ウルトラマントリガーin BlueArchive   作:はぐれ冥王星

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超古代翼獣ゴルバ 登場


超時空の先生

 

 学園都市《キヴォトス》。

 其処(そこ)は大きいまたは、小さい学園たちが集まり形成された巨大都市連邦。

 私たちの住む地球とかなり似ているが、確然と異なる世界。

 そこには《ヘイロー》と呼ばれる不思議な光輪を頭の上に浮かせ、今でいう携帯端末と同等なレベルで普及化された銃器を所持する《生徒》たちがそれぞれの学園で互いを助け合い平和に、生活するところである。

 ──しかし、そんなキヴォトスに大異変が訪れた。

 

 

 

 あらゆる学園をまとめる地球(ここ)でいう連邦政府の役目を担う機関、《連邦生徒会》。

 その責任者である連邦生徒会長が突然行方を晦ました。

 理由は不明。

 突然としか言えない彼女の行方不明によって抑えていたはずの問題が山積みのように起き、連邦生徒会はこれを解決するためにある部活を始動させたのだ。

 

 ──連邦捜査部《シャーレ》。

 連邦生徒会長が行方不明になる前に設立した部活で、超法規的組織として連邦生徒会の権限を代行、いかなる学園にも自由に行き来することや、どんな学園の生徒でも無制限に入部させることができる組織である。

 そして、連邦生徒会長はこのような事態を事前に予想していたかのように、とある人物をそのシャーレの唯一の構成員である顧問の教師として任命したのだ。

 

「──それが真奈華(マナカ)先生、あなたで──あの……、先生?」

「すごい……、すごく高い景色だ……! ねえ、あそこのタワーから出る光の柱は何? そういえば頭のその輪っかは? コスプレ?」

「話、全然聞いていませんね……」

 

 一面ガラスでできている窓の向こうの光景にまるで子どものようにはしゃぎながら質問する青年に先程まで説明をしていた白いスーツ黒く長い髪を垂らしている少女、連邦生徒会の首席行政官であり、現連邦生徒会長代行、七神リンは彼のはしゃぎっぷりに悩まされる頭を抑えるように、付けていた眼鏡に手を当てる。

 そしてそんな曇ったリンの表情に気付き少し怖気ずいてしまい、先ほどまでの興奮気味を抑えた青年。彼こそが連邦生徒会長からシャーレの顧問教師として指名された人物、真奈華ケンゴである。

 

 ──そう、彼は()()、ヒーローではない。それ故に、この物語は、彼がヒーローとして目覚める物語でもあるのだ。

 

「え、っと……。ご、ごめんね! なんかこんな状況初めてだから、ちょっとはしゃいじゃった。ほ、ほら! ずっとそんな怖い顔しないで? スマイルスマイル!」

「──先生はキヴォトス(ここ)ではないとこから来た方であることは私たちも把握しています。ですが、率直に言うと先生がここまで来たその経緯を詳しく知らない状態です」

 

 何とか落ち着かせることに成功したかと安心したかのようにほっとしたケンゴであったが、次のリンの言葉に少しの間、悩むような表情を浮かべた。しかし、すぐに明るく、照れたような顔をしながらリンにある事実を告白した。

 

「実は、僕もここがどこで、どうやって、何で来たのかもよく分からないんだ。あのタワーの光もそうだし、君たちの頭のその輪もそうだけど、かなり環境は似ているけど、やっぱり僕がいた世界と違うということは解かるけどね……」

「混乱されてますよね。わかります」

「そっか……。僕、本当に別の世界に来てしまったんだ。──なんかすごいね!」

 

 ──これもまた経験だね、と心を立て直すケンゴにリンはあまりに切り替えが速すぎるのでは、と一瞬狼狽えてしまったが、現状置かれた急用を解決すべく彼女もまた、すぐに思考を切り替える。

 

「──それはそうと、とりあえず私についてきてください。先生にやっていたたけねばならない事があります」

「う、うん」

 

 ──僕が、やらなきゃいけないこと。

 リンのその言葉にケンゴは気を引き締め真面目な顔で彼女のあとを続いた。

 これが、自分の失った記憶を取り戻しこの世界で何かを成す最初の一歩である、と叫ぶ本能を抑えながら、彼は進んだ。

 エレベーターに乗り、一階へと向かう二人。その中から見た、先程も見ていた景色。

 透き通るほどに澄んだ青で覆われた空の下、高層ビルたちがびっしりと建ててある中、それらのよりも断然目立った光の柱を放つタワー。

 

「──キヴォトスへようこそ、先生」

 

 初めての景色のはずなのにもかかわらず見覚えのあるように思い、逆に違和感を抱えたケンゴであったが、それ以上に──

 

 美しいと、そう感じた。

 

「あと、これを」

「ん、これは?」

 

 景色に一瞬気を取られていたケンゴに、リンは何か思いついたように、スーツのポケットからとある二つのアイテムを取り出し、手渡した。

 受け取ったそれは、白いベースに金のラインの入った拳銃に見える装備。もう一つは、USBメモリーを思わせる、パールホワイトベースに水色のガラス細工の入った見た目をしたデバイスだった。

 

「これは、先生をここに連れてくる前から、先生の所持品として預かっていたものです。

連邦生徒会長から先生に渡すようにと、預かったものですが……、実はこの兵装とアイテムはキヴォトス内で確認してる範囲のうち、既存に開発された、どの装備とも一致していません。こちらに関する記憶は?」

「──うん。たしかにこれも初めて見るものだ。けど、なんか……」

 

 今のケンゴの記憶にはない代物。にもかかわらず、彼は、これを自分に近いものとして認識していること、それ即ち自分の失われた記憶にかかわっているはずと彼は推測した。

 そんなやり取りの中、エレベーターは目的地であるレセプションルームの到着を知らせる音とともに動きを止め、ドアが開かれた。その途端、ドアの向こうからリンとケンゴの方に向かってくるような靴の音、抗議するようなとがった声が聞こえて来る。

 

「代行! 見つけた。待ってたわよ。連邦生徒会長を呼んできて!」

 

 そう言いながら迫ってきたのは、青紫色の髪をツインテールで結んだ少女だった。彼女はリンにさらに問い詰めようとしたが、隣にいたケンゴの存在に気付き、問いかける。

 

「──うん? 隣の大人の方は?」

 

 少女に少々気まずそうにしながら挨拶するケンゴ。そんな少女の後ろから他の少女たちがレセプションルームのカウンターの方から現れる。

 

「首席行政官。お待ちしておりました」

「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得のいく回答を要求されています」

 

 髪、服装ともに真っ黒に背中に黒い翼を付けている少女や、大きな鞄を肩にしている眼鏡をかけた少女、その他にも銀髪の少女が続いて抗議の声をあげ、リンはそれにかなり嫌そうに目元に陰を落としながら呟いた。

 

「──面倒な人たちに捕まってしまいましたね」

「えっ」

 

 リンの呟きに一瞬驚愕するケンゴ。そんな彼を気にせずリンは次に張り付いたような笑顔で彼女たちに挨拶した。

 

「こんにちは、各学園からわざわざここまで訪問してくださった生徒会、風紀委員会、その他時間を持て余している皆さん。

こんなに暇そ──、大事な方々がここを訪ねてきた理由は、よく分かっています」

「暇そうって言いかけた……」

 

 ケンゴの小さな声で放ったツッコミにも動揺もせずリンは会話を続けた。

 ──仲悪いのかな。

 

「今、学園都市で起きてる混乱の責任を問うために……でしょう?」

「そこまでわかってるならなんとかしなさいよ! 連邦生徒会なんでしょ! 数千もの学園自治区が混乱に陥てるのよ!」

 

 彼女たちの話を聞く限り、事態はかなり深刻を極めいる様子だった。ツインテールの少女を筆頭に現在置かれている状況に関する話が出始めた。

 

「この前なんか、うちの学園の風力発電所がシャットダウンしたんだから!」

「学園に風力発電所……?」

 

「連邦矯正局で停学中の生徒たちについて、一部が脱出したという情報もありました」

「脱出……」

 

「スケバンのような不良たちが、登校中のうちの生徒を襲う頻度も、最近急激に高くなりました。 」

「夜間襲撃、いや、朝だから朝間襲撃?」

 

「戦車やヘリコプターなど、出所の分からない武器の不法流通も2000%以上増加しました。これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいます」

「そのくらいなら学園生活が問題がないんじゃ……」

 

 逆に、これほどの混乱をいったいどうやって抑えていられたのか、連邦生徒会長なる人物の能力が気になるという感想を心の隅に置いておくことに決めたケンゴ、偉い。

 

「こんな状況で連邦生徒会長は何をしているの? どうして何週間も姿を見せないの!? 今すぐ会わせて!」

「──」

 

 ツインテール少女の問い詰めにリンはしばらく沈黙し、ため息をとともに重くなった唇を動かした。

 

「……連邦生徒会長は今、席におりません。正確に言いますと、行方不明になりました」

「え!?」

「!」

「やはりあの噂は……」

 

 彼女たちの反応を見ると、かなり動揺している様子だ。その分その連邦生徒会長なる人は彼女たちに信頼されていたということなのだろう。

 

「結論から言いうと、《サンクトゥムタワー》の最終管理者がいなくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です。認証を迂回する方法を探していましたが……先ほどまで、そのような方法が見つかっていませんでした」

「それでは、今は方法があるということですか、首席行政官?」

 

 黒髪ロングの少女の鋭い質問にリンは首を縦に一回振り、ケンゴの方を向きながら質問に答える。

 

「この先生こそが、フィクサーとなってくれるはずです」

「!?」

「……!」

「この方が?」

「え、先生って僕!?」

 

 リンの紹介に皆の視線がケンゴに集まり、当人のケンゴは話の顛末の理解に気を取られていたため、いきなりの指名に慌てていてるという。

 

「ちょっと待って! そういえばこの先生は一体どなた? どうしてここにいるの?」

「キヴォトスではないところから来た方のようですが……先生だったのですね」

「僕、専攻は生物学だし、課外授業の経験は一応あるけど、先生っていうほどじゃ……」

 

 ケンゴがそうブツブツ呟く間にも、リンによって話はどんどん進んでいった。

 

「はい。こちらの真奈華ケンゴ先生は、これからキヴォトスの先生として働く方であり、連邦生徒会長が特別に指名した人物です」

「行方不明の連邦生徒会長が指名……? ますますこんがらがってきたじゃないの……」

 

 頭が痛いというかのように眉間に手を当てるツインテールの少女にためらうことなく迫り、肩を手を乗せながら視線を合わせるよううつむくケンゴ。

 

「ひゃああっ!?」

 

 鼻から鼻までの距離、約2.8センチ。即ち超至近距離。

 あまりにも突発的な接近に少女はたじろぎ、顔を赤らめる。

 

「そんなに張り詰めた顔をしたら身体に良くないよ? こんな時にこそ笑顔でいた方が気分は軽くなるから。ほら、スマイルスマイル!」

「あ、あの……」

「はい!」

「は、はあ……」

 

 ケンゴの唐突な行動に少女はそれにつられ気の抜けた笑顔を浮かべた。

 そんな少女の顔を見てケンゴは満足したのかゴクッと首を振りふたたび背筋を伸ばしてそこにいた全員に向かい改めて自己紹介を軽く行った。

 

「うん、やっぱりかわいいね! 似合うよ! あ、僕、真奈華ケンゴっていいます。よろしくお願いします!」

「かわ──!?」

 

 そんなケンゴの天然気満載の褒め言葉に、免疫ゼロのようであったツインテールの少女は今でもすぐに頭から蒸気が吹き出しそうに赤らめた顔を、首を左右に揺らすことで冷めることに成功。ケンゴのあいさつに答えるため自己紹介をしようとした。

 

「──んんっ! こ、こんにちは、先生。私はミレニアムサイエンススクールの──って、今は挨拶はどうでも良くて……!」

 

 先程のスマイルショックから抜け出せていないせいか自前の性格もあるせいか慌てる少女。

 それをリンは軽く杭流し、話を進めようとした。

 

「そのうるさい方は気にしなくていいです。続けますと──」

「誰がうるさいって!? わ、私は早瀬ユウカ! 覚えておいてください、先生!」

「うん。よろしくね、ユウカちゃん」

 

 ツインテールの少女あらため、早瀬ユウカの自己紹介を受け挨拶を交わすケンゴ。

 挨拶もやっと済ませたところ、リンは一刻もはやく事態を収取に導くため、話をせかすよう促した。

 

「──先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の担当顧問としてこちらに来ることになりました」

「ある部活?」

「連邦捜査部《シャーレ》。単なる部活ではなく、一種の超法規的機関。連邦組織のため、キヴォトスに存在するすべての学園の生徒たちを制限なく加入させることすらも可能で、各学園の自治区で、制約なしに戦闘活動を行うことも可能です」

「シャーレ……」

 

 連邦捜査部・シャーレ。公式名称《Schale, Independent Federal Investigation Club》

 連邦生徒会長直属で設立された部活。

 先程の説明通り全キヴォトス内の学園の生徒たちを無制限に加入及び、各学園の自治区、もしくは学園内に出入り、戦闘活動を許された組織である。

 そして連邦生徒会長の代理人であり、顧問教師として彼、真奈華ケンゴがその活動を任継されたのだ。

 

「なぜこれほどの権限を持つ機関を連邦生徒会長が作ったのかは分かりませんが……。

シャーレの部室はここから約30km離れてる外角地区にあります。今はほとんど何もない建物ですが、連邦生徒会長の命令で、その地下にとある物を持ち込んでいます」

「とある物?」

「はい。先生をそこにお連れしなければなりません」

 

 そう言い終わるとリンはどこかに連絡を取ろうとスマホを取り出していた。

 その間、ケンゴはリンが言った、とある物が気になったのかしばらく考えに浸りふと、自分が持っていた拳銃型のデバイスと、USBメモリーを思わせるカートリッジを取り出し、見つめた。

 これはいったい何でいつ、どうして所持していたのかという想いはさらに深さを増していた。

 

 ──ケンゴ。

 その時、ケンゴの目の前が真っ黒になった。

 

 

 

「!?」

 

 気配がしたところに振り向いた瞬間、ケンゴの目の前には信じられない光景が広がっていた。

 

 絶望の暗雲に覆われた空の下、広く続く海で二つの影が対置していた。

 一つは世界を暗闇に包もうとするまさに邪神ともいえるべき恐ろしい怪獣。

 そしてソレに対抗するは赤と青紫色、そして銀色の巨人。

 そう。まるで──

 

「ウルトラマン、ティガ!? ……いや、違う。けど……」

 

 自分が知っている光の巨人と限りなく似ていたその巨人には赤や青紫だけでなく、黒いラインもまた、ところどころに描かれていたということをケンゴは改めて視認できた。

 巨人は怪獣が海の中から取り出した素早い触手によって全身が縛られ身動き一つ取れぬまま、海の中に沈められ、それを追うように怪獣もトドメを刺す気か海の中に潜りこんだ。

 そんな絶体絶命のとき、ケンゴは思わずその巨人を応援した。

 

「頑張って……負けないで!」

 

 その次の瞬間。ケンゴの想いが届いたのか、それとも彼だけではなかったのか突如とあらゆる方面からたくさんの光が現れ、巨人が沈められた海の中に降り注いだ。そして巨人はふたたび海水面にあらわれ、それに続き怪獣も水面に上がってきた。

 

「頑張れ、ウルトラマン……!」

 

 巨人はその光から力をもらったのか終始怪獣を圧倒していた。

 その後ろから、黄金の光を含んだ空を飛ぶ戦艦が下りてきて巨人に向かいその光を放ち、光を受け黄金に輝き始めた巨人は最後の一撃だというかのように胸からすさまじいエネルギーの光線を怪獣に向かって撃った。

 怪獣はその圧倒的な火力にバラバラに弾け飛び、その姿はやがて見えなくなった。

 

「やった……!」

 

 やがて空は翳り一つない、澄んだ青が果てしなく広がり、ケンゴがその巨人の勝利に喜んでいたその矢先、巨人はゆっくりと視線を回した。

 その視線の先に向かったのはなんとケンゴ。巨人はしっかりとケンゴを見下ろしていた。そして、ケンゴもまた何も言うことはなかった。

 

「──」

 

 

「──先生?」

 

 ふと聞こえた声にケンゴは眠りから覚め、声のした方に振り向いた。

 その先にいたのはユウカの心配している顔。

 連邦生徒会室での話が終わり、現場移動のためのヘリに行くときからずっとぼーっとしていたらしくヘリに乗っているときはなにか呟いていたらしいとのことだった。

 

「え、っと……どうしたの?」

「いや、その……。失礼かと思って黙っておこうと思たんですけど」

「いいよ。何?」

「はい、その《ウルトラマン》ってなんですか?」

「え、僕ウルトラマンって言ったの?」

「いや、自分で言った言葉でしょう!?」

「──やっぱり、夢なのかな」

「はぁ、もういいです」

 

 ほんと変わった人だなと、ため息とともに軽く流すことにしたユウカ。

 だが、ケンゴにとってはパニックにならざるを得なかった。

 だって、自分が見たその光景にいた巨人はかつて見た特撮テレビ番組の主人公、《ウルトラマンティガ》にとても類似していたからだった。それだけでなく、巨大な闇の邪神と海で戦う最終決戦のあのワンシーンまでも。

 

(けど、ウルトラマンは現実には無い存在……。とはいえ、僕が見たあの光景は夢というにはあまりにも生々しかった。じゃあ、僕が見たのは一体……)

 

 

 

 中央区、D.U.の外郭地区の近くに着いたケンゴ達。

 天地を揺るがすような爆音、ちはやふるのごとく響き荒れる銃声。

 そこはまさに市街地戦ともいう戦場そのもの。

 

「なんで……なんで私たちが不良たちと戦わなきゃいけないの!?」

 

 今の現状の理不尽さに近くのバリケードに身を隠したユウカが叫んだ。

 その叫びのような問いに眼鏡の少女こと、ゲヘナ学園の風紀委員会所属、医療担当の火宮チナツが答えた。

 

「サンクトゥムタワーの制御権を取り返すためには、あの部室の奪還が必要ですから……」

「それは聞いたけど……、私、うちの学校では生徒会に所属してて、それなりの扱いなんだけど! なんで私が……!」

 

 その時、チナツとの会話の間隙が出来てしまったユウカに銃弾が飛び、やがて彼女の体に着弾してしまった。

 

「あぶな……く、ない? え?」

「痛っ! 痛いってば! あいつら違法JHP弾を使ってるじゃない!?」

(銃に撃たれたのに、なんともない……)

 

 銃に撃たれたユウカにケンゴは慌てて呼ぶが、驚くことに彼女は何ともなく外見にも大きな損傷は見られなかった。まるで少々強い弾力を受けた輪ゴムに当たったように痛がるだけのユウカに、ケンゴはポカンとしていた。

 そんなユウカの愚痴に黒髪ロングの少女こと、トリニティ総合学園所属、正義実現委員会の副委員長。羽川ハスミが発言に対し指摘した。

 

「伏せてください、ユウカ。それに、ホローポイント弾は違法指定されてません」

(ほろー、ぽい? JHP……ん?)

 

 HP(ホローポイント)弾とは、弾丸の先端である弾子を削り、弾頭が潰れたような形をした弾丸を意味し、Jacketed Hollow Point、略してJHP弾はHP弾の派生型のことで、弾頭を銅で覆ったHP弾を意味するのである。

 ケンゴは彼女たちとは違って、弾丸や銃器などとは遠い生活をしていたため、会話についていけなかったのは当然の帰結だったのだ。

 

「うちの学校では違法になるの! 傷跡が残るじゃない!」

(傷跡で済むのかな、それ……)

「先生も一緒ですのでその点注意しましょう。先生を守ることが最優先、あの建物の奪還はその次です」

「ハスミさんの言う通りです。先生はキヴォトスではないところから来た方ですので……」

「え、ここの人たちは皆銃に撃たれても平気なの!?」

「はい。ですが先生は私たちと違って、弾丸一つでも命の危機に直結する可能性がありますので、その点注意してください」

「ここじゃ変なのは僕の方なんだ……」

 

 普通の地球人のケンゴと違ってキヴォトスの住民は銃弾にも大きな傷害を受けない。

 所変われば品変わる。似ていても彼らは根本的な構造から違う、歴っとした別の星、別の次元の人間なのである。

 

「分かってるわよ。先生、先生は戦場に出ないでください! 私たちが戦ってる間は、この安全な場所にいてくださいね!」

「……」

 

 ユウカにそう言われたケンゴは有無を言わざるを得なかった。

 だって、そもそも基本的な身体の能力から違うのだ。見た限り、ほかの生徒たちより能力が劣る自分にできることはない。むしろ足手まといだ。だったらほんとに自分にできることは何もないのだろうか。

 ──否。何か、何かあるはずだ、自分にできることが。

 ティガも、かつて自分が憧れたヒーローもそうであったではないか。

 自分という人間ができることを、精一杯。

 

 ケンゴに了解をもらい、彼女たちは再び戦闘に入ろうとした。

 その背中を見た瞬間、ケンゴは覚悟を決め、みんなを呼び止めるように言いかけた。

 

「僕が……、僕が指示を出す。皆はそれに従ってほしい」

「え、ええっ? 戦術指揮をされるんですか!? まあ……、先生ですし……」

 

 ケンゴのその発言に一同は驚いたが、彼の立場上、あり得る話であるらしく、何よりも彼の今までのへらへらとした表情とは一変して、とても真面目な顔をしていたもので否というものはいなかった。

 

「分かりました。先生の指揮に従います」

「生徒が先生の言葉に従うのは自然なこと、ですね。よろしくお願いします」

「よし、じゃあ行ってみましょうか!」

「うん。まずは……」

 

 これが真奈華ケンゴの先生としての初の活動である。

 

 

 

 戦闘はこれということなく自然と勝利という形で流れた。

 ケンゴの指揮のもと、ユウカが前方でシールドを張り前進及び制圧。

 後方で銀髪の少女こと、トリニティ自警団の守月スズミがスタングレネードで敵の視野を遮断、ハスミが狙撃、チナツの医療支援という完璧な布陣。

 何より、指揮官であるケンゴの適切なタイミングでの指示、支援で彼女たちはより楽で、正確な戦闘を行うことができたのだ。

 本当ならこういったものとは縁のないはずのケンゴであったがなぜか彼は、生徒たちの弾の交換タイミング、周囲の状況による判断、各生徒の特性による位置選定、射撃ポイントなどを手に取るかのように解かっていた。

 まるで、かつてそういった経験があったかのように。

 

 戦闘が終わり、しばしの休憩の間。

 先程の戦闘に関する感想をスズミが先に言い出した。

 

「なんだか、戦闘がいつもよりやりやすかった気がします……」

「……やっぱりそうよね?」

「先生の指揮のおかげで、普段よりずっと戦いやすかったです」

「なるほど……これが先生の力……。まあ、連邦生徒会長が選んだ方だから当たり前か……」

 

 スズミの言葉にユウカとハスミは同意しながらケンゴを褒めた。

が、ケンゴは笑い首を横に振りながら言った。

 

「ううん。僕だけの力というよりは君たちのおかげなのさ。こんな僕を信じてくれてありがとう」

 

 会話を終え一同はまたシャーレの建物に向かった。

 

 

 

『今、この騒ぎを起こした生徒の正体が判明しました。その名はワカモ。百鬼夜行連合学園で停学になった後、矯正局で脱獄した生徒です。似たような前科をいくつも持っている危険な人物なので、気を付けてください』

 

 シャーレの建物の近くまでたどり着いたころ、リンからそういった連絡が入った。

 ──一方、向こうからシャーレの建物を眺める狐の面をつけている少女が一人。

 

「あの建物に何があるかは存じませんが、連邦生徒会が大事にしてる物と聞いてしまうと……壊さないと気が済みませんね。何やら、アレが隠されてるという噂もありますし、嗚呼……久しぶりのお楽しみになりそうです、うふふ♡」

 

 戻って一方、再び戦闘に取り掛かるケンゴ達。

 難なく敵を倒し前に進むようだったが──

 

「皆! 避けて!」

 

 ケンゴの指示にユウカ達はすぐ近くの遮蔽物に身を隠した。

 その同時に飛び交う無数の弾丸。新たに表れた敵の援軍だった。

 

「……! 騒動の中心人物を発見! 対処します!」

 

 騒動の中心人物、即ち狐坂ワカモを遠くから見つけた様子。

 直接前線に現れないということはハスミと同様、狙撃手タイプに違いない。

 スケバンはほぼ片づけられワカモ以外にも残り少ない状況。

 いくら優れた実力を持っているワカモといえど、このメンツを相手するには少々手強かったのか、少し後ろに引きながら、

 

「わたくしはここまで、あとは任せます」

 

 と言い残し、周りにいた連中を盾にしてするりと逃げた。

 そんなワカモを見かけたユウカは苛立ちながら追跡を促した。

 

「逃げられてるじゃない!? 追うわよ!」

「いいえ、生半可に行動してはなりません。私たちの目標はあくまでも、シャーレの奪還。このままシャーレのビルまで前進するべきです」

 

 ハスミの説得によりユウカは一回落ち着き、冷静さを取り戻し、彼女の発言に賛同した。

 

「うん……まあいいわ。あいつを追うのは私たちの役目じゃないってことね」

「罠かもしれませんし」

「はい。建物の奪還を優先で。このまま引き続き、進むとしましょう」

「うん。行こう!」

 

 そのまま迫りくる敵を倒し続け、建物の入り口の近くまで着いた頃、どこから地が揺れるほどの重い轟音と共に巨大な影が現れた。

 

「あれは……!」

「巡行戦車です……! 気を付けてください!」

「クルセイダー壱型(いちがた)……! 私の学園の制式戦車と同じ型です」

「違法で流通されたに違いないわ! PMCに流れたのを不良たちが買い入れたのかも……! つまりガラクタってことだから、壊しても構わないわ! 行くわよ!」

(不良なのに戦車を買えるくらいなら結構お金持ちの不良なのかな……)

 

 そうやって巡行戦車との戦闘が行われた。が、ガラクタとはいえ相手は戦車。彼女たちが負けるとは今のところ思い難いが、このままでは戦力に大きな被害が生じる。

 否、それよりも──ただ見過ごすことはケンゴにはとてもできなかった。

 

 ──既に術は持っている……。

 

 ふと聞こえたその声に、思わずポケットや体のあちこちに手を当て、何かを探したケンゴ。そのとき、腰に不自然な感覚があった。

 

「これは……?」

 

 スーツの上着を捲りズボンの上、ベルトに付けられていたそれを見た。

 付けられていた物はホルダーのような物。そのホルダーには先ほど見たUSBメモリーのようなデバイスが三つ挿されてあった。

 初めに見た物との違いは全身真っ黒で、正面と思われる方にステンドグラス風の絵画のようなものがプリントされていた。

 それを一回見たケンゴは覚悟を決めたような目つきで戦車を見据えた。

 

「よーし……」

「ちょっ、先生!?」

 

 ケンゴと一緒に後方で待機していたチナツが急に戦場に駆け出した彼を慌てて呼び止めたが、ケンゴは耳に留めることなく戦車の方で立ち止まり、ユウカ達に叫んだ。

 

「皆! 伏せて!」

「え!?」

「先生!?」

 

 ケンゴは白い拳銃とホルダーに挿してあるデバイスの中で正面に一番近い、緑背景に角が三つある怪獣の形をした絵が刻まれているデバイスを引き抜いて、拳銃のグリップにあるスロットにマガジンを挿すように装填した。

 

〈Boot up, Shockwave!〉

 

 電子アナウンスと共に、拳銃が起動。デバイスに機能を読み込んだ。ケンゴはそのまま銃口を戦車の主砲に向け、束の間の照準の後、すぐ引き金を引いた。

 拳銃から怪獣の鳴き声のような音声と共に、従来の兵器とも比較にならないほど強力な振動波型の光波熱線が放射され、その反動でケンゴの体は大きくのけ反ってしまった。

 

「うわあっ!?」

 

 熱線は戦車の主砲に命中。耐えられる臨界値を超えた熱、圧力により砲身が潰れ、やがて主砲ごと熱線により削られ、戦車は轟音と共に凄まじい爆発を引き起こした。

 ケンゴは人生初めて扱った武器であり姿勢が安定しなかったことや威力が想像を遥かに上回ったせいで反動により倒れたまま、顔だけを上げ戦車が無力化したことと、中に乗っていた連中が無事に脱出し逃げることを確認しては、安心したように頷く。

 

「よし!」

「よし、じゃないですよ! なんでそんな無茶しちゃうんですか!?」

「敵が先生に気付いたのが遅かったからよかったもの、もしすぐ見つかったら危険だったのは先生だったのです!」

「ご、ごめんなさい……でも上手く収まったからよかった」

『──よかったじゃないです!』

「ひいっ! ごごごごめん!」

 

 

 

 兎も角、無事にシャーレの建物に着いたケンゴ達。

 リンとの合流を待つ間、ケンゴは建物の構造の把握がてら、地下に入って行った。

 

「ここが……」

 

 自動に開かれたドアを潜り中にある暗い部屋に恐る恐ると、入るケンゴ。

 中には幾つかの本が挿されていた本棚、階段の下にはパソコンと壁にかかってある何かの資料を現してるモニター。そして何より目立ったのは、部屋の中央にある明かりの下、浮いている碑石のような遺物と、──それをじっくりと眺める、狐の面を付けている少女。

 

「うーん……これが一体何なのか、全く分かりませんね。これでは壊そうにも……」

「えっと……」

「!?」

「ちょっ、うわっ!」

 

 いきなり後ろから聞こえた声に少女は一瞬、重さ中心を失った。

 恐らく、如何なる突然のことでも動じない彼女であっても、無自覚で気配を消した彼に不意を突かれ、動こうとした瞬間、床に散らばっていた名も知らぬ書類の所為で滑ってしまったと見える。

 後ろに倒れかけた少女を支えるため手を伸ばしたケンゴ。手を何とか掴んだ少女であったが、引っ張る力があまりにも強かった故、ケンゴは彼女を掴めて置けず、少女は反対側に引っ張られ尻もちを打ってしまった。そんな彼女にケンゴは心配になり、安否を問う。

 

「大丈夫?」

「…………嗚呼」

「?」

 

 暗い部屋、謎の遺物の光を背に、青年は見下ろし、少女は見上げた。

 

「──」

 

 青年は黒く、それでも強い光を含んだ瞳で、明るい笑顔で彼女を見下ろし、

 

「──怪我は、ない?」

 

 優しい声で、そう言った。

 少女はその姿に面の下で震える唇を、やっと動かせ──

 

「し」

「し?」

「失礼いたしました!!」

「ねぇ、ちょっ、はやっ!」

 

 瞬く間にその場から逃げ去った。

 此れが、彼と彼女の運命の夜(stay night)だった。

 ──まだ昼だが。

 

 時が少し経ち、リンがケンゴのいる地下の部屋に降りて来る。

 

「──」

「お待たせしました……何かありましたか?」

「ん? ううん、何も」

「そうですか」

 

 先程の少女、ワカモのことは黙っておくことに決めたケンゴの誤魔化しに、そこまで気に留めることなく部屋の隅っこの方にに歩いた。

 

「ここに、連邦生徒会長が残した物が保管されています」

 

 そう言いながら、何かを取り出すリン。

 その時、床に何かが落ちて転ぶ音がした。

 ケンゴの足元まで転んできたそれらは、ケンゴにとって初めてみた物ではなかった。

 

「あら?」

「これは……」

 

 拾い上げたそれらは、ケンゴがリンに貰った白いデバイスと同一の物、それが二つあった。

 

「同じものが二つありましたね。そういえば先程ユウカさんに聞きましたが、ほかの物も持っていたのですと? しかも使い方もご存じであったと……」

「……うん。なんでかは分かんないけど」

「……詳細は後に聞くとしましょう。まずはこれを受け取ってください」

 

 リンは普通のタブレットPCのような見た目の端末機器を取り出し、ケンゴに渡した。

 

「これって、タブレットPC……だよね?」

「はい。これが連邦生徒会長が先生に残した物、《シッテムの箱》です」

(──どこか、聞き覚えがあるような……)

「普通のタブレットに見えますが、実は正体の分からないものです。製造会社も、OSも、システム構造も、動く仕組みのすべてが不明。連邦生徒会長はこのシッテムの箱は先生の物であり、先生がこれでタワーの制御権を回復させられるはずだと言っていました」

 

 どう動かせるかすら分からないものなのにどういった機能を果たせるか、会ったこともないはずなのにこれがケンゴの物か否かに対して言い残して置いたということか。ケンゴの中でその連邦生徒会長はいったい如何なる人物かという疑問はますます深さを増していくばかりであった。

 

「私たちでは起動すらできなかった物ですが、先生なら起動させるのでしょうか、それとも……」

「……とりあえず、やってみる」

「では、私はここまでです。ここから先は、先生にすべてかかってます。邪魔にならないよう、離れています」

 

 そう言いながらリンはドアの前まで離れた。

 ケンゴが少し震える指でゆっくりとタブレットの起動ボタンを押そうとしたそのとき、リンは急に着信音と共に震え始めた携帯を取り出し耳元に近づけた。

 

「……モモカ? どうしたの」

「?」

 

 リンに連絡を入れたのは誰でもなく先程、シャーレへの移送ヘリの手配をしてくれた連邦生徒会所属の《由良木モモカ》であった。

けど、少し違う点は、端末の向こうの彼女の声色が先程の余裕綽々、面倒くさがる声ではなく、少し慌てるような感じの声だということだった。

 

『えーっと、先輩? こういうこと信じられないということは分かるけどさ、ちょっと、外見てみない?』

「何かあったの?」

『いや、それが……アビドス自治区の砂漠から急に巨大怪獣が現れたという情報が入ってさ。今、D.U.の方に移動してるんだって。あ、ここからも見える』

「巨大……怪獣?」

『うん。あと、その怪獣の予想目標地点が、先輩と先生がいるそこなんだよね……』

 

 その言葉が終わると同時に、少しずつ地が揺れるような感覚が全身に響き渡り、それがさらに大きく、確固たるものとなったことを感じ取ったリンとケンゴはすぐ地下を出て建物の外に向かった。外で、先程までケンゴの護衛を務めていたユウカ、ハスミ、スズミ、チナツが建物から20km離れたところにいるソレを見ながら、己の銃を強く握りしめる。

 

「あれは一体……」

「分かんないわよ……」

「みんな!」

「先生! どうして外に!?」

「先生は地下に退避していてください! ここは私たちが……!」

 

 その時、轟音と共に地が響き、そこにまた視線が集まる。

 周りの邪魔な建物を無差別に破壊し、いかなる妨害も物ともせず、ただ進み続ける60メートル前後のフォルム。それはまさに巨大怪獣であった。

 ──しかも、ケンゴにはその怪獣に見覚えがある。

 

「あれは……ゴルザ!? いや、あの翼と頭……まさか、メルバと融合しているのか!? どうして……!? 怪獣なんて空想のはずじゃ……?」

 

 それはケンゴが幼いころ、ビデオを借りて見ていた特撮番組シリーズ。

 《ウルトラマンティガ》第一話に登場する二匹の怪獣。

 地を揺るがす、《超古代怪獣ゴルザ》

 空を切り裂く、《超古代竜メルバ》

 これはその二匹の怪獣の特徴が合わさった合体怪獣。

 《超古代翼獣ゴルバ》である。

 

「先生、あれが何かわかりますか!?」

「……うん。けどあり得ない。怪獣なんて……」

「とりあえず、私たちが奴を阻止します。先生はその間に避難を! 首席行政官、お願いします!」

「わかりました。先生、こちらへ!」

 

 そう言ってリンはケンゴを連れて建物の中に入った。

 ケンゴはパニックになった精神をどうにか維持しリンに手を引かれたまま、中に入るまでも怪獣に視線をくぎ付けにしていた。

 

 ──本来、怪獣は元の世界では実際に存在しない。

 だが、ここキヴォトスは自分の知る世界とは別の世界。であるならば、怪獣が存在することもあり得りえるのか? もしそうならば、生徒たちがああいった類のものに対しても熟知しているはず。

 しかし、先程のモモカやユウカの反応を見る限り、怪獣の存在は以前は確認されていない。

 ──なら、()()()がここに怪獣を呼び出した? 

 ──否、今はそんなことを考えたところでどうにもならん。

 今はただ、やれることをやるだけ。

 

「みんな! 聞こえる?」

『先生?』

「今は……まだ何もかも初めてすぎて右も左も分からない。けど、何も分からないからって何もせずにいると、その間にまた誰かの笑顔が奪われてしまう。そんなことは見たくない。でも、僕一人じゃ何も出来やしないんだ。だから、僕に力を貸してほしい……!」

『ふふ、やっぱ変わった方ですね。先生は』

『はあ……もうここまで来ちゃったんだから何も言わないわ。その代わり、ちゃんと指示してくださいね、先生!』

『先ほども言いましたが、生徒は先生の言葉に従うことは自然なことですからね。頑張り時ですね……!』

 

 彼の熱い思いが彼女たちに伝わったのか、無線の向こうでも彼女たちの笑顔がケンゴには感じられた。

 

「皆、ありがとう……! まず、怪獣を極力市街地から遠ざけて被害を最小限にしよう! スズミちゃん! 閃光弾で怪獣の注意を引き付けて!」

『了解しました』

 

 了解をもらったと同時に、スズミは怪獣の目に向かって精一杯の力で、閃光弾を投擲。閃光弾は正確にゴルバの目元まで辿り着き、爆発してすさまじい光を放った。

 急に目の前に現れた強力な光に驚き目をかいては閃光弾が飛んできたところを探したゴルバは4人の少女たちを見付け怒り出して彼女たちに向かって歩いた。

 

『命中を確認。私たちの位置を把握したようです』

「よし、そのまま市街地の外まで誘き出して! ハスミちゃんとスズミちゃんは怪獣の頭を狙って撃って! もし怪獣が攻撃するならユウカちゃんがシールドでカバー!」

『承知しました』

『ラジャー』

『オッケー……やってやるわ!』

 

 フォーメーションの編成は先程とは逆。医療支援のためチナツが先頭、ハスミとスズミが左右両側でゴルバに射撃を繰り返し、射撃支援と怪獣の攻撃に備えシールドを張るためユウカが後方という形だった。

 怪獣──ゴルバは少女たちを追いD.U.の外郭地区より約5キロ離れた森林地域まで辿り着いた。

 

『先生! 怪獣ゴルバ、森林地域まで誘導成功しました!』

 

 連絡を受けたケンゴはまた次の策を編み出すため、頭をひねり出した。

 

「よし、次は『きゃあっ!』どうしたの!? みんな!」

『怪獣が急に線路を変更! 私たちの誘導を無視し突然翼を広げふたたび、シャーレに向かいました!』

「そんな!」

 

 先まで誘導に引っかかって来たのに、急に旋回? 

 あまりにも不自然だ。だとすると、やはり裏で手引きしている者が? 

 目的は……自分(ケンゴ)? 

 ともあれ、こうなってしまった以上状況は元通りとなる。

 ──こんなとき、()ならばどうしたんだろう。

 ウルトラマンの力があればあの怪獣を倒し、皆を守れるはず。

 だが自分には、そんな力は……

 

 その時、ふと彼の言葉を思い出した。

 ──僕は特別な人間なんかじゃない。けど、僕は自分のできることをする。

 ──義務なんかじゃないよ。俺は人間だから、俺がやりたいことをやるだけだよ。

 

 そうだ。彼もまた、一人の人間として、自分のできることを精一杯やり遂げたじゃないか。

 だったら──

 

「僕だって……僕だって!」

「先生!? 無茶は──」

「大丈夫! 僕は、必ず帰ってくる……!」

 

 そう言い残し、ケンゴはリンの呼び止めも振り切り建物の外に走って言った。

 ゴルバは先程と似た距離まで接近し地上に着地し、ふたたびシャーレの建物に向かって今もなお、近づいて来ている。

 外に出たケンゴは白い拳銃を取り出し先程の戦車との一軒と同じ要領で今度は水色背景の黒い怪獣が描かれたデバイスを装填、すぐゴルバに向かい照準を定めた。

 

〈Boot up, Fireball!〉

「やめろおお──!!」

 

 銃口にエネルギーがチャージされ、ケンゴが引き金を引くと宇宙恐竜の一兆度に達する火焔玉がゴルバの腹部に向かい発射され、命中した。

 大きさの対比の所為で大きな成果は望めなかったが、牽制には十分な威力だった。

 

「僕はここだ! ついて来い!」

 

 ケンゴはそう叫び、ゴルバの注意を引くため全速力で道を駆けだす。

 ゴルバもそんなケンゴにつられ、彼を追いかけ始めた。

 

 ──僕は、ティガ(憧れの英雄)のようにはなれない。

 けど、こんな僕でも、守るものができたんだ。

 たくさんの人々の笑顔を、僕を信じてくれた生徒たちを。

 

 走る途中、道の向こうから自治区防衛のため、送られたと見える兵力たちが少しづつ見え始めた。

 ──ダメだ。このままでは被害が……

 ここで何とかしなくてはならない。

 

 嗚呼、このまま諦めたくない。

 でも、一体どうすれば……

 

 

 ──シャーレの地下、浮いていたオーパーツから強い光が放たれ始めた。

 

 同時に、ヘリの中で見た光景がまたケンゴの目の前に現れた。

 青空の下、海からケンゴを見下ろすティガに似た巨人。

 その巨人は光を纏い消えると、一筋の光となりケンゴの前に降り立った。

 光が消え現れたその姿は──

 

「僕……君は、僕だったんだ」

「君は、どうしたい?」

 

 ケンゴの前に現れた人物。ケンゴと似た──否、瓜二つの青年はケンゴに問う。

 

「僕は……」

「夢見る未来は、人それぞれにあるはず。君にも、きっと。そして君はもう既にその答えを知っているはずだ」

「僕は……皆が、皆が笑顔になる、希望の光に満ちた未来。それが欲しい」

 

 そんなケンゴの答えを聞いたもう一人のケンゴは満足したように笑顔で頷いた。

 

「じゃあ、きっと君もなれるよ」

 

 ──未来を築く、希望の光に。

 

 

 目を覚ましたその先にはこの世界に突如と現れ、秩序を乱す未知の怪獣が今、目の前にある。ケンゴはその怪獣の目から放たれた光線が近くもなく、それでもけして遠くもないところに着弾し巻き起こる爆発も物ともせず、ただ怪獣を見上げ、覚悟を決めたように叫んだ。

 

「この世界を、僕が守る!」

 

 その時、いつかケンゴの左手に握られていた白色のデバイス。《ハイパーキー》が紫色に輝くとやがて白いボディが紫色に染まり何も描かれなかったステンドグラス風の背景にウルトラマンの絵が刻まれた。

 ──光は、繋がれた。

 それを見たケンゴはその紫色のキーの起動スイッチを押す。

 

〈Ultraman Trigger Multi Type!〉

 

 そして右手にある白い拳銃。《スパークレンス》にハイパーキーを装填。スパークレンスは装填されたハイパーキーを読み取り待機状態に突入した。

 

〈Boot up, Zeperion!〉

 

 そしてスパークレンスの砲身の上段部分をさらに引っ張ることでセーフティーを解除、《ハイパーガンモード》から《スパークレンスモード》に移転。

 ケンゴはスパークレンスをそのまま左斜めに突き出し11時方向から1時方向に腕を動かしながら、口上を叫び始めた。

 

「未来を築く、希望の光!」

 

 1時方向にたどり着くと同時にそのまま右肩に引き寄せながら左手首を右手首を受け止めるようにクロスし、そのままスパークレンスを上に持ち上げ引き金を引いた。

 

「ウルトラマン、トリガ──!!」

 

 引き金を引いた途端、スパークレンスから光が溢れ出し、ケンゴを包み──否、光がケンゴの中に入り一つとなった。

 

〈Ultraman Trigger Multi Type!〉

 

「あれは……?」

 

 前進していたゴルバの前に立ちはだかる光の柱。

 その柱の中からシルバーをベースにレッドとパープルのストライプがあしらわれ、胸から肩にかけて背中に、腕や脚に金色のプロテクターが付けられている神秘の巨人。光を繋ぐもの、《ウルトラマントリガーマルチタイプ》が時空を超えふたたびその姿を現したのである。

 

「何、あれ……」

「光の、巨人?」

「でっか……」

 

「局長、これは……」

『ヴァルキューレ司令室より各車に通達。連邦生徒会の要請により住民の避難誘導にあたり、完了次第後方で待機せよ』

「……とのことだ。あの未確認巨大生物に関して連邦生徒会は何か察しが付いているのだろう。どちらにせよ我々は人命を優先する。そういうことだ」

 

 D.U.の防衛のため、集った生徒たちはいきなり光と共に現れた巨人に戸惑い、とりあえず攻撃態勢をやめ、後ろに引いた。

 巨人──トリガーは生徒たちが引くことをそっと振り向き確認したあと、ゴルバの鳴き声にすぐ向き直し姿勢を構えて跳躍、ゴルバの頭部にチョップをかませた。そしてすぐ一回転と共にまたも胸部にチョップ。後ろに引いたゴルバの隙を見逃せまいとトリガーはゴルバの頭部を両手で掴み膝蹴りを食らわせる。

 

「……とうとう、この時がやって来てしまったのか」

「わーお、さっきのデカい怪物もそうだけど、今度は巨人さんねぇ……凄くない、ナギちゃん?」

「──」

 

 ゴルバはトリガーの攻撃に打つ手なくやられるように見えたが、すぐ翼を広げて風を引き起こすことで風圧をもってトリガーを後ろに引かせた。そのあと、素早く低空飛行でトリガーに向かって突進。重たい身体と飛行の勢いで繰り出される威力でトリガーの胸部を蹴り飛ばし、トリガーはそのパワーによって吹き飛ばされる。

 

「あれは一体……」

「チナツが連邦生徒会に出張してまだ帰ってきてないこの状況に、どうして次々とこんなことが……委員長、どちらへ?」

「……ちょっと外の空気吸ってくるわ」

 

 ゴルバの蹴りに吹き飛ばされ建物にぶつかるトリガー。

 ゴルザのパワー、メルバの翼による機動力。

 その両方を兼ね備えたあの怪獣を攻略する方法はやはり、一つずつ無力化させるしか手はない。

 

「あの巨人、どこかで……」

「似た資料があるか、探してみます!」

 

 そのとき、トリガーの額にあるクリスタルが赤く光り出した。

 それに合わせトリガーは両腕を顔の方にもっていき交差させたその次、交差した腕を解くことと同時にトリガーのパープルのストライプラインが赤く染められ、赤一色となった。

 

「あ、色が変わった」

「ぬぬっ!? 何か意味があるのでしょうか!?」

 

 そしてその次に金色のプロテクターが赤く光ると同時に頭や体のライン自体が変わる。

 同時に、上半身が少々筋肉が増したように体型も変わった。

 

「姿も変わったね」

「なるほど! 相手の特徴に合わせて自分の能力をコントロールしているのですね!」

「センスは……まあギリ合格かな」

 

〈Ultraman Trigger Power Type!〉

 

 トリガーは基本形態のマルチタイプから剛力の戦士。勝利を掴む剛力の光、《ウルトラマントリガーパワータイプ》にタイプチェンジしたのだ。片方は開き手、もう片方は握り拳だったマルチタイプのものから両手拳を握る構えでトリガーはゴルバに向かって走り出す。

 それを牽制するためゴルザの得意技である超音波光線を撃ったが、それにトリガーは片手を上げ防いで見せた。

 ゴルバはそこにメルバの怪光線、メルバニックレイを足して、威力を上乗せしたが、左手も加勢し両手をクロスさせることでトリガーはその攻撃を難なく防ぎ切った。ゴルバの猛攻撃にもビクともせず受けきったトリガーはゴルバに向かって突進、胸部に肱攻撃を叩き込む。

 トリガーの攻撃に気を確かにすることもかなわず、麻痺状態となったゴルバをトリガーは両腕で抱き締めたまま全身に力を入れることで相手を圧迫する《ウルトラバックブレーカー》、ゴルバをそのまま持ち上げ、逆さにして、頭から地面に叩き込む《ウルトラヘッドクラッシャー》を順番に披露する。

 

「うへぇ、力持ちだね~」

「ん、先よりムキムキ」

「プロレスみたいですね~☆」

「金色の鎧みたいなのが、タスキ? みたいになりましたね……」

「さすがに見たままじゃない!?」

 

 ゴルバは相当のダメージを追ったがまだ倒れるまでは至ってない。

 パワーでは分が悪いと察したのか、翼を広げ空に飛び立つゴルバ。

 トリガーもそれを追い飛ぼうとしたが、ゴルバの旋回、突進の方が速く、足にまた蹴られ後ろに少し引かれてしまう。

 

「巨人さんの動きが……」

「さっきより鈍い」

「急速肥満」

「それはさすがに失礼でしょう!?」

 

 その時、トリガーの胸の中央で青く光っていたランプが赤に変わり点滅し始めた。

 

「なんかピコピコいってる!」

「危険信号みたいなヤツなんじゃ……?」

「じゃあ速く倒さないと……!」

 

 空中を飛んでいるゴルバを見つめていたトリガーの額のクリスタルが今度は青色に発光。先程と同じ構えで今度は赤いストライプが青紫一色に染まった。

 

〈Ultraman Trigger Sky Type!〉

 

 プロテクターが青く発光して頭や体の形状、プロテクター、ラインがふたたび変化した。体型もパワータイプやマルチタイプよりスレンダーに変化。

 天空を駆ける高速の光、《ウルトラマントリガースカイタイプ》にタイプチェンジしたトリガーはすぐにジャンプ。瞬間跳躍1000メートルを誇る脚力を利用し目で追うことすら叶わないほどの速度でゴルバの頭上を占領、頭と背中を蹴り落とすことで体のバランスを狂わせ墜落させる。

 

「はや……」

「──クキャハッ!!」

 

 軽く着地したトリガーはすぐゴルバに向き直し、構えた。

 ゴルバは深刻なダメージを受けふらふらと攻撃する意思を示せなかった。

 それを見たトリガーは両腕を左右に広げ、その両手からエネルギーを一つに集めるように上にあげ、左の腰に持っていき素早く右手を前に突き出して手裏剣を飛ばすように光弾、《ランバルト光弾》をゴルバに向かって撃ち放った。

 光弾は物凄いスピードでゴルバに命中、胸部をねじ込み電気エネルギーを放出させた。その次に、ゴルバは起爆剤が仕込まれた爆発物のように内側から爆発四散する。

 

「あの巨人は、主の使者でしょうか。それとも……」

「どちらにせよ、今の私たちとしてはどうすることはでき──うわあっ、経典たちが!?」

 

 トリガーは空を仰ぎ、そのまままっすぐ腕を伸ばし飛んだ。上空を飛行、マッハを超える速度で飛び去り、やがて姿を晦ました。その姿をひたすらぼーっと見ていた生徒たちは各部隊の撤収命令を受け撤収した。

 

 

 シャーレの建物の中で、巨人が飛んでいく様を見ていたリンは眼鏡を外し、ポケットからハンカチを取り出して、レンズを拭いた。

 

「首席行政官!」

 

 その時、ケンゴの指揮により森林地域にいたユウカ達が戻りリンを呼ぶ声が聞こえたので、彼女はすぐ眼鏡をかけ直しユウカ達を迎えた。

 

「みなさん、お疲れさまでした」

「……そういえば、先生は?」

 

 そういえばと、先ほど建物の外に出て行ったあと、巨人の登場に気を取られ忘れられていたケンゴの安否。リンは言い難いように言葉が詰まる。

 

「それは……」

「おーい~! 皆~!」

「先生!? どうしてそこから来るんですか!?」

 

 そのとき、道路の遠くからケンゴの声が聞こえたことにユウカ達は、建物の中にいるはずの彼が急に外から現れたことに動揺を禁じず、その片方彼が無事であったことに対する安堵を抱いて彼のもとに走って行った。生徒たちに囲まれ安心の言葉や、説教を聞かせれるケンゴをただ見届けるリン。そんな彼女を見つけたのか、ケンゴはリンのもとに歩き寄った。

刻は経ち、太陽は西の地平線を燃やすかのよう紅く染まりつつあった。

 

「本当に、戻られましたね」

「約束したんだからね」

「──ですが、これからはそういった行動はやめていただければと。こちらとしては、先生は重要人物ですので」

「うん。善処するよ」

「そういえば、怪獣と出会ったはずなのに、よくご無事でしたね」

「……あ、それがね。あの巨人──ウルトラマントリガーが助けてくれたんだ」

「ウルトラマン……」

「トリガー?」

 

 突然と聞かされた巨人の名前──ウルトラマントリガーというワードにユウカたちは戸惑っていることにまずいと思ったケンゴは疑われる前に話をまとめ、解散を促した。

 

「──ま、まあ、とにかく! 今日はみんな、本当にありがとう! 少し頼りないかもだけどこれからもよろしくお願いします!」

 

 今はまだ多くはないが溢れる笑顔たち。

 そんな生徒たちの笑顔にケンゴはこれ以上のない嬉しさに満ちた。

 

「では、アクシデントも過ぎましたので、本題と行きましょう」

「え、今から!? お腹も空いてきたし何か食べてからにしない?」

「食事はいつでも出来ますが、帰宅はそうはいかないですので。なるべく早い方が望ましいです」

「えー」

 

 リンとの何気ない会話の途中、先行するリンの後を追うとして、腰に違和感を覚えたケンゴはすぐその正体である腰のホルダーから三つのアイテム、ハイパーキーを取り出した。中央の紫色の物以外、いつの間にか持っていた赤、青色のキーが発光し先程の白色の、ブランクキーに戻ってしまった。それでも何故かケンゴの中に驚きや焦りはなかった。

 いつかそれもまた、取り戻せると思ったから。

 

 かくしてここキヴォトスで真奈華ケンゴは先生(ひと)でありウルトラマン(ひかり)としての第一歩を踏み出すことになったのだ。

 

 

 

「嗚呼、これはまた、困ったことになってしまいましたね……フフ、ウフフフ……♡」

 

 

 






シャーレの先生としてキヴォトスに過ごすことになったケンゴ。
そこでミレニアムサイエンススクールに訪れ、セミナーの早瀬ユウカと出会う。
そんな中、大地の底から飢える怪獣、ダイゲルンが眠りから目覚める。
次回、「決戦!科学都市」
お楽しみに。



お気づきのようにオマージュ元としてはティガ1話、超ウルトラ8兄弟です。
8兄弟でのダイゴのように本作品でのケンゴは本編のケンゴとは違う、平行世界のケンゴです。彼の詳細については後ほど明かすつもりです。
個人的に「自分が見たかったウルトラマントリガー」をありったけ積み込んだ自己満足の塊に近いものです。後悔はありません。
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