その魔法師、YAMA育ちの剣士につき 作:ヘッポコ魔法師
優等生はアニメを1回だけ見たっきりなのでうろ覚えです。
平穏な青春を過ごしたい縛りプレイ、はーじまーるよー
「私は納得できません! 勇さん、あなたもお兄様に言ってやってください!」
「まだ言ってるのか……?」
第一高校の入学式当日、開会2時間前の早朝に達也から呼び出された勇は、深雪から抗議を受けていた。どうやら達也の説得も虚しく、かなり前から同じことを言い続けているようで、達也も参っているらしい。
「何故お兄様が補欠なのですか!? 入試の成績はトップだったじゃありませんか! 本来ならば私ではなく、お兄様が新入生の総代を務めるべきですのに!」
達也と深雪、そして勇は同じ新入生。しかしその制服は微妙に、されど明確に異なる。両肩と左胸にある花弁、第一高校のエンブレムが、達也にだけ無いのだ。
「入試の結果をどこかは手に入れたのかは知らんが、魔法科高校なんだからペーパーテストより魔法実技が優先されるのは当然……ってのは、達也が散々言ったんだろうな」
「あぁ……」
「そんな覇気の無いことでどうしますか! 勉学も体術も、お兄様に勝てる者などいないというのに!」
「勇にはどう足掻いても勝てないが……」
「アレは例外です! 魔法だって本当なら──」
「深雪」
覇気の無い返事をした達也を咎める深雪、をさらに咎める勇。それは感情の込められていない静かな声だったが、深雪の耳にはやけに印象深く残った。勇はアレ呼ばわりで少しダメージを受けつつ、深雪を
「お前も分かってるだろ? それは口にしても仕方の無い事だ。それに、達也を目立たせないのが俺の仕事だぞ」
「それは……そうですが……」
「というか、あの達也だぞ? どうせ入学して直ぐ、嫌でも目立つさ」
「……そうですね!」
「おい待て2人とも、その評価は心外と言わざるを得ないんだが」
達也の抗議を華麗にスルーしつつ、勇は深雪の両肩に手を置いて向き合う。
「これはどうしようもない事だけど、達也もその気持ちは嬉しく思ってるんだ」
「……お兄様、そうなのですか?」
「ああ。俺の代わりにお前が怒ってくれるから、俺はいつも救われているんだ」
達也は笑顔でそう答える。
「嘘です」
「嘘じゃない」
「嘘です。お兄様も勇さんも、私を叱ってばかり……」
「なんでそんなに疑うんだ? 深雪が俺達を思ってくれるように、俺達も深雪のことを『思っている』よ」
「そんな、『想っている』だなんて……」
(大切にしている事を明言されて頬を染めるなんて、深雪は可愛いなぁ……っぱ深雪しか勝たん!)
達也は何かしら無視し得ない致命的な
「……
「謝ることでもないし、我儘だなんて思ってないよ」
「俺も達也もしっかり見てるから、頑張れよ」
「はい……それでは、行って参ります!」
会釈をした少女が講堂へ消えたのを確認して、2人は同時にため息をつき、お互いを見やった。
「……なんでお前がため息をついてる」
「総代を渋る妹の付き添いで入学式が始まる2時間前に登校したものの、どうやって時間を潰せばいいのか途方に暮れているんだ」
「あと2時間は寝られた筈なのに起こされた俺は? お前、最近は深雪の事で困ったら俺を呼んどけみたいなこと思ってるだろ」
「……さて、取り敢えず腰を落ち着ける場所でも探すか」
「おい」
◇
「やーっと見つけた」
「ああ、雨じゃなくて良かったな」
疲労の色、といっても精神的な方面のそれが見える2人は、ベンチを見てそう呟いた。
というのも、大小様々な施設が建ち並ぶ第一高校の敷地は、高校というより大学キャンパスのような様相だったが、学校施設を利用する為のIDカードは入学式の後に配られるし、外部からの利用者も使えるオープンカフェは混乱を避ける為か今日は営業しておらず、2人は携帯端末に構内図を表示しながらしばらく歩き回る事になっていたのだ。
達也が携帯端末を開いてお気に入りの書籍サイトにアクセスし、勇が腕と脚を組んで眠りに着こうとしていると、式の運営に駆り出されているであろう在校生が2人の前を横切る。少し距離をとって通り過ぎて行ったその背中からは、無邪気な悪意が
『あの子、ウィードじゃない?』
『こんなに早くから……補欠なのに張り切っちゃって』
『
「勇、抑えろ……全く、お前も深雪の事は言えないぞ」
「……スマン」
聞きたくもない会話によって、勇は少し
今は『外気功』を縛っている為に直接的な被害は出なかったが、もし平常時だったなら、漏れ出た殺気を浴びた在校生達は(社会的に)見るも無惨な姿と化していただろう。
ウィードとは、二科生を指す言葉である。ブレザーの左胸に8枚の花弁を持つ生徒を、そのエンブレムの
この学校の定員は1学年200名。その内、入試成績が下位の100名は、二科生として入学する。国立魔法大学の付属である第一高校は、魔法師育成の為の国策機関であり、国からは予算を与える代わりとして一定の成果を義務付けられる。そのノルマが、魔法科大学、及び魔法技能専門高等訓練機関へ100名以上の卒業生を供給すること。
魔法教育には事故が付き物であり、実験や実習によって、少しの失敗で容易に人命が失われる。幸いにも、現代では死亡事故や後遺症が残るような事故はほぼ根絶された。しかし魔法の才能は、心理的な要因によって容易に失われる。
これらは仙術にも通ずるところがある。もっとも、99.999%(有効数字5桁)が開花できない、或いは鍛錬の過程で死に至る訳だが。宗教的な揶揄と合わせて、泥の中から美しく咲き誇る『
ともかく、事実として二科生は、事故または事故による精神的ショックにより魔法が使えなくなった生徒の穴埋め要因、補欠として採用されているのだ。彼らは学校に在籍し、授業に参加し、資料だって利用できるが、魔法実技の個別指導を受ける権利が無い。独力で学び、自力で結果を出さなければ、普通高校の卒業資格しか得られない。
魔法師が不足しているということは、魔法を教えられる者は圧倒的に不足しているということ。才能ある者を優先せざるを得ないのだ。
だからと言って、それが人を公然と侮蔑していい理由にはなり得ない。なってはいけない。祖父と2人きりで修行をし続けていた勇は、どうにも自分以外が害される事に対する耐性が弱い。勇はモヤモヤとした感情を鎮めるべく、己の内への潜って行った。
◇
勇が目を開くと同時、達也の端末に時計が表示された。入学式まであと30分、開場の時間であり、勇からもし寝ていたら起こしてくれと言われていた時間でもある。もっとも、気にするまでもなく起きた……というより、起きていたようだが。
「新入生ですね? 開場の時間ですよ」
ベンチから立ち上がろうとしたその時、頭上から声が降ってきた。まず達也の目に付いたのは、左腕に巻かれた幅広のブレスレット。一般に普及された物より大幅に薄型化され、ファッション性も考慮された最新式の
デバイスやアシスタンス、この国では法器とも呼ばれるそれは、現代魔法において必須のツール。十分に習熟された仙術という例外を除き、どう足掻いても発動に10秒前後は必要な魔法を、僅か1秒未満の簡単な操作で代替する。
横を見れば、その数少ない例外が何故かまた目を瞑っていたが、まあそれは置いておいて。達也の記憶によれば、生徒という立場で学内におけるCADの常時携行が認められているのは、生徒会の役員と特定の委員会のメンバーのみ。
「感心ですね、スクリーン型ですか」
生徒会役員を務めるような優等生と、積極的に関わり合いたいとは思えなかった達也だが、相手はそう思わなかったらしい。
相手の左胸には当然のように花弁のエンブレム。しかし何が楽しいのかニコニコと微笑むその眼差しには、達也を見下す一切の色彩が含まれていなかった。
「当校は仮想型ディスプレイ端末の持ち込みを認めていません。残念なことに、使用する生徒は少なくないのですが」
仮想型ディスプレイは、魔法力が固まった成人の魔法師の使用は問題ないが、未熟な魔法師には悪影響を及ぼすと考えられている。
誤った成功体験を刷り込んでしまうリスクがある……つまり、できない事をできると錯覚させるリスクがあるという点で、イメージが現実そのものである魔法師にとって有害性があるとされているのだ。
「仮想型は読書に不向きですので」
達也はこの少女とあまり関わりたくはなかったが、素っ気なさすぎると自分はともかく妹に不利益が及ぶと考え、簡潔に返答を行った。すると、どうやら彼女も映像資料より書籍資料が好きな方だったらしく、関心の色が強まる。
「ところで、そこで狸寝入りしている勇くん。私を君の友達に紹介して欲しいのだけど」
達也の視線が勇へと向けられる。勇は顔を手で擦ってため息をついてから、ゆっくりと立ち上がって口を開いた。
「えー、こちらは生徒会長の『
「ななくさと書いてさえぐさと読みます。よろしくね♪」
「……よろしくお願いします」
遺伝的素養に素質が大きく影響される魔法師にとって、家系は大きな意味を持つ。その中でも魔法に優れた血を持つ家が、慣例的に数字を含む苗字を持つのだが……七草はその中でも現在この国において有力とされる家で、しかも第一高校の生徒会長ともなれば、直系の血を引くエリートの中のエリートだ。
「というか、なんで寝たフリなんてしたの?」
「そうだな、俺も気になっていた。普段は女と聞けば飛び付く勢いだろう」
そんな相手に目を付けられるなどたまったものではなく……達也はここぞとばかりに、勇の方にヘイトを向ける。
「機嫌が悪かったからだよ、達也。……麗しい七草会長とお話するなら、少しでも愛想良くしたいですから」
「へぇ……まゆみん、とは呼んでくれないのね」
「あなたがお父様に何と報告するのか分からないので」
「ふふ、なんと報告しましょうか♪ ……ところで達也くん」
「……なんでしょう」
勇に押し付けてさりげなく逃走をはかろうとした達也だが、哀れその作戦は失敗である。
「実技首席で塚原の勇くんは当然として、先生方はあなたの噂で持ちきりよ? 入試で7教科平均96点。圧巻だったのは魔法理論と魔法工学で、平均が70点にも満たないのに、両教科とも小論文も含めて文句無しの満点。前代未聞の高得点だって」
「ペーパーテストの成績です。情報システムの中だけでの話ですよ」
「いや、それは無理があるだろ。というか、関わりたくないです感を出すと、逆にこの人はグイグイ来るぞ」
「私についての理解が深い……と」
「おい待て何をメモっている」
魔法科高校として評価すべきは実技であると、そういう意図を込めて自分の左胸を指した達也だが、勇の一言によって苦い愛想笑いを浮かべる羽目になった。
「そんな凄い点数、少なくとも私には真似できないわよ? ……さて、そろそろ時間だから、失礼するわね」
彼女の背中が消えるまで見送った達也は、勇に問いかける。
「なぜあんな対応をしたんだ? お前らしくなかった」
「真夜に聞いたが、七草の現当主は四葉を虎視眈々と狙ってるらしいからな。まあ、表向きの理由も半分は本気だ」
真由美は魔法師としては珍しく、善悪で言えば圧倒的に善の人間だ。達也と深雪の事も知らない様子だったし……というか、知っていても態度を変えたりはしないだろう。そんな人間に、万が一にでも八つ当たりなんてした日には、罪悪感で死ぬ自信が勇にはあった。
「……俺と深雪をどこまで知ってるのか、探ったわけか」
「ああ……てか、なんでそんな微妙な顔をしてるんだ?」
「いや……今では丸くなったとはいえ、あの叔母を下の名前で呼び捨てにされると、違和感がな」
十師族の双璧、その片割れたる四葉……つまり自分達が、国内での最大戦力に狙われている。尋常ではない話だが、あの叔母と親しくしている勇のインパクトが、達也の危機感を押し潰した。
「安心しろよ。いざとなったらマテバぶっぱと同時に俺が突撃して暴れ回ってやる」
「そうだな……いや、やめろ。それは本当にやめろ」