ウルトラマントリガーin BlueArchive   作:はぐれ冥王星

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肉食地底怪獣ダイゲルン 登場


決戦!科学都市

 

 真奈華ケンゴ。

 彼がキヴォトスにやって来て、ウルトラマンに覚醒して数時間。彼はまた連邦生徒会の行政官、七神リンとともに、シャーレの建物の地下の部屋に入ってきた。

 そしてサンクトゥムタワーの行政権を回復させるという仕事を果たすため、連邦生徒会長が彼に託したというタブレット端末、シッテムの箱を起動させるためケンゴはそれを取り出し、確認のためリンに問い直す。

 

「これを押せばいいんだよね?」

「はい。時間も遅いので早く済ませましょう。私は離れています」

「わかった。これ終わったら一緒にご飯でも食べよっか」

 

 ケンゴの御託のない言葉に、リンは苦笑いしながら頷きで答え、地下室から退室した。

 リンの退室を確認したケンゴはタブレットの起動ボタンを押した。

 その瞬間、画面が光りながら起動し、目に負えないほどの速度で文字を羅列する。

 

 ──……

 

 Connecting to Crate of Shittim.

 

 ──システム接続パスワードをご入力下さい。

 

 

「パスワード? ええ、っと……なんだろう。誕生日、とか……?」

 

 まさか最初から詰まるとは思いもしなかった。

 最初の難問。それは、システムにアクセスするためのパスワード。だが、ケンゴには何の手掛かりもありはしなかったのだ。だって彼は、このキヴォトスに初めて訪れたが故に昔から残されていたというものを解く鍵など持ってるはず──

 

「──?」

 

 そのとき、ケンゴの頭に一つの文章が思い浮かんだ。

 まるで、初めてウルトラマンに変身し戦った時と、似たような感覚。

 ケンゴはそれを理解する隙も無く意識の流れによりその文章を口にした。

 

「──……我々は望む、七つの嘆きを。

……我々は覚えている、ジェリコの古則(こそく)

 

 その文章により認証が承認されたのか、次の文字をならべる。

 

 ──……

 

 接続パスワード承認。

 現在接続者情報はマナカ・ケンゴ、確認されました。

 シッテムの箱へようこそ、真奈華ケンゴ先生。

 

「よかった、上手くいったね。でも僕、どうしてそんなことを……」

 

 ──生体認証及び認証書生成のため、メインオペレートシステムA.R.O.N.Aに変換します。

 

 その拳銃といったものの使い方同様、何故そんな情報が自分の頭に浮かんだのかに対する疑問に悩む隙も与えずに、シッテムの箱は次のステップに進むため、画面を変化させる。

 

 

 次に広がった光景は、半分崩れて外側の景色がはっきりと見える教室のような場所。

 床や外側の壁は浅い海のように透き通っていて綺麗な色をしていて、窓側の近くに下から机で積んだ塔、外は澄んだ青空の下、海が広がっていることが見える。

 そして何より、教室の中にいくつか並べてあった机のひとつに白いカチューシャを付けていた水色のセーラー服? のような制服を着た可愛らしい少女が座ったまま俯いて寝ていた。

 

「くうぅぅぅ……」

「あの……」

「むにゃ……いちごみるくはわたしの……」

「イチゴ、ミルク……?」

「うぇへ……さんどいっち、おいしそう……」

 

 どうやら寝ぼけているであろう少女にケンゴはちょっとした悪戯心ができたのか、少女の頬をツンと突いてみた。

 

「うにゃぁ……すいかがあまいです……しおがなくてもたべれるくらい……」

「……食いしん坊さんだね」

 

 微笑ましい気分になったケンゴはそのまま頬を突き続いてみる。

 容赦なき頬突きに少女は身を揺らし始め、やがてむくりと腰を起こし目を少しずつ開いた。

 

「むにゃ……もう……、あれ?」

「おはよう。よく寝れた? もう夜だけど」

 

 少女はまた覚め切っていない意識のままケンゴをしばらく見つめていた。

 

「──あれ、あれれ?」

 

 意識が戻るにつれ状況が理解し始めた少女は慌てて驚き始める。

 

「せ、先生!? この空間に入ってるということは、も、もしかして真奈華ケンゴ先生……?」

「うん。君は?」

 

 少女はケンゴの存在を把握してはかなり動揺したのか目をぐるぐると回している。

 それどころか、あちこちに視線をめぐらせなにかブツブツと呟いた。

 

「もうこんな時間!? うわあぁぁ……! とりあえず落ち着いて、落ち着いて……」

「大丈夫? ゆっくり、深呼吸してみて。すってー、はいてー」

「すぅー、ふうぅ……はい! 整いました! あ、そうだ。まず自己紹介! 私はアロナ。このシッテムの箱に常駐しているシステム管理者であり、メインOS、そしてこれから先生を補助(アシスト)する秘書です!」

「アロナ、っていうんだね。うん。よろしく!」

「はい! やっと会うことができました! 私はここで先生をずーっと待ってました!」

「僕を? 寝ちゃったのは僕を待つ途中疲れて寝ちゃったとか? ……なんか、ごめんね?」

 

 突然としたケンゴの無自覚発言にメインOSは顔を真っ赤に染め誤魔化すように呟く。

 

「ううぅ……た、たしかにたまに居眠りしたこともあるけど……」

「ふふ、よろしくね」

「はい! よろしくお願いしますね!」

「……うん! いい笑顔!」

 

 アロナの可愛らしい笑顔にどこか引っかかる気分になったケンゴだったが、彼女の笑顔から得た満足感により気のせいだろうと、それを塗りつぶした。

 

「あ、ではまず、形式的ではありますが、生体認証を行います!」

「生体認証、ってどうやって?」

「うぅ……少々恥ずかしいですが、手続きですから仕方ありません。こちらの方に来てください」

「う、うん」

 

 何故か少し恥ずかしがるアロナの導きにより、ケンゴは彼女の前に近づいた。

 距離、約17.2センチ。

 

「もう少しです」

「もう少し?」

 

 アロナの促しにより近づくケンゴ。

 このくらいならちょっと近すぎじゃないかなと思えるほどの距離、約6.78センチ。

 そこまで近づいてそのまま右手を上げ人差し指をケンゴの方に見せるアロナ。

 そして彼女の指に四角いタッチパネルのようなものが浮かび上がった。

 

「さあ、私の指に先生の指を当ててください」

「指……指紋認証みたいなものなんだね」

 

 ケンゴの指が画面の向こうのアロナの指に触れた瞬間、タッチパネルは気持ちのいい音を鳴らしながらケンゴの指紋が付いたことを知らせる。

 

「……ふふ、まるで指切りして約束するみたいですね」

「約束……」

「ん、どうかしたんですか?」

「──ううん、なんでもないよ」

 

 約束、というフレーズに何故か、目の前の少女に誰かと重ねて見ているような感覚を覚えてしまい、ケンゴは違和感を感じた。

 ──さっきから何なのだ、この気持ちは。

 

「画面に残った指紋を目視で確認するのですが……すぐ終わります! これでも目はいいので! えっと……うーん……」

「どうしたの? なんかまずいとか?」

 

 ケンゴの指紋を読み込む途中、少し険しそうにも見える顔をしたアロナはケンゴの心配する声に彼をチラチラと見た後、すぐもとの笑顔に戻り、確認を終えたと知らせる。

 

「いいえ、確認完了しました!」

「よかった。それより意外と長かったね」

「へっ!?」

「あ、いや、僕がいたところでは指紋認証なんてあっという間にできたんだからね」

「そんな……! わ、私はそんなものなくても目でもわかるんです!」

「へぇー? ほんとにー?」

 

 悪戯心全開のケンゴのデリカシー皆無の追い詰めを喰らったアロナは何も言わず涙ぐみながら睨み、我慢の限界と言いたげに言い放つ。

 

「だったらそんな便利なものに替えたらどうですか!」

「あはは! ごめんごめん! ちょっと揶揄っちゃった。ほら、スマイルスマイル!」

「スマイル! ──できるわけないじゃないですか、この流れで! もう……」

「本当ごめん……」

 

 ケンゴはアロナの機嫌を直すまで慰めた後、これまでの経緯を説明する。

 

「なるほど。連邦生徒会長が行方不明となって、タワーを制御する手段がなくなった、ですか……」

「君はその、連邦生徒会長がどんな人か知ってるの?」

「私はキヴォトスの情報を多くを知っていますが、連邦生徒会長に関してはほとんど知りません。彼女がどんな人で、どうしていなくなったのかも」

「あ、じゃあこれは?」

 

 そういってケンゴは先程リンからもらった、──自分をウルトラマンに変身させた──白い拳銃と小型アイテムを取り出してアロナに見せる。

 それを見たアロナは一瞬、目を丸くして固まっては、考え込むように俯いて呟く。

 

「……教えてもいいんでしょうね

「え?」

「この拳銃の名前はスパークレンス。拳銃型装備で、先生用の護身用装備として使われる物です! そしてそのデバイスはハイパーキー。スパークレンスに装填することでその中に内包された能力を引き出し行使することが可能です!」

「だからあんな攻撃が……」

「もっとも、そのスパークレンスとハイパーキーには別の機能がありますけどね」

「もしかして君は、僕のことを……?」

「……ご存じなんですね、先生。先生が何者かを」

 

 頷くケンゴ。その答えにアロナはどこか寂し気に顔を曇らせるように見えたが、すぐ引っ込み覚悟を決めたようなムッとした顔でケンゴに説明する。

 

「実は、最近インプットされた情報の追加更新がありました」

「追加更新?」

「はい。それは、あらゆる巨大怪獣や異星人、あとは《ウルトラマントリガー》に関するデータです」

「トリガーの……」

「おそらく、連邦生徒会長は先生がウルトラマンに覚醒した時に備え、私がそのアシストも行えるように予めデータを準備していたみたいです」

「……連邦生徒会長って人は神様だったりするのかな? 神様仏様連邦生徒会長様~みたいな?」

 

 冗談めいたケンゴの言葉に場の空気はふたたび緩さを取り戻し、アロナもふふと笑い、この話題に関しては後にまた話すことで切り上げることにした。

 

「じゃあまず、サンクトゥムタワーの接続権限を修復します! ちょっと待ってくださいね!」

「うん。よろしく」

 

 数秒の後、地下室の電気が少しずつ入り始めた。

 

「サンクトゥムタワーのアドミン権限の習得完了。先生、サンクトゥムタワーの制御権を無事回収しました。いまのサンクトゥムタワーは私、アロナの統制下にあります」

「よかった。あ、じゃあ──」

「サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移転、ですか?」

「うん。頼めるかな?」

「よろしいですか?」

「大丈夫。お願い」

「わかりました!」

 

 アロナはそう言って目を閉じ、サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移転する手続きを実行する。画面の外、ケンゴはドア側にいるリンに視線を向けると、ちょうど移転が無事完了したという報告を受け、ケンゴに知らせるため部屋に入り階段を下りていた。

 

「サンクトゥムタワーの制御権の確保が確認されました。これで、連邦生徒会長がいた頃と同じように、行政管理を進められますね」

「おつかれさまー!」

 

 疲れた、と言わんばかりに近くのソファに倒れこむケンゴに、笑顔を浮かべ労いと、感謝の言葉を贈るリン。

 

「お疲れ様です、先生。キヴォトスの混乱を防いでくれことに、連邦生徒会を代表して深く感謝致します。ここを襲った不良たちと停学中の生徒たちについては、これからも追跡し討伐する予定ですので、ご安心を」

「……うん。ありがとう」

「シッテムの箱も渡しましたし、私の役目は終わったようですね」

 

 用事も済ませたところで、互いにお別れを告げようとした瞬間、また何か思いついたのかそれを言おうとしたケンゴとリン。言葉がかぶってしまい二人は一瞬言葉が詰まってしまう。

 

「あ、そういえば──」

「あ、もうひとつ──」

 

 言葉が被ってしまい、押し黙ってしまった二人。この気まずい静寂を断つかという、くだらない心理戦が繰り広がれる。

 

「──」

「え、っと……先にどうぞ」

「では……シャーレの部室をご紹介しようとしましたが、先生の方は?」

「あ、僕もそれ聞こうとしたんだ……」

「では、ついて来てください」

 

 夜も遅くなったこともあり、ケンゴはリンの案内によりシャーレの部屋を紹介され、シャーレの顧問教師として必要な作業に関しての説明を聞き、リンと別れた。

 すでに時計は9時を切っている。リンを見送ったケンゴは地下の部屋に置かれてあったソファに上を向くように倒れ、右手にタブレット、シッテムの箱を、左手に小型デバイス、ハイパーキーを手に取り見上げたまま今日会ったことを思い返す。

 突然訪れることになった世界、キヴォトスで「先生」と呼ばれ、昔、憧れた世界の平和を守るヒーロー、ウルトラマンとして覚醒した。

 

「本当に、なったのかな……」

 

 彼にとっては短いけど、実感が湧かないほど、とても濃厚な1日だったのだ。自問自答することも不思議ではないはず。

 

「あ、夕飯。どうしよう……」

 

 あまりにもあっという間に過ぎたせいで空腹すら忘れていたケンゴであったが、押し寄せる疲労に抗うことはかなわず、朝食の量を少し増やすことにしてそのまま彼は目をゆっくりち閉じる。

 

 

 

 翌日。

 あらゆる学園が集まりできているキヴォトスにはその中でも巨大な規模を誇る学園が3つ存在している。

 一つは、長い歴史を誇るミッション系学園の《トリニティ総合学園》

 もう一つは、学校自体の歴史は短いものの、科学力はキヴォトス随一の学園、《ミレニアムサイエンススクール》

 そして最後、トリニティと対を成す歴史があり、自由と混とんと定義づけられるいわば、問題児学園の《ゲヘナ学園》

 12時正午、そのゲヘナ学園の学生食堂はただ今、

 

 どん────―

 

 ──凄まじき閃光と天地を揺るがす爆音とともに、真っ二つとなった。

 そしてそんな食堂(だったもの)を背に、何事もなかったかのように歩き出す4つの影。

 

「もうー、今日の昼も最悪だったよ!」

 非常用の団子を一つ口に入れた「赤司ジュンコ」は愚痴る。

 

「まさか、フウカさんが病欠だったなんて、これでは美食にただならぬ狂いができてしまいますわね……」

 あまりにも想定外とでも言いたげに本来の優雅な立ち振る舞いとはかけ離れた、爪を噛むように親指を口元にあてながら、「黒舘ハルナ」は思考を回転し続ける。

 

「はむ……ねえ、じゃどうするの? ハルナがいきなり爆破させちゃったせいでちゃんと食べれなかったしさ」

 一見、目玉焼きにも見えるナニカの残骸をなんともないように口に掘り込みながら、「獅子堂イズミ」は呑気にこれからのことを問う。

 

「逆にそういうモノを口に入れられるイズミちゃん、すごいと思いますけどね~」

 と、余裕ぶっているが、実は今日の給食について誰よりも一番怒っていて、そのせいで食堂を爆破させた実質の実行者でもある「鰐渕アカリ」は湧き上がる腹の中の叫びを必死で抑えていた。

 

 ──そう。彼女らこそ、ゲヘナ学園内でも要注意部活優先度トップを争う問題児・オブ・問題児。「美食研究会」である。

 部長のハルナは一回目を閉じては、覚悟を決めたように顔を上げた同時に立ち止まり、振り返る。

 先行していたハルナが立ち止まることで他の部員も止まり、ハルナは先程のイズミの質問に答えるよう、提案をする。

 

「致し方ありませんわ。名誉部員のフウカさんの欠損は痛手ではありますが、他に方法がないことはありません。実は、ブラックマーケットである情報を入手しましたが」

「情報?」

「ええ。皆さん、先日D.U.に突然現れた巨大怪獣をご存知でしょうか?」

「あ、次に出た巨人が倒したあのでっかい化物のこと?」

「実は──」

 

 この先に起こりうることの結果を彼女たちはまだ知らない。

 

 

 ──場所は変わり、ミレニアムサイエンススクール。

 早瀬ユウカの日常は激務そのものである。

 彼女はミレニアムの中でも「セミナー」と呼ばれる生徒会の会計担当だ。

 彼女の担う役割は基本的にミレニアムの学校内や、全部活の予算を管理。故に、各部活に直接訪問し予算に関して論じたり、お知らせを伝える実行委員としての仕事も兼ねている。

 問題といえば、ミレニアムの生徒たちは、発想の天才? さ故か、いわゆる変人が多いせいで原則通りに事を成そうとするユウカと衝突することが多いことだった。

 そんな彼女は今日も机の上に高層ビルの如く置かれている種類の束に囲まれ頭を悩ませているのである。

 

「はあ……今日もいつもの駆け引き三昧……ゲーム開発部なんか、ロクな実績もないくせにこの前はモチベがなかったから、とか言いながら、開発費が欲しいと駄々こねるし、エンジニア部は前、現れた巨人を見ては高次元粒子巨大化システムと起動点火装置を作るとか言って、材料と技術開発の名目で予算をたかろうとするし……もう、何言ってんのやら……」

 

 今日もまた訪れた無理難題に悩む頭の上に、見えないプレッシャーに押しつぶされるように机に倒れこむユウカ。

 ため息とともに、顔色がさらに重さを増そうとするその時、彼女の記憶にある人物の顔が浮かび上がった。

 

『──そんなに張り詰めた顔をしたら身体に良くないよ? こんな時にこそ笑顔でいた方が気分は軽くなるから。ほら、スマイルスマイル!』

 

 計り知れぬ距離の詰め方、危なっかしい行動力、爽やかな笑顔の持ち主。

 それでいてたまに凛々しく振舞い、妙な安心感を与えてくれる不思議な人物。シャーレの先生、真奈華ケンゴ。

 どうして今、彼の言葉が浮かんだのだろうかと、ユウカは少しの間、考え込む。

 ──確かに人間は笑うというポジティブな感情表現により体内のNK細胞を活性化させ、それによってがん細胞を排除することも可能と言われたことを聞いたことがある。

 別にがんがあるというわけでもないのだが、彼の言う通り、少しストレスを減らせることは理にかなっていると思う。

 何より──

 

『──うん、やっぱりかわいいね! 似合うよ!』

 

 その瞬間、ユウカは自分の顔の温度がみるみる上がっていくのを察することができた。

 突然の発熱によりパニックに陥ってしまい、ユウカは平常心を取り戻さんと邪念? を振り払うように首を左右に振る。

 そんな中、ユウカの携帯に着信音が鳴る。何気なく携帯を取り相手を確認したユウカはやっと落ち着かせた顔を二度ヒートせざるを得なかった。

 

「ふぅわあああっ、あ、っと!」

 

 不意打ちを喰らったせいで自分の携帯を投げるように手放してしまい、宙を舞う携帯をなんとなくキャッチすることに成功するユウカ。

 それもそう、発信先はなんと先程までユウカが思いを馳せていた人物、真奈華ケンゴその人であったからなのだ。

 先日の出来事で、連絡先を交換したことを思い出したユウカは気を取り直し、携帯の画面を押し、耳元にもっていく。

 

「もしもし、先生?」

『あ、繋がった。おはよう。大したことじゃないけどさ、シャーレの件で相談がしたくてね。よかったら、ちょっと、時間いただけるかな?』

「──そうですね。わかりました、今向かいに行きます。どこにいらっしゃいますか?」

『えっ、とね……ミレニアム、タワー? だっけ。そこ』

「!?」

 

 ケンゴから聞かれた衝撃の言葉にユウカは慌てて今いるミレニアムタワー最上階の窓から見下ろす。

 まさか、既にここまで来ていたとは思いしなかったユウカは彼の行動力に驚愕を取り越え、ある一種の尊敬心すらしてしまいため息をついた後、またスマホを耳元に近づかせる。

 

「……すぐ行きますので、そこで待っていてください」

 

 ──後ろで静かにニヤニヤしながら見守る書記担当のことなんて気にしてない。

 

 

 エレベーターに乗り、中央のロビーがある1階に降りて来たユウカはドアが開かれるとまたも頭を痛ませてしまう。

 まさか大人しく待ってるはずの彼はミレニアムの生徒たちに囲まれ交流に励んでいたからだった。

 無論、シャーレの先生という立場として多くの生徒たちの顔を知っておくのは間違いではない。が、本来の目的はユウカとの相談でありそのための訪問だったはず。このまま野放しにしておくと、本来の目的を見失うという本末転倒の事態になりかねるので、そうならぬよう彼を導くのが正しい選択と言えるだろう。

 ──他に意味はない。

 

「あれ、ユウカちゃん。おはよう!」

「あれ、って用事があって来たんでしょう……」

「ごめん。早く行こう?」

 

 ケンゴは先程まで話していた生徒たちにさよならを言ってユウカの方に向かう。

 ケンゴと話していた生徒たちが隣に並び歩いていくユウカとケンゴの姿を見てこそこそと話していることなんてユウカは気にしていない。

 ──ないったらない。

 

「どうしたの?」

「……いいえ、何も」

「そう……」

 

 

 ミレニアムタワーの近くにある公園のベンチに座っているケンゴ。

 ユウカは飲み物を買いに近くの自動販売機に向かい、それを待つ間ケンゴは周辺を見回した。

 周りには警備ロボット、互いの資料を見せながら何かを話す生徒たち、恐らく全域に繋がってるはずのモノレールを走る列車。設備などを見た限り、彼が元いたところと同等か、少し上くらいの科学力を有しているようだった。

 

「先生、はい」

「あ、ありがとね」

 

 そうやってぼーっとしている間、飲み物を買って来たユウカ。二つとも缶コーヒーだった。

 ケンゴはもらったコーヒーをすぐは飲まず横に置き、横に座ったユウカに話しかける。

 

「えっと……そういえば、ユウカちゃんって生徒会だよね? セミナー、だっけ?」

「あ、はい。会計担当です」

「やっぱり大変だったりする?」

「それはもちろん、大変どころじゃないですよ。学校内だけでなく、すべての部活の予算を管理する立場として各部で出した研究物を基に予算増減の有無を審査しなければいけないから、基準を満たないものは当然却下されるから部活たちと争うことも多いからいい目では見られません。私としては校則通りにやるだけなのに……大体、おかしいでしょう! ゲーム開発部は話にもならない詭弁ばっかだし、エンジニア部なんかは巨大化システムの構築のために大量のレアメタルの買取のため予算を増やせとか無理言うし……」

「あの……ユウカ、ちゃん?」

 

 掘り返すとまた腹が立ったのか、ケンゴの声も無視して愚痴を吐き続けるユウカ。

 

「先月も、訳分かんない実験やって材料費実験内容ぐらい無茶苦茶で、校内での騒ぎや争いで施設を壊したりしてお金を増やせるどこらか減らすばかりだし! 部員、実績不足でいつ廃部になってもおかしくないってのに歴っとしたゲーム開発部だとかいいながら、評点1点以下のゲームとか出すし! 肩代わりしてるこっちの身にもなってよ……

「──」

 

 現在絶賛暴走中のユウカ。そんな彼女に誰かと重ねて見えたのか、目が一瞬丸くなりすぐ柔らかな笑顔を浮かべる。

 

「私だって、色々頑張ってるのに──!?」

 

 ヒートアップしていくユウカの頭に伝わった感覚情報に脳が一瞬処理がしきれなかった。

 それはユウカの頭の上に乗せられる手、そのまま軽く撫でるケンゴの手だった。

 ケンゴは優しい手つきでユウカの頭を左右に撫でながら言う。

 

「──頑張てるんだね。皆のことをよく見ている」

「あ、あの、先生……」

「ほら、スマイルスマイル」

 

 ユウカはそんなケンゴの優しい声や顔に顔を赤らめて何も言わずしばらくそのまま静寂の中、時が流れる。

 そして束の間の時が経ち──

 

「落ち着いた?」

「はい。すみません、気を使わせてしまって」

「ううん。僕もいきなり撫でたりして驚かせちゃった。なんか、昔を思い出しちゃって」

 

 気まずくなってしまった空気。

 この状況をどうにか乗り越えるため二人は、脳を絞り出しなんとか話題を作るため、今までの会話文(Log)を読み込み、単語を調合し、話題を導き出すタイミングを計る、意味のない、かつ熾烈な心理戦を繰り広げる。

 それに打ち勝った? のは、ケンゴ。

 

「あ、そういえばこうじ……巨大化、装置? というのは……」

「……うちの校内の部活の一つ、機械工学専門の部活なエンジニア部で今回出した研究テーマです。

 この前現れた巨人と怪獣にインスピレーションを受けたらしく、簡単に言うと物体を最大25倍近く巨大化するシステムだそうですけど……システム構築に必要な基本原理から理論上でしか存在しないから実現するには莫大なリソースが必要ですし、巨大化を維持させるのも最大3分が限界という欠点付き。

 エネルギー保存の限界が問題だと言ったらいざ知らず、『デメリットがある方が、ロマンがあるだろう?』とか訳分かんないこと言うし──」

「巨人って、ウルトラマントリガー?」

「確かに、そういう名前でしたよね」

 

 またもヒートアップしそうなユウカを話題を変えることでなんとか落ち着かせることに成功するケンゴ。

 上手く乗せたと内心ほっとしたケンゴはいつか密かに抱いていた疑問をユウカに問いかける。

 

「……ユウカちゃんはトリガーのこと、どう思う?」

「え? まあ、先生を助けてくれたというし、暴れまくる怪獣を倒せてくれたし、一応味方とは思いますけど……それに、なんというか、怪獣はともかくトリガーからはこう、拒否感はしなかったというか。

 ──だけど」

「だけど?」

「私たちはトリガーに関して何もわかっていません。現れた理由も、目的も、何もかも。

 また、怪獣と戦ったからといって、私たちを守る存在である確証にはなりませんから。

 彼がハッキリと味方として受けいられることは難しいでしょうね」

「──」

 

 ユウカの現実的な感想にケンゴは一瞬、押し黙ってしまう。

 否、ある意味、まっとうな考え方だ。

 ケンゴの正体、トリガーへの変身までのあらましを知らない第三者としては、突然と現れ巨大怪獣を短時間で倒せる驚異的な力を持つ謎の巨人それ以上も、以下でもない。

 そんなものを一回見ただけで信頼を寄せろということはし難いというのは一目瞭然、当然の帰結と言えるだろう。

 実は、ユウカたちにバラしてもいいかなと思ったことはあるが、それが広まったときに混乱を招きかねるということは、ヒーローものを見てなくとも十二分、想定できる。

 

「……彼を信用できないのは、不確定要素が多いから?」

「言わせると、はい。飛躍しちゃうかもですけど、彼が本当にどんな考えであれ、その圧倒的な力が私たちに向けられたら彼は怪獣同様、手を付けなくなる。そうなったら……」

「……個人的に思うけどさ。本当は、彼も僕たちとどう向き合うべきかまだよく分からないんじゃないかな?」

「え?」

「確かに、ハッキリとした理由はまだわからないけど、暴れる怪獣を倒して、少しだけど平和を取り戻した。そうやっていくうちに、僕らとどう生き抜くかを、その方法を探してるんだと、何となくだけど僕はそう感じた」

「どう生き抜くか……」

「ユウカちゃんはトリガーからは怪獣のような感じはしなかったんでしょう?」

「……」

 

 沈黙は、肯定の言い回し。

 それを悟ったケンゴは、安心したように笑顔のままベンチから立ち上がり、背を伸ばし、空を仰ぐ。

 

「だったら、その直感、一度でいいから信じてみようよ。賭けたつもりでさ」

「賭けって……」

「トリガーがキヴォトスの、みんなの味方かそうじゃないかという賭け」

「それは……」

「あ、そういうことよりさ──」

 

 また重くなりかけた空気を直すためケンゴは本題に入ることにする。

 それはシャーレへの加入。前日サンクトゥムタワーの一件で面識ができた4人を初めてのシャーレの部員として向かい入れたいということである。

 

「なるほど。確かに、ミレニアムやトリニティ、ゲヘナの重要人物たる生徒たちをまず部員にしておくと後の募集活動にも効率が上がりますからね」

「ゑ? ま、まあ……そういうこと、かな?」

 

 実はケンゴとしてはこの世界で初めて会った生徒でもあるし、昨日会ってちゃんと話もできなかったからみたいな大して意識していない単純な意図だったが、ユウカの少々ズレた解釈になんとなく乗って肯定してしまう。

 

 

 一方、ミレニアム自治区の近くにある開拓が取り消された森林地域。

 その林の中を四つの影が歩き回っている。

 

「ねえ、ハルナちゃん。本当にここなの? 伝説の魔獣が眠ってるとこって」

「ええ。古代より地底に眠った魔獣。硬い表皮で覆われている肉。

 一時期人類を跳ね除け食物連鎖の頂点に君臨し、あらゆる生命体を食い尽くし熟成させてきたその肉質は最上級。そしてその大きさはキヴォトス全人数分の五年分という噂がありました。

 ですが、昨日現れた怪獣の存在によりその噂は確信へと一変しましたわ。

 誰も味わったことのない未知の風味。それをフウカさんとご一緒出来なかったことがあまりにも残念です。ふふ……」

「わあ! 魔獣さんってそんな大きいんだ!」

「キヴォトス全人類分の五年分の量ですか……そそりますねー」

 

 陰の正体は美食研究会。

 問題児の多いゲヘナ学園の部活の中でもトップを争う問題児たち。

「美食」に関することならなりふり構わず行動する過激派。

 そんな美食研究会、通称「美研」の部長、ハルナが横に置いてある機械装置に目を向ける。

 

「『カイザーコンストラクション』からちょーっとお借りした『PWウェーブ』照射装置。本来は岩石破砕用振動波ですがこれをこの場所で使うことでその魔獣を呼び覚ませることができるらしいですわ」

「本当に大丈夫だよね? それほどに巨大で凶暴なら食われるのは私たちの方じゃない?」

「問題ありません、ジュンコさん。切り札は用意してありますので」

「じゃあ、PWウェーブ、照射開始しまーす!」

 

 アカリがポチっと、電源のボタンを押すと計器を表す画面に数え切れぬ文字が並べられ、装置のアンテナに電流が集まり地面に向かった照射される。

 四人集まり喉を鳴らしながら反応を待つ。が、しーんとした静寂以外に何も起きなかった。

 

 ──と、思われたが確かに振動波は地底の隅々まで響き渡り、暗く深い底から異様の波形により凶暴(じゅんすい)な本能が目を覚ます。

 

「やっぱり、ないんじゃないかな? そんな魔獣なんて……」

「そんなはずありません。ブラックマーケットでもかなり高価の情報と──」

「?」

 

 何もないと思われた途端、地が少しずつ、いや、段々と大きく揺れ始める。

 そして地面が割れ、木々は根こそぎ倒れ、その中からサメのような巨大な背びれが現れる。

 

 

「それで、さ。シャーレに──」

 

 と、ユウカを誘おうと言葉を紡ごうとしたケンゴ。

 そのとき、ケンゴの業務用のバックに入れてあったシッテムの箱から振動と音が鳴り始める。

 突然と聞こえたアラーム音にケンゴはいったんユウカに待ったをかけ、端末を取り出し起動ボタンを押す。

 すると、画面の中のアロナが慌てる表情でケンゴに知らせる。

 

「ちょっとごめんね。アロナ、どうし──」

『先生、大変です! ミレニアム自治区に怪獣が現れました!』

「え!?」

 

 突然としたアロナの知らせにケンゴの理解が追いつくその前に急に地が揺れ始まり、それに近くにいた生徒たちも狼狽える。

 

「何……? ち、地震?」

「その割には……」

「──まさか!」

 

 大きな地響きと共に自治区の建物の間からソレは現れた。

 巨大な顎と恐ろしいほどに鋭い牙、長く鋭利な爪。

 太古から有した捕食本能に導かれ長き眠りから目覚めた魔獣、「肉食地底怪獣ダイゲルン」の登場である。

 

「怪獣!?」

「今度は何!?」

 

 そして、そのダイゲルンの足の下を全力で走る四人。

 

「ねえ、ハルナちゃん! 結局切り札ってなんだったのさ!」

「大熊も一発で三日も眠るという麻酔剤を使おうと思いましたが……、そもそも表皮が硬すぎて注射ができない点を看過してしまいましたわ……」

「じゃあ、全力で逃げるしかありませんね★」

 

 前日に続き、またも現れた怪獣に生徒たちは動揺し逃げだす。

 その間、学校の防衛を担当するロボットやドローン、防衛用ターレットが一斉に学校に迫る怪獣に目標を定め、攻撃を開始する。

 数え切れぬ弾丸、粒子砲の嵐がダイゲルンの巨大な図体を囲んだ。

 しかし、いくらキヴォトス内最も進歩した技術を保有するミレニアムの兵器といえど未知の怪獣を防ぐにはあまりにも力不足。

 現代技術の塊たるあらゆる防衛兵器の抵抗にも虚しく痒いと言いたげに体を揺らしてはまるで肉食動物のように口から唾液を垂らしながら獲物を探すように邪魔なものを壊しながら周辺を歩きまわすダイゲルン。

 ケンゴは呆気を取られていたユウカに避難を補助するよう促す。

 

「ユウカちゃん、とりあえず他のみんなを避難させて!」

「何言ってるんですか! 先生も早く避難しないと!」

「あ、えーっと……じゃあ、ユウカちゃんはこっち! 僕はあそこの生徒たちを避難させる! 頼むね!」

「えっ、ちょっと、先生!?」

 

 そう言い残し走り去るケンゴの相変わらずの無茶ぶりに思わずため息を吐いてしまうユウカ。

 だが、何故か彼の言葉には信頼を寄せられる気がした。どうしてかは解からない。彼が先生だから? 

 この疑問を正解へと導くためには今は、これが最適解(ベスト)だと判断したユウカが言われた通り生徒の避難誘導にあたろうとした瞬間、怪獣の鳴き声にその方向に目を向けてしまう。

 口に秩序なく並べられてる棘のような牙、広い顎の下に垂れてる唾液。

 まさに肉食の獣そのもののシルエットにユウカは引いてしまい呟く。

 

「本当……エグい見た目してるわね」

 

 その時、ユウカの言葉が耳に入ったか否か、ダイゲルンが首をユウカの方に回すと、ユウカはその姿に一瞬で背中がゾッとして脚が固まってしまう。

 一方、ユウカに避難誘導を促し別の方に走って行ったケンゴはある道の角に隠れ、周りに誰もいないか見回す。

 アロナ曰く、監視カメラは連邦生徒会に譲渡した権限のほんの一部を一時的にサルベージし画面を改ざんしておいたので正体がバレる心配はないらしい。

 なら、考慮すべきは機械以外の、周辺の目。

 それが無いことを確認したケンゴは拳銃、スパークレンスを取り出す。

 そうして変身シークエンスに移そうとする前にケンゴは、ふとスパークレンスを見つめる。

 ──実感はまだ無い。けど、ここに確かな証拠が、力がある。だったら──

 

「今、僕はウルトラマンだ」

 

 覚悟を決めたケンゴは上着を捲りベルトのホルダーに挿してある紫色のアイテム、マルチタイプのハイパーキーを左手で取り出し、起動させスパークレンスに挿入する。

 

 〈Ultraman Trigger Multi Type! 〉

 〈Boot up, Zeperion! 〉

 

 次に、スパークレンスの銃口を開き、ハイパーガンモードからスパークレンスモードに移行。

 そのままスパークレンスを天高く持ち上げては引き金を引き、その中に内包された光を解放させる。

 

 

「っ!」

 

 迫りくる怪獣。速く逃げなければと考えるにも拘らず恐怖心に足が動かないユウカ。

 その間にもダイゲルンはゆっくりとユウカの方に向かい迫ってくる。

 弾丸の一発や二発では傷すら付きにくいほどの耐久力を持つキヴォトスの生徒であっても、怪獣の巨大な身体に秘められた威力なら無事には済まないということはよいに想定できる。

 陽の光すら隠すほどまでに迫ったとき、ユウカは両腕で顔を隠す。

 ──このまま終わってしまうのだろうか。

 

 目を閉じ、諦めかけたその時、ユウカに向かい開けたダイゲルンの口を、猛烈な光と共に現れた足が蹴り上げる。

 その足蹴りにダイゲルンは後ろに引き下がり、怪獣を蹴り上げたその足の正体、光の巨人、ウルトラマントリガーは空中へ舞い上がる。

 ダイゲルンを蹴った反動で後ろへ舞い上がったトリガーは、世界の平和と皆の笑顔の未来のため、再びキヴォトスの大地にその足を踏み込む。

 

 〈Ultraman Trigger Multi Type! 〉

 

「ウルトラマン、トリガー……」

 

 無事であることを自覚し目を開け見上げた視線の向こうの、身長53メートルの神秘さ、たくましさを感じられるそのシルエットにユウカはただ見とれる。

 トリガーはダイゲルンに向かい構え、走り出す。

 そんなトリガーを返り討ちにすべくダイゲルンは自慢の長い爪をトリガーに向かって振り上げる。

 トリガーは疾走することをすぐ停止。立ち止まってすぐ一回後ろに引くことでダイゲルンの攻撃を躱す。

 そしてガードが開いた腹部を蹴ることで、ダイゲルンを一歩後ろに引かせ、一定の距離を置かせたまま対置する。

 

 ふたたび爪を立てトリガーに向かい腕を振るうダイゲルン。それにトリガーはバックステップで何回も躱し、側転でダイゲルンの間合いに入り込み、手刀で牽制、回し蹴りを二回叩き込む。

 しかし、ダイゲルンもまた一筋縄ではいかぬ相手。トリガーの猛攻撃にもダイゲルンはビクともしなかった。

 トリガーの攻撃を耐えきり、そのまま体を低くしたまま突進。トリガーの胴体に直撃する。

 ダイゲルンの突進攻撃を直撃されたトリガーは後ろに吹き飛ばされ、建物にぶつかり壊れた破片があちこちに飛び散る。

 

 ──流れがダイゲルンに回った。

 勝機だと捉えたダイゲルンは再び突進攻撃を食らわせようとするが、トリガーはすぐ立ち上がり、下からダイゲルンの顎を掴み制圧、頭に手刀を振り下ろそうとしたが、ダイゲルンはその頭を上に振り上げることで威力を相殺、否、上回ることでトリガーの腕を跳ね除け素早く爪を使いトリガーの脚を攻撃し転倒させる。

 横に倒れたトリガーの頭を踏み潰そうとしたダイゲルンであったが、トリガーはそのまま横に転がることで回避。なんとか立ち上がることに成功する。

 

 絶体絶命のピンチ。このまま行くとトリガーは確実に敗北する。

 それを見守っていたユウカは戸惑う。

 彼の存在は、不確定要素だらけ。

 だが、しかし自分を襲おうとした怪獣から自分を守ってくれた。

 その時、ユウカはケンゴがしてくれた言葉を思い出す。

 

『本当は、彼も僕たちとどう向き合うべきかまだよく分からないんじゃないかな?』

『僕らとどう生き抜くかを、その方法を探してるんだと、何となくだけど僕はそう感じた』

 

 ──今の彼ではあの怪獣の馬鹿力に対応できる臨界値に達してない。

 だったら、他の形態(タイプ)は? 

 トリガーは赤と紫の基本形態以外にも別の形態にも変身していた。

 まず青紫色の姿(スカイタイプ)。空中を飛び回る敵を一瞬で追い越せるほどの俊敏さ。が、致命傷を与えられなかったことは筋力はその分落ちるということ。

 あの怪獣は前日出現した個体以上に装甲が硬いのでいくら速さで翻弄したところで有効打を与えないと意味を成せない。

 ならば、残された選択肢は一つ。

 確かに、その形態ならあの怪獣の攻撃力を上回ることができるだろう。あの怪獣の特性や、市街地戦であることを考慮してもそもそも動ける範囲自体は制限される故、動きの速度が落ちることもまた大きなデメリットにはならない。

 ──ユウカは目を閉じ、覚悟を決める。

 彼が自分を救ったということは、コインは表、味方であることは証明される。

 ──否、確かでなくても彼を、信じてみよう。

 

 トリガーが地を蹴り跳躍、ダイゲルンに飛び蹴りを放つが、ダイゲルンはそんなトリガーの足を噛み付きそのまま顎の力でトリガーごと持ち上げて、地面に叩き込む。

 どうにかして抜け出そうとしたトリガーであったが、何回も叩きつけられたせいでちゃんと身動きが取れなかった。

 体力に限界が迫り始めると同時にそれを知らせるカラータイマーが青から赤に変わり点滅し始める。

 ──不味い。

 そう思った矢先、ケンゴ(トリガー)は近くまで誰かが近づいたということに気付く。

 それは建物の屋上まで走ってきたせいか、息を切らしていたユウカであった。

 

「ユウカちゃん!? どうして!?」

「ウルトラマン! あの怪獣には赤い姿が一番有効よ!」

 

 ──赤い、姿。

 ケンゴはその言葉に無意識的に初の戦いのことを思い出す。

 ゴルバとの戦いではケンゴの意思はほぼ反映されなかったせいで戦闘時の記憶があやふやであった。だが思い出そうとしたら、その記憶が少しずつ鮮明になっていく。

 まるで、ケンゴの意思に呼応するかのように。

 ユウカはピンチに陥った自分を助けるため危険を顧みず勇気を絞った。

 ──トリガー(ぼく)を信じてくれた。

 そんな彼女の勇気に答えるためにも、彼女の、皆の笑顔を取り戻すためにも彼は、ピンチを乗り切るため想いを、祈りを捧げる。

 

「トリガー……僕は、皆を笑顔にしたいんだ。君の()が欲しい! 僕に、()()()()()()()()を!」

 

 D.U.シラトリ区、サンクトゥムタワーの地下室に位置しているオーパーツ。

「クラフトチェンバー」がケンゴの想いに呼応するように赤い光を放ち始める。

 それと同時にケンゴの目の前に赤い光が現れる。

 ──その光を取れ、と言いたげに光るソレをケンゴはブランクキーを取り出し、光の前に翳すと、赤い光はキーに向かって飛んでいき、吸収される。

 すると、ブランクキーは赤く染まり、ウルトラマンの絵が刻まれる。

「ウルトラマントリガーパワータイプ」のハイパーキーの誕生である。

 

「よし……行くぞ!」

 

 ケンゴはそのハイパーキーを一回見ては、スパークレンスに装填されていたマルチタイプのハイパーキーを取り外しホルダーに戻した後、パワータイプのキーを起動させ、スパークレンスに装填する。

 

 〈Ultraman Trigger Power Type! 〉

 〈Boot up, Derasium! 〉

 

「勝利を掴む、剛力の光! ──ウルトラマン、トリガー!!」

 

 ケンゴは力強く口上を叫ぶとともに、スパークレンスを天高く翳し、トリガーを引く。

 

 トリガーの額にあるクリスタルが赤く発光。

 全身が赤く染まると同時にトリガーは自分の右足に噛み付いていたダイゲルンの顎を左足で蹴り上げる。

 ダイゲルンは掴んでいたトリガーの足を離さざるを得なかった。足の解放と共に跳躍、土煙をばらまけるほどの着地を見せたトリガーはなにやら、先ほどとは違った姿をしている。

 全身のパープルのラインが赤色に変わり頭、上半身、下半身にかけてラインやプロテクターが変形され、さらに上半身はムキムキに筋肉が増している。

 解き放つは紅き巨人の光(トリガーノチカラ)

 勝利を掴む剛力の光、「ウルトラマントリガーパワータイプ」にタイプチェンジしたのである。

 

 〈Ultraman Trigger Power Type! 〉

 

 パワータイプにタイプチェンジしたトリガーはマルチタイプの時とは違う両手を拳で握って構え、ダイゲルンに向かって走る。

 ダイゲルンは姿が変わったトリガーを本能的に警戒し、新たに繰り出した火炎放射でトリガーを牽制しようと試みたが、トリガーは両腕をV字に交差させ威力を軽減させて、再び突進する。

 射程内に入った途端、姿勢を低くして左ストレート。速く立ち上がると同時にその勢いで右アッパーカット。

 

「よし!」

 

 想像を絶するトリガーの猛攻に成す術なくやられるダイゲルン。またも火炎放射で応戦しようとしたが、トリガーはその隙を見逃さず両手でダイゲルンの口と顎を掴み塞ぐ。

 そして、そのまま胴体ごと持ち上げその勢いで後ろの地面に投げ出す「ウルトラホイッパー」でダイゲルンを地面に叩き付ける。

 トリガーは次に倒れたまま身動きも取れず倒れているダイゲルンの尻尾を掴み、大車輪回転させ投げる、「ウルトラスウィング」でミレニアムからさらに遠ざける。

 投げ飛ばされたダイゲルンに近づいたトリガーはトドメで、ダイゲルンを片手で持ち上げる。そしてそのままグルっと一回転してはすぐ止まる。

 トリガーはそのまま止まったが、掌の上にあるダイゲルンは回転の影響を受けたまま、回転の速度が加速し続ける状態。

 トリガーは高速で回転しているダイゲルンをそのまま前方へ投げ飛ばす通称「トリガーパワーリフティング」で、ダイゲルンは吹き飛ばされる。

 数回に及ぶ打撃と投げ技によりかなり溜まったダメージによりダイゲルンはほぼノックアウト状態、今がチャンス。

 トリガーは両手を広げ焔のごとき光のエネルギーを球状態に圧縮。

 凝縮されたエネルギーを熱線状に流し放つパワータイプ最大の必殺技、「デラシウム光流」をダイゲルンに発射する。

 デラシウム光流はダイゲルンに直撃し、ハンマーに当たったかのように吹き飛ばされ、臨界値を超えたエネルギーの圧力に耐えられず爆発を起こす。

 

 戦いが終わったトリガーはユウカの方に視線を向け、ユウカは一回頷くことで応える。

 トリガーもそんな彼女に一回頷いた後、天を仰げすぐ飛び去った。

 

 こうして、キヴォトスにまた束の間の平和を取り戻した。

 だが、またいつ巨大な脅威が迫りうるかは誰にも分からない。

 ナニカの導きにより、既にこのキヴォトスも「アンバランスゾーン」と化しているのだから──

 

 

 

「──い、先生!」

「うぇ……?」

 

 ケンゴは目を覚ましたのは、シャーレの執務室。

 彼は先日あったダイゲルンの件を含め、シャーレで必要な書類作業を行う途中、うっかりと居眠りしてしまっていたのだった。

 そしてそれを起こしたのは、

 

「ユウカ……おはよう」

「おはよう──じゃあないですよ! もう昼です! てか、なんですか、この部屋! 植物だらけじゃないですか!」

 

 ミレニアムサイエンススクールの生徒会(セミナー)所属、会計担当。

 ──及び、シャーレの部員、早瀬ユウカは執務室のあちこちに置いてあった花壇に植えられてある観葉植物を見ながらケンゴに問い詰める。

 

「え、ここって観葉植物入れるのダメだっけ?」

「そうじゃないですけど……いくらなんでも多すぎます! これら買うのにいくらかかったんですか!?」

「えっと、その……思ったより給料が高くて舞い上がっちゃって後先考えず買っちゃった……あ、領収書多分あそこにまとめてあるよ」

「──領収書は束にして一か所にまとめて置くこと! 買い物は計画的に! 大人なんですから、こういうことは気にしないといけません!」

「うん……ごめんなさい。ありがとうね! やっぱユウカは頼りになるなぁー」

「──! これからは、一人でできるようにしてくださいね!」

 

 こうして、ユウカがシャーレに入部した。

 そして、トリガーの力の一部も開放することになった。

 これからも彼は迫りくる脅威からキヴォトスの平和を守り皆の笑顔のために奮闘していくだろう。

 

 






キヴォトスに二つのもののけが現れる。
たった一人の愛のため、自由に空を駆け巡る狐。
地上のすべてを消し去り嘲笑うクラゲ――
そしてケンゴ(トリガー)もまた先生として信じるという心を抱いて空へ!
次回、天空のもののけ。
――燃えゆる愛は砂に埋もれて尚、空へ舞い上がる。


プロトタイプ・ゼロ様、Gandamu様、しっぽお米様、Xナイト様、サバイブ!様、NNAB様。
お気に入り登録、ありがとうございます!あと、遅れて申し訳ございません!

本当は先週投稿する予定だったんですが、途中でユウカちゃんのキャラの解釈が違うんじゃないかなと思い、色々書き直した結果、ごちゃごちゃと試行錯誤の末、今の形になってしまったという言い訳ならぬ言い訳を申し上げる所存であります。
本当に、7千~8千字とはいえど、かなり良質の作品を一日、二日程度で仕上げる方々には尊敬の念しかありませぬ。


それはそうと、トリガーのサントラ、トリガーダークのテーマが見当たらなくてしばらく聞いていたら、「ユナα」という曲名で収録されていたということが後に分かりました……ナンデ?
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