Hellshire Gang -The Man Called the Deathslinger-   作:誠龍

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Bullet 1:血塗られた鉄

ジャラッ、ジャラッと鎖の音が響いていくる。その鎖の音はこの世の何より恐ろしく、そして冷たく聞こえた。

まるで地獄の底から響いてくるような、そんな鎖の音が徐々に自分に迫りつつある。馬は既に銃弾を受けて死に、頼れるのはもはや己の足のみ。しかしそれも片足に傷を負い、足元もおぼつかず、まさに『這々の体(ほうほうのてい)』という表現がピッタリだ。

 

「はぁ……!はぁ……!」

 

それでも走る。走る。逃げるため、“あの男"から逃れるため。

だが無情にもあの冷たい鎖の音はどんどん距離を縮めてくる。その音は今まさに自分に取って死神が迫りくる証であった。鎖の音はまさしく命を刈り取る鎌の音。そして遂に──

 

 

ズドン。

 

 

「がはっ……!!」

 

夕焼けから夜になりつつある荒野に響き渡る一発の銃声。それと同時に響いた肉が裂ける音。無論その肉は──自らの身体の肉だった。鎖の先端に取り付けられた凶悪な銛が自身の身体を貫き、肉を裂き、風穴を開けた。

銛の“返し"は肉に食い込んで離れず、銛から伸びた鎖が徐々に巻き取られていく。その鎖の先には“あの男"が──死神がいた。獲物を捕らえたことによりこの世の何より恐ろしい笑みを浮かべてゆっくりと鎖を巻き取っていく。

鎖が巻き取られるにつれ、自分の死が近づいてくるのを感じた。肉が裂かれ、(はらわた)は引きずり出され、血は湯水のように溢れて止まらない。これまで経験したことのないような激痛に苦悶の表情を浮かべながらも必死にもがき、銛から逃れようとした。

しかし銛は肉に食い込んで離れない。もがけばもがくほど銛の“返し"が食い込み、さらなる苦痛と拘束を招く。そして──

 

ザシュッ、と肉が切り裂かれる嫌な音が響いた。

鮮血が辺りに飛び散り、男の身体はうつ伏せになる形で地面に叩きつけられた。銃の先端に取り付けられたもうひとつの刃が切り裂いた男の身体から溢れた血を纏い、赤黒く不気味に光っている。

臓物と血が溢れ、激痛で朦朧とする意識の中、男は這いずりながらなんとか逃げようとする。

 

「はあ……はあ……」

 

「てめえは俺達ヘルシャーギャングの金に手を出した。それがてめえの運の尽きだ」

 

薄汚れたフロックコートを羽織った長身の男はまだ暖かい血の滴る銛付きの銃──スピアガンに弾を装填しながら低く静かに、しかし怒りに震える声で言い放った。その長身の男はブーツの拍車の音を鳴らしながらゆっくりと歩み寄り、地べたを這いずるチンケな盗っ人を見下ろして再び血に塗れたスピアガンを向ける。

 

「おい、クソ野郎。せめてもの情けだ。最期に何か言い残したことがあれば聞いてやる」

 

「……この……!クソッタレの……アイルランド野郎の……分際でぇ……!」

 

瀕死の男の捨て台詞を聞いた長身の男はその瞬間、凄まじい怒りに顔を歪ませた。何の躊躇いもなく男の背中にスピアガンの銛を直接突き刺すと串刺しにしたまま、天高く男の身体を抱え上げた。そして──

 

 

ズドン。

 

 

二発目の銃声が荒野に響き渡った。その瞬間、男の背中に刺さったまま発射された銛の刃が身体を貫通し、心臓を貫き、喉を貫き、男の口から鮮血を散らせながら銛の先端が飛び出した。悲鳴を上げる間もなくそのまま地面に膝をつく形で絶命した男の後頭部を乱暴に蹴飛ばし、銛を引き抜く。

再び血に染まった銛の刃がスピアガンに巻き取られ、長身の男は刃にべっとりと付着した血を拭った。物言わぬ屍と化した男の死体からとめどなく溢れる血が荒野の地面を紅く染めていく。

 

……馬鹿な男だ。自分達“ヘルシャーギャング"の金に手を出すなど命知らずにも程がある。このような馬鹿な真似をしなければいかに小悪党の盗っ人といえどもう少しは長生きできただろうに。たかがアイルランド人、と見くびって手を出したのが運の尽きだ。そのせいでこの男は自らの命で高い代償を払う羽目になったのだ。まさしく自分で自分に向けて銃を放ったにも等しい、文字通り自殺行為だ。

 

長身の男は愛用のスピアガンを肩に担ぎ、冷たくなりつつある哀れな盗っ人の死体に唾を吐き捨て、つぶやいた。

 

 

 

 

「とんでもない間抜けだ。自分で引き金を引きやがって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1840年代後半。アメリカ中西部ウィスコンシン州にてカレブ・クインは貧しいアイルランド移民である父トーマス・クインと母サーシャの子として生まれた。

当時のアメリカは未開拓地──フロンティアが広大に広がる国であり、まだそれほど発展はしていなかった。多くの先住民達も数多く残る中、アメリカは大陸鉄道の建設により徐々にだが近代化を遂げつつあった。

カレブの両親達アイルランド移民は1845年から起きたジャガイモ飢饉をきっかけに西ヨーロッパから北アメリカへ移り住んできた移住者であり、当時のアメリカは現代以上に差別意識が強かった。アイルランド系の移民は当時のアメリカ国民のルーツであるイングランド系が大多数を占め、アイルランドはイングランドによって支配されていた歴史背景、そしてアイルランド系にはカトリック教徒が多かったことも要因となり酷い迫害を受けていたのだ(当時アイルランド系より先に北アメリカ大陸に移り住んだ入植者達はプロテスタント教徒がほとんどだった)。

アイルランド移民はロクに仕事にも就けず、また、カレブの生まれた土地では飢餓や疫病が蔓延っており薬はおろかその日の食事にすらまともにありつけない事も珍しくなかった。

カレブの父トーマスは優れたエンジニアであったが、アイルランド移民への迫害が強い開拓時代のアメリカでは例に漏れず、エンジニアの仕事になど就けるはずもなかった。父は炭鉱夫や危険度の高い建設業など常に死の危険が伴う重労働に就くしかなかった。そうしなければ食べていけなかったからだ。

父がかつて愛用していた工具は古い納屋の隅に追いやられて埃を被り、父がそれを使うところを見ないままカレブは育っていった。

幸いにも家や土地すらまともに無い他の移民と違ってクイン家は僅かに確保した土地と家があったためまだ恵まれた方ではあった。父が出稼ぎに行っている傍ら母は農業と酪農を営み、カレブもそれを手伝って暮らしていた。

と、言っても広さは本当に僅かだ。無いよりマシといった量しか収穫できず、家畜は牛2頭と豚のみ、あとは父が移動用として使っている馬があるだけだ。こうした貧しい家庭でカレブは育った。

 

ある日、カレブが牛の世話をしていた時のことだ。三人の少年達が向こうから駆け寄ってくる。そして足元の石を拾うと彼等はカレブに石を投げ付けた。

 

「やーい!余所者!貧乏人の子!」

 

「悪魔の手先め!さっさと死んじまえー!」

 

少年達はカレブを移民の子としていじめていたいじめっ子達だった。これは珍しいことではない。移民は酷い差別を受けていたため、彼等もまた親からそのように歪んだ教育を受けさせられていたのだ。

そして子供というのは時として大人より残酷である。理屈より感情を優先して動くため、そして親の言うことを盲目的に信じ後先を考えないため平気でいじめや差別的行動に走る。だが彼等からすればそれは正しいことであり“悪者を裁いている"程度の認識に過ぎないのだ。

投げた石はカレブの頭や顔に次々と当たり、額からは血が出ている。だがカレブもやられっぱなしではない。近くにあったピッチフォークを掴むと怒りに顔を歪ませ、少年達に突撃していったのだ。

 

「うわー!貧乏人が怒ったぞー!」

 

「逃げろ逃げろー!」

 

「悪魔に食われちまうぞー!」

 

少年達は非常に逃げ足が早かった。カレブが辿り着く前に三人がそれぞれ散りながらあちこちに逃げていった。カレブは怒りに拳を振るわせながらピッチフォークを乱暴に地面に投げ捨てた。

 

「くそっ!!」

 

額から流れる血を拭いながらカレブは去っていく少年達をいつまでも睨み続けた。騒ぎを聞きつけたのか、母のサーシャが家の中から出てくる。

 

「カレブ、どうしたの!?……まあ、酷い傷……!手当てするから家の中にいらっしゃい」

 

「……うん」

 

カレブは母と共に家の中に戻った。母はすぐに水を汲んだバケツと清潔な布を用意するとカレブを椅子に座らせ、頭や腕の血を拭き取り、傷や打撲の箇所を冷やす。

カレブは母から手当てを受けながら母の顔をしばらく見つめるとぽつりとつぶやいた。

 

「……母さん、俺悔しいよ……なんで俺達が移民ってだけでここまでされなきゃいけないの……俺達は何にも悪いことしてないのに……」

 

父も母も真っ当な人間だ。どんなに差別を受けても頭を下げて、朝から晩まで働き、僅かな収入で支え合って暮らしている。人様の物を盗んだり、危害を加えたりは一切していない。なのになぜこんなにも不遇な扱いを受けなければならないのか。自分も彼等も、同じ血が通った人間だというのに──

 

カレブはその悔しさと怒りのあまり身体を振るわせながら嗚咽を漏らし、涙を流した。そんなカレブをサーシャは優しく抱きしめた。

 

「カレブ……ごめんね……私達のせいで……あなたにまでつらい思いをさせて……」

 

優しい母に抱きしめられながらカレブは泣いた。まだ年端もいかない少年のカレブにはこの時代は──あまりに生き辛すぎた。そんな息子をサーシャはずっとずっと抱きしめた。彼が泣き疲れて眠ってしまうまで。

 

 

 

 

夜、カレブは自分のベッドの上で目が覚めた。おそらく母がここまで運んでくれたのだろう。カレブは窓から星々と月が輝く夜空を見上げると彼はベッドから降りる。

……なんだか夜風に当たりたい。そう感じた彼は傍らで寝ている母を尻目に玄関へ向かう。入口近くのキッチンテーブルからは父親のいびきが聞こえており、父トーマスが夕飯の食器を置いたまま机に突っ伏して寝ていた。どうやら仕事から帰ってきて夕飯を食べたあとそのまま寝てしまったようだ。そばには父が飲んだであろう飲みかけのジェムソン(アイリッシュ・ウイスキー)のボトルがあった。

過酷な労働に身を置くトーマスのためにサーシャが僅かに貯めていた貯金から買ってきたものだ。父はこれを毎晩少しずつ飲むのが唯一の楽しみであった。

カレブはランタンを持ち、父を起こさないようにそっとドアを開けて外に出る。満点の星空の下、荒野の冷たい夜風が頬を撫でていく。カレブは星空を見上げながら家から数十メートル離れた所にある岩に腰を下ろした。

闇夜に目が慣れてきた頃、カレブは古い納屋の扉が開きっぱなしになっていることに気付いた。おそらく父が閉め忘れたのだろう。カレブは納屋の扉を施錠しようと立ち上がって近づく。

念の為、カレブは納屋の中をランタンで照らして確認した。もし泥棒や強盗が侵入していれば大事だからだ。……納屋には父が使っている馬以外動くものは見当たらない。動物が入り込んだ形跡もない。ほっと安心したカレブだが、納屋の隅にあるものが置いてあることに気付いた。

 

「これは……工具……?」

 

それは古い工具一式だった。レンチやハンマーなど多くの工具が無造作に箱に詰められ、埃を被っていた。カレブはその工具に釘付けになった。埃をはたき、古いレンチを手にすると彼はこれまで感じたことのない高揚感に包まれた。

年季は入っているものの、ランタンの光に照らされて鈍く輝くレンチやハンマーにカレブは釘付けになった。なぜこんなものがあるのだろうか?父の道具だろうか?様々な想像がカレブの脳内を駆け巡っていく。

 

「……誰だ!!そこで何をしている!!」

 

後ろから声がした。父の声だ。カレブはハッとして我に帰り、慌てて工具を箱に戻した。

 

「……カレブ?まったく、何をしているんだ……納屋から物音がしたから馬泥棒かと思ったぞ……」

 

父はやれやれ、といった様子でカレブに歩み寄る。……息子の後ろにあったのは……かつての自分の商売道具だった。納屋の奥に隠しているつもりだったがこんな形で見つかってしまうとは。まあ別にバレたからといってどうこうというわけではないが、この道具を目にすると自分が一番楽しんで仕事をしていた時代を思い出して辛くなるから納屋の隅へと押し込んだのだが。

 

「父さん、この工具は……」

 

「……ハア。隠してもしょうがないか。とりあえず家に戻りなさい。そこで続きを話そう」

 

トーマスはカレブの持ってきたランタンを持ち上げ、歩き出した。カレブも父の背中を追って納屋を出た。もちろん施錠は忘れずに。

家に戻るとトーマスはかつて自分が機関車など様々な機械の製造に携わっていた技術者であったことを話してくれた。カレブは時間を忘れて父の思い出話にのめり込んだ。父から聞いた様々な機械の話、機械の仕組みや工具の使い方などそのどれもがカレブにとって魅力的な世界であった。

息子に思い出話を数多く話したその翌朝、仕事に出かける前にトーマスは工具箱の古いレンチを手入れしてカレブに渡した。

 

「父さん、これは……!」

 

「これをお前にやろう。もう父さんは使わないからな。納屋に残ってる工具も使えそうなものがあれば好きに使うといい」

 

「父さん……ありがとう!」

 

父から受け取った古いレンチ。それはどんな金銀財宝よりもカレブの目には輝いて見えた。この日以来カレブはそのレンチを何よりも大事にし、決して手放すことはなかった。まるで母が我が子を抱きしめるかのように、カレブはこのレンチを手放さなかった。

トーマスが休みの日は思い出話や工作について質問責めにし、彼から技術の手解きを受けていた。母サーシャもそんな仲睦まじい二人の様子を見守っていた。貧しい暮らし。迫害される日々。決して平穏とは言えない生活だったが、暖かな家庭の小さな幸せがそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

だが……そんな愛する息子の心の中に怒りと復讐心から生まれた“怪物"が潜んでいることには気づく由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数ヶ月後。クイン家にはユニークで様々な機械が設置されていた。馬の後ろに取り付ける鍵付きの小型の荷台、牛の乳搾りが簡単にできる小型の装置、屋外での料理に使える折りたたみ式の調理器具などカレブは自身が集めたクズ鉄や部品で様々な発明をした。息子のエンジニアとしての才能を目の当たりにしたトーマスは手を叩いて喜び、サーシャも息子を褒め称えた。

 

「凄いぞ、カレブ!どれも便利な世紀の大発明だ!」

 

「あなたもきっとお父さんのような素敵なエンジニアになれるわ!私達の息子は天才ね!」

 

トーマスと同じ、エンジニアの才能を開花させたカレブのため父は出稼ぎがてら様々なクズ鉄や部品の収集をした。もちろんカレブ自身も家業を手伝う傍ら、打ち捨てられた木材や鉄をかき集めて更なる発明に手を出していった。時には失敗することもあったが両親はどんな発明でも喜んでくれたし、失敗した時にも「次頑張ればいい。発明とは失敗を積み重ねて出来るものだ」と父に励まされた。

 

 

 

そんなカレブは両親にも内緒で密かにある装置の設計図を古いノートに書き記していた。見る者を戦慄させるような、恐ろしい発明の設計図を。

 

 

 

 

 

 

ある日のこと、カレブは町に出かけた。わずかな小遣いを持って「買い物に行く」と告げて。アイルランド移民を嫌っている人間がほとんどの町に一人で行くことに両親は難色を示したがカレブは「危なくなったら逃げるから」「逃げ足には自信があるんだ」と言ってなんとか両親を説得した。

無論、目的は買い物などではない(そもそもアイルランド移民に物を売ってくれる店があるかも怪しいが)。目的は──あのいじめっ子達だ。この日のためにカレブは何週間もかけて準備したのだ。

 

 

──あのいじめっ子達に復讐するために。

 

 

カレブは大通りの裏側にある広場で遊んでいたあの三人を見つけた。まだこちらには気付いていないようだ。カレブは足元の石を拾うと、リーダー格の少年にそれを投げ付けた。

石は見事に少年のこめかみに命中し、傷を負わせた。痛みに呻く少年とリーダーを心配して慌てて声をかける取り巻き二人。彼等が石の飛んできた方向を見ると──あの忌々しい移民の子がニヤニヤと不敵な笑みを浮かべてこちらを見ている。少年達はすぐに怒りに駆られて彼に迫っていった。

 

「この……!貧乏人の子がぁ!」

 

「待ちやがれ!」

 

「殺してやる!!」

 

数々の怒号と罵声を響かせながら少年達は顔を真っ赤にして迫り来る。カレブはすぐに踵を返すと一目散に逃げ出した。

町外れの岩場、数々の大きな岩の物陰になっている場所までカレブは逃げた。少年達も怒りが頂点に達しているのか途中で追跡をやめたりはせずにここまで追いかけてきた。

……そうでなくては困る。何と言っても今からここは……

 

 

 

最高のショーの舞台になるのだから。

 

 

 

 

この岩場は大小様々な岩場が連なっているために死角が多く、少年達はカレブを見失ってしまった。あの忌々しく薄汚い移民の子はあろうことか自分に向かって石を投げてきたのだ。その愚かな行為のツケは絶対に払ってもらうと血眼になって彼を探した。三人は散り散りになってカレブを探すが、上手く隠れているのかなかなか見つからない。

 

「くそ!どこに隠れてる!おい、ダニエル!ジャック!どこに行った!?」

 

リーダー格の少年はカレブだけでなく、仲間のダニエルとジャックまでもが見つからないことに気付いた。彼等の返事も聞こえない。彼は段々と薄気味の悪さのようなものを感じつつもカレブを探し続ける。その時、後ろで声がした。

 

「お探しの仲間はこいつらかい?」

 

あの忌々しい移民の子の声。その声に反応し、リーダー格の少年は後ろを振り向いた。

そこには想像もしなかったおぞましい光景が広がっていた。いつの間にか手袋とポンチョを纏ったカレブの後ろで仲間の二人は手足を縛られ、さらに頭にはクズ鉄と有刺鉄線を組み合わせて作られた拷問用のマスクが被せられていたのだ。二人は口を塞がれ、呻く事しかできなくなっている。

鉄の骨組みによって作られたマスクは両目の位置に合うように外側にハンドルと下にはネジ、さらにはネジの先端に有刺鉄線を巻きつけたものが取り付けられており、ハンドルを回すと目に向かって有刺鉄線の塊が伸びるようになっていた。

 

「な……な……」

 

「そう慌てるな。お前の分も……用意してあるよ!!」

 

完全に腰が抜けて動けなくなったリーダー格の少年にカレブは迫ると腹に一撃拳を入れた。さらに殴る蹴るの暴行を加えると完全に行動不能になった少年に──同じものを被せて手足を縛った。

 

「お前は“最後のお楽しみ"だ。まずはこの二人から楽しませてもらうぜ」

 

カレブはそう言うとジャックのマスクのハンドルを回した。ハンドルが回るたびに眼球に有刺鉄線の巻き付いたネジが近づいてくる。悲鳴を上げることもできずに徐々に有刺鉄線が近づき──ジャックの眼球に突き刺さり、眼孔を抉った。

 

「んぐうぅぅぅぅぅーッ!!!!」

 

口を塞がれたままのジャックが両眼を抉られ、マスクの下で悲鳴を上げるのを震えながら見ているしかできない二人。ジャックが終わると次はダニエルが犠牲となった。ダニエルも同じようにその両眼を抉られ、血まみれのままのたうち回っている。カレブは抉った目玉を有刺鉄線からなんの躊躇いもなく引きちぎり、まるで生ゴミでも捨てるかのようにその場に放り投げた。

 

「さあ、次はてめえの番だぜリーダーさんよ。よくも散々やってくれたな。全部お返ししてやるぜ」

 

「んぐ……!!んぐ……!!んぐうぅぅ……!!ふうぅ……!!」

 

嫌だ。嫌だ。やめてくれ。頼む。助けてくれ。リーダー格の少年は涙と鼻水を流しながらマスクの下で必死に許しを乞う。

しかし──カレブの怒りが鎮まることはなかった。カレブはこれまで溜まりに溜まった怒りをぶつけるように、乱暴に、激しくハンドルを回す。

突き刺さる有刺鉄線。噴き出す血。裂ける肉の音。抉られる眼球。マスクの下から響く唸るような悲鳴。そのどれもが虐げられてきたカレブにとってまるで心地よいオーケストラのように聴こえた。

少年達が両眼を抉られ、永遠の暗闇に覆われた世界に追放されたあと、カレブはさらにこれまでの恨みと憎しみを込めていじめっ子達を石や木の棒で叩きのめした。頭蓋骨が割れ、顔面は潰れ、手足は砕かれ──そして悲鳴も上げられぬ冷たい屍と化すまで。復讐を果たしたカレブを待っていたのは何物にも代え難い高揚感と達成感であった。

彼は返り血対策として着ていたポンチョと手袋(たまたま見つけた旅人の死体から剥ぎ取ったものを岩場に隠していた)、そしていじめっ子達に取り付けた拷問マスクを証拠隠滅のため近くの川へと捨てた。

 

 

 

その数日後、眼球の無い少年達の死体が町外れの岩場の中で発見されたことがザ・サンの新聞にて報道されたがとうとう犯人が捕まることはなかった。

 

 

 

復讐に燃える男、カレブ・クイン。

のちに『デススリンガー』(死を放つもの)と呼ばれ、恐れられる男の最初の殺人であった。

そしてあの日カレブが書いていた秘密のノートには、彼をいじめていた少年達が有刺鉄線付きの拷問マスクで眼球を抉られるスケッチが設計図と共に書かれていたことを知る者はいない。

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