その魔法師、YAMA育ちの剣士につき 作:ヘッポコ魔法師
魔法科高校の劣等生ニワカと仙術ニワカ、2つが合わさり最強に見える……!! (見えない)
やけくそ縮地は、やめようね!
「
「………………」
仙術とは、およそ人の身で行使する事が叶わぬ莫大な力を、鋼の如き剛性と流水が如き柔軟さを併せ持つ心で制す術。
必然、心を乱せば使える力は小さくなるか、或いは暴走して己を傷付ける。師である祖父は未だ自分より強く、昨夜に酒で酔わせ、不意打ちのように逃げ出した……と見せかけて潜伏しているのは、一重に格上である祖父を怒らせ、一時的にでも自分が優位に立つ為だ。
何故こんな事をしているのかといえば、それは鍛錬から逃げ出す為である。あのさぁ、俺はバチクソイケメンフェイスとバチクソイケメンヴォイスを手に入れたんだよ? なのに、なんで産まれてこの方よく分からん場所で鍛錬に継ぐ鍛錬をしなきゃならんの? 馬鹿なの? 死ぬの?
然らば、脱走する他あるまい。そして、今がその時だ。
「疾ッ!!」
「甘いわッ!! ──なにィ?!」
背後からの急襲。作戦通りに攻撃が通り、一時的に体内の気脈を乱した。
普段ならどれだけ縮地で離れようと辿られてしまうので無意味だが、今回はそうはいかない。祖父が驚いていたのは、俺が手合わせの時に一度もこの技を見せていないからだろう。当然だ、全てはこの日の為である。とはいえ、無力化できるのは一瞬、本当に縮地が一度は間に合うかという時間だけだ。
俺は意を決し、目的地も定めぬままにヤケクソで縮地を行った。
◇
そうして勇は、一時の自由を手に入れたのだった。
(なに? 帰ってきてからが怖い? はは、鍛錬が地獄じゃない日なんて無いからノーダメージだね(笑)。俺は無敵だぁ!! )
とはいえ祖父は既に再起し、自分を探し始めている事だろう。そう考えた勇は、一刻も早く短いバカンスを楽しまなければなるまいと思い、周囲を見渡して……
(さーて、ここはどこなのかなぁ──ぁぁあああ?!)
気分ルンルンな勇の目に入ったのは、手術室のような空間で、四肢を拘束された少女が男達に襲われているという緊迫した状況だった。
「こんな事をしてただで済むとは思わない事ですね──くっ、嫌っ、やめて!!」
少女の健気な抵抗に、男達は鳥肌が立つような嫌らしい笑みを返し、少女の服に手をかけ──そして、首が落ちた。
「は? ……えっ?」
『は?』は自分を襲う男達の首が落ちたこと、
『えっ?』は拘束具が切られていたことに対するリアクションである。当然だが、やったのは勇だ。
(可愛い! 満点! ……と、それはともかく)
「ちょっと失礼?」
「ん……」
腹部に触れた際の悩ましい声は聞かなかった事にして、勇は少女を仙術によって調べた。特に問題なさそうだったが、抵抗した際に付いた枷による四肢の痣は治しておくことにした。
(暖かい……)
少女は頬を濡らした。見知らぬ男達に誘拐され、穢されそうになった恐怖や、助けられ治癒されているのだという安堵、様々な感情がキャパシティを超えて流れ出たのだ。
(な、泣いちゃってる……どうしよう……いや、一刻も早く親御さんの所に返してあげるのが最善か……)
というか、それしか出来ない。中学校低学年くらいの少女を慰める方法など、勇は知らなかった。というか、転生してこのかた鍛錬しかして来なかったので、ただでさえ雀の涙ほどだった女性に対する免疫が死滅しかけているのだ。
「君の名前って『マヤ』だったりする?」
「………!」
少女は勢いよく頷いた。
というのも、治癒をしながら『千里眼』で周囲を探ったところ、この謎施設の裏口と思わしき場所で『マヤ様をお救いするぞ!』という発言をしている一団を発見したのだ。
(縮地は他人を運べないんだよなぁ……クソっ、こんな所でジジイをぶちのめす為の技しか習得していない弊害を受けるのか……あっ!!)
勇は閃いた。運んであげられないなら、せめて最短距離の経路を作ってあげればいいかと。
そして、刀の柄を握り──
「そい!」
閉まらない掛け声とは裏腹に、少女からは一瞬ブレたようにしか見えぬ神速の抜刀から計4つの剣閃が放たれ、入口まで直通の四角形の経路が形成された。
突然の出来事に、マヤを助けに来た一団も、目の前で見ていたマヤすらも口をポカンと開く始末。だが、一団は俺の隣に立つマヤを見つけると、周囲の人間を魔法で始末しながらこちらに向かって来る。
当然ながら、一団ではなく勇の方に向かってくる敵もいたので、それは勇が対処した。具体的には、四肢の腱を切った。尋問とかするなら殺っちゃうとマズイかな〜という配慮が半分、まだ幼く見えるマヤにグロい光景を見せないようにという配慮が半分だ。
(最初に首を落としたのは咄嗟だったからセーフ)
内心でそんな言い訳をしていると、マヤちゃん助け隊(適当)が直ぐそこまで辿り着き……そして止まった。明らかに勇を警戒しての行動である。
「……君は、何者だ?」
「何者……と言われましても。通りすがりの剣士、名を『
「塚原……まさか仙術使いか?!」
「ええ、そうですが……どうかしましたか?」
「いや……なんでもない」
勇は知る由もないが、塚原はかなり有名である。仙術を実践レベルで使える家は数少なく、現代魔法を一蹴するレベルともなれば塚原が
「信じて貰えるかは分かりませんが、マヤさんに異常が無いかは調べました。ただ……襲われる寸前だったので、そこら辺はお願いします」
今回の件は、中学生くらいの少女が経験するには重すぎる出来事だ。心を守る為の、然るべき処置が必要だろう。
「ご協力、感謝する。最悪の事態に至る前に助けられたのは、あなたのおかげでしょう。是非お礼をさせて頂きたい」
男は一瞬だけ眉をひそめたが、直ぐに表情を戻して勇に感謝を述べる。しかしそれに対し、勇は首を横に振って答えた。
「本当にたまたま通りかかっただけですので、お礼は必要ありませんよ。それでは、私は用事がありますので、これで失礼します」
「ま、待ってください! せめてこれを!」
勇が渡されたのは、名刺だった。困った事があれば、書いてある連絡先を使えということだろう。
「お心遣い、ありがとうございます。それでは……」
「いえ、お礼を言うのはこちらの方です。本当に、ありがとうございました」
最後に固く握手をしてから、勇は縮地でその場から消え去った。ちなみに、転移魔法を使える魔法師は存在しない為、その場にいたマヤ達は目を丸くしていた。
『千里眼』
・恐らく仙術使いが最初に習得する仙術。初歩ながら極めるのは困難を極め、その効果は多岐に渡る。
最初に発現するのはサイオンやプシオンを認識する効果。これは仙術を使うなら必須だが、千里眼に関係なく最初から視えていれば仙術の習得が簡単になる。特にプシオンが最初から視えていると楽だが、その体質は非常に希少。
・メインとなるのは遠見と透視、そして単純に目が良くなる効果。これらは先天的に習得していても仙術の習得が簡単になったりはしない。極めれば未来視や過去視も可能となるが、その域に至った者は遥か過去に1人しかいない。
『縮地』
・ノーモーションかつ一瞬で距離を詰める技。運動神経が良いと習得しやすい。練度によって距離が伸びていくが、転移には仙人としての覚醒が必要。
『気脈を断つ技』
・初めて脱走を試みた時、勇が祖父にやられて、今回やり返した技。発勁の一種。仙人が受けても一瞬だけ行動不能になる程度だが、常人(プシオンの運用方法を知らない人間)が受ければ死に至る危険性すらある。
『身体を調べたやつ』
・物理的、霊的な傷がないか視て確かめただけなので技では無い。
『謎施設をくり抜いた技』
・仙術によって生み出されたトンデモ剣術の通常攻撃。サイオンもプシオンも斬れる。塚原家の悲願は概念を斬ることなので、これくらいは当たり前である(感覚マヒ)。