蓮とましろが小さい頃に別れた幼馴染だったら   作:レオ2

34 / 39
おはようございます。
久しぶりの更新,明日キミステが配信なので意地でも今日あげてやるって感じでやってました笑。
前回書いた通り,那由多と絡めたプロのお話です。今回は前編です!
では!


世界中が敵になったとしても

 蓮とましろが恋人になり,はや数カ月の時が過ぎた。その間にも2人は恋心を育て続け……正直見てる方が恥ずかしい位にいつまでも初々しい2人の関係は今や世間にも知られている状態である。

 そもそもでデュエット大会の記録が消える訳もなく,Argonavisがメジャーデビューを果たすと決まった時から既にましろの存在もネットには流れていた。

 

「はぁ……」

 

 その当人であるましろは,どこか元気がなさげにため息をつく。先程までの練習でも少しミスが目立っていた事に一緒に帰路についていたつくしは首を傾げる

 

「ましろちゃん最近大変そうだね」

「あ……ごめんつくしちゃん。またため息出てた?」

「ううん,仕方がないよ。もう……勝手にましろちゃんの事が広まるなんて」

 

 数カ月前,めでたくメジャーデビューを果たした蓮達Argonavisのファーストシングルの売り上げはストーミングも含めて概ね好調ではあった。

 ましろも蓮から記念にとCDの方を貰って大事に飾ってある。蓮達がプロデビューを果たすにあたりこの情報社会で直ぐに彼らの事はそれなりにネットに出回るようになった。それ自体はArgonavisの面々も覚悟はしていた事だった。なんならLRフェスの時点でも似たような事はあったから尚更だ。しかし……予想出来た事なのにそれは起きてしまった

 

「そうなるかもしれないって航海さん達は言ってたけれど……あんな事になるなんて」

 

 数日前,ましろ達Morfonicaも蓮達に負けていられまいとライブを行った。CiRCLEで行ったそのライブ自体は成功と言っても過言ではなかった。

 お客さん達の歓声も,ステージの上から見えるキラキラ光るサイリウムの輝きもましろの中に吸収され達成感が身体を満たしていた時だった……いきなり観客がいるどこからか飲み物が入ったペットボトルがましろ目掛けて投げつけられたのは

 

『きゃっ!』

『シロ!』

 

 そのペットボトルはただコントロールが良いのか,偶々なのかは分からないがましろの頭目掛けていたのを透子が気が付き,間一髪でましろを引っ張って回避させた。

 会場はいきなりの事に静まり返ってしまい,ましろの呆然とした表情がよく目立った。

 

『今の誰だ!』

 

 ましろがその事実に呆然としている中で透子が気丈に観客席に問いかけると,どこからか感情を蓄えて蓄えて……それを解放するような怒号が響いた

 

 

『七星君にあんたなんて相応しくない!!』

『……え?』

『んだと!!』

 

 

 観客動員数は既に満員,更に人ごみに紛れまくっていて発している本人の姿がましろからは見えない。その言葉はざわめきとなって……今の一声がトリガーとなったように一部から似たような言葉が飛び始めた。

 そのどれもが蓮とましろの交際に難癖をつけるものであり,直ぐにまりなを含めたCiRCLEのスタッフによってましろ達はステージから控室に通されて鎮静化に当たってくれた。

 しかし……そんな事が起きたことがネットに乗らないはずが無く……否,この場合はこの騒動の女性達が騒がしくしたと言った方が正解かもしれないが小さくネットニュースにもなってしまったほどだ。

 だからその事実がArgonavisに伝わらないはずが無く……

 

「しろちゃん!」

 

 駅までの道をつくしと歩いていたら,今までと違って眼鏡をかけて変装っぽい変装をしている蓮が心配そうに駆け寄ってきていた。その後ろからは万里がため息気味について来ていた。

 

「蓮君? どうしたの?」

 

 いきなり現れた恋人に驚きながらましろも蓮に駆け寄る。

 

「その……しろちゃんが心配で……だから……」

「……ふふっ,ありがとう蓮君」

 

 そして何故かナチュラルに手を繋ぎ始める始末。つくしはそんなましろを恥ずかしそうに見て,万里はもう見慣れているのかノーリアクションだった。

 そうして歩き始めた2人の後をつくしと万里も並んでついて行く

 

「蓮君がどうしても心配って聞かなくてさ」

「そ,そうだったんですね。でも……」

 

 こういう事が原因で前の事があったのだと思うと……つくしはただただ不安だった。結局CiRCLEで騒ぎを起こした連中は捕まえる事も出来なかったし……次のライブの予定はまだ決まっていないがもしまた同じようなことが起きてしまったらどうしようと思ってしまうのはリーダーとしては当然だった。

 

「二葉さん達が気にする事じゃないよ。悪いのはどう考えたってあんなことをした人たちなんだからさ」

 

 そもそも……既にカップルが参加条件であるデュエット大会に出場した時点で2人がカップルであると言う事は世間に知られているしネットの意見でも蓮とましろの交際にどうこう言っている人間の方が少数派だ。

 例えプロだとしても恋愛をしてはいけないなどという掟は存在しないし,今の時代で恋愛禁止の方が馬鹿らしいとまで言われている時代だ。強いて言うなら問題になっているのはましろが高校生と言う事だけで,それでも蓮もまだ未成年なのでそんな事を言い出したらキリがなくなってしまう。

 

「そうかもしれませんけれど……」

「不安なのは分かるけどリーダーなら嘘でもシャキッとしなよ」

「……っ! は,はい!」

 

 と言っても万里の中にあるリーダー像は結人であるけれども。

 その後,駅でつくしと別れ蓮とましろ,蓮のお供でもある万里はましろを家に送った後家に戻った。今はもうプロとして動いている蓮や,月の森の新体制のせいでましろも蓮と会う事が珍しくなってしまっていたのでましろは帰り道だけとは言え蓮と一緒にいる事が出来て嬉しかった。

 

「はぁ……」

 

 それでも……ここ最近の精神的なストレスは確かにましろに襲い掛かっていた。晩御飯を食べ,湯船につかりながらでもため息が出てしまうほどに疲れていた。

 

「分かってた……ことだけど」

 

 新進気鋭のプロバンドであるArgonavisに注目する声は今や多く,デビューを果たしている年でもあるからか情報が出回って来るのは予め言われていた。

 だけど……それがどう自分に降りかかって来るのか全然想像できていなかった。Argonavisファン……というよりも蓮のファンの界隈では倉田ましろアンチが少数いる状態で,そんなアンチの人達もネットでは沈んでいたが数日前のモニカのライブで活発になってしまっていた。

 

「どうしてダメなの……私はただ……蓮君と一緒にいたいだけなのに」

 

 数日前の言葉が頭によぎる。相応しいとかそんなのあの人が決める事じゃないし,そもそも相応しいってなんだよという話になる。

 何が気に食わないのか分からない,ましろにどんな危害が加えられるのかも分からない。

 

「わたしだって……頑張ってるもん」

 

 ガールズバトルトーナメント……略してGBTでは覚悟の塊を魂の炎としてステージを包んだAfterglowに敗北してしまったが月の森音楽祭では昔の月の森を取り戻す,という目的を理事長との禍根を残しながらも見事に成し遂げて見せた。

 他にもましろは色々なことに挑戦し,誰に言われようと胸を張れる自分に近づきつつある。

 

「蓮君……会いたい」

 

 つい数時間前に送ってくれた彼氏の名前を呼び,肩まで湯船につかり今日の疲れを取ろうとしたのだった。

 お風呂から上がったましろは,母親が野菜嫌いのましろの為に作ったスムージーを冷蔵庫から取り出して口を付ける。……本当はスムージーだろうと野菜は嫌いなので嫌なのだが,ましろ母に

 

『蓮君と結婚した時に野菜嫌いだと笑われちゃうわよ?』

 

 という一言がダメージを与え,こういった形で徐々に野菜を克服しようと頑張っている途中だ。それに最近は料理も習っていて簡単な物なら自分で作れるようになったし,お菓子作りもつくしから習っている。

 周りから見たらましろは花嫁修業を順調にこなしているのである。

 

「うぅ……やっぱりまだ苦手だな」

 

 しかし,苦手なものは苦手であり飲み干しはしたが自分はちゃんと野菜嫌いを克服出来るのだろうとか思ってしまった。

 そんな事を想いながら使ったストローを捨てるために燃えるごみのゴミ箱を開けた時……見覚えのない紙くずを見つけた。

 

(あれ,なんだろうこれ)

 

 今朝と帰ってきたときにはポストに入っていなかったチラシかと思ったけれど,その割にデザインが何も印刷されていない事に違和感を持ってそれを取り出して広げて……眼を大きく見開いた。

 そして足が震えて口がぱくぱくと何か言葉を発しようとしてもその恐怖に言葉が上手く出てこなかった。そんなましろの様子をお風呂から上がった母親は見つけてしまい,慌ててましろの手からその紙を取り上げたが……既に遅くましろの顔色は蒼く今にも力が抜けてしまいそうだった

 

「ましろちゃん!」

「お母……さん」

 

 その紙に記されていた内容はましろの事を罵詈雑言が書かれていて,それに加えてこの紙がここにあると言う事はもう既にましろの住所やましろの家族の情報すら流れてしまっている可能性だってある。

 名も知らない人達に自分のことが知られること自体はMorfonicaの活動を通して何度もある。だけど……その事に恐怖を感じたのは初めてだった。

 

「大丈夫,大丈夫だから」

「ごめん……ごめんなさいお母さん……うぅ……う」

 

 見知らない誰かの狂気に当てられて,ましろの心は脆くなっていた。ただ蓮との幸せを望んで,そのための努力は欠かさなかった。

 家庭の事も,バンドの事も一所懸命にやってきた彼女の歌唱力は蓮とはベクトルが違うだけで確かに伸びていた。2人が一緒に歌う時にその変化は如実に表れていた。

 それなのに……ただ気に食わないからという理由でこんな事になってしまってましろはその理不尽さに涙しながらこの日は眠りについた。

 

 ★

 

 シェアハウスArgonavisでは蓮が少し元気なさげにぽんちゃんの事を愛でていた。さっきから時計を見てはため息をつきぽんちゃんを撫でると言う事を何度も繰り返している。

 そんな分かりやすいボーカルの事を気にならないはずが無く,結人は声をかけた

 

「蓮元気ないけどどうした?」

「……え? そうかな?」

「ああ,心ここにあらずって感じだぜ?」

 

 そう言いながら結人は蓮の隣に腰を下ろす。蓮とましろの交際が始まってからも何かと2人の援護をしている結人はもはやこの2人の父親のようであるが,バリバリの大学2年生である。

 蓮はぽんちゃんを撫でながら今日の出来事を話した。

 

「しろちゃんのお家まで送ったんだけど……元気なくて……」

 

 ましろは元気があるように振舞っていたが,既にましろと交際して月日が経っている蓮にはましろ限定だが何となく彼女の精神状態が分かり始めていた。

 声は弾んでいたし元気もある。だけれど言葉に出来ない何かを感じ取った蓮はそれを引きずっていた。

 

「僕に……何が出来たのかな?」

 

 蓮も……数日前のモニカのライブで起きた事は知っている。蓮からすれば考えられないが,いわゆるファンは純粋に応援してくれるものもいるが疑似恋愛でファンになる人もいると知って困惑していた。

 歌を……このバンドが好きだからファンになってくれたのだと思っていたから……疑似恋愛という蓮には分からない感情でファンになってそれで何も関係ないましろが傷つくことなんて蓮は想像出来なかった。

 

「……」

 

 このままでは蓮のコンディションに影響を及ぼすと思ったから……いや結人はただ純粋に彼の友人として蓮の事を気にかけた。

 

「蓮も倉田さんも何も悪くないからな。こればかりは本当に予想できない事だったんだ」

 

 蓮もましろも今回の事は何も悪くなく,ネットでも彼らの事はそれほど叩かれていない。むしろ幼馴染同士の恋愛なんて純愛で良いじゃないかという声の方が多く……それでもましろのアンチという存在が動き始めてしまったのは現実の事でこれから何が起こるのかも未知数だった。

 

「とにかく,蓮も気持ちは分かるけれど無茶なことはしないでよ」

 

 彼らの会話に加わりながら航海は蓮に釘を刺した。蓮はそれに一応は頷いて見せたが,それが本当に了承したサインなのか航海には分からなかった。

 

 

 時間は流れて,蓮は自室でスマホを見ていた。そこにはましろとのLINEでのやり取りがあり,蓮の指は電話のアイコンをタップするかどうか行き来を繰り返していた。

 今日別れた時のましろはぱっと見いつもと変わらないように見えた。だけど,なんとなくいつもと違うように感じた。不安や緊張を隠しているような……そんな気が。

 だからその事を聴こうと思ってLINEを開いたのだけども……

 

「……これは無茶なんかじゃない」

 

 航海に言われたあの事を思い出し,決意するようにアイコンを押した。

 少しのコール音が鳴って……いつもなら直ぐに出てくれるのに今日は少し遅い事に不安が募った。そうして……数秒後

 

『……蓮君?』

「しろちゃん……? どうしたの?」

 

 電話を出た時のましろの声色が……一度挫折した時のましろの時のように涙声になっていて関口一番そう呟くと,電話の向こうで気づかれると思わなかったどこか慌てたように何かを拭うを音が聞こえて,次には至って普通を務めた声で聞いて来た。

 

『蓮君こそ……どうしたのいきなり』

「だってしろちゃん……泣いてるように見えたから……」

『……っ』

 

 蓮の言葉を聞いて一瞬言葉が詰まってしまうましろ。再会した頃なら,面を合わせて初めて気が付いていたであろう涙声を,いつの間にか声だけで判断できるようになってくれている事に嬉しく思うべきなのか……ましろには分からなかった。

 

『なんでも……ないよ?』

「本当に?」

『……』

 

 蓮の再確認に気丈に返事しようとしたましろだったが,その言葉を言おうと口を開いたらさっきの出来事を思い出して口を閉じてしまう。

 そして……涙を啜る音がし始めて蓮もましろの異常に気が付いた。

 

「し,しろちゃん?」

『蓮君……私達……付き合っちゃったらだめだったのかな』

「え……?」

 

 ましろが言った言葉を理解出来なかった蓮は呆けた声をだす。だけどましろは溜まっていたストレスや感情がとめどなく溢れ出して言葉を絞り出す。

 

『私は……私はただ蓮君と一緒にいたいだけなのに……なんで……なんで……』

 

 既にましろ母によってあの手紙は取り上げられてしまったけれど,あの無駄に綺麗な紙に書かれた罵詈雑言がましろの脳裏にはしっかりと刻み込まれてしまっていた。

 ただ蓮と再会して……恋人になれて……普通の女の子が体験するようなひと時の筈なのに,蓮がプロというだけで罵詈雑言を書かれて家まで特定されて……もう疲れてしまっていた。

 

「しろちゃん……っ」

 

 本能的にましろの状態が酷いものだと察した蓮は既に23時を過ぎるのにもかかわらず,ぽんちゃんをベッドに下ろしてコートを羽織った。

 終電にはまだ時間がある,そう考えることしか今の蓮には出来なかった。他のメンバーを起こさないように蓮はましろとの電話を繋いだままそっと家を出ようと動き出した。

 万里は既に寝て,結人と航海はギターとベースを弄り凛生は作曲していたので蓮の移動に気が付くことが無かった。

 

「わふ?」

 

 蓮が出て行ったドアをぽんちゃんは首を傾げながら見ていたのだった。

 蓮は京王線に乗り込み,和泉多摩川駅まで向かう。その間ずっとスマホを耳に当てましろの言葉にならない嗚咽を聞いて,何かを言おうとするが前の時とは違うましろの様子に何を言えば分からなくてただひたすらにましろの泣く声を聞いていたのだった。

 

 

 ★

 

 

 西新宿にあるGYROAXIAシェアハウス,リビングでは飼い猫のにゃんこたろうと飼い主である那由多,そしてリーダーでもある里塚賢太

 がそれぞれ曲を作ったり情報を集めたり各自自分達に必要な事をして過ごしていた。

 賢太は自分のパソコンから今度レーベルの代表になった元自分達のマネージャーにして今は代表でもある摩周に話されたライブイベントについてメモしたり考えごとをしていたりしていた。

 

「にゃあ」

 

 にゃんこたろうが気の抜けた鳴き声をあげながら寝返りを打つのを見ながら那由多は自分が作ったデモ音源を聴くが,イマイチ納得がいかずヘッドホンを外してパソコンに向かい合う

 普段彼は自室で楽曲作成していることが多いが,現在は他のメンバーは既に就寝していて賢太しかいないので珍しくリビングで制作を行っている。

 

「ん……?」

 

 そして,そのヘッドホンを外したタイミングで賢太が何かに気が付いたように声をあげる。その事に那由多は気が付いたが,自分が気にするものでもあるまいと自分のパソコンに眼を映す。

 賢太はおもむろにスマホを取り出しどこかに電話をかける。

 

「……航海か」

 

 そうすると相手も電話に出たようで賢太は一瞬柔らかい笑みを浮かべ,一言二言話すと本題に入るように聞いた

 

「Argonavisは大丈夫か?」

 

 そのワードに那由多の眉がピクリと動き,睨むように賢太の方へ視線を向けた。そんな視線を当然賢太は気が付いているが,むしろ注意を向けるために電話をかけたと言っても過言ではないのである意味作戦は成功している。

 

『兄さんが心配するような事じゃないよ。それに僕達もその覚悟を持って蓮の背中を押したんだから』

 

 賢太が見ているパソコンの画面にはいくつかのネットニュースが出ていて,そのどれもが最近あったMorfonicaのライブであった出来事とそれに伴って現れ始めた蓮に対してのスキャンダル記事だった。

 ましろが月の森女子学園に通う高校2年生と言う事も,モニカでの活動の事も,基本那由多とGYROに全てをささげている賢太でさえ眉間を寄せるような個人情報がネットにバラまかれている。

 更に少し探してみると,ましろと蓮のデート写真などもここぞとばかりに上がっている。

 

「このままでは不味いと思うが? 先日のMorfonicaの1件で七星君にまで飛び火している。これが自然消滅するのかも分からない」

 

 今の所モニカでは透子がSNSを通じてあのライブでの異常性を訴えていてそれに賛同するものが多いが,中にはましろアンチなのか醜い言葉を発する者もいる。

 更に蓮が大学生にしてプロで,ましろが高校生というのが世間体的に厳しい眼で見てくる人間が沢山いるのである。

 

『うん。だけど……だからって蓮を切り捨てる事なんて絶対にしないよ。蓮が倉田さんと付き合う為に背中を押したのも僕達なんだから』

 

 だから例えArgonavis全体が危機になったとしても,自分達はその荒波を乗り越えるから心配するなという航海のメッセージだと賢太は気が付いた。

 Argonavisの結束は強く,糸が解けそうになればなるほど逆に結束を強めて来た。航海はその結束力を信じているのだ。自分達が蓮を支え,蓮がそれに答えてくれることを知っているから。

 

『わんっ!!』

 

 弟の決意の強さに兄として微笑ましくなったところ,電話口から犬の鳴き声が聞こえて来た。

 

『ぽんちゃん? どうしたんだい? ……って,何々!?』

 

 いきなり電話口ごしに航海の戸惑った声が聞こえ,ドタバタと足音がすると思ったら今度は航海の慌てたような声が聞こえて来た。

 

『蓮がいない……?!』

「……っ?! 七星君がいないのか?」

 

 普通ならお手洗いとか思うのだろうが,今の状況が状況だったので賢太の言葉も少し緊迫味を帯びたものになる。賢太の言葉を聞きながら航海は更に移動してドタバタと慌てたように廊下を走っているようだ。

 そうして少ししたら呟くように言った

 

『蓮の靴がない……もしかして蓮は』

「倉田ましろの家に行った,か」

『ああもう! 無茶するなって言ったばかりなのに! 兄さんごめん,電話切るよ!』

「ああ」

 

 すると電話が切れたのか賢太は1つため息をつきスマホの電源を切った。そして那由多はヘッドホンをし直しているのにもかかわらず独り言のように呟いた。

 

「七星君は茨の道を歩いているな」

 

 プロという世界で,恋人にかまけているように見える蓮の評価は正直分からないというのが現状である。しかし蓮の歌がましろと付き合う前よりも落ちているかと言われれば別にそんな事もなく,賢太から見ても七星の歌は進化し続けている。少し前にあったCiRCLE Thanks Party!! などその典型だろう。

 更に,蓮の純粋無垢な様子はLRフェスでも取り上げられていたのでそのギャップでファンになった人も多くいる。それこそ女性ファンの方が正直多いのだ。

 それがプロになった事で蓮の情報が広がるようになり,当然デュエット大会の時の映像が世に放たれて一部の熱狂的な女性ファンはましろに対して自分の推しを奪った女狐位に思って今回の事が起きてしまった。

 一度世間に出てしまったマイナスな評価はそう簡単に覆らない,そんな意味で賢太は呟いたのだ。

 

「ふっ」

 

 そこで不意に那由多がそんな声を出し,賢太は那由多のを方を見るが,那由多は賢太の視線に気が付かないふりをしてパソコンに眼を向ける。

 そのいつも通りの光景に,ふと賢太は那由多は今の蓮の事をどう思っているのだろうかと考えた。歌に真っすぐに,那由多に追いつき追い抜こうとする蓮に負けられまいと,そして自分に負けないと日々自分と戦っている男は恋人という存在が出来た蓮をどう思っているのかと。

 その事について那由多がどうこう言った事は1回もない。ましろの歌唱や音楽に対して苦言を付けた事はあるが,ましろという存在については一度も否定していないのだ。

 何なら……蓮の誕生日に彼なりのライバルに送る誕生日プレゼントとして蓮の為のライブを開いた時も一度あったが一緒にいたましろに何か言ってもいなかった。存在を認識していないと悪く言えばその通りだが,その認識は正しいのか……それは那由多自身にしか分からなかった。

 

(俺がここで何を思っても時間の無駄だな)

 

 賢太は結論をそう下して,自分がやるべき事をするのだった。

 

 数週間後にある,GYROAXIA主催——対バンライブの事を

 

 ★

 

 電車に揺られ,ましろの啜り声を聞きながら蓮はかける言葉を探していた。しかしそれは見つかることなく電車はましろの最寄り駅に着いて蓮は夢中で走り出した。

 ダメだと分かっているが呼吸を見出し,全力で走ってましろの家へと向かったのだ。

 

「蓮君,待ってたわ」

 

 そしてインターホンを鳴らして直ぐに扉が開けられ,玄関に立っていたのはましろ母である。

 

「し……しろちゃんは……」

 

 ましろ母がどうして自分が来ることを知っているのかとかそんな疑問は今の蓮には思い浮かばなかった。あったのはただましろに対する心配と不安。

 ましろ母はふぅと一息ついた後,蓮を中に迎え入れて一言だけ言った

 

「ましろちゃんの事,お願いね」

 

 現状……義理の息子になる事が確定している蓮にそう言った。蓮は頷いて,ましろの部屋に向かいましろ母はそんな蓮を見送った。

 ましろ母は先程航海から来たメールを見る。

 

『蓮がそちらに向かっていると思います』

 

 部屋に蓮がいない事をぽんちゃんが知らせてくれたらしく,航海も相当慌てていたのか几帳面な彼にしては少し煩雑な文面になっていた。

 そのメールを見た時,ましろ母は自分でも驚くほど意外に思わなかった。蓮とましろが付き合い始めたと言われた時も祝福し,ましろの背中を押した身でましろ母もまた2人の交際で発生するかもしれない世間の眼を受け止める覚悟はしていたが,実際にされたそれは思っていたよりも除湿で……きっとましろは蓮がいないと耐えられない。

 だからましろ母はその航海にこう返した

 

『今日はもう電車もないと思うし,蓮君はこっちで泊まらせます』

 

 その言葉に航海も何かを考えてはいたのだろうが,結局その方が良いかと納得し蓮を預かる事になったのである。

 そしてその蓮はいつの間にか啜り声が聞こえなくなった携帯電話を持ったままましろの部屋に来て……ノックした。

 

「しろちゃん」

 

 少ししてもましろの返事はなく,スマホから声が聞こえない事からももしかして寝てしまったのかと思ったが,しばらくしたらゆっくりとドアが開き始めた。

 

「蓮……君?」

 

 あの時の様に顔を青くし,先程まで涙していたのが分かるほど目元は赤く腫れあがっていて蓮は夕方に会った時とは変わり果てたましろに胸が苦しくなってドアをゆっくりと開いた後,ましろの身体をそっと抱きしめた。

 ましろは抵抗することなく蓮に身体を預けて……感情が追い付いたように再び号泣し始めた

 

「うぁ……あ……蓮……君……蓮君」

 

 感情を隠す事も出来なくなったましろの涙声が,蓮の心も揺さぶり強くましろの事を抱きしめた。

 女性らしい華奢な身体を,身体が冷えて心まで冷えてしまったましろの泣き声を聞きながら蓮も感情の濁流を飲み込み続け,ただひたすらましろの事を受け止め続けた。

 

(どうして……しろちゃんがこんな目に……)

 

 穏やかな心を持つ蓮でも,今回の事は初めて怒りという感情が溢れてきていた。自分はただ好きな歌を歌い続け,再会出来た幼馴染と恋に落ちただけなのに……自分の歌を好きになってくれたと信じていたファンがましろの事を傷つけた。

 プロとしての責任は蓮とて当然持っている。だから中途半端など絶対にしないし,それに答えるだけ歌ってきたつもりだ。

 それなのにましろに危害を加えたファンは……ファンというのですらおこがましいがましろが彼女というだけで傷つけるのが許せなかった。

 そのファンが騙る”蓮の為”など……蓮からすれば余計なお世話だとしか感じなかった。

 

「しろちゃん……」

 

 2人はましろのベッドで抱き合ったまま,ましろが泣き止むまで蓮はましろの身体をさすったりしていた。

 

「蓮君……ごめんね……こんな夜なのに来てくれて」

 

 そして表面上は泣き止んだましろがしたのは既に日付を越えているのにもかかわらず蓮が家に来てくれたことに対しての謝罪だった。蓮はましろの言葉にふるふると首を振った。

 

「違うよしろちゃん,僕がしろちゃんに会いたかったから……だから来たんだよ」

「……っ。ありがとう……蓮君」

 

 そう言ってましろは少し微笑み,蓮の胸に顔を埋めた。そして……静かに言った。

 

「凄く……怖かった」

 

 お風呂上りに見つけた罵詈雑言の嵐,元から溜まっていたストレスとかも一気に噴き出して何が何だか分からなくなってましろが思ったのはただ”恐怖”で,……これから先こんな事でプロである蓮の邪魔をしてしまうくらいならいっそのこと──

 

「別れた方が良いのかなって……」

「——っ! しろちゃん!」

 

 何を言っているのと顔で現すが,直ぐにその言葉は喉の奥で押し留まった。

 胸の中で見せたましろの顔は涙でまたぐちゃぐちゃになっていて,ただひたすら心を伝えた

 

 

「でも……でも……そんなの無理だよ……無理だよ! いやだよ!」

 

 

 心の叫びをあげながら蓮のぬくもりを感じるように強く……さらに強く蓮の存在を確かめるように抱きしめて……そのましろを支えきれなくなった蓮はましろのベッドへと身を委ねて全力で彼女を受け止めた。

 

「世界全部が敵になっても…ずっと蓮君といて……ずっと蓮君と一緒に歌って,蓮君と一緒に歳を重ねて生きてたい」

 

 それは慟哭だった

 ただ蓮と幸せを築きたい少女の,願い通りにさせてくれない世間に対しての慟哭

 だけどもそれはましろが蓮に対して思っている確かな願いにして日常

 

「やっと……やっと手に入れたこの幸せを……誰にも奪わせたくなんかない!」

 

 そう願っても,今の世間の一部はそれを許さない。

 ましろの言葉を聞いた蓮は,そっとましろの顔に触れ髪をかき上げると月光に照らされたましろの顔がよく見える。そんなましろに聞こえるようにと,彼女の髪を耳に優しくかけてあげて言った。

 

「僕も……僕もずっとしろちゃんと一緒にいたい。僕にとっては歌と同じ位……ううん,歌よりもしろちゃんの事が大事だから!」

「——ッ! れ……ん‥くん」

 

 その言葉の意味をましろは漠然と感じた。

 蓮にとって全てだった歌よりも,自分の事を選んでくれるという言葉は裏返せば世間と戦うという宣戦布告だからだ。

 歌で今のファン層を築いてきた蓮が,それよりもましろの事が大事なんだと言う事が世間の反応に返せば”恋人にかまけるプロのボーカル”と印象付ける事になるからだ。

 その意味に気が付いた時,ましろは申し訳なさと嬉しさが胸を満たし初めて蓮の顔を凝視する。

 

「しろちゃん……僕とずっと一緒にいてくれますか……?」

「……もう……それプロポーズみたいだよ……?」

 

 と言っても一度事故で蓮の言質を取った事はあるが,こう改めて言われてみると胸の中にあった不安や恐怖が薄れていくのを感じた。

 そして蓮はそっとましろと位置を入れ替えて,蓮がましろの押し倒したような状態になる。

 そんな蓮を嬉しそうに見上げた後,ましろは優しく微笑んで蓮の顔に両手で手を添えた。

 

「はい……よろこんで……蓮君とずっと一緒にいます」

 

 そう改めて言われてみると,うぶな蓮はすぐさま顔を真っ赤にしたが,直ぐに心底嬉しそうに顔を綻ばせてそっとましろに近づいた。それを見たましろは顔に添えていた両手を蓮の頭に回して眼を閉じる。

 カーテンから差し込む月光が,ましろの部屋に1つの影を作っていた

 

 

 

 

 

 

 ──その翌日,何故かArgonavisがGYROAXIAとの対バンが決まり,そのオープニングアクトとしてMorfonicaが参加する事が決定した




お疲れさまでした!

僕自身はバンドのニュースとかは正直それ程見ないので実際バンドマンが高校生と恋愛しただけでこうなってしまうのかは分からないのですが,あるかもしれないという理由で書きました。
以前ハロウィンの時に蓮のスキャンダルみたいな事を書いたと思いますが,それが今回のお話です。
という訳で,次回でこのお話は終わらせます!…いつかは正直分かりませんが!


僕は明日はキミステとヴァンガードをします!Argonavisのスリーブとかで欲しいと切実に思ってる()。
では!

恋人になった2人の関係性どんなのが良い?

  • 今まで通りましろから蓮に激攻め
  • 逆に蓮がましろに激攻め
  • 寧ろお互いがお互いに激攻め
  • というか全部やれ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。