その魔法師、YAMA育ちの剣士につき 作:ヘッポコ魔法師
勇くん視点で書きたいけど、勇くん以外の視点で書かないと勇くんの異常性が見えないというジレンマ。
ちなみに勇くんの祖父は、祖父と呼んでいるだけで祖父の祖父の祖父の……とかそういう次元の歳です。勇くんが曾祖父とかその上がよく分かってないので、二文字で済む祖父と勝手に呼んでいるだけですね。
てかタイトルもうちょいどうにかならんかったのか?
生徒会長に絡まれていた2人が講堂に入った時には、既に席の半分以上が埋まっていた。座席の指定は無い。無いのだが……新入生の分布には、明らかな規則性があった。前半分が
「誰に強制されるでもなくこれとは、末期だねぇ……」
「ああ……ところで、何故お前が俺の隣にいる」
後ろの3分の1辺りに座った達也だが、その隣には何食わぬ顔で勇が腰を下ろしていた。聞くと、勇は無言で自分で左胸を指す。そこには、ある筈のエンブレムがなかった。
開始まであと20分。もう指摘するのも面倒だし、かと言って端末を開くのはマナー違反なので、そのまま睡魔に身を委ねようとしたその時。
「あの、お隣は空いていますか?」
「どうぞ!」
目を開けると、声で分かる通り女子生徒だった。勇に声をかけたようだが、まだ空席は少なくないのに何故わざわざ見知らぬ男子生徒の隣に座りたがるのか……と考えていると、次々に3人の女子生徒が腰を下ろす。
隣がむさ苦しい男より断然いいとか、そういう理由で快くオーケーしたのだろう。明らかに勇の機嫌がいい
「私、柴田美月って言います。よろしくお願いします……あの、ちょっと聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
「俺は塚原勇、名前で呼んでくれると嬉しい。それで、何を聞きたいんだ?」
「何でここに座っているんですか?」
「へぇ……
もちろんイジメなどではなく、勇が仙術によって制服を誤魔化していることに気付いたのだろう。だが、それは普通なら有り得ないことだ。
勇の幻術は仙術に由来するもので、精霊の眼を持つ達也とて見破ることは至難の技だ。それが意識せずとも視えるとなれば、相当である。
「メガネをしてるんだから、むしろ目が悪いんじゃないの? あたしは千葉エリカ、よろしくね! ところで塚原って、あの塚原?」
「あの塚原がどの塚原なのかは知らないが、仙術に関して言ってるならその通りだ」
「へぇ……」
エリカから発せられる鋭い眼光は、『後で戦ろう』と雄弁に語っていた。勇はそれに対し、後でな、と視線で返す。
エリカの向こう側に座る残り2人の自己紹介が済んだところで、勇は4人がどういう知り合いなのかを問うた。すると、全員が初対面であるという驚きの答えが返ってきた。
「場所が分からなくてさ。案内板と睨めっこしてたとこに、美月が声をかけてくれたのがキッカケ」
「……案内板?」
勇と同じく、達也もそれはおかしいだろと思った。入学式のデータは会場の場所も含めて入学者全員に全て配信されている。仮に情報がゼロでも、それさえ見れば迷うことは無い。
「いやー、あたしたち3人とも端末を持ってきてなくて」
「仮想型は禁止だって書いてたから……」
「ソウカ(思考停止)」
言い訳が飛び出るわ飛び出るわ。あの勇ですら辿り着けたのにお前らマジかと達也は思った。ちなみに、その思考を見透かされたのか、達也に隣の勇から肘が入ったが、そのダメージは深雪の素晴らしい答辞を聞いて完全回復した。
深雪の答辞は勇にとっても素晴らしいものだったが、それはそれとして『皆等しく』とか『魔法以外にも』とか、際どいワードがさり気なく混ぜ込まれていて、その度に会長サマから視線が飛んでくるのは勇の肝を冷やした。知らん顔の達也は肘を入れてもご機嫌でノーダメージだし、あの妹が暴れ回る中この兄を隠すのはミッションインポッシブルである。
心が司波兄妹に屈しそうになりつつ、Aクラスの学内用カードを窓口から受け取る。その際、近くの男子生徒から一緒にホームルームに行かないかと誘われたが、友人と約束があると言って別れた。
◇
「お兄様、お待たせしました……勇さんは?」
「……逃げたな」
深雪の背後から現れた生徒会長の七草真由美を見て、達也はそう確信した。恐らく朝や答辞の事で何か言われるのが面倒になったのだろう。気配を隠して潜んでいる可能性もあるが、勇が本気で隠密すれば看破は不可能に近い。達也は諦めて予定外の同行者と相対した。
「こんにちは、司波くん。また会いましたね?」
達也は無言で頭を下げる。些か愛想に乏しい対応だが、妹が気になったのは、生徒会長に対する兄の微妙な対応よりも、親しげに自分の兄に寄り添う2人だったらしい。
「お兄様、その方達は?」
「こちらは柴田美月さん、そして千葉エリカさん。同じクラスなんだ」
「そうですか……早速クラスメイトとデートですか?」
可愛らしく小首を傾げ、含むところなんてまりでありませんよという表情。その顔には誰もが見惚れる淑女の微笑み、ただし目は欠片も笑っていない。
勇はこれを予期して逃げたのかと納得していると、自分の隣にはいつの間にか勇が現れていた。
「全く達也は、相変わらず手が早い! 困っちゃうよなぁ深雪さん!」
「勇さん、あなたにも後でお話があります」
「ピッ」
「えっ、なに? 急に現れて急に消えたんだけど……」
エリカの疑問はこの場の全員の気持ちを代弁していた。どうやら式が終わった直後からずっと歯の浮くようなお世辞の十字砲火に晒されてストレスマッハな深雪を達也に押し付けようとしていたらしいが、あえなく失敗して奇妙な断末魔を残して消えたらしい。……どうやって消えたんだ?
その後は微妙な空気になりつつも、深雪と真由美の生徒会に関する話は日を改めることとなり……ついでに達也は副会長に睨まれてから、会場は知らないのに美味しいケーキ屋は知っているエリカに連れられて、深雪たちとそこに向かった。ちなみに、勇はいつの間にか合流していた。
◇
後日、勇は小高い丘の上にある寺にいた。寺とは言ったが、そこに集う者達の面構えは僧侶や和尚などとは程遠く、敢えて相応しい存在を当て嵌めるとすれば修行者や僧兵の類だろう。そんな常人では怯えて近付けもしないような空間に、魔法によってその身一つで時速60kmにまで加速した深雪が躊躇無く入ってくる。
達也はどうしたのかというと、山門をくぐるなり手荒い歓迎を受けていた。中級以下の門徒20人による総掛かり(総当りでは無い)による出会って5秒で稽古スタイルだ。
「深雪くん! 久し振り──っ?!!」
人垣に埋もれてしまった兄を心配そうに見つめる深雪、その死角から掛けられる陽気な声の主は、言い終わる前に吹き飛んで行った。
「先生……っ! 気配を消して忍び寄らないでくださいと、何度も申し上げておりますのに……」
「『忍び』に対して忍び寄るなとは、深雪くんも難しい注文を出してくれるねぇ……というか、痛た……勇くん、もう少し手加減をしてくれないかい?」
「深雪の死角に近付くから悪い。なんにせよ、防げてるんだからセーフだろうが、このエロ坊主」
エロ坊主こと九重八雲、
「先生、今どき忍者なんて職業はありません」
「ちっちっち。忍者なんて誤解だらけの俗物じゃなくて、僕は由緒正しい『忍び』だよ。職業じゃなくて伝統なんだ」
「それは存じておりますが、ですから不思議でならないのですけど……」
軽薄だのと口に出しても無駄であることを深雪は学習していた。この僧侶モドキ(身分上はマジの僧侶)は、自称する通りの『忍び』である。より一般的な呼称は『忍術使い』で、紛うことなき古式魔法の達人なのだ。
「それが第一高校の制服かい?」
「はい、昨日が入学式でした」
「そうかそうか。う〜ん、いいねぇ」
「……今日は入学のご報告を、と存じまして……」
「真新しい制服が初々しくて、清楚の中にも隠しきれない色香があって……どう思うかな? 勇氏」
「俺が第一高校を選んだのはね、八雲氏。制服がエロいからなんだよ」
「えっ! そ、そうだったのですか?!」
「やっぱり白だよねぇ」
「そうそう、タイツが映えるんすよォ!」
「……ところで勇くん、そろそろ離してくれないかな?」
「深雪が怯えてるのでこのまま折ります」
「理不尽すぎないかな?!」
この問答をしている間、勇は常に八雲をコブラツイストしていた。深雪はそんな状態で癖を語り合う2人をみて数歩後退った。達也はそれを見て当然の判断だと思った。
「ほら、八雲センセ。蹴散らされた門下の仇討ちに行く時間ですよ」
「よーし、達也くんをボッコボコにして深雪くんのお兄ちゃんになるぞォ!」
「させませんよ、師匠」
◇
「先生、どうぞ。お兄様もいかがですか?」
「おお、深雪くん。ありがとう」
「……少し、待ってくれ」
汗を流しながらもまだまだ余裕のある八雲が深雪からタオルとコップを笑顔で受け取る一方で、達也は土の上に大の字で転がり辛うじて片手を上げて返事をしていた。
「あの、深雪さん、俺には……?」
「もう! 素直に制服姿も褒められない勇さんにはあげません!」
「そんな……こうなったら世界を滅ぼすしか……」
「なんでそうなるんですか?!」
「深雪から飲み物を貰えないこんな世界なんて、無くなった方がいいんだ……」
「そんな大袈裟な……ほら、どうぞ」
『ひゃはああああああああ!!!』と叫びながら走り回る勇を見て、深雪は溜息をついた。この数年で深雪が得た結論は、勇に対して真面目に接すると、持ち得る戦闘力と普段とのギャップで頭がバグるということだ。目の前にいる、ご機嫌で達也に絡む九重八雲といい、なぜ強い人達はどこかおかしいのか、深雪は頭を悩ませずにはいられない。
「先生、勇さんは身体を持て余しているみたいです」
「彼と真っ向から戦うなんて、冗談でも口にしたくないよ」
「……今の状態でも、ですか?」
「今の状態でも、さ……いいかい、深雪くん。仙人というのはね、そもそも人の域にいないんだ。それは例えるなら、ゴム鉄砲でミニガンと戦うようなものなんだよ」
「そこまで、ですか……」
深雪は勇が戦うところを見たことが無い。人が東京ドーム数十個分と言われてもピンと来ないように、勇がどれだけ強いと言われても深雪にはイマイチ分からないのだ。
しばらくして、司波兄妹(と八雲)は、縁側に腰を下ろしてサンドイッチを頬張っていた。
「もう、体術だけなら達也くんには敵わないかもしれないねぇ……」
それは紛れも無い賞賛。事実、八雲の隣に控える弟子は、嫉妬と羨望の混じった視線を達也に向けているし、深雪はニッコニコだ。しかし、当の本人には響かなかったらしい。
「体術で互角なのにあれだけ一方的にボコボコにされては喜べませんが……それに、目の前でアレを見せられると……」
「それは当然というものだよ。僕は君の師匠で、さっきは僕の得意な土俵で組手をしていたんだから。まだ高校生で半人前の君に遅れをとっては弟子に逃げられてしまう。それに、アレは真似しようと思わない方がいい。まあ達也くん、勝とうと思えば勝てるでしょ?」
「……充分な距離があって、自分ごと消し飛ばしても、世界が滅んでも大丈夫なら、もしかしたら……という、勝算とも呼べないような勝算ですよ」
「そこまで、ですか……」
そう、達也はやろうと思えば本気になった勇を倒せる……かもしれない。しかし、本気になれば世界を滅ぼせる勇を倒すためには、世界を滅ぼす規模の攻撃が必要という、本末転倒な状況になっているのだ。
勇には第六感で、自分を殺し得る攻撃手段を持つ者が不意打ちをしようとした時点で感知されるので、強制的に真っ向勝負の土俵に引きずり出される。しかも、捕捉された瞬間からいつこちらの背後に現れるか分からず、魔法も何もかも斬られるというクソゲーが始まるのだ。
古式魔法を駆使して接続を断ち、外気功を封じれば……しかし、それでも仙人として覚醒した勇の保有するエネルギーは莫大であり、一時的になら本気を出すことも可能だろう。そして、本気になった勇から一時を稼ぐなど不可能である。勇の干渉力を押し退けて接続を断てるかも不明だ。
今はまだその程度で済んでいるが、八雲はいずれ勇が神仙として覚醒すると思っている。現在でさえ、肉体を消し飛ばしても霊体のみで生存する可能性すらあるだろう。アレはそういうバケモノだ。
「来いよ達也! 俺を倒して深雪の兄の座を取り戻してみろ!」
「聞き捨てならないな、勇。いつ俺を倒して深雪の兄になったんだ?」
全ての門下を蹴散らし、達也に馬鹿みたいな喧嘩の売り方をする勇。そんな阿呆を見て、やはり深雪は実感を得られなかった。
本文は5000文字くらいに調整してます
『内気功』
・自身の保有する想子(サイオン)と霊子(プシオン)によって闘気を練り上げる技。仙術の基礎。
『外気功』
・世界に満ちる想子(サイオン)と霊子(プシオン)を己が内に取り込み闘気を練り上げる技。仙術のいっちゃん大切なとこ。川の水を煮沸消毒せずに飲み干すような荒業なので、自身の処理能力を超えると爆散する。
・内気功とは対の技であると思われがちだが、正確にはその発展系。内気功が未熟な者は無理に外気功を行うと爆散する。仙術による治癒を仙術を使えない者に施すと爆散するのはこれと同じ原理。
・これが出来る仙術使いを倒すのは至難の業。とはいえ人の範疇なので、優秀な魔法師ならば対抗は可能。覚醒し仙人となった者は人の範疇に無い為、文字通り生物としての格が違い、倒すのはまず不可能。
・極めれば世界の血管ともいえる地脈から力を引き出せる。覚醒し仙人となるボーダーラインがここ。一時的に地脈から力を引き出し、その一端を己の力として振るうなら、古式魔法でも可能(というか古式魔法の奥義)。
*闘気を練り上げること自体は共通して練気と呼ばれる