その魔法師、YAMA育ちの剣士につき   作:ヘッポコ魔法師

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ごめんね勇くん……どこに行こうがトラブルに巻き込まれるのは主人公の運命なんだ……



ホーミング・トラブル

 

 西暦2092年8月11日、つまり今日は、記念すべき日である。なにせ、勇が初めて祖父を打ち倒した日であり、ヤケクソ縮地をせずとも合法的にバカンスが出来る日なのだから。

 

 ところが──

 

(なんでじゃあああああああああ!!!)

 

 そんなこんなで沖縄のビーチにいた勇は、またしてもトラブルに巻き込まれていた。しかも、島全体にサイレンが鳴ったので、千里眼で他所のお宅にあるテレビを覗いたところ、なんと所属不明の潜水艦による攻撃を受け、国防軍の船が消息を絶ったらしい。

 とてもじゃないが、なんくるないさ〜なんて言える状況ではないし、せっかくのバカンスを邪魔されて勇は半ギレである。

 

「君! こんなところで何をしているんだ!?」

 

 そんな勇に声をかけたのは、ガン黒スキンヘッド、筋肉ムキムキマッチョマンの変態……ではなく──いや、外見はその通りなのだが──軍服を着て銃を持った、紛れもない国防軍の兵士だった。

 

「親御さんは……いないみたいだな。着いてきなさい、軍のシェルターに案内しよう」

 

(こんな状況じゃ店なんてやってるわきゃないし、素直に着いて行くかぁ……)

 

 周囲を見渡した軍人は、砂浜に人っ子一人いないことを確認すると、勇の手を引いた。

 まるで小さな子供を相手にするような対応だが、それは当然のことだ。なにせ、今の勇は身長にして約155cm、中学一年生ほどまで縮んでいるのだから。

 これは覚醒した仙術使い──つまり仙人が、生命活動を肉の身体に依存していない為である。本来ならば全盛を保つ筈の肉体が、祖父との激闘によって著しく弱体化している証であった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

「ディック!」

 

(あっぶえ!)

 

 勇は今、自分を案内した軍人が、声をかけた味方から躊躇無く発砲されるという、よく分からない状況にいた。

 というのも、勇をシェルターまで案内するという軍人は、建物の中で上司らしき男とすれ違い、何やら勇に聞こえないよう話をすると、動揺したように走り出したのだ。待っていなさいと言われたが勝手に着いて行き、今に至るのだが……

 

 室内には4人の軍人と、民間人が2グループ。片方は魔法師だったようで、向けられたアサルトライフルの銃口に真っ向から立ち向かい、障壁魔法を発動させた。しかし、軍人の1人が真鍮のような色の指輪を向けると、その魔法師と後ろの2人が耳を抑えて崩れ落ちた。

 すかさず勇は千里眼を発動させる。普段は千里眼のような知覚系は常時発動させているのだが、今は弱体化している為、回復にリソースを割くべく、およそ仙術といえる機能を全てスリープ状態にしていたのだ。

 

(サイオンの波……えーと、なんとかジャミング!)

 

 正しくはキャスト・ジャミング。無意味なサイオン波を大量に散布して魔法式の成立を阻害し、ついでに目眩や吐き気を起こすノイズを放つ嫌がらせ魔法だ。

 

(仙術使いには効かんから覚えてねーよバーカ!!)

 

「ぐああああああッッッ!!!」

 

 その場に居合わせた人間には旅行に出かけた中学生が必ず買う(偏見)刀のオモチャだと思われていたであろう真剣の鞘に手を置き──抜刀。

 今の弱体化した状態で指輪だけピンポイントで狙うのは面倒だし、指輪の予備を持ち歩かれていたら堂々巡りなので、指ごと斬り落とした。

 

「何をしやがった、ジョー!!」

 

「よくもベンをッ!!」

 

(すまないジョー。善意で案内してくれたのに、罪を被せてしまって……む? まずいですよ!)

 

 勇は魔法の発動を感知する。 発信源の特定は千里眼を使わずとも容易だった。なぜなら、キャストジャミングを受けていた3人の内の1人である少女の顔に、チャンスだと描かれていたからだ。

 

(まずいってばよッ!!)

 

 少女の魔法による攻撃は成功した。肉体だけでなく精神までもを凍結させている点は驚愕に値するが、今はそんな事はどうでもいい。問題は4つ。

 

 1つ、敵が1人では無かったこと。

 2つ、魔法の派手なエフェクトによって、凍った一人を除いた3人の銃口が少女に向けられていたこと。

 3つ、魔法とは特定のプロセスを踏んで発動するシステムであり、ファイヤーボールと言ったら火の玉が出るような即効性が無いこと。

 4つ、勇が弱体化していたこと。

 

 縮地によって少女を庇うように移動した勇の元に、毎秒15発もの弾丸が、3方向から音を置き去りにして飛翔する。予想以上の至近距離、到達時間は恐らくゼロコンマ1秒未満──上等ッ!!

 

「応オオオオオオオオオオ!!!」

 

 弱体化した肉体への負担は捨て置き、闘気や千里眼、その他諸々を全開(フルスロットル)。無我夢中に、一心不乱に、背後の3人を傷付ける軌道を描く弾丸を、最短ルートで斬り落とす。

 時に逸らし、時に弾き、時に斬る。動作全てが音を置き去りにしている超絶技巧。速さと巧さの究極融合。しかし、そこまでしても、徐々に対応は遅れつつあった。そして遂に、一発の弾丸が、剣の嵐をすり抜ける。

 

(あっ……?!)

 

 誰の漏らした言葉であったか、或いはその場にいた全員の心の内だったのかもしれない。走る剣閃は見えずとも、少年の胸に吸い込まれる一発の弾丸は、まるでスローモーションのようにはっきりと知覚できた。

 

 銃声が止む。少女の前に立つ、少女と同じような歳の頃の少年は、見事に3人を守りきった。代償に、一発の弾丸を、その身に受けて。

 少年は、立ったまま下を向いていた。身長の低さも相まって、その表情は誰にも見えない。1秒か、或いは10秒か。少しの静寂の後、少年は身体をぐらりと揺らし、胸に手を添えたまま膝から崩れ落ちた。

 

「そんな……っ!!」

 

 未だ身体を震わせる少年に駆け寄る少女。弾切れとはいえ、軍人に無防備な背中を晒し、正面から少年の身体を支える。

 

(あれ?)

 

 そこで、少女は違和感を抱く。弾丸に貫かれた胸を抑える少年の手は、掌が上を向いていたのだ。これでは傷口を抑えられていない。そして、胸から流れていると思っていた血は、掌から流れていた。

 

「クッソ……やっぱ素手で触るもんじゃねぇな……」

 

「へ? なぜ──」

 

 倒れたままそうこぼす少年の開いた手から、ひしゃげた弾丸がポロリと落ちた。その光景に、先程の神技による驚愕が追いつき、疑問を呈そうとした瞬間──壁が円形に消滅した。

 

「深雪! 大丈夫か!?」

 

 外から強引に入室して来たのは、またしても少年だった。しかし、どうやら一流の魔法師だったようで、ハンドガンのような形をしたCAD(術式補助演算機)を向けられた軍人が分解されるのを、勇の消えかけた千里眼が捉えていた。

 

「お兄様! 私は無傷です、それよりこの方を!」

 

「わかった」

 

 少女──深雪の兄である達也は、『再成』を行使できる。これは、例えどれだけの重症であろうと、個別情報体(エイドス)の変更履歴を最大で24時間(さかのぼ)り、損傷を受ける前のエイドスを複製して上書きすることで、対象を完全に回復させる魔法だ。 ニュアンス的には、回復というよりは復元が近い。

 

「……お兄様?」

 

「……再成が発動しない」

 

「そんな?!」

 

 しかし、そんな神の御業が如き魔法は、妹の恩人である少年には機能しなかった。

 それもそのはず。仙人である勇は半分霊体のようなものであり、霊子(プシオン)を知覚できなければその存在を捉えることは出来ないのだ。達也の持つ精霊の眼(エレメンタル・サイト)は破格の力を持つが、あくまでアクセス出来るのはサイオンで構成された個別情報体(エイドス)のみ。発動しないのはある意味当然とも言える。

 

「……俺は、時間さえあれば回復するから、大丈夫だ」

 

「本当ですか?!」

 

「ああ、心配してくれてありがとう。とりあえず、落ち着いてくれるかな?」

 

「あ、はい……」

 

 勇がそう言いながら自身の身体をぺたぺたと触る深雪の頭を撫でると、深雪は頬を紅く染めてしおらしくらった。勇はそれを見て、『異性の身体を無遠慮に触るなんてはしたないですわ!』と深雪の内心を解釈しつつ、達也に視線を移す。

 

「俺は完全にガス欠だ。叶うなら、軍と協力して外の連中を片付けてくれるとありがたい」

 

「ああ、了解した……それと、妹を助けてくれたこと、感謝する。この恩は必ず返す」

 

 普通、中学生を戦場に向かわせるなど正気の沙汰ではない。しかし勇の直感は、達也ならば問題ないと告げていた。そうして事件の解決までもを予見した勇は、回復に専念すべく、意識を落とした。

 

 

 

 

 

 

 勇が目を覚ましたのは病院のベッドの上だった。普通に起き上がってから『知らない天井だ……』チャンスを逃した事に気付いてショックを受けつつ、風間大尉と名乗る男から事の顛末を聞く。

 結論から言えば、達也(ジェバンニ)が一晩でやってくれました……といった感じである。最後はなんか凄い魔法で敵艦隊を吹き飛ばしたらしい。

 

 それ以外では、軍から離反者を出し危険に晒した事への謝罪と、その対処をして民間人を守った事に対する感謝、そして達也と深雪……の母からのメッセージだった。この時代には珍しい紙媒体。やたら形式ばった読む気が失せる文章はスルーして……気になったのは、お礼は前に渡した連絡先にコールしてくれという一文。

 それを目にした瞬間、俺の中で2つが繋がった。マヤを助けた時に貰った名刺には『四葉』と書いてあり、今回のメッセージには『司波深夜』とあった。『シバ』、つまりそういうことだろう。漢字を変えているあたり、やんごとなき立場なのだろうか。

 ちなみに、メッセージには直接お礼を言えなかった事に対する謝罪も含まれていたが、これは勇が1週間も寝ていたからである。勇自身もまさか完全回復するまで眠りこけるとは思っておらず、逆に申し訳なくなった。

 

 バカンスの邪魔をしやがった連中を自分の手で処せなかった事が、勇の唯一の心残りだったが……ともかく、こうして一連の事件は幕を下ろしたのだった。

 





 次話は真夜さんとの再会ですかね。


『幼児退行』
・仙人は生命活動を肉体に依存しないので、狙うべき急所は心臓や脳ではなく霊体である。勇は祖父によってゴリゴリに削られた霊体に肉体が引っ張られて幼くなった。
『第六感』
・覚醒した仙術使いの直感は未来予知の域に達する。自分を起点にしか発動しないのが弱点。自分に迫る脅威の危険度に比例して効果も向上するが、逆に意識して使わなければ命の危険に晒される寸前くらいしか機能しない。
『闘気』
・身体能力を強化する古式魔法。サイオンとプシオン、両方の制御が必要、仙術の基礎であり、これの練度が他の技の出力にも影響する。
『戦略級魔法』
・1度の発動で都市を壊滅させられる規模の魔法。仙人の中でも限られた者にしか使えない、地水火風と無、5つの戦略級魔法があり、実は勇がそれらを使えたりする。
(仙術のポテンシャルはイカレており、上限は神の領域。まあ達也だって地球ぶっ壊せるしセーフ。さす兄)
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