Hellshire Gang -The Man Called the Deathslinger-   作:誠龍

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Bullet:4 ヘルシャーギャング誕生

『ユナイテッドウエスト鉄道会社社長ヘンリー・ベイショア氏、社員の男に暴行され瀕死の重傷、社員であるアイルランド人の男を逮捕』

 

 

新聞の見出しにはあの事件の見出しがあった。カレブがベイショアを激しく暴行し、スパイクガンで腹を撃ち抜いたあの件だ。

あの日、銃声を聞きつけた社員によって通報されたあと保安官が駆けつけ、カレブは逮捕された。本来なら絞首刑とされるほどの重罪だったがそうならなかったのはベイショアの悪運の強さにある。顔面が変形するほど殴り倒され、腹を引き裂くほどの犬釘を撃ち込まれてなお、ベイショアはかろうじて生きていたのだ。

カレブの罪状は『殺人未遂』。保安官に捕えられ、ホコリまみれの留置場で何日か過ごしたあとカレブは刑務所へと移送された。ネブラスカ州に位置するヘルシャー刑務所。そこが彼が収監された刑務所であった。ここは各地で捕えられた凶悪犯罪の受刑者達が集まっている。カレブはこの冷たい監獄の中へと放り込まれてしまった。

彼に課せられた懲役は20年。彼は20年間もこの檻に閉じ込められなければならなかった。憎きベイショアは仕留め損ない、自分はこんなブタ箱にブチ込まれている。カレブの中で復讐の血が未だに滾り、それを実行できないこの状況に苛立ちが募っていく。

 

「……クソッ!」

 

独房の中で鎖の付いた鉄球に繋がれたカレブはただ拳を握り締めて怒りを抑えるしかなかった。だが一方で彼は完全に復讐を諦めたわけではなかった。

 

「忘れるなよベイショア。俺が生きている限り、お前は必ず殺してやる……!!必ずここを出て、その時こそお前の(はらわた)を引きずり出してやるからな……!」

 

この怒り。この憎しみ。決して忘れはしない。どれだけ記憶を忘れたとしてもこの復讐の怒りだけは決して忘れるものか。カレブはそう誓い、足元に転がった小さな石片を拾うとレンガの壁に文字を刻み込む。

 

 

 

 

 

 

 

『DEATH TO BAYSHORE.』(ベイショアに死を)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カレブがヘルシャー刑務所に収監されてから数ヶ月。凶悪で教養のない囚人だらけのヘルシャー刑務所であったが、カレブにとっては気の合うアイルランド系の囚人仲間が多かったことは心の支えになった。

中でも同じアイルランド移民の子であったビル・J・オブライエンという男は境遇がかなりカレブに近かったせいかこの冷たい監獄の中で唯一無二の親友といっていい存在だった。

 

「……とまあ、俺はそこで奴等をぶちのめしてやったのさ。それまで俺を虐げてたあいつらが泣いて許しを乞う無様な姿は見ものだったよ。カレブ、お前はそういう経験あるか?スカッとした仕返しの話だよ」

 

「自分が死ぬことに気付いた人間の顔なら見たことがあるぜ」

 

カレブはそう答えながらニヤリと笑みを浮かべる。

ビルが話していたのはかつて自分を差別した人間への報復に関する思い出話だった。彼は過去を語る中で力によって連中を屈服させ、許しを乞わせたかつての自分の偉業を自慢げに語る。そしてカレブも語り始めた。少年時代に成し遂げた自身の復讐の過去を。そのあまりに残虐な復讐劇を耳にしたビルは手を叩いて喜んだ!

 

「そんなガキの時からとは!カレブ、全くお前は大したヤツだよ!俺は学がねえから拳や銃に頼るしかねえが、お前くらいの脳みそがあれば俺もそんな機械を作って奴等を同じような目に合わせてやりたかったぜ!」

 

ビルは自他共に認めるほど学のない男ではあったが、自身を虐げた者達への報復という共通の境遇や話題のおかげかカレブの復讐談を喜んで聞いてくれた。冷たい鎖と鉄球に繋がれた日々は苦痛であったが、ビルとの談話がそれを和らげてくれていた。

ある日、カレブは突然独房から出るように看守に言われた。鉄球の付いた鎖をジャラジャラと鳴らしながら二人の看守の言われるがままに通路を歩かされる。

しばらく行くとやたら立派な扉が見えてくる。看守の一人が扉をコンコンとノックする。

 

「所長、お連れしました」

 

「入れ」

 

低く、くぐもった声の後に看守が扉を開けるとそこはいくつもの剥製や武器、美術品で彩られた立派な部屋だった。そしてデスクの椅子に座る一人の男。

 

「彼の鎖を外せ」

 

男が命ずると看守はカレブの手足の鎖の錠前に鍵を差し込み、それを外した。鉄の冷たい感触と重さから解放されたカレブは唖然として男の方を見る。

 

「すまないが二人とも外してくれ。彼と二人きりで話がしたい」

 

「「はっ」」

 

看守は頭を下げて一礼すると部屋を出ていく。しばしの静寂の後、男は椅子から立ち上がるとカレブの前にゆっくりと歩み寄った。

 

「カレブ・クイン君。こうして顔を合わせるのは初めてだね。はじめまして。私はロナルド・ヘルシャー。このヘルシャー刑務所の所長だ」

 

ロナルド・ヘルシャー。名前だけは知っている。この地獄のように冷たい監獄を治める王とも呼べる存在。その絶対的存在が自分の目の前に立っている。しかし何故?

 

「混乱させてすまない。いや、君の発明品の数々を見させてもらったよ。学のないならず者だらけのこの刑務所で君だけはそうではないらしい」

 

……正直この刑務所長が何を言いたいのか、またその意図もわからない。大層なご高説を語りたいだけならばさっさと済ませてほしいところだ。

 

「君のような逸材を他の囚人どもと同じ様に扱うのは少々気が引ける。そこでだ、カレブ君。ひとつ私のために頼まれてはくれないかね?」

 

「……何をだ」

 

「ふふ、まあそう焦るな。とりあえずかけたまえよ。酒でも飲みながらゆっくりと語ろうじゃないか」

 

ロナルド所長はカレブに応接用の椅子に座る様に促すと自身のデスクの上にあったボトルに手を伸ばすとグラスにウイスキーを注いだ。そして二人分を注ぎ終えるともう一方をカレブの前に置く。

 

「18年もののバーボンだ。ささ、遠慮せず飲みたまえ」

 

カレブはグラスに注がれた琥珀色の液体に目をやる。囚人となってからは酒など飲める機会があるはずもなく、本来なら飛びつきたいほどだ。しかも18年ものという、庶民では決して手に入れることのできないウイスキーならば。しかし……

 

「……一体何が目的だ」

 

この男の意図がわからない。それもわからないまま施しを受ければどんな代償を払わせられるかわからないのだ。警戒するに越したことはない。

 

「まあ、警戒するのも無理はない。ならば単刀直入に言おう。君の技術者としての知識と腕を是非借りたい」

 

所長はグラスの中のウイスキーを揺らしながらそう言った。そして一口飲むとその余韻に浸りながら再び話を続ける。

 

「……私は大の拷問マニアでねえ。小さな頃から人類史の歴史で利用されてきた数々の拷問器具を記した本に魅了されてきた。人に苦痛を与えるためだけに作られ、洗練されたその方法や器具のフォルムのなんと美しいことか」

 

ロナルド所長は目を輝かせつつ、語る。人類の歴史とは暴力の歴史だと。そして人が最も残酷になれるのは暴力と正義が合わさったその時なのだと。人間は誰しもが仮面の下に醜い本性を隠している。そしてその本性を表した時、人はどこまでも悪魔になれる。その象徴たる存在が拷問であり、拷問器具であると。そういった人間の本性に対して一種の哲学的探究心を持ったロナルドは幼い頃から拷問器具に惹かれてきたのである。

 

「つまりだ。君の技術で素晴らしい拷問器具を作ってもらいたい。甘美な暴力といえど毎回同じでは人間は飽きるものでね。もちろん見返りは用意しよう」

 

所長はカレブに新たな拷問器具の製作を依頼してきたのだ。器具の条件としてはこれまでの歴史で見たことがないような残虐なアイデアを散りばめていてかつギリギリまで相手を生かしたまま苦痛を与えるものであってほしいとのことだ。

見返りとして刑務所内でのある程度の自由と多くの食事を約束してくれるようだ。さらにその食事には煙草や酒といった嗜好品も含まれている。囚人の身の上としてはこの上ない待遇である。さらに彼のお眼鏡に叶えばより豪華な酒や食事も用意してくれると。

 

「どうだね、カレブ君?決して悪くない取引だと思うが。もちろん無理にとは言わないがね。君がこのままみすぼらしい囚人でいたいのであればの話だが」

 

……答えなど決まっている。どのみち足掻いた所でこの檻から脱出するのは簡単なことではない。よしんば脱獄出来たとしても逃亡を続けながらベイショアの首を狙うのは不可能に等しい。ならばここはこの刑務所長に取り入ってコネを作って出所と機会を待つのが正しい選択ではないか。カレブは右手をロナルドに差し出した。

 

「いいだろう。その話、乗ったぜ」

 

「さすが技術者。物分かりが良くて助かるよ。明日から早速頼むぞ、カレブ君」

 

ロナルドはカレブと握手を交わした。こうして刑務所長と技術者の囚人という奇妙な交友関係は成立したのであった。

まず、感謝の印および先払いとしてその日のうちにロナルド所長は豪勢な食事を与えた。もちろんこれが毎日というわけではないが、働きぶりによっては再びこのご馳走にありつけるというのだからありがたい。

翌日からカレブは『特別刑務作業』と称して別室で拷問器具の設計と製作に取り掛かった。必要な材料はリストアップすれば全てロナルド所長が用意してくれた。

カレブの驚くべきアイデアと製作スピードによって早速第一号の拷問器具が完成した。名は『アケロン』。カトリック教徒に伝えられるイタリアの詩人ダンテ・アリギエーリが記した作品『神曲』よりその名を取った。地獄界へと堕とされる罪人が渡る、地獄へ繋がる川の名前である。

地獄の川の名を冠する名の通り、水責めによる苦を目的とした器具だ。立てた板に逆さまに固定された囚人は下の水槽へと沈められる。一度沈めれば水槽から水が溢れ、さらに外側の水槽へと落ちた水が循環し、その水力によって板を固定した装置の台が自動的に囚人を再び水に沈める。自白などを目的とした拷問ではなく、あくまで「人に苦痛を与えることを楽しむための装置」。この拷問器具の完成度にロナルド所長は大喜びした。

ここは刑務所であり、死んで当然のクズには事欠かない。連日、ヘルシャー刑務所の地下にある所長の『お楽しみ部屋』からは地獄の底から響くような悲鳴が聞こえるようになった。それに伴ってヘルシャー刑務所が管理している墓地の墓石の数も少しずつ増えていったのは言うまでもない。

次に作ったのは『ケルベロス』。地獄の番犬の名を冠するこの器具は三つの大きな鉄の筒の中にそれぞれ入れられた三人の囚人が蒸気で作動する装置によってじわりじわりと肌を焼かれる苦痛、筒の中の刃に身体を刻まれる苦痛、内部の針によって何度も身体を貫かれる苦痛と三種類の拷問を一度に楽しむ事ができる設計となっており、同時に複数人に拷問を課す事ができるためロナルド所長は特に喜んだ。

三つめに作ったのは『フレジェトンタ』。地獄の煮えたぎる血の河の名を冠している。これはどちらかというと拷問を楽しむ事よりも処刑に重きを置かれている。この器具によって固定された囚人は死刑執行間近の死刑囚であることがほとんどで、処刑と拷問を同時にできる器具として設計された。

「絞首刑はつまらない。死ぬ前のクズに対して最期の拷問を楽しめる処刑器具が欲しい」という所長の要望から作られた。これは固定された囚人によって煮えたぎる油に徐々に沈めていくという、シンプルだが残酷極まりない器具だ。油に入れるタイミングやスピードは所長の操作次第で自由に操作でき、じっくりと痛ぶることもできれば一気に殺すこともできる。油には犠牲となった囚人達の遺骨や血が浮くようになり、まさに地獄の煮えたぎる血の河の名に相応しい。こういった様々な器具で囚人を文字通り地獄に送るロナルド所長はさながら地獄の亡者を裁くミノス王だ。

基本的には如何に長く、生かさず殺さずで苦痛を与え続けられるかによってロナルド所長からの報酬となる食事も多く豪勢になっていった。所長はカレブからのある程度の自由や要望を聞き入れていたため、彼はカレブと気の合ったアイルランド系囚人達の分の酒や煙草なども用意し、カレブはその度に刑務所の屋上や庭などで許される限りのちょっとした宴会などを開いた。当然、カレブと親しくなれば受刑者でありながら酒や煙草にありつけるのでアイルランド系の囚人達は特にカレブを支持し、カレブもまたアイルランド系囚人は拷問の対象にはしないことを要求した。

ある夜、ビルと二人で屋上で酒を飲んでいた時に彼はカレブに対してこんな事を言ってきた。

 

「なあ、カレブ」

 

「なんだ?」

 

「もしお互いここを出れたらよ、二人で何かどでけえ事をしないか?お前のおかげでこうして酒にありつけるわけだしな。お前の脳みそで色々支持してくれたら俺は何でもやるぜ。学が無えから俺はそんくらいしかできないけどな」

 

ビルにとってここまで気の合う友人は今までいなかった。刑務所にブチ込まれた時はもはや自分の人生は終わったようなものだと思っていたが、カレブと出会えた事で考えも色々と変わってきたのだ。彼のおかげでこうして嗜好品にありつけているから何かしら彼に恩返しがしたいというのもある。刑務所に入る前には『恩返し』など自分には無かった概念だ。

 

「どでけえ事、ねえ……ま、出れたらの話だが考えてはおこう」

 

「なんだよ!そこは考えておこう、とかじゃなくてもちろんだ、とか言ってくれよな!ハッハッハッ!」

 

ビルは高らかに笑いながらカレブの背中をバンバンと叩きつつ、再びウイスキーをボトルのまま口にする。彼はとんでもない酒豪だ。ビルにかかればバーボンのボトルがまるでショットグラスと見まごう程に早く無くなっていく。まあ、今二人で飲んでいるのはそれほど高い酒ではないので所長の希望に応えさえすればいくらでも用意してくれるのだが。

だが、いつか出ようというのには賛成だ。ここでいつまでも燻るわけにはいかない。必ずここを出てあいつを、憎きベイショアをこの手で葬るまでは死ぬわけにはいかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、15年の時が流れた──。

 

 

 

 

 

 

 

カレブは既に30代後半となり、髪も髭も伸び切っていた。かなりの長い時を刑務所で過ごす事になってしまったカレブだが、ベイショアへの復讐心は未だ消えてはいなかった。

ある日、彼はロナルド所長によって所長室に呼び出される。何事かと身構えていたカレブに彼が話したのは自らの政治思想に関する話題だった。

 

「カレブ君、君は政治について考えた事はあるかね?」

 

「……いや。そういうのには縁が無くてな」

 

「ふむ、まあいいだろう。実は私は企業や政界にある程度コネがあってね。今、アメリカでは二つの政党による思想が入り乱れている状況が続いている」

 

この時代のアメリカは民主党と共和党の二つの派閥によって政治的対立があった。1865年、アメリカ第十六代大統領エイブラハム・リンカーンが暗殺されてから共和党議員であったリンカーンに代わって民主党議員のアンドリュー・ジョンソンが第十七代大統領となるが1969年に退任、共和党のユリシーズ・グラントが第十八代大統領として就任する。こうして国の指導者が次々と移りゆく中で政府の役人と癒着する企業も増えてきた。それにより同じ派閥でも穏健派や急進派など様々な思想の対立によりアメリカの政治は混乱期にあったと言ってもいい。

カレブは政治に関してはよくわからなかったが、所長が政界に通ずる幾多の人間や組織、特に民主党派閥と何らかの繋がりがあることはわかった。

 

「で?そんな話を俺にして何になるんだ?悪いが俺は政治に関しては学はないぞ」

 

「まあ聞け。用はだな、君が私の要望を叶えてくれれば私にはコネを使ってどんな人間でも牢獄にブチ込み破滅に追いやる事が出来るのだ。そう……例えば……」

 

 

 

 

 

 

 

「君の憎悪の対象であるヘンリー・ベイショアなんかもな」

 

 

 

 

 

 

それを聞いた瞬間、カレブは身を乗り出した。息を荒げながら所長に掴み掛かる勢いで問い詰める。

 

「……おい!今の話は本当か!?」

 

「落ち着け、カレブ君。すぐには無理だ。だが私を手伝ってくれれば私の政界に対しての発言力も増す。そうすればベイショアを追い込むこともできる。君が引き受けてくれるならば減刑をし、すぐにでもここから出してあげよう」

 

何という好条件だ。ここから出られる上、あの憎きベイショアを追い詰めることができるとは。これには乗らない手はない。カレブは昂る心を何とか抑えながら椅子に再び座る。

 

「それで?何をやればいい?」

 

「簡単なことだよ。指名手配犯どもを手当たり次第に捕まえてここへ送ってくれればいい」

 

ロナルド所長としては刑務所の実績を上げれば自分の発言力も増すのでそれを手伝ってくれる手駒が欲しい所なのだ。カレブがアメリカ全土で指名手配犯を捕まえれば治安は良くなり国の発展に貢献できるし、所長としてもそれで富を得、名声を上げられるからだ。

 

「どうかね、カレブ君。これ以上無いくらいの条件だとは思うが……」

 

「ベイショアの奴を地獄に落とせるなら俺は何だってやるぜ。いいだろう。その話、乗った」

 

まさに千載一遇のチャンスだ。しかももしベイショアを今の立場から引き摺り下ろしてこの刑務所に収監できた場合、ヤツを好きにしていいとのことだ。刑務所内で死んだとしても『不慮の事故』で揉み消せる。つまり合法的にベイショアを殺害できるのだ。カレブは胸の高鳴りを抑えずにはいられなかった。

 

「決まりだな。ただし条件がある。指名手配犯はなるべく生捕りにすることだ。死体を収監しても意味がないからな。だが逆に生きてさえいれば手段は問わない。……しかしだ、いきなり君を野に放ってもそのまま逃げられでもしたら私の沽券に関わる。まずはこの近くの街に出没しているならず者を君一人で捕えてほしい。それが成功すれば晴れて君の出所を認めよう」

 

ロナルド所長はこれに成功した場合さらに報酬金とアイルランド系仲間の解放まで約束してくれた。カレブの目に復讐の炎が激しく燃え上がり、彼は早速刑務所にある自分の仕事場となっている工房に戻ると確実に獲物を捕えるための武器の開発に取り掛かった。

可能であれば遠距離から拘束できるようなものが好ましいが、投げ縄では些か不安すぎる。かと言って銃で撃って殺してしまえば目的は達成できない。

 

「……!」

 

彼の目に飛び込んできたのはかつて自分を繋いでいた鉄球付きのボロボロの鎖。そしてあの時ベイショアを貫いたスパイクガンのイメージがそこに合わさった。この二つを組み合わせれば実に合理的な武器が完成するのではないか。カレブの頭に妙案が駆け巡る。彼は早速自分の権限で看守にいくつかの銃を持って来させた。

レバーアクションライフルやダブルバレルショットガンなどを改良し、鎖の先端に犬釘を固定したものを内部機構に組み込んだいくつかのプロトタイプを作ると刑務所の敷地で早速実験する。

しかしこれらはどれも失敗であった。まず、拳銃弾しか使えないレバーアクションライフルでは重い鎖と犬釘を撃ち出すには火力が足りなさすぎるのだ。続いてショットガンであるが、火力は申し分ないものの重さのバランスが悪すぎる。そもそもショットガンは精密な射撃をする武器ではないため、この改良を施すとバランスが悪くなり構えが安定しない。

そこでカレブは当時レバーアクションに新たに置き換わる動作機構のライフルとして注目を集めつつあったボルトアクション式ライフルに目を付けた。

当時より強力な弾薬を撃つボルトアクションライフルとしてドイツのマウザー社が開発したモーゼルM1871(ゲヴェーア71)が存在していた。しかしボルトアクション式の最初期ということもあってかこの頃はまだ給弾機構もシンプルで弾が一発しか装填できないものであった。しかし逆を言えばこれは構造が単純ゆえに改良がしやすく、また重量も軽いので新たに取り付けできる機構にも余裕が出てくる。

カレブは何度も改良を重ねた。そして既存の銃に新たに機構を取り付けるだけでは満足いく結果が得られなかったため、このマウザーM1871をベースに新たに銃を一から組み上げることにした。それに伴って専用の弾薬も作り上げた。まさにカレブならではの発想と技術だ。

ショットガンのように頑丈で太くそれでいて軽い銃身、給弾機構はレバーアクションライフルのように銃の左側面に給弾口を作り、ボルトアクションライフルにヒントを得たハンドルを左側面に取り付けた。このハンドルは鎖を射出した後の巻き取りのためだが装填した弾を薬室に送り出す機能も兼ねている。

 

遂に完成したその銃をカレブは仮の呼称としてスピアガンと名付けた。射撃テストによる威力や巻き取りの潤滑さは上々、装填不良などの問題も起きず遂に満足の行くプロトタイプが完成した。

カレブはこのことをロナルド所長に報告、彼の言っていたギャングを捕らえるため、刑務所から7マイル離れた街へと繰り出す。

 

久々のシャバの空気を味わいながらカレブは愛用のフロックコートに袖を通し、馬を駆って荒野を駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その街ではとあるギャングの一派の男達が様々な店を襲っていた。特にこの街では中国人達が多く働いており、この日は中国人夫婦の営むクリーニング屋が標的となった。

売り上げを奪い、逃走する三人の男達。二人が馬へと先に乗り込み、最後の一人が荷物を馬に積み込もうとした時だった。

 

 

 

ズドン、と一発の銃声が鳴り響く。

 

 

 

轟音と共に伸びた鎖と先端の犬釘が真っ直ぐに伸び、男の背中から身体を貫いていた。

 

「ぐわあっ!?」

 

「け、ケビンっ!!」

 

ケビンと呼ばれた男は肉に食い込んだ犬釘と鎖によって徐々に引き寄せられていく。その先にはくたびれたフロックコートに身を包んだ銀色の長髪の男。手にはおかしな銃を握り、どうやら鎖はそこから伸びているようだ。紛れもないカレブその人であった。

激痛に悶えながらもがくケビンだが食い込んだ犬釘と鎖はなかなか離れず、無情にも引き寄せられていきそして──

 

「うらぁっ!!」

 

「ぐわっ!」

 

引き寄せた男の後頭部を掴むとカレブは地面に叩きつける。そのまま何度も地面に顔面を叩きつけて気絶させるとケビンから犬釘を引き抜いた。死にそうだがおそらく死んではいないだろう。ケビンの仲間達はもはや仲間を助けられないとみるや、彼を放置して馬を走らせ始めた。カレブはさらに取り巻きを捕らえようと再びスピアガンに弾薬を装填し、犬釘を放つ。が、しかし。

 

「チィッ……!!」

 

走り始めた馬には届かず、別の銃で馬を撃とうにも今のカレブはスピアガン以外の銃は持っていなかった。おまけにプロトタイプのスピアガンは連続して使うと鎖の潤滑が上手くいかなくなることがあり、定期的にオイルによるメンテナンスが必要だったため鎖が巻き取れなくなり、事実上スピアガンは使えなくなってしまったのだ。カレブは手で鎖を手繰り寄せると収納できなくなった鎖を仕方なく銃身に巻き付けて呟いた。

 

「……さらに改良が必要だな」

 

取り巻きは逃してしまったが、一番のターゲットは仕留めた。カレブは手配書を確認する。……ケビン・ローガン。中国人の店ばかりを狙うチンケなチンピラだ。カレブからすれば『ギャング』と呼ぶのも憚られるほどにしょうもない男だが、これで街の治安も少しはマシになるだろう。彼はケビンから奪った金の入った袋を中国人のクリーニング屋に返すとケビンを拘束し馬に乗せてヘルシャー刑務所へと引き返していった。

 

 

ケビンを連れ帰ったことでロナルド所長は大いに喜んだ。取り巻きを逃してしまったことはさほど問題ではないらしく、雑魚はあとから何とでもなるとあまり気にしていないようだった。

 

「カレブ君、おめでとう。仮釈放とはいえ明日から君は晴れて自由の身だ。しかし一人では何かと不便だろう。君と仲の良いアイルランド人の囚人を何人か解放してやろう。彼等と共に指名手配犯の逮捕に勤しんでくれたまえ」

 

ロナルド所長はそう言ってカレブと他数名のアイルランド人囚人の仮釈放手続きの書類に判を押した。これによりカレブはついに15年という長い年月を経てようやくヘルシャー刑務所から出ることが出来たのだ。

そして彼が出所する当日。隣にはビルの姿もあり、後ろには複数名の囚人達。

 

「まさかこんな形であそこから出られるとはな!カレブ、お前のおかげだよ!お前には感謝してもしきれねぇ!こうなりゃどこまでもお前さんについていくぜ!」

 

「ああ、よろしくなビル」

 

ビルはモジャモジャになるほど伸びた髭をさすりながらカレブに賞賛の言葉を贈る。てっきり自分はあそこで一生を終えるものだと思っていたのにまったく、人生とは何が起こるかわからないものだとビルは高らかに笑った。

 

こうしてカレブ・クイン率いる『ギャングを狩るギャング』……ヘルシャーギャングはここに誕生したのであった。

 

地獄の闇から伸びる冷たい鎖の音を響かせながら、ヘルシャーギャングは荒野に歩を進めていく。その鎖の先に捕らえられる次の哀れな犠牲者は果たして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「所長、良かったのですか?あんな連中を野放しにして」

 

刑務官が窓の外を眺めながら葉巻をふかすロナルド所長にそう言った。彼は窓からカレブ達が出所していく様子を見届けつつふう、と葉巻を再びふかすとデスクの上のグラスに注がれたウイスキーを一口飲む。

 

「大丈夫だ。彼等ならやってくれるさ。特にあのカレブ・クインという男はな。ベイショアへの復讐を果たすためならどんな仕事でもやってのけるはずだ。だが……」

 

そしてグラスの中のウイスキーを揺らしながら不敵な笑みを浮かべると刑務官の方に向き直り、口を開いた。

 

 

 

 

 

「最高の仕事でも結果的に自分の墓穴を掘ることがあるんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

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