という訳で,一応本作品の最終話でございます。次回からは番外編みたいな形になると思います。
アンケートも実施中なので良かったらどうぞ。
因みに今回のましろはシーズン2の冬服です。
では!
地蔵通り商店街,カップルデュエット大会から一カ月……既に今年の終わりも見えて来た12月の事。
「はい,そこまで!」
月の森女子学園の教室で教師が解答用紙の記入を止めるように言った事でましろは強張っていた肩の力をようやく抜けることが出来た。
「はぁ……終わった~!」
解答用紙を教師に渡してその教師が教室を出て行ったと同時に生徒達の尖り切っていた雰囲気が一気に霧散し,代わりに今年の定期考査を無事に終えた事を称え始めた。
ましろもそれは例外ではなく,彼女にしては大きく背を伸ばしていた。
「ましろちゃん,お疲れさま」
「つくしちゃんもお疲れさま。今日久しぶりに練習だよね?」
「うん。瑠唯さんはちょっと遅れるみたいだけど先に私達だけ行こうか」
「うん」
その後2人は教師の終礼を終えて,つくしが学級委員長として提出物を教師に届けた後に2人は揃って学校を出た。
「そう言えば……蓮さんとはどうしてるの?」
1カ月前にましろは蓮が自分の好きにさせるために頑張る……という今までの彼女からは考えられない言葉を飛び出させたばっかりだ。
だけれど……正直この1か月間彼女たちの関係が進んだようには見えなかった。確かに練習の休憩中とかでも偶にスマホに夢中になっている時とかは増えたけれど,蓮とましろが会っている所は最近見ていなかった……のだが。
ましろは当然意識が強めに首を傾げて
「蓮君なら昨日会ったよ?」
「え?! 昨日? どうして?!」
昨日と言えばまだ定期考査の真っ只中でありテストを捨てれば会えない事はないだろうが……そんな事をすれば都内随一の進学校であるこの月の森では留年か退学になってしまう。
その事に焦ったつくしはつい声を大きくした。そんなつくしの心配なんて露知らず,ましろは眩い笑顔で
「一緒にテスト勉強してくれたんだ!」
今日のましろのクラスの科目は現代文や社会といった文系科目が多く,そして忘れがちかもしれないが蓮は法学部に通っているだけあって実は結構頭が良かったりする。
流石に特待生制度で大学に編入し,その後もトップの成績を撮り続けている那由多程ではないが彼もましろの勉強を見る事が出来る人材だ。
「そ……そうなんだ。因みに一昨日は?」
「一昨日も一緒にしてくれたよ? 一昨日は練習の後からだったけど」
そしてちゃっかりシェアハウスArgonavisで晩御飯も頂いていたましろである。恐らく何も知らない人からすればもはや通い妻に見える。ただしましろは料理を提供される側だが。
(そこまでしてるのにどうして付き合ってないの?!)
そしてつくしはその異様な通い妻状態のましろがどうして蓮と付き合っていないのか全く分からなかった。いや,実際付き合うとなったら色々あるのかもしれないが1カ月経っても進展がないのかと思うのは仕方がない。
だけど……ましろからしたらそれでも物足りない
「でも……私ずっと我慢してたんだよ?」
「え……? な,なにを?」
「だって……1カ月蓮君とデート出来なかったもん!」
非常事態とでも叫びたいのか必死に訴えたましろの言葉,それにつくしは……
(ましろちゃん……重いよ?)
と思ってしまった。
いや,確かにそれは問題なのかもしれないがそもそも2人はまだ付き合っていないというのならそれはある意味健常なお付き合いであり寧ろ誇るべきなのではと思ったし,というよりも彼女の口ぶりから察するにテスト勉強という口実で何度も蓮に会っていたのは察してる。
しかし……恐らくそのどれもがArgonavisの誰かが家にいる時か,ましろ母が一緒の時の事だ。だからこそましろの不満は溜まりこうして発散させれている。
「あ……でもほら。今度旅行に行くんでしょ……?」
「……Argonavisの皆さんと一緒だけどね」
クリスマスイブ……ましろと蓮,そしてArgonavisはデュエット大会の景品として蓮とましろには某高級ホテルのペア宿泊券と航空チケットを得た。
Argonavisに関しては急なサポート対応の謝礼と言う事で万里が商店街に掛け合って,2人について行くための航空チケット代の半分を出してくれると言う事でOKになった。半分だけと思ってしまうかもしれないが,今回はシーズン的にと行く場所が行く場所だったのでそれでも問題は無かった。
「でもいーなーましろちゃん,函館に行くんでしょ?」
あの日の蓮はましろに不意打ちのキスと愛の告白に頭がやられほとんど聞いていなかったが,今回の景品として出されていたのは蓮の故郷でもある函館への観光セットだったのだ。
だから結人と航海は上京する際に住んでた部屋を解約したため万里の家に,凛生は実家があるので一旦帰ることになったのだ。だから彼らの分の航空チケットが半額になるというのは実の所結構破格だったりする。
「う……うん。久しぶりだから……楽しみ」
ましろが函館に行くのは蓮と別れて以来であり,実の所色々思い出してしまいそうで緊張しているがそれ以上に蓮とまた函館にいける事が嬉しくて半分半分位だった。
「あ……でもごめんね,クリスマスパーティー行けなくて」
しかし何も代償が無かった訳ではない。今回の函館旅行はクリスマスイブと当日の1泊2日の予定であり,日程がクリスマスと決まっていた為当然透子が開こうとしていたクリスマスパーティーにましろは出席出来なくなった。
蓮の事が大好きなましろも,メンバーの事をないがしろにしたい訳じゃなくその事にちょっと罪悪感も持っていた。
「そんなの大丈夫だよ,透子ちゃんも分かってくれたでしょ?」
「う……うん」
透子も今回の事を受け一瞬「えー」みたいな表情に放ったが,今の蓮とましろの状況の事も分かっているのか「頑張れよ!」という有難いのか恥ずかしいのかよく分からないエールを受けた。
何を頑張るのかは……まあ無難に告白の話なのだろう。
「でも蓮さん,返事いくらなんでも遅くない?」
「う……それは……」
つくしのもっともな指摘にましろは言葉が詰まる。既にあのデュエット大会から1カ月……蓮に返事はまだしなくても良いと言ったましろだが……こうも一緒にいてもまだ返事をもらっていない事に焦り自体は正直存在した。
「でも……私は信じてるから。……だから大丈夫だよ」
しかし……今までにない自信に満ち溢れたましろの表情につくしは彼女の成長を嬉しく思った。
「……強くなったんだね,ましろちゃんは」
今までの彼女は自信がなくて引っ込み思案な少女で……だけど蓮の事が好きという一点でメンバーからも予想が出来なかったほどに行動して大衆の前でキスまでして見せた。
これでもしフラれたら彼女の精神的ダメージはヤバすぎるような気もするが……きっと大丈夫とつくしは思ったのだった。
★
クリスマスイブ……世間一般にはクリスマスの前日の日ではあるが街を闊歩するカップルや夫婦にしてみればクリスマス本番の日であり,クリスマスムードに当てられた男女がカップルになるという事もどこかでは起きているのかもしれない。
そして……ましろもそんな淡い期待を抱きながらANA航空の飛行機へと搭乗していた。
「あれ……? 結人さん達は?」
ましろは飛行機の窓際の席に着席しながら隣にいる蓮に問いかけた。蓮もシートベルトを付けながら答えた
「結人達は後ろの席って言ってたよ?」
2人と違い遅れて飛行機のチケットを購入した結人達は蓮達の近くの席をとる事が出来ず後ろの空いている席を購入するほかなかった。
「そっか……蓮君と2人……えへへ」
知り合いが近くにいたらちょっと恥ずかしかったが,周囲にはいない事を知ってはみかんだ。これで蓮と色々話せる。決して結人達が邪魔だと思ってはいない。うん,多分。
そんな時,飛行機の機内アナウンスが放送された。
「ANA航空——便です。お客様にお願いがあります。——」
内容は飛ぶときのシートベルトの案内や飛行機の中での注意事項等々,蓮が上京する際のアナウンスと同じものだった。アナウンスが終了するといよいよフライトの時間になりましろは左手を蓮の右手に重ねた。
「しろちゃん?」
「その……ちょっと怖いから……握っててほしいなって」
「うん。良いよ」
蓮はそう言って自分の手をひっくり返すと,ましろの華奢な手を握るとましろは幸せそうに顔を緩ませた。何度も……もう何度も数えきれない位握った手だけど握るたびにうぶな心を思い出して胸が嬉しさで弾けてしまう。
飛行機のフライトが始まり,ましろと蓮に上昇のときに起きるGがかかり,ましろはちょっと顔を歪ませる。飛行機が一定の高度に達すると落ち着いたのかましろは一呼吸する。
「はぁ……」
「しろちゃん大丈夫?」
歪んだ彼女の表情を見て心配になったのか彼女の顔を覗き込む蓮,それはさながら飼い主を心配して首をこてんと傾ける子犬のようでましろは不覚にも悶えてしまった。
「う,うん。大丈夫だよ」
ましろはそう言って飛行機の窓から外を見てみたら
「わぁ……!」
さっきまでいたはずの東京の景色が広がっていた。その幼少期に見た以来の景色に感嘆の声をあげる。蓮もましろの背後から見て
「ビルがあんなに小さいよしろちゃん!」
「うん! なんだか小人さんの街みたい!」
そんな2人の様子を周りの乗客は,小学生みたいな反応をしていた2人の事が逆に微笑ましく見ていたとかなんとか……一部には既にGはかかっていないというのに胸やけをしてトイレに駆け込んでいった人もいたらしい。
東京から函館までは約1時間30分程度……2人はこの間ほぼずっとノンストップで色々な事を話していた。
それはぽんちゃんの事だったり,モニカやArgonavisの事だったりこれから行く函館の話だったり……周りから見たら何故そんなに話す事があるのかと思う程に話題が尽きない様子であっという間に飛行機は函館に到着した。因みに今回ぽんちゃんはましろ母が預かっていた。
閑話休題
2人は一旦結人達と合流し,函館空港のロビーに集まった
「蓮達はどうするの?」
「うん。このまましろちゃん連れて色々見て回ろうと思う」
「そっか」
航海や結人達はそれ以上何も言わず,目線で蓮にエールを送りArgonavisのメンバーはそれぞれ実家や万里の家に向かったのだった。
蓮とましろも函館空港から出て先ずは観光に向かう事にした。2人とも観光に来た割には荷物は少なめで身軽ではあるけれども,それは1週間ほど前に既に2人の着替えを含めた大まかな荷物を宿泊するホテルにもう送っていたからである。因みにこの荷物を先に送っておく案は航海の受け売りで,最初は蓮の実家に送ろうと思っていたが……ましろと函館を回る時間を優先した蓮によってホテルに送る事にしたのである。
2人はそのまま空港から出ていた函館駅方面のシャトルバスに乗り込み取り合えず出発した
「わぁ……! 凄く綺麗だね!」
少ししたら函館の街並みが徐々に表れ始めて,その異世界のような街並みにましろは楽しそうにうっとりとして見ていた。蓮からすれば産まれた時からずっと住んでいた場所だから新しい感覚はそれほどないが,代わりに夏ぶりに戻って来た故郷にやはり内心興奮していたのは否めなかった。
「わぁ……」
窓際に座っているましろの横顔を,蓮はどこか見惚れながら見ていた。そして……今日の為に色々準備をしていた事を胸に秘めこの1か月間の事を思い出していた。
ましろとのこの旅行が決まった日から蓮はましろに告白しようと思って色々動いていた。それはもう周りがその不器用さに呆れて……でもどこか微笑ましくなりながら手伝う位には。
「あ,蓮君あれって──」
そうやってましろと話し合っていたら直ぐに函館の駅に着き,2人が降りるとましろは感嘆の声をあげた。
「凄い……本当に外国みたい……!」
函館は元々日本初の国際貿易の拠点として開港していた為,ヨーロッパの外観と日本の外観が上手く融合していて実際に日本であって外国のようなここは観光客からも人気の場所だ。
(蓮君とも……いつかは外国に……)
例えば……新婚旅行とかで……。
(なんてね)
ましろは内心でそう言って蓮を見ると,蓮もましろの事を見ていてばっちりと眼があった。
「……ぅ,ど……どうしたの蓮君?」
何故蓮が自分のことを見ていたのか分からず……というのは建前でその余りに真っすぐな瞳に久々に頬が火照ってそれを誤魔化すための問。
「……いつか一緒に世界に行きたいね」
「……っ?!」
だけど,その問いは逆にましろのMPは一気に激減した。自分が冗談で思った事を……蓮も思っていてくれたことが嬉しいのか恥ずかしいのか全く分からずただただ顔を赤く染めた。
だからほぼほぼ無意識に蓮の手を握り,魔性の破壊力を伴った上目遣いで
「そ……そうだね。わたしも……蓮君と一緒に……行きたいな」
「……ッ?!」
その上目遣いは蓮のいたって普通だった心は簡単に破壊された。純情な心は純情な心に簡単に破壊される定めにあるのだ。
「しろちゃん……可愛い」
「へっ?!」
そのまた不意打ちに飛び出た言葉はまたましろの胸は小躍りしはみかんだ。
……このままでは2人ともお互いを褒めあいまくってピンク色フィールドを形成するだけになってしまうので……というのは冗談でいつまでも道の往来で語っている訳にはいかないので2人は歩き出した。
2人の手は当たり前のように繋がれていて,外野からは今日がクリスマスと言う事も相まってカップルに見えていた。
「あ……しろちゃん。少し寄りたい所があるんだ」
そこで蓮はいたって普通にを心掛けながら言うと,ましろも彼を見てこくっと頷いた。
「うん,良いよ。どこに行くの?」
「えっと……僕達が函館にいたころにお世話になっていたマスターの所」
その場所はサブマリーナ,Argonavisの拠点にして彼らの成長をずっとそばで見ていてくれたマスターのお店だった。2人は八幡坂にあるサブマリーナまで向かうと,丁度お昼を過ぎたころだったからか人はまばらになっていてお客さんは2組ほどしかいなかった。
「いらっしゃい……あ,七星君じゃないか!」
「マスター,お久しぶりです」
カウンターの中にいた長身のがっしりとした彼がこのお店のマスターであり……Argonavisの結成から上京するまでを見て来た人物。
彼はまるで久しぶりに孫に会ったような表情を見せ,次に彼の後ろに隠れてる女の子を見て少々驚いた表情を見せた。
「あ,その子が例の子かな?」
「はい。しろちゃんです」
「あ……その,倉田ましろです」
「初めまして,僕はこのお店のマスター。よろしくね」
2人はそのままカウンターに座り,お昼ご飯がまだだったのもあって2人はそれぞれランチを頼んだ。マスターが2人のランチを作っている間にましろは時間を見るために一瞬スマホを見て
(あ……お化粧ちょっと崩れてる)
今日の朝にましろ母にしてもらった化粧が少し……ましろにしか分からないほど些細な違いしかないが1か所が崩れていたら全体が崩れてしまうように見えてしまうため,蓮にバレない内に直してこようと思った。
「すみません,お手洗い借りても良いですか?」
「ああ,大丈夫だよ」
「ありがとうございます」
幸いお手洗い自体は案内表示があったのでましろは荷物を持ってお手洗いに向かった。それを見た蓮は今しかないと思いマスターを見た。
「ま,マスター。あれもう出来てるって言ってたよね?」
ましろが化粧直しをしていると思っていない蓮は早めに物を受け取ろうと声をかけると,カウンターの中にいるマスターも同じことを考えていたのか作っていた手を止めてお酒が沢山並んでいる棚の中に手を突っ込むと1つの紙袋を取り出して蓮の前に置いた
「はい。これで間違いないよね?」
「あ,ありがとうございます」
そう言って紙袋の中にある箱を見て,確かに自分が頼んだものと頷きましろが戻ってこない内に鞄に入れた。そんな蓮を微笑ましく見ながらマスターは彼らのランチ作りを続行した。
一方,お手洗いでほんの少しお化粧を直したましろは鏡に映り込んでいる自分を見る。
「私……変われたかな?」
今でも自分に自信がないときはある。だけど……Morfonicaやこれまで出会ってきた人達……そして蓮に出会えたことで自分の中にあった知らない自分に気づかせてくれた。
そして今日……きっと自分達の関係は変わる。それが恋人か……赤の他人になるのかはまだ分からない。だけれども踏み出したこの一歩を後悔する事なんて絶対にしない。
そう心に決めて自分の鞄の中を見る。そこには既に数週間前に出来上がった物があった。
「……私に,力を貸して」
鞄の中にあった物にそっと触れ,ましろはカウンターで待っている蓮の元へと戻ったのだった。
★
サブマリーナでランチを終えた2人はめぼしい観光名所を見て回っていた。先ずはArgonavisの楽曲,『雨上がりの坂道』にも登場する八幡坂を2人で歩いたり,金森赤レンガ倉庫を見て回ったり。
そして今は……ましろが蓮に恋した場所でもあるショッピングモールにいた。
「はぁ……」
ましろは1つため息をつく。別に蓮との観光に文句がある訳じゃない。というよりもそんな事を自分で思った暁には自分のことをぶん殴る。
そうではなく……さっきサブマリーナで蓮に渡そうと決意していたものを未だに渡せていない事にここまでビビってしまっている自分に対しての溜息だった。
「しろちゃんどうしたの?」
今2人は……かつて2人でスターファイブのステージを見たこのショッピングモールのイベントコーナーにあった椅子に腰を掛けていた。
「え……?! ううん,なんでも……ないよ?」
その語尾は力なく小さくなる。以前のように極端に落ち込んでいる訳でもないので蓮は彼女が今何を想っているのか分からなかった。
そしてましろもその事を反省したのか気丈に振舞った。
「蓮君次どこ行くの?」
「えっと……次は──」
その言葉を……どこか覚悟を秘めた蓮の口から放たれたのを聞いたましろは……驚きで眼を大きく開いた。
★
2人が函館バスに乗り込み次に向かったのは函館公園……蓮とましろが初めて出会った場所だ。ましろはその事を思い出して隣にいる蓮の横顔を見た。
いつも無邪気に……楽しそうにしている蓮とはどこか違う……何かの決意をしていたのか彼はどこか硬い表情だった。そんな蓮の姿をましろは余り見た事が無かった。
だから──
(期待……しても良いのかな?)
ドクン!
確かな心臓の鼓動は心地よくて……でもどうしようもないほどのドキドキと予感をましろは感じていた。でも……そうしたらきっと自分もあれを蓮に渡せる……と思う。
2人の口数は飛行機の中やさっきまで観光していたのが嘘のように減っていた。その原因は……もう直ぐその場所についてしまうからだ。
「次は函館公園」
運転手のそのアナウンスが聞こえた時に蓮はビクッと身体を震わせ,心なしか呼吸が早くなっていて……それは隣にいるましろも同じだった。
函館公園に辿り着いた2人はバスを降りると,どちらかともなく手を繋ぎ公園の中に入って行った。
「……懐かしいね」
「うん。よく一緒に遊んだよね」
「もう……蓮君は歌ばっかりだったでしょ?」
「……嫌だった?」
その言葉にましろは首を横に振る
「ううん,楽しかった。すっごく……ずっと続くって思ってたから」
そう言って彼女は影を落とす……昔の離れ離れになってしまった時の事を思い出してしまっていた。誰が悪い訳でもない。ただ自分は子供だったから……その事が寂しくてたまらなくて彼がくれたクマのぬいぐるみを抱きしめてこの11年間を過ごしていた。
「しろちゃん……大丈夫だよ」
「うん。分かってるよ,蓮君」
しかし……もうこれまでのましろではない。既にその過去を乗り越え,蓮の隣にいても良いんだと自分を赦せるようになった彼女は11年前の彼女ではなかった。
「私達には歌があるから……だからもう私は1人でもなくて……私達が離れる事ももうないんだよ?」
『TIMES CiRCLE』は正にその事を謳った曲で……2人だけの宝物の曲。そのましろの表情に蓮も安心したのか微笑む。2人はそのまま公園を思い出話に花を咲かせながら中央大噴水の所で休憩をし始めた。
既に時刻は夕方の17時,やはり人もまばらになっていて噴水の近くにも母親に連れられた子供達が幸せそうに遊んでいるのが良く目立っていた。
「あの子……凄く元気だね」
隣に並んでいるましろも同じことを思っていたのか,どこか母性を感じさせる微笑でその子供を見ていた。
「うん。ふふっ。昔の蓮君と私とは違うね」
「……そうだね」
昔の2人は……というよりも今もだが外よりかは室内で出来る遊びの方が好きだったので外を元気に駆け回っている子供の事を微笑ましく思いながら見ていた。
「蓮君は……子供好き?」
不意にましろの口からそんな問いが出た。その意味する所を蓮は分からなかったけれど,素直さが取り柄の1つでもある彼は素直に答える。
「子供は……うん。苦手だけど……好きかも」
「もう,なにそれ」
そう言って苦笑するましろだが,蓮の気持ちも分かる。蓮も自分も特撮やふわキャラのような対象年齢が子供のものが好きなもの同士,だからイベントの時とかは子供に交じって列に並ぶこととかも珍しくはなくそう言った時に子供と仲良くする事も出来る。
だけども,普段の接点の1つもない子供ならばちょっと大変で特撮やふわキャラの時のようにはいかない。
「でも……そっか。良かった」
これで子供は嫌いなどと言われたらどうしようかと思った。
そんな時,いきなり強い風が吹き隣にいた蓮が寒そうに身体を震わせた
「蓮君大丈夫?」
「うん。久しぶりだから……ちょっと東京に慣れ過ぎてたのかも」
東京よりも函館の方寒い事は分かっていた事だが,つい普段の彼の服装にコートを着ただけのいでだちに,ましろは今更ながら寒そうと思ってしまった。
(あ……今しかない!)
そして……寒そうに見えたからこそ自分が持ってるプレゼントを渡す絶好のタイミングだと思った。
ましろは自分の鞄からとうとうそれを取り出した
「しろちゃん,それは……?」
ましろが取り出したのは真っ白な中に青色のラインが織り交ざったマフラーだった。
ましろは少しの恥ずかしさと,蓮の反応が楽しみで立ち上がってそれを蓮の首にかけながら言った
「ちょっと早いかもだけど……クリスマスプレゼント。蓮君,ストールくらいしか首に巻くのなさそうだったから……」
「これ……凄く温かい」
「えへへ……良かった,頑張った甲斐あったな」
「え……? これしろちゃんが作ったの?」
首に巻かれたそのマフラーから感じる温度は温かく,その完成度はお店で売られているものだと思っていたからこその驚愕の言葉。
首に巻き終わったましろは……蓮と顔が触れそうな距離で笑みを浮かべた
(しろちゃん……近い……?!)
いつの間にか距離を縮められていた事に,あの日のキスをする寸前の彼女の事を思い出してボンっと顔を赤くする。
「うん。私の手作りなんだ」
マフラーを首に巻くという体裁でましろは蓮に触れ合うすれすれまで……何か衝撃が走ったらキスしてしまうほど近づいていて……
(このまま……しちゃっても……いいかな……?)
プレゼントをこんなロマンチックに渡す事が出来てましろは自分でもびっくりするくらいこの状況に舞い踊っていた。
だから,蓮からの返事を待たずして彼の唇をまた奪いたいと……そんな事を想ってしまった。
そして蓮も……そんなましろに抵抗できずされるがままにされそうになった時……
「ママー! あの2人チューしてる!」
「「——ッ?!」」
そのさっきまで自分達が話していたであろう子供が蓮とましろの様子を大声で叫び,ましろは我に返り慌てて蓮から体を離した。
「こら邪魔しちゃダメでしょ?」
「えー」
その子供は母親に連れられながら……その母親は申し訳なさそうに噴水広場から姿を消した
「……」
「……」
そして2人の間に微妙な空気が流れる。蓮は今のましろのキス寸前の表情に心が忙しなくざわめき,ましろは雰囲気に流されて蓮にキスしてしまいそうになった自分のことを恥ずかしく無口になってしまう。
(あぁ……私また身体が勝手に……)
最近は衝動に身を任せてしまうことが多くなってしまい……きっと他人から見れば自分を律する事が出来ない人間に見えている事だろう。
だけども……
(蓮君はこれくらいしないと……意識してくれない)
蓮が鈍感なのは……その通りだ。だから蓮が悪いと責任転嫁をして彼女の心の安寧は保たれた。
そして同じころに蓮も呼吸を整えたのか意を決したように言った
「しろちゃん,最後に行きたい場所があるんだ」
既に時刻は17時半を過ぎたころ……既に太陽は沈み徐々に街もライトアップされている時間帯だ。
2人は函館公園から近い所にある函館山展望台に繋がるロープウェイ……クリスマスという平日,そして時間が時間だからか2人は直ぐに通されお互いに無言でロープウェイにのぼる。
3分ほどロープウェイに揺られ,辿り着いたのは4階建ての建造物。1階部分はこの函館山ロープウェイの乗り場と待合室,二階にはレストランやイベントホール,3階にはティーラウンジなどが備わっていて……
(なんだか……ちょっとおかしい)
ましろはそんな事を思った。確かに商店街から出された様々な特典にはここの割引チケットも存在して実際さっきはそれを使ってロープウェイにのぼった。
だけども……可笑しいのはその事ではなく人が少なすぎるのだ。レストランの従業員やロープウェイを管理しているであろう人はいたのにもかかわらずお客さんが少ない……というよりも見当たらない。
「なんだか……人少ないね」
階段を隣で一緒にのぼってる蓮に問いかけると,蓮も不思議そうにラウンジの方を振り返って頷いた。
「うん。本当だね……どうしてなんだろう?」
だけど……2人のその疑問は唐突に吹き飛ぶことになった,展望台まで登り切った2人の目の前に広がっていたのは冬の仕様に彩られたイルミネーションと……そして眼前には2人かつて一緒に住んでいた函館の景色が……果てしなく広がっていたからだ
「わぁ……!! すごい!! すごいよ蓮君!!」
そのロマンチックな光景にましろが黙っていられる訳なく彼女は夢中で駆け出し,蓮も彼女の背中を追った。
「わぁ……綺麗……」
うっとりしたようにましろは眼前に広がる景色を見る。蓮もその光景を見るのは……実は初めてだったりするので想像以上に綺麗なその景色に……心が躍って今にも歌ってしまいそうになってしまう。
……いや,それで良いんだと思い直した。何故なら……自分が前つくしに言った事が全て。ましろの隣でスマホを取り出してその音源の準備を完成させた
(僕は……歌でしか……気持ちを伝える方法を知らない)
蓮はましろにバレないように……隣でとても素敵な笑顔で景色に夢中になっているましろにバレないように深呼吸をして……スマホに入れていた音源を再生させた
「~~♪♪」
「……蓮君?」
歌い始めは穏やかだった。蓮はましろと同じ景色を見ながら歌っていた
「君と上ったこの道で 僕は君の横顔を見て この歌を口ずさむ」
どことなく……蓮の言葉をそのままにしたような蓮の歌。その端々に今までの彼の歌詞にはなかった”愛”や”恋”のワードが散りばめられていて……そしてその全てが蓮とましろのこれまでの出来事の事を……今日の函館から過去に遡っていた
今日の事……函館で巡り回った様々な場所とましろの事
デュエット大会……ましろと2人で歌って,そこに至るまでの日々の事
再会の時の事……ましろがつくしと一緒に蓮の事を探してくれて,もう一度出会えたこと
そして……
「君に一目惚れして僕は 大事にしたい人に出会えたんだ」
(蓮……君)
一目惚れ……今までの蓮からは出てこなかったワード……大事にしたい人だからこそ仲良くなって……妹みたいに接して……だけどその事に気が付いて言葉にした蓮の……ましろへの好意の原点。
ましろは気が付いた
(私への……告白の返事なんだ)
その事に気が付いた時,ましろの胸は小躍りして……ドキドキして体をこちらに向けて……その頬を赤く染めながら歌っていている蓮の事を見つめる。
「この舟に乗り込んで まっしろなキャンパスに描く7つの星への航海を 歩んで行ってくれませんか?」
最初は穏やかだった蓮の歌は,徐々に熱く激しくなり……そして最後はまた穏やかな最後を迎えて……歌い終えた。スマホから流れていた曲も終わり……ライブの後の静かさが2人の中に流れていた。
蓮が瞳を開けると,目に涙を溜めて寒さのせいじゃない頬を赤く染めているましろを見て……伝えたい事を伝える
「しろちゃん……1カ月待たせてごめんね。これが……僕の気持ち。僕も……」
その言葉は……何度も彼女に言った言葉の筈なのに,今までの気持ちと全然違う意味合いを含んだその言葉を伝えた
「倉田ましろの事が……貴方の事が好きだ!」
「……~~っ!!」
その言葉をましろが聞いた瞬間,体の中に燻っていたぐちゃぐちゃな温度は最高潮を迎えて……さっきまで夢中で見ていたはずのクリスマス1色にライトアップされていた函館の景色の事もすっかり忘れてただひたすらに涙を流していた。
「あっ……うぁ……」
「し,しろちゃん大丈夫……?」
その涙は心の底から溢れてくる安心と嬉しさの涙で,必死に眼を拭って止めようとするけれど止められなくて涙で視界が歪んでしまう。
(あっ……蓮君の顔見たいのに……見れない……見れないよ……)
余りの涙に耐えられなくて子供のように泣くましろの事を,蓮はそっと抱きしめた。妹みたいに思っていた1カ月前の抱擁とは違う……やっている事は変わっていない筈なのにその抱擁は不思議と蓮の愛を前よりも感じた。
そして蓮はそんな涙で顔がぐちゃぐちゃになっているましろの瞳の涙を優しく触れて拭ってあげると,ましろはようやく蓮の顔を見る事が出来て……また直ぐに涙に溢れてくる。
「蓮……くん……わたしも……すき。ずっと……だいすき」
だから蓮の顔が見えないと分かっていても彼の顔を見上げ,彼の腰に両手を回して身体を密着させる。せめて彼の体温を感じたいから,蓮の心臓の音を聞きたいから。
「しろちゃん……僕と……一緒にこの航海を旅してくれますか?」
「は……い。蓮君と……一緒に……一緒に」
蓮の身体をきつく抱きしめて,蓮もそれに答えるように優しく包み込む。そんな2人を祝福するかのように,函館の街のイルミネーションと花火が打ち上げられた。このクリスマスの時期,この函館では18時から街のイルミネーションと花火が上がる事になっているのである。
「しろちゃん……」
「……ん,なに?」
ましろの顔は蓮の胸の中に埋まっていて全く見えない。ただこの喜びに打ち震えて……きっと蕩けている表情を蓮に見せたくなかったから。
だけど……そんなましろの事を蓮は見たかった。
「れ,蓮君今見ちゃだめ……あ」
無理やり密着して顔を隠していたのに蓮が身体を少し身体を離し,その隙間で蓮はましろの顔をゆっくり手で包み込むことで彼女の顔が露になった
「みちゃ……だめだよお……」
ましろの顔はほんのり紅く染まり……今までにあった顔が真っ赤よりも今の彼女の方がどこか煽情的で蓮はドキリと心臓を震わせた。そんなましろの頭を優しく撫でて,蓮は一度ましろの身体を離すと自分の鞄からあるものを取り出した。
「それ……は……」
蓮が鞄から取り出したのは,ましろの胸に丁度良く収まる位大きな子熊のぬいぐるみと……その子熊が手に持つように小さな箱があった。
「その……あの時の約束のくまさんのぬいぐるみ。同じシリーズの……頑張って探したんだ」
ましろの通学鞄についている子熊のぬいぐるみ,色あせても……通学鞄に付けられるようにストラップのようにしたあのぬいぐるみはましろにとってこの11年間を繋ぎとめてくれた大切な物であり,蓮は確かにそれをあげる時に言った
『今はこんなのしか渡せないけれど……また会えたらもっと大きなくまさんをあげるよ!』
それが……実はましろと最初に交わした約束。大きくなったら会いに行く,という約束は破ってしまった事になったが最初の約束を蓮は守った事になる。
そしてましろが気になったのは,そのくまさんのぬいぐるみが持っている金と青に装飾された箱だった。
「開けても……良い?」
「うん」
蓮に一言聞いて,ましろはその箱をゆっくり開けると
「……っ!」
その中には青と白で彩られ,ましろをイメージした蝶があしらえられたネックレスがあった。このネックレスは……実は蓮が透子と七深の協力の元作られたものだ。蓮が簡単なデザインをして……蓮の絵自体は壊滅的だったので蓮のましろのイメージを伝え2人が崩さないようにアレンジをして作られたネックレスなのだ。クマ自体が少し大きかったのと,ホテルに送る荷物の中にあったら渡せるタイミングが少ない事で蓮はサブマリーナに送ってもらうようにして,先程の時に受け取ったのである。
その余りの美しさにましろは嗚咽が止まらなくなり顔を両手で隠してしまった。
「あぁっ……あ……」
「しろちゃん」
蓮が名前を呼ぶと,ましろは顔をぐちゃぐちゃにしながら蓮を見上げた
「僕と……結婚してください」
「……?!」
「……っ!」
蓮は自分が今何を言ってしまったのか……脳内再生する事で気が付いて顔を真っ赤にしてしまった。今の場面,2人の状況ならあったとしても”付き合ってください”だとましろは思っていた。そして蓮も……色々段階をすっ飛ばしてまさかのプロポーズをしてしまった。
「あ……えっと今のは……」
「ぷ……あははは!!」
慌てて今の言葉を”付き合ってください”に訂正しようとした蓮だが,その前にましろが吹き出してしまい言い直すタイミングが完全に失われた。
ひとしきり笑ったましろは,涙を流しながらクマを持ってる蓮の片手に触れた
「私も……自分のこと凄く重い女だと思ってたけど……似た者同士だったんだね私達」
正直……今にもましろの中にある独占欲は暴走しかけているが,蓮も似たようなもので色々すっ飛ばしてでもプロポーズをしてしまうほどましろの事を愛していた。
その愛にましろははみかんで愛おしそうに言った
「その……不束者ですが,よろしくお願いします」
そう言って蓮の手に自分の手を重ねたまま微笑んで
「蓮君がかけてほしいな」
そう言ってネックレスに目を移す。蓮はおずおずと頷いて,くまのぬいぐるみをベンチに置いて箱からネックレスを取り出してましろの方に向いた。
ましろは微笑んだ後待ち望むように瞳を閉じてその時を待った。蓮がネックレスをかけると,ましろの首筋に金属のひんやりとした感触がしてましろは少し震え,へにゃりと顔を歪ませて眼を開けようとした時……不意に顔に蓮の手が添えられてビクッと身体を震わせて眼を開けると
「……んっ!?」
瞬間,口の中に甘い感触が広がって脳が痺れて……何が起こったのか分からなかった。確かなことは眼を開けると直ぐそこには蓮の顔で埋まっていて……自分の唇が蓮の唇がくっついて……キスされていた事だった。
「……! ……♪」
その事に気が付いた時,胸の幸福感が身体を満たして,ましろも蓮の身体に両手を回して更に密着して……2人を祝福するように函館の星空の下で星と蝶の花火が打ち上がった。
お疲れさまでした!ここまで長かったですが,ご拝読ありがとうございました!
次回以降は番外編って形で続けて行こうと思います。付き合った後の話だったり,逆に2人が幼馴染じゃなくガチの赤の他人同士で出会った場合の話だったり(それする場合多分小説のタイトルを変えます。)
最終的に蓮も歌とか人と分かち合えるものに関しては共有する人間だけど,たった一つのものに関してはましろと同じで独占欲出るという()。まあ人間らしいから良いと思います。
では,これからもよろしくお願いいたします。!!
恋人になった2人の関係性どんなのが良い?
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今まで通りましろから蓮に激攻め
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逆に蓮がましろに激攻め
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寧ろお互いがお互いに激攻め
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というか全部やれ