮の彼女と言う事なのだろう……。自分達の中で一番女性と関係を持っているドラムの美幸ですらそう言った浮ついた話は聞かなかったのに。ついでに言うなら,大学も今では同じになったからこそ分かるが蓮は結構な人見知りでそれこそ女性との付き合いなんてこれまで全く耳に入ってこなかったのもある。

 礼音の反応を一旦スルーした賢太はそのままMorfonicaのライブの映像を音声付きで流し,一通り聴いた礼音は素直な感想を口にした。

 

「へぇ……ヴァイオリンとベースの子以外の技術はまだ粗削りですけどアマチュアなら十分なレベルですね」

 

 それが礼音の率直な感想だ。

 最初にヴァイオリンがあること自体も驚いたが,まだ結成して1年も経ってなくてこれほどの腕なら十分だと思った。ヴァイオリンがある事で奏でられる特徴的なサウンドも今まで聴いたこともなかったものだし,このちょっと不思議な世界観から来る歌詞はGYROAXIAには絶対にない物だ。

 

「それに七星と歌う倉田ましろでしたっけ,飛びぬけて上手い訳じゃないですけど七星との相性は悪くないんじゃないですか?」

「……ふっ,美園お前の耳は節穴か」

「んだと!」

「演奏もボーカルもまだまだだ。アマチュアだろうとプロだろうと関係ない。その倉田って女もまるで足らん」

 

 というのが那由多がMorfonicaに下した評価である。礼音はそれなりにMorfonicaの演奏に感じたからこその感想なのだが,その感想を那由多はバッサリと切り捨てたのでいつもの様にがみがみと言い争いを始めたのを横目に,賢太は再びデュエット大会の方の配信に戻った。

 ぶっちゃけ蓮とましろ以外の参加者に興味が無かったのでスルーしてたのだが,いつの間にか最後の順番である蓮とましろの出番の筈なのだが……

 

「どうしたんですか賢太さん?」

 

 一通り言い争いをした礼音は溜飲を下げる事は出来なかったが,まだ音声がむき出しの配信に異変を感じたのか賢太のパソコンを覗き込んだ。

 

「機材トラブルか……?」

 

 配信の映像のページには映像と,それぞれどのデュエットが良かったかという投票ページも一緒になっていて,その映像の方で異変が起きていた。

 なにやら商店街の男性であろう人達と,イベントの委員会にいるであろう女の子がステージに上がって困ったように話している所だった。映像の中で観客はざわめきと戸惑いの視線で見ていることからも演出なんかじゃなく,さっきまではきちんと役割を果たしていた機材がトラブルに見舞われたと考えるのは必然だった。

 それがステージの上で,何故か白いスーツを着ている蓮と美しいドレスを纏っているましろの困惑している顔からもよく分かる。

 

「大丈夫ですかね?」

「このままではアカペラでやるしかないだろうが,それでは公平性に欠けるからな。しかし大会の運営委員としてはどんな形であれ続けたいだろう」

 

 例えそれがアカペラだったとしても,という言葉が賢太の言葉の後に続いた。アカペラが悪い訳じゃない。ボーカルの上手い下手を簡単に見分けられるこのやり方は時として歌と歌のぶつかり合いにはもってこいのものではあるが今回は趣旨が違う。

 他のカップルがきちんと機材を使ってしたのに対して蓮とましろのアカペラとなると公平性の観点から言えば全くの不平等だろう。

 

「どうする,七星君」

 

 賢太のその言葉が,この状況を如実に表していた。

 




お疲れさまです。
まあ大会にトラブルはつきものって事で。

そして航海のストー…兄の賢太たちも大会観戦してます。やったね,これで那由多とましろが蓮を取り合う構図が何かあれば出来上がったよ()。

那由多は多分ただのモブ相手なら恋愛となんも言わず勝手にやってろみたいな感じだけど蓮に対してはきっと『そんな事やってる暇あるのか?』とか言いそうだから色々膨らむな()。

それから取り合えず今回蓮とましろの作詞した歌詞は一旦出さない方向で行きます。僕がやったら2人の詞に僕の言葉遣いとか出てきそうで怖いので,出来た時にひょっこりと追加する形にします。

それと一応お知らせです,本作品の番外編でもないけれど本作品では書けないR18 のれんましの小説を投稿いたしました。本編を見ていないとどうしてこうなった感が半端ない作品になっていますが,ここまで読んでくださっている皆さんなら大丈夫です。

小説は原作バンドリのR18か,作者のプロフィールから行けるようになってます。

ではまた次回!

恋人になった2人の関係性どんなのが良い?

  • 今まで通りましろから蓮に激攻め
  • 逆に蓮がましろに激攻め
  • 寧ろお互いがお互いに激攻め
  • というか全部やれ
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