ユイのリイニシャリゼ・ア・ラ・モード   作:阿羅本景

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静岡用宗に行ってインペリアルスタウトを飲もう(3)

 用宗の漁港脇には切妻屋根のホテルがある。

 雲一つない青い空、海風に揺れる椰子の木のテラス、海灰色のホテルには、誇らしげな風格がある。

 帽子の庇を上げて、私は慨嘆する。

「戻ってきたなぁ……」 

 The villa & Barrel Lounge という名前の建物は、クラフトビールの醸造所が持つホテルだった。

 WCBの醸造所はこのホテルの横にある、用宗みなと温泉と同じ建物にある。元はそこから事業をスタートしたのだが、この地にあったレストランの建物を譲り受け、試飲所であるタップルームを移設し、さらに客室にオリジナル銘柄の飲み放題のビアサーバーを設置したホテルに改装したのだった。

 醸造所らしからぬオーベルジュめいたコンセプトは大当たりし、予約は常に半年先まで満員。

 私もまだ泊まった事はない――部屋がダブルしかないので、誰と行くかを考えている内に予約が終わってしまうからだ。

 もっとも開業のクラウドファウンディングに参加したので、その内覧会ですべての客室はすでに目にしている。

 ――そっちの方がおかしい気もするが、それはさておき。

「おじゃましまーす」

 ポーチの階段を上がり、店内に入る。やっと冷房の掛かった空間にやってきたので、涼しい空気に身体が弛む。

 お昼下がりのこの時間に、店内にいるのはホテルと醸造所のスタッフさんがほとんどで、客はほとんどいなさそうだった。平日の昼間、宿泊客のチェックアウトと来客のチェックインの間の時間だから、ランチタイムであっても来客がないのは納得だった。

「貸し切り状態か、それもそうなるよねぇ……」  

 このホテルの1Fは、ビアバーとラウンジ、そしてビールのボトルショップになっている。

 バーカウンターに座り、壁の液晶のタップリストを見上げる。

 直線のはっきりした屋内のデザインと、WCBのキャラクターのウォールペイントは、海沿いのバーと言うより六本木あたりのバーを彷彿とする。

「いきなりインペリアルはちょっとね、それじゃ……あー」

 テーブルの上のランチメニューに目が留まる。さっき生しらす丼を食べてきたばかりなのに、ランチが気になる。

 前に一度来た時は、ディップサンドを食べた。でもここのカレーはまだ食べた事はない。

 ――いやさすがに昼飯二食は食べ過ぎでしょ?

 いやでも、こんな昼日中の不道徳な酒飲み旅行で、行儀正しくしていい事なんか何もない。今は息抜きだ!

「大丈夫、アルコールで胃が広がるから!」 

 カレーと、まず最初の一杯でコールドIPAのSouthern Legendsをオーダーし、Paypayで支払いする。いきなりハイアルコールのビールを入れると、胃がびっくりするから、まずは慣らしだ。

 目の前のウォールタップから注がれた、チューリップグラスに注がれた透き通った泡のない、黄金色のビールがやってくる。

 縁までひたひたなので、グラスを置いたまま一口啜る。

「あーーー、キレッキレ……夏のビールって感じ」       香るのはホップの作る松と青草のフレーバー、そしてモルトの香りにジャーマンラガーの雰囲気がある。コールドIPAは低温発酵用のラガー酵母で作るエールなので、それも納得だった。

 なによりも、ドライで喉から胃へと特急で駆け抜ける、キレる味。夏の用宗の町を歩いてきた私には堪らないビールだった。

 カウンター席から振り返り、窓の外の真夏のテラスを眺める。

「ああ……いいなぁ」

 まるで南国のホテルのバーで、カクテルグラスを片手にくつろいでいるかのような気分。

「お待たせしましたぁ!」

 女性の店員さんがカウンターの上に、カレーを出してくれる。

 いきなり海外のリゾートホテルから海の家の食堂に戻ってきたような気分だが、むしろ望む所だ。

 サフランライスの両脇に合い盛りにされた、牛タンとチキンカレー。福神漬けの代わりに紫キャベツのザワークラウトとアボカドディップ。

「ああ、これでお酒飲めるわぁ……実際、飲むんだけど」

 頂きます、とスプーンを手にお辞儀して、二度目の昼食を頂く。

 カレーはスパイシーだが辛くなく、牛タンはホロホロになるまで煮込まれている。たぶん隠し味はビールだと思う……が、銘柄までは分からない。

 ビールを飲みながらの追加昼食のカレーは、もりもりと食べられてしまう。残したら失礼だろうか、という心の片隅の心配も消え去っていく。一杯目の生しらす丼も、贅沢だが御飯の量はあまり多くなかったので

 普段からこんな事をやっていればデブデブになるけど、今はリセット中、いわば魂のチートデイだ。

「ああ、堪能してしまった……はてさて」

 空になった皿と飲み終えたチューリップグラスを前に、一礼。店員さんの出してくれた水で口の中をクリーニングする。

 まずは深呼吸。

 ――ビールを飲むのに緊張してどうするの?

 

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