ましろと蓮のデート回でございます。
AAsideのバンドストーリー、2章の蓮が歌うことを禁止された時の改変になります。
では!
Argonavis とMorfonicaの邂逅から数日後,Argonavis はLRフェスに向けた練習を行っていた。一曲演奏を終えた結人は興奮しながら言った
「今のいいかんじだったな」
「大分形になって来たよね!」
今の曲はArgonavis の新曲として航海が作詞し,凛生が作曲したものを合わせていたのである。その講評はリーダーである結人,ドラマーの万里からすればとても満足出来るものだったが今の演奏に満足できなかった人が1人。暗い顔をした蓮が首を振った
「僕は全然だ」
それに驚いたような反応を見せるのは万里だった
「え,どこも問題なかったと思うけど。ちゃんと歌えてたよね?」
実際万里からしてみれば先程の新曲も蓮はばっちりと歌えていたしだからこそさっきの出来に満足したのだ。だけど蓮はどこか焦りを見せながら首を振る
「歌えているだけだよ,これじゃまだ足りない」
「……」
自分が何かを出来ていない事に蓮が前のめりになろうとしているのを,少し厳し気な視線で見ているのは凛生だった。それに気が付かず結人はならもう一度合わせようと提案した。
「それはいいけど……その前に,蓮に1つ確認」
その結人の提案に割り込んできたのは凛生と同じく心配気な表情で蓮を見ていた航海と,それに追随するように凛生も聞いた。
「無理しすぎてない? 昨日も練習終わった後,1人で残っていたよね」
「一昨日もだ,カラオケに入っていくのを見た」
その確認をされた蓮は「見つかってしまった」と顔にかいてるような顔になっていた事でそれが事実だと確認された。
「マジかよ……なんでまた」
結人はその事を知らなかったみたいで航海達と同じように心配気に蓮を見つめる
「足りないんだ,もっといっぱい練習しないと」
しかし蓮はそれでも練習しようとするが,それに横に振ったのは凛生だった
「自分の身体をいためつけるようなやり方は感心しないな」
蓮の歌への執着は才能と同時に諸刃の剣にもなり得る。歌を好きだからこそもっと歌いたい,もっとやりたいという思考が出る。
それは,過去野球に熱中していた凛生にも分かる事だ。だがだからこそ,今の蓮のやり方は見ていられなかった。己の限界まで歌う事は,体へのダメージにも繋がるからだ。
「……! 僕,そんなつもり……」
「無理して何になる? 得られるものがあっても,失うリスクの方が高い。どこかでセーブしないと喉を傷めるぞ」
蓮が沢山の練習をこなすのは,自分の今の歌に納得出来なかったから。だからこそ居残りやカラオケに行き歌唱力を高めようとしていた。
「なら,どこまで仕上がれば蓮は納得できる? 上を目指せばきりがないだろ」
歌う事,それ自体の天井というのは非常に曖昧で数値化が出来ないもの。一種の物差しとなるのは観客の反応だがそれが無い練習ではどこまで目指せばいいのか,そんなのはキリがない話になる。
それを指摘された蓮は返そうとしても答えが出なくて黙ってしまう。それを見た航海はなにかを察していった
「じゃあさ,こうしない? 蓮は1日……いや2日かな。歌うの禁止」
「えっ?」
それが今の蓮にとって必要な事だと航海と凛生が判断した。そうしなければ蓮はきっと大事なことを忘れたままLRフェスに臨むことになってしまう。それだけは航海も……そして凛生も避けたかった。特に凛生はその想いが強かった。
結局結人の後押しもあり蓮は明日からの2日間,歌うのを禁止されたのだった
「でも実際蓮君が歌わないって出来るのかな?」
場所はシェアハウスArgonavis ,蓮が歌うのを禁止したArgonavis の参謀役とでも言うべき航海と凛生は万里の疑問をもっともなものだと頷いた。
蓮は以前函館にある五稜郭で花見をしようとした時,舞い散る花を見るだけで歌いたくてうずうずするほど歌への意欲は高すぎる。本来なら誰か見張り役でもつけたい所なのだ。しかしそれでは蓮のストレスもかかってしまうかもしれないしそもそも自分のせいで練習を停滞するような事はさせたくないのが蓮だ。
「俺達もそこらへんは分かっている。七星の歌への情熱を簡単に止める事は出来ない事もな」
「だから僕達は助っ人を頼んだ」
「助っ人?」
その言葉に疑問符を浮かべた万里と結人なのであった。
翌日,シェアハウスArgonavis のチャイムが鳴り響き蓮の前に姿を現したのは
「蓮君,おはよう」
「しろちゃん?」
純白のワンピースを身に纏い,麦わら帽子という恰好のましろが立っていた
[newpage]
いつもみたいに七深ちゃんのアトリエで練習を終わらせた私達は,各々解散して私はお家の最寄り駅の和泉多摩川駅を出た。
「今日の練習も楽しかったな」
蓮君がこっちに来てから,とても嬉しくてその気持ちがよく歌にも乗ってるって皆言ってくれてる。私自身にはその違いがよく分かっていなかったけれど,それでも褒められるのはやっぱり嬉しいな。
「ふふ……これも,蓮君のおかげかな」
あの日結人さんから貰った蓮君の寝顔の写真,貰った日から待ち受けにしてるこの写真はもう私の宝物になりつつあった。
その時,待ち受けを映していた私のスマホに着信が入って来た
「? 誰だろう」
びっくりしながら電話の主を見てみると出て来た名前は
「航海……さん?」
Argonavis の航海さん,この前CiRCLEで会った時に交換して以来の連絡でびっくりしながら歩くの止めて出た。
「もしもし……?」
『あ,倉田さん。いきなりごめんね。今大丈夫かな?』
「はい,大丈夫ですけど……」
何のお話だろう……どんな話をされるのか分からなくて少し緊張してきちゃった。
『明日の日曜日,何か予定あるかな? 蓮の事で頼みたい事があるんだ』
「蓮君の事で……?」
明日の予定は……午後にポピパさんのライブがあるから見に行こうと思っていたけれど蓮君の事も気になる……。
『倉田さんに蓮を少し連れまわしてほしいんだ』
「……え?!」
唐突に落とされた爆弾に思わず声が溢れてびっくりしちゃった。
「ど,どうしてですか?」
だからどうして蓮君をいきなり連れまわしてほしいってお願いされるのか分からなくて理由を聞いたら航海さんはそうなった経緯を教えてくれた。
今日のArgonavis の練習の事,ここ最近の蓮君がずっと激しい練習をしていてメンバーが無理はよくないと言っても蓮君がそれでも歌おうとする事。だからいっそのこと蓮君に歌禁止令を明日から2日間……蓮君に分かってほしい事が本人に分かるまでは歌う事を禁止したこと。
それでも,歌う事が大好きな蓮君が自分達のいない所で歌う事を我慢出来るか分からない事。本当はメンバーの誰かを見張りにつかせたいけれど蓮君の事だから自分の事を気にせず練習してきてって言ってくるであろうこと
「それで……私に?」
『うん。もちろん僕達のバンドの話だから倉田さんに無理強いはしないけれど』
「や,やらせてください!」
どうして航海さん達が蓮君に歌を禁止にしたのか,その理由は教えてもらえていない。だけど……聞いた限りの練習を続けていたら蓮君の喉を傷めてしまうから……それを抑えるため,蓮君の事を守るための提案なら私に受けない理由が無かった。
『そう言って貰えてよかった。僕達のシェアハウスの住所は後で送るよ』
「は,はい。こちらこそありがとうございます」
『お互い様だよ。じゃあ,明日はよろしく』
その一言で航海さんからの電話は終わって,未だに実感がなくて空を見上げたら……不思議と蓮君達のArgonavis の船が荒波に飲まれてしまうような……そんな曇りの天気だった。蓮君が歌えなくなったら私は悲しいし……きっと,蓮君自身も悲しくなる。
「ただいま」
お家に帰って,いつものようにお母さんと晩御飯を食べた後私はクローゼットの扉を開けた。
「うぅ……明日の洋服どうしよう」
デートなんてしたことないから,どんな服を選べばいいのか分からなくて取り合えずお洋服を引っ張り出してベッドの上にならべてみるけれど
「蓮君ってどんな服が好きなんだろう」
できるなら,蓮君が好きそうな服を着て行きたい。明日の目的はきちんと分かっているけれど,蓮君に歌わせない目的の他に私にとっては
「……初めて蓮君と2人でおでかけするもん」
函館にいた時は,私が小さかったから基本的にお母さんか蓮君のお母さんが一緒じゃないと出掛ける事は出来なかったから。あの時出来なかったことを11年経った今出来るようになって嬉しいけれど,どうしようって気持ちも同じ位出てくる。
「うぅ……いつも蓮君と会う時は制服だったから分からない」
結人さんか航海さんに聞いてみる? でも恥ずかしいよ
「ましろちゃんお風呂出来たわよ~」
「お,お母さん?!」
そんな事を言いながら部屋に入って来たお母さんは,私を見た後次にベッドの上に並べられた服たちを見て不思議そうに聞いてきた
「どうしたのこんなに服を並べて」
「えっと……」
ど,どうしよう。蓮君の事話す? でも恥ずかしいし……
「……。ましろちゃん,ちょっと付いて来て」
「え? う,うん」
楽しそうな表情を見せたお母さんはそう言って踵を返して,連れていかれたのはお母さんとお父さんの寝室だった。
高校生になって”そういう事”を学んでしまった今,なんだか少し複雑な気分。
「えっと,たしかここに」
お母さんはクローゼットを開けて,更に奥の方に手を伸ばして何かを探してやがて「あったあった」とそれを引っ張ってきた。
「わぁ……綺麗」
お母さんが引っ張り出してくれたのは,クリーニング屋さんの衣類カバーがかけられていた真っ白な……純白なワンピースだった。透子ちゃんみたいなファッションセンスがない私にも分かる位とてもシンプルな服,でもだからこそ着ている人の存在を一層際立たせるようなワンピース。
柄とかは何もないけれど,私は一瞬でそのワンピースに目を引かれた
「これはね,私がお父さんとの初デートの着たワンピースなのよ」
両親の初デートがいつのことなのか分からないけれど,きっとお母さんはこのワンピースを大切にしているんだと思う。だって……こんなに真っ白で汚れの1つもないワンピースを見たらどれだけ大切にしていたのか嫌でも分かる。
「まあ汚しちゃったときもあったんだけどね」
お母さんはのほほんと言って私にそのワンピースをハンガーごと差し出してきた
「え?」
「明日はこれ着て行きなさい」
そう優しく言ってきてくれた……
「へっ?? ど,どうして?」
「だって,明日蓮君とデートなんでしょ?」
「……」
数瞬,お母さんがなんて言ったのか分からなかったけれど,その言葉を理解した時にはもう私の身体は急激な体温上昇を迎えてた。
余りの衝撃に口をパクパクとしてようやく言葉を絞り出した
「え?! ど,どうして知ってるの?!」
蓮君の事……まだ教えていない筈なのに。それに私デートするなんて一言も……
「分かるわよ。だって,私はましろちゃんのお母さんなのよ?」
そ,そんな超能力みたいな台詞言われても……。とても自信たっぷりなお母さん,私とは性格的に結構違う気がするのに周りの人からは良く似ているって言われる。
きっと,お母さんもお父さんの時は私と同じ感じになっていたのかな……。
「それに,あんなに広がってる服を見ればましろちゃんが明日のお洋服で悩んでるのなんて直ぐに分かるわよ」
「ふふっ」って,とっても嬉しそうに差し出してくるワンピースは前までの私ならきっと自分には似合わないって差し出されていても着ていなかったかもしれない。単色だし,まっしろな服は着ている人の姿がもろに見られやすいと思うから……自信が無かったころの私ならきっと着ていなかった。
でも……バンドを始めて,私にしかない”特別”を私は掴みたい。
「あ……」
それを受け取ると不思議ととても重く感じた。手触りはさらさらで,色あせていない。とても10年以上前のものと思えなかった。
きっとお母さんにとって大事な物で……それを私に貸してくれたのが嬉しかった。
「ありがとう,お母さん」
お母さんは微笑んで頷いた
[newpage]
シェアハウスArgonavis に現れたましろを蓮はびっくりしながら迎えていた
「しろちゃん,どうしたの?」
その言葉に答えたのはましろではなく後ろからやって来た航海だった。
「じゃあ倉田さん,蓮の事よろしくね」
「は,はい」
1人だけ状況がよく分かっていない蓮だが,そんな蓮の様子もましろにとっては愛おしくてつい微笑み,蓮の服の袖を掴んだ。
「え,どうゆうこと?」
「お前はこれから倉田と出かける,それだけの事だ」
言いながら凛生は蓮のショルダーバッグを彼の肩にかけた。バッグの中には既に蓮の荷物がまとめられていて蓮はようやく航海と凛生がましろを呼んだのと気が付いた。
「行こ? 蓮君」
今までとは一味違うましろの笑みは,今の蓮には眩しくてつい後ずさりしようとしたがそうはさせまいとましろは蓮の袖を引っ張って2人はシェアハウスを出て行った。そんな2人を凛生と航海は保護者気分で見送った。
ましろに連れられた蓮は,2人してそのまま下北沢駅に向かって京王井の頭線へと乗り込んだ。流石に日曜日の昼間と言う事も合わさり結構人はいたが運よく2人は席に座る事が出来た。
「しろちゃん,どうしていきなり?」
「蓮君一緒におでかけするって約束忘れてたでしょ」
再会した日,お出かけする事で果たしていなかった約束を果たしたことにすると言う約束をしていたがあの日からしばらく経っても蓮からはそう言った話がなかったのは本当だ。
「……あ,ご,ごめん。そんなつもりじゃ」
しかし,蓮とてその約束を完全に忘れていた訳ではない。そもそもこんな最近の約束を忘れるのなら11年前の約束すら忘れるのがオチだろう。
今の蓮の優先順位がましろよりもLRフェスの方が無意識に高くなってしまっていたからこそましろとの約束が後回しになってしまっていたのだ。
「やだ」
その蓮の謝罪をばっさりと切り捨てるましろに蓮は少しビクッとする。次に見せたましろのある意味嗜虐的な笑みは多分一部のファンにはぐさりと刺さる代物である。
「ふふっ,今日はいっぱい付き合ってもらうからね」
多分,何もない人からなら歌う為に遠回しに遠慮していたかもしれないましろの行動は既に航海達の援護を受けたましろにとって何の造作もなく蓮を連れまわす事に成功した。
今は歌う事を禁止されている,だからこそましろの事を俯瞰的に見る事が出来た。
(なにか……雰囲気が少し違う)
彼女の身体のラインが浮き出る純白のワンピース,何の飾りもないからこそ着ている人間の個性がより際立つもので……そんな彼女を見ている蓮は少し落ち着かなくなった。
(なんだろう,この気持ち)
ましろは少し頬を紅く染めたまま,蓮に見せつけるように少し自分の髪の毛を自分の耳にかける。ただそれだけの,女性なら誰もがやる行動の筈なのに酷く情欲的で蓮はそんな彼女から眼を離そうと視線をチラチラとずらす。
「……? どうしたの,蓮君」
「え,ううん。なんでもないよ」
「そう……」
蓮は今何でもないと言っていたが,ましろには分かっている。
(だって……耳まで紅いもん)
普段は天然な蓮が,自分の事を意識してくれていると分かってましろは嬉しくなった。それでも今日のデートの主導権を渡そうとは思わなかった。今まで我慢させられた分,今日は沢山連れまわしてやるのだ。
(かわいいなぁ,蓮君)
2人は途中で電車を降りて,某有名な喫茶店へとやってきた。月の森の生徒御用達の喫茶店で,蓮が周りを見ると今まで自分の周りにはいなかったような……キラキラとしているご婦人や学生が沢山いてその中に男性が見当たらず蓮の肩身は少し狭くなった。そんな蓮を連れてましろは手慣れた様子で入店し麦わら帽子を取りながら近づいてきた店員に言った
「2人でお願いします」
「はい,こちらにどうぞ」
案内させられる傍ら,蓮は落ち着かなくて視線をキョロキョロとするがましろは何故か落ち着いていた。案内された席は窓際で外の様子がよく見える席だった。2人は向かい合うように座るとメニューを見ると,函館では見る事がなかったメニューが沢山あり,大体女子高生受けが多そうなメニューで蓮はびっくりした。そして一通り見た後,近づいてきた店員さんに
「えっと……ぼ,僕はオレンジジュースで」
考えるに考えた結果,古今東西嫌いなものは中々いないだろうオレンジジュース。しかし嫌いな人間が少ないからこそ大の大人である蓮が頼むギャップが店員さんに受けてしまったのか少し笑われてしまった。……いやこの場合はもしかしたら蓮のイメージに合っていたからこそ変わらったのかもしれないが。
「私はダージリンをお願いします」
メニューも見ずにましろが注文し,それを受けた店員さんは厨房まで向かって行った。
余りのお店の上品さに蓮は小声で思わず問いかけた
「し,しろちゃん凄く堂々としてるね。僕なんだか落ち着かないよ」
「そうかな? これくらい普通だよ」
完全にましろのペースだが,ましろもこのお店につくしたちに初めて連れてこられた時は今の蓮のようだったのは言うまでもない。
でも,ましろが立てた作戦はある意味利いていた
(こういう所で歌いたいってことはないよね)
余りに周囲の雰囲気が今までの蓮の生活圏に無かった雰囲気な為,蓮の意識はそちらに向いて歌う気持ちが出る事はないだろうと言う作戦はとても効いていた。
でも……航海達が蓮を休ませた理由を蓮が知るためにはしなければならない事があった。今は休息期間なのだ。
「こちらオレンジジュースとダージリンです。ごゆっくりどうぞ」
飲み物も来たと言う事で蓮はストロー,ましろは砂糖とスプーンを取り出して2人は口を付ける。ましろがダージリンに入れた砂糖の量は想像にお任せする。
因みにこの光景を見ている周囲の学生やご婦人はましろと蓮,どちらが年上なのか全く分からなかった。
「ね,蓮君のお話聞かせて? 私達が別れたあとのお話」
「う,うん。いいよ」
蓮とましろは自分達が離れてしまった後の出来事をテーマに色々と話した。ましろが引っ越した後も蓮は歌う事を続けた事,もっと歌いたいから中学では合唱部に入っていた事。でも
「やめちゃったんだ」
「うん。皆……僕がもう一度しようって言っても見たいテレビがあるとか,予定があるって理由で,一緒に歌ってくれなかったんだ」
蓮の歌唱力はましろが幼馴染という色眼鏡がなくても凄まじいものだと思う。とても伸びる歌声は人の意識にも簡単に入って来るし,その中でも人の気持ちを熱く揺さぶる意志の強さを感じられて蓮の歌声は好きだ。激しいテンポの曲も,しっとりめの曲でもきっとましろは蓮の……蓮達の歌が好きになる。
でも,だからこそ生半端な実力では蓮と張り合う事が出来ず,当時中学生で部活という強豪校じゃなければお遊びなような所では蓮は不満で辞めたのだと察した。そしてそれがある意味トラウマになっているのだと。
少し昔の事を思い出した蓮は悲しそうに顔を下に向けて……心配になったましろはつい加護欲を抑えられず向かい側に身を乗り出して蓮の頬に手を優しく触れた
「し,しろちゃん?」
そのいきなりの行動に蓮は戸惑いの声をあげる。
「でも,私はやめてよかったと思うな」
そう一言言ったましろはほっぺに熱を溜めながら自分の席に戻る。
「だって,蓮君がそうしてくれなかったらきっと私はまた蓮君に会えなかったから。だから……嬉しい」
蓮が合唱部を辞めていなければ,きっと結人と航海にも出会わず学校という小さなコミュニティーで燻っていた。そうすればArgonavisも結成出来ずLRフェスの為に東京に来ることだってなかった。そう思うときっと蓮にとっても,ましろにとっても辞めると言う選択肢は絶対に間違っていなかったと断言できる
「しろちゃん……。うん,結人と航海も同じことをいってた。僕が歌う場所はArgonavisしかない」
「うん! すごく分かる! 私も……私が歌える場所はきっとMorfonicaしかないから」
2人はお互いの居場所を確かめ合い,つい示し合わせた訳でもないのに2人して微笑んだ。この時外野では何故か砂糖を放出している人が沢山いたとかいないとか。
2人はその後2人だけの幻想的な世界に入り込み,結局お互いのバンドの事,新曲の事,歌の事を話しつくしていた。多分この後ましろの予定が無かったらお店が閉まるまで話していた可能性もあったが,ましろが立てたプランの時間が来たので2人は会計し喫茶店を出て,ましろに連れられてCiRCLEへとやってきた。
「CiRCLE……? どうして?」
「今日私の大好きなバンドがライブするんだ! 蓮君にも見てほしくて」
CiRCLEは既にそのバンド目当てに結構な人が集まっているのを見て蓮は無意識に「凄い……」と呆然と呟く。ましろはカウンターのまりなの所に行き取り置きをしてもらっていたであろう二枚のチケットを受け取り戻って来た。
ましろはとっておきな物はまだまだと言った風にライブ会場に入っていく。既に会場は満員で,このままでは蓮もましろもおしくらまんじゅうする事になってしまうと思ったが,ましろはそんな蓮をスルーして引っ張っていくと着いたのは二階の招待席とでも言うべき場所。
「えへへ,ちょっと奮発しちゃった」
そう言ってとても嬉しそうな笑顔で蓮に半券を手渡して2人は並んで座った。
「あ,お金」
そこで思い出したように蓮が半券を見ながら言ったが,ましろは首を振った
「大丈夫だよ。今日のチケット,実はお母さんからのプレゼントなんだ」
昨日の夜,ましろの母は娘に「ましろちゃんの初デート記念」という謎の名目でましろはそれで少し良い席を取る事が出来た。
ましろのお母さんの事はもちろん蓮も覚えていた。
「今度お礼に行かせてよ」
「う……うん」
蓮が自分の家に来る……お見送りはしてくれたが家の中までは入ってこなかったので緊張する。何故なら場面だけ見るのなら彼氏が自分の親に挨拶しに来たように見えなくもないから。
そんな事を想っていたら,唐突にステージの明かりが消えて2人して目線がステージに移る。そうしてステージの明かりがついた時には既に5人の少女がスタンバイしていた。その中心にいる猫耳のような髪をした少女が元気な声でギターを鳴らしながら話した
「皆さんこんにちは! 私達……」
「「Poppin' Partyです!」」
その言葉と一緒に不思議と耳に残る音の重なりが蓮の意識を引いた。
「今日のライブ,凄く楽しみにしてました! みんなも楽しんでいっぱいキラキラドキドキしてくださいね!」
(あれ……この言葉どこかで)
彼女の言葉の何かに蓮は引っかかりを覚えたが,それが何なのかが分かる前に彼女たちの演奏が始まった。
「じゃあ初めはこの曲! Happy Happy Party!」
そこから始まるPoppin' Partyの曲,蓮が初めて聴く曲たちはどれもこれもとても新鮮なものだった。普段は自分達の曲や特撮ソング,そしてGYROAXIAのような曲を聴くことが多い為こういった女子高生たちが歌うような曲を実はそれほど聞いたことが無かった。
でも,彼女たちの歌はとても楽しくていつしか蓮は少し身体でリズムを取り始めていた。その事は隣にいるましろにも分かって,ポピパの音楽を前のめりに聞き始めている蓮を微笑ましく見てた
(あ……蓮君楽しそう。やっぱり凄いなぁ,香澄さん達)
今目の前で演奏しているバンド,Poppin' Party……その中でもギターボーカルである戸山香澄との出会いがましろにとって人生の転換期になった。それほどにましろに影響を大きく与え,彼女たちの音楽がましろは大好きだ。
楽しい時間はあっと言う間に過ぎるもので,ライブは既に終幕へと向かっていた
「今日はとても楽しかったです! 皆さん,ありがとうございました!」
そう言ってPoppin' Partyのメンバーは舞台袖へと引っ込んでいき,ライブ終わりの緊張の解放が2人に襲ってきた。それは1階部分や,2階の席にいた人たちも同じなようで緊張の糸がとれたお客さん達はざわざわと今のライブの感想を言い合いながらこのホールから出て行く。
「……」
しかし,ましろと蓮は未だにステージの余韻が冷めないのか2人が動き出したのは他のお客さん達が殆どいなくなった後だった。
ライブホールを出た2人はその余韻のままライブについて語っていた
「はぁ~,今日も香澄さん達きらきらしてたな」
感嘆したように呟くと,隣にいた蓮も大きく頷いた
「うん! すごく楽しそうに歌ってて……僕も歌いたくなった」
「そうなんだ! 香澄さん達の歌ってとっても元気が出るし,聞いていたら歌いだしたくなるよね!」
「あ,そう言えば1曲目の──」
2人はCiRCLEの外にある飲食スペースで先程のライブについて割と解像度が高い感想戦を行っていた。どちらかが曲についての反応をすればもう一方がその曲について更にあれこれと話す。おおよそ凡人には出来ないような会話が繰り広げられていた。
「本当に香澄さん達はすごいよね」
「うん! 僕も早く歌いたい……」
そこで自分に今かけられている制約を思い出したのか,途端に顔に影を落とす。ましろはそれを見て思った。
(蓮君……とても辛そう)
それほど蓮にとって歌う事というのは大事な事で生きがいなのだとましろは感じた。そんな時,2人の背後からましろに勢いよく抱きつく影が1つ
「ましろちゃーん!!」
「へ? ……きゃっ!」
猫耳のようなヘアスタイルで,ましろよりも数㎝身長が高い彼女はギューッとましろの事を抱きしめて隣にいた蓮はいきなりの事でびっくりしていた。
「おい香澄,いきなりはやめろって!」
「あはは……香澄だしね」
そんな彼女を追うようにCiRCLEから出て来たのは金髪のツインテールの少女と香澄と呼ばれた少女と同じバンドメンバーであろう少女がやって来た。
その後ろからは黒髪のショートヘアーとロングヘアーの少女もついてきた
「めっちゃ楽しそ~」
「私も混ぜて!」
そんなことを言ってロングヘアーの少女がましろ香澄と呼ばれた少女に突撃を噛まそうとしていたがそれを手を引いて止めたのは金髪の少女である
「やめろ。余計に状況が可笑しくなるだけだから」
「状況?」
そこで気が付いた,香澄とましろが抱き合っている間その隣でオロオロしている1人の大学生の存在。金髪の少女は香澄の首根っこを子猫を持つようにしてましろから離した後,ましろと蓮に向き直った。
「有紗ごめん~」
「もう良いから,この状況を何とかしてくれ」
投げやりな口調で言うと,隣の少女が眼をどこかキラキラしながらましろに聞いた
「ましろちゃん,もしかして彼氏とか?!」
「かれ……?!」
そのワードにましろは一瞬でトマトの様に真っ赤に染まり目の前の少女達は内心「おー!」と思った。
「そ,それはその……そうなったらいいなって思いますけど」
最後の言葉は声が小さすぎてよく聞き取れなかったが,こんな耳まで真っ赤になっているましろを見ればよほどの鈍感ではない限り分かってしまうのが多感な女子高生である。いかんせん,今の彼女は素敵な純白なワンピースを着ているし普段から肌は白い彼女の頬の変化は見ていたらよく分かるものである。
しかし! それが分からない鈍感がここに1人,キラキラした様子で5人の少女に聞いた
「もしかしてPoppin' Partyの人達?」
金髪の少女が「こいつマジか」みたいな眼を向けていたが,それを打ち消す真ん中の少女の自己紹介が始まった。
「はい! 私,ギターボーカルをしてます。戸山香澄です!」
猫耳のような髪の少女が香澄……ましろがバンドをするきっかけを作った人物である。
「市ヶ谷有紗です。キーボードしてます」
その隣にいるツッコミ役の金髪少女が有紗
「私は山吹沙綾です。ドラマをやってます」
その隣のポニーテールの少女がドラマーである沙綾
「牛込りみって言います。ベースです」
香澄の右にいる短髪の黒髪少女がりみ,何故か胸にはやまぶきベーカリーと書かれた袋を大事そうに抱えている
「花園たえです。ギターをやってます」
その隣の長髪少女がたえ,なんだか不思議な雰囲気を纏う少女である。
「あ,僕七星蓮って言います。Argonavisってバンドのボーカルしてるんだ」
「お兄さんもバンドしてるんですか!」
「うん! 戸山さんの歌,とっても元気が良くてすっごく歌いたくなったんだ!
「え! ありがとうございます!」
そういって嬉しそうな顔をした後,香澄は「あれ?」と首を傾げて蓮の顔をまじまじと見た。蓮は不思議そうに彼女の顔を見返すが,先に声をあげたのは香澄の方だった
「あーっ! お兄さん,もしかして私と公園で会った人じゃないですか?」
「え……? ああっ!」
「ど,どういう事蓮君」
ましろからすれば意味の分からない会話であることは間違いない。公園って何のことだか分からないし,香澄と蓮が知り合いだったことに一瞬胸が苦しくなったのを無理やり押さえつけ蓮に問いかけると,蓮はとっても嬉しそうに教えてくれた
「僕としろちゃんが会った日に近くの公園で戸山さんに会ってたんだ! そう言えばあの時もキラキラドキドキって言っていたね」
「わぁ! すっごい偶然だね!」
2人はそのままボーカル同士先程のライブについての話が始まってしまい,とっても要領得ない言葉が香澄から飛び出るがその香澄語を何故か蓮は直ぐに解読し同等の蓮語で返すと言う光景が続いた。
有紗たちはそんな香澄をしょうがないなと言いたげに見ていたが,沙綾がこっそりとましろを見ると
(蓮君……凄く楽しそう)
両手を何かを逃さないように力強く握りしめ,意識していないかもしれないが眼が不安そうに泳いでいたのを見て察した。
先程までは自分が蓮と同じような会話をしていたはずなのに,蓮は自分と話す時以上に楽しそうに見えて……胸の中にいけない黒い炎が溢れてきてしまう。
(だめ……相手は香澄さんなんだから。そんな事思っちゃダメ)
──そこは……私の場所だなんて
自分の中の嫉妬という炎と理性がせめぎあって辛そうに顔を少し歪める。それを見た有紗は楽しそうに談義している香澄の肩を叩いた
「香澄,そろそろ行くぞ」
「はーい! じゃあ蓮さん,またライブ,見に来てくださいね!」
「うん! 戸山さんも今度ライブ来てね!」
お互いがお互いのライブに勧誘した後香澄は他のメンバーに連れられて別れようと踵を返した……が,思い出したようにましろに近づいて耳元で囁いた
「大丈夫だよ,ましろちゃん」
「え?」
ましろが香澄のその言葉の真意を聞こうとしたが,その前に香澄の方が離れてとても楽しそうに言った
「その服,とても似合ってるってこと!」
そう言って香澄は今度こそPoppin' Partyのメンバーと共にCiRCLEを出て行った。しばらくましろはその背中をボーっと見ていたが,思い出したように蓮を見るととても心配そうにましろを見ていた。
「しろちゃん,大丈夫?」
そう言われ我に返り,ましろは慌てて頷いた
「う,うん! 私達も帰ろっか」
既に夕日が立ち上っていてもう直ぐこの周辺は暗くなる。それが蓮も分かっているから素直に頷き,2人は最寄駅まで向かい電車に揺られる。
行きの電車の時と違い,ましろはどうしてか上手く言葉が出せず蓮は蓮でまだPoppin' Partyのライブの熱が冷めないのかとってもご機嫌である。結局ましろの最寄り駅である和泉多摩川駅まで着くまで2人は一言も会話をせず,流石に様子が可笑しいと思った蓮が駅から出ながら聞いた
「しろちゃん,なんだか元気ないよ?」
「え……? そ,そうかな?」
言えるわけがない,蓮と香澄が仲睦まじく話している姿に”嫉妬”していたなんて。だから誤魔化そうとしていたが,七星蓮という人間はそう簡単に退く人間でもなかった。
「うん。どうして? 僕には話せない事?」
心配気に聞いてくる姿はあの頃の蓮と同じだった。
「……」
ましろは無言で蓮の右手を自分の左手で繋ぎ,少し上目遣いで見上げる
「しろちゃん?」
「もう少しだけ……一緒にいたいな」
今までは,家まで送り届ければそれだけで別れていた。もっと一緒にいたいと思っても,それを伝える勇気がなかったから。
だけど今だけは我儘な女の子で蓮に迫る事にした。ましろの言葉を蓮は嬉しそうに頷いたあと,2人は和泉多摩川の河川敷までやって来てたった2つしかないベンチに座った。耳をすませば近くを流れる大きな川の流れが一つの音となって2人の耳に入って来る。
「すごい……とても静かな場所だね」
「うん……」
ましろのイメージ世界で,クジラやペンギンたちが空を泳いでるようなイメージが流れてくる。今年の夏,透子の発端で始めた超夏モニカ計画の最後の地,ここでましろはMorfonicaのメンバーと花火をして……新曲を完成させた。
この場所はましろにとって大切な場所であり,好きな場所だった。だからここでなら,素直に言葉に出来るような気がした。
「私ね,蓮君に会えてとても嬉しかったんだ」
嘘偽りのない自分の言葉,何かとあれば責任転嫁をしてしまう。弱音を吐いてしまう事もある。”何もない”と思っていた自分がいたこともある。
でも,それらの出来事があった時でも記憶の中には蓮がいた。
「僕もしろちゃんにまた会えて嬉しかった」
その言葉に蓮の顔を見ると,街灯が余りないからかよく見えなくて……というのは言い訳でもっと彼の顔を近くで見たくて隣に座っている彼の身体に少し体を密着させてみる。
「し……しろちゃん?」
七星蓮,実はましろ以外の女性とそれほど付き合いはない。函館にいた時から歌にしか眼中になかったし,元々1人が好きだったから。
それこそましろが引っ越してしまった時が女性との関りが最後だ。だからこそ唐突に身体をくっつけて来たましろに動揺し始めた。
(しろちゃんの身体……あたって)
今日は元もとワンピースという恰好なのでほぼ直にましろの身体に触れ,蓮の心臓は少し動きを早まる。ましろは蓮の存在を確かめる為に,もう少しだけくっつく。
周囲が暗いから分かりにくいが,既にましろの頬には熱が灯って自分の心臓も蓮と同じように早く動いている
(どきどきしてる……。全部……蓮君のせいだから)
そう心の中で蓮へと責任転嫁し,そのまま自分の頭を蓮の肩に預ける。まるで恋人のような事をしているが,倦怠期の恋人よりもずっと濃厚な時間が過ぎていた。
秋の風が吹く中で2人はその風に身を任せ,空想の幻想世界へと旅立った。
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秋が近づいてくる爽やかな風の中で,僕としろちゃんは河川敷のベンチで身を寄せ合ってゆっくりと時間が過ぎていた。
隣から僕の肩に頭を預けているしろちゃんの呼吸,心臓の音,髪の毛の一本一本まで不思議と輝いて見えて……さっきから心臓が忙しなく動いている。
(しろちゃん……どうして……)
『さあ,ましろちゃんに一目惚れでもしたんじゃないの?』
万里にそう言われた時,僕の中で今までにない感情が沸き上がって来た。心臓がしろちゃんの”女性”の部分を見るだけでドキドキが止まらなくなってる。
僕が初めてしろちゃんとディスティニーロックフェスティバルに行って,僕が歌に出会った時のような心臓の音の高まりはしろちゃんに会った日から日に日に強くなってる気がする。
(あ,そう言えば今日は一度も歌っていない)
僕にとって歌はArgonavisの皆と出会えた証であり,こうしてしろちゃんとまた会えた証でもある。歌を歌わない日なんて今までになかったけれど……今日は歌わなかったな。
「……」
そう思うと……無性に歌を歌いたくなってきた。
穏やかな川の流れと空模様は,僕にまた違うインスピレーションをくれる気がしてきた。この感覚を早く歌にしたいと思った。
でも……航海と凛生から今日と明日は歌っちゃダメって言われてる。こんなに歌いたくて仕方がないのに歌っちゃだめなんて……今にも胸が張り裂けそうで辛い
「蓮君,今凄く歌いたい気分でしょ」
僕が歌いたい,でも歌っちゃダメだって思っていたら肩にいるしろちゃんが見透かしたように聞いてきた
「うん……。僕歌いたい」
「でも今は歌っちゃだめだよ?」
うぅ……,しろちゃんにそう言われて僕はまた歌いかけた口を閉じたけれど,我慢すればするほど”歌いたい”って気持ちが溢れてきてもう抑えられないほどに感情が溢れて来た。
「歌えない事が……こんなに辛いなんて僕知らなかった」
1日しろちゃんと一緒にいて,それでも歌いたい衝動が突き抜けてきて……歌えない事がこんなに辛いなんて知らなかった。あのPoppin' Partyのライブを見た時,その思いがずっと強くなって……歌えない事に拍車をかけて来た。
「その気持ちが……航海さん達が蓮君に伝えたい事だったんじゃないかな?」
「え?」
僕の肩に自分の頭をのせているしろちゃんが一度顔を上げると……何だかお母さんみたいな綺麗な微笑みで僕を見ていた。
「蓮君がいっぱい練習して……それで喉を傷めて一生歌えなくなったら今みたいな気持ちがずっと続くんだよ?」
「……あ」
しろちゃんに指摘された僕は,そうなった未来を想像したら……凄く寒気がした。僕には歌しかないのに……その歌も歌えなくなったら。
そんな事を考えたこともなかった。
『自分の身体をいためつけるようなやり方は感心しないな』
凛生が僕を厳しい眼で見ていたのは,昔の凛生と同じことを僕がしようとしていたからだ。凛生は身体の負傷で大好きだった野球が出来なくなってしまった。そんな凛生だからこそ,僕が歌えなくなった時の事を考えてくれたんだと思う。
そう思えたら昨日の僕はきっと凛生に危機感を抱かせていたんだ。昔の自分と同じになってしまうんじゃないかって気持ちに……。航海もきっと同じだったんだ。2人は僕以上に僕の事を考えてくれていたんだ。
「私もボーカルだから蓮君の気持ちも分かるんだ」
そう言ったしろちゃんは,少しだけ強引に僕の顔に手を添えておでことおでこをこてんとくっつけて来た。そうするとしろちゃんの体温が直接僕伝わってきて,逆に僕の体温もしろちゃんに伝わっている……気がする。小さい頃,しろちゃんが熱を出した時も僕が同じことをしてた。
「私も皆の足を引っ張りたくないって思うから」
そう言ってしろちゃんは僕の頭を撫でてくれた。
「でも,歌えなくなったらそれまでだから……きっとそれを航海さん達は分かってほしかったんだと思うよ」
凄くぎこちない触り方だったけれど,しろちゃんの心配が心から伝わってきて僕の胸がキュッとしまった。だから僕もしろちゃんの身体に手を回して……昔の様に抱きしめた
「れ,蓮君??」
しろちゃんが凄く戸惑った声を出してたけれど,直ぐに抱きしめ返してきてくれた。
「うん。僕も分かったよ,航海と凛生が僕に歌うのを禁止にした理由が」
「うん。……良かった」
少しの間……たった2人だけの河川敷で僕達は互いの鼓動と体温を感じあいながら同じ時間を過ごした
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「しろちゃん,今日はありがとう。とっても楽しかった」
蓮君が私のお家の前で朝には見られなかった笑顔で言ってくれて,私も嬉しくなってつい飛び跳ねそうな声でお返事をした
「私もすごく楽しかった! また……一緒にお出かけしようね」
多分,今私の顔は凄く紅くなっていてきっとこんな暗い場所じゃなかったら恥ずかしくて隠れていたと思うけれど今は周りは暗いから大丈夫……だと思う。
「うん! 本当にいいの? 今日じゃなくて」
さっき私お家に送る時にお母さんにお礼を言いたいって言われてつい今日じゃなくても大丈夫って言っちゃったけれど……だって今日にしちゃうと蓮君に会う理由がなくなるもん。
「大丈夫だよ。またお家来た時に」
「うん。分かった。それじゃあ,ね。しろちゃん」
「うん。またね,蓮君」
私はそう言って家に入って小さく手を振って蓮君と別れて……リビングにいるお母さんをスルーして部屋の中に入ってベッドの上にダイブした。近くにあったぬいぐるみをぎゅーって抱きしめて……目も少し滲みながら思った
(蓮君と……しちゃった……デート)
夢にまで見た蓮君とのデートはとても楽しくてキラキラドキドキしてた
「~~ッ!」
今日してきた行動を振り返ってみたら自分でも恥ずかしい事を沢山しててベッドに足をぱたぱたして熱を逃がそうとするけれど,そうすればするほどさっきまでの事が頭によぎって胸の鼓動が止まらなくなってる。
──ピコン!
私がさっきまでの事に悶えていたら,いきなり私のスマホに通知が届いて少し画面を見てみたら
「れ,蓮君?」
差出人は蓮君で,その名前を呟いただけでまた心臓が早く鼓動してる……。急いでチャットを開いたら
『今日はとっても楽しかった! また一緒にお出かけしようね!』
「……ふふ」
その蓮君の言葉が,今日の事は嘘じゃないんだって教えてくれて胸がキュってしまる。この想いが嘘じゃないんだって分かったから。ふと思って私は自分のおでこに手を当ててみる。そうしたらさっきまでの熱が未だに籠っていてとても熱かった。
「蓮君のおかげ……かな」
髪に隠れてるから普段は分からないけれど,私のおでこは少し広いからコンプレックスだったけれど……今日蓮君とおでことおでこをくっつけた時,とっても蓮君の体温を感じられて私は初めてこのおでこに感謝したかもしれない。
──ピコン!
その時,またチャットの通知が来て画面を見てみたら送られてきたのはたったの1文
『今日のしろちゃんの服,凄く似合ってて可愛かった!』
「~~~??!」
大好きな人から言われる”可愛い”が,こんなに情緒を変にさせるなんて知らなかった。
「れ,蓮君のばかあ……直接いってよぉ」
だから言葉ではそんな事を言って見るけれど,そんな事よりも嬉しさの方が上回って私は暫くベッドの上で悶えていた。
……お母さんに見られているとも知らずに
お疲れさまです。
おでこ広い云々はガルパの四コマ漫画であったやつですね。
最後に爆弾投げつけるスタイル。いつも通りだな(`・ω・´)キリッ
でも書いてる内にもう付き合わせた方が良いかなとか思ってしまった()
時系列もうバラバラになるから話数増えてきたら時系列順に話並べ替えた方が良いのかなと思いました。
ではまた!
恋人になった2人の関係性どんなのが良い?
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今まで通りましろから蓮に激攻め
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逆に蓮がましろに激攻め
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寧ろお互いがお互いに激攻め
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というか全部やれ