ユイのリイニシャリゼ・ア・ラ・モード   作:阿羅本景

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都電に乗って息抜きにクラフトビールを飲もう(2)

『今度、阿羅本先生の教えてくれたコースで飲みに行こうと思ってるのですが』

 SNSのメッセージで、大山さんから相談された。

 某社の編集者の大山さんは、私の担当ではない。

 出版社の年末パーティーで名刺交換して、これから何かお仕事を――みたいな話が微妙にモノにならず、それでも飲みの縁が繋がって今に至っている。

『都電とクラフトビール醸造所の、ですか?』

 その時、イラスト仕事の最中だった私は、キーボードで返事をした。作業discordからの友人の声とアマゾンプライムのBGVがごっちゃになった中で、脳が自動に返答の文字列を作り上げていく。

『春河童先生の〆切り開けの、息抜きを私が提案しようと思ってまして』

「へぇぇぇ……」

 小説家の春河童先生が、大山さんの担当作家だと聞いたことはあった。

 ゲームとイラストの仕事からライトノベル方面で小説界に入っていった人間だから、純文学の道を進む作家さんには畏敬がある。

 公募賞作家とか大学ミステリ研のサロン小説家とか上智の哲学部出身とか、私のような経路の物書きからするとひええ、となってしまう類の属性だ。

 ――それは卑屈か。

 いや、言葉にしない卑屈さも作家の一つの武器だ。

『私の考案したルートではないので、是非ここは先生に案内をお願いしたいと』

『普通の人は気が付きませんしねぇ、そういう繋がりは』

 都内に実はたくさんクラフトビールの醸造所で、とある三軒が都電荒川線で繋いで梯子出来る。そんな関連性を発見し、ある時になにげなく大山さんに話したのだった。

 こんなネタをアレコレ抱えているからこそ、クラフトビールという題材で小説を書かせて貰ったりもしたものだ。

 もっともそのレーベルは吹っ飛んでしまった、ああ無情。

『これは春河童先生だけではなく、私の息抜きも兼ねてまして』

『ああ、お酒はお好きですものね』

『クリエイター同士をぶつけて、何が出てくるかを見ることが私の息抜きです』

「うはぁ!」 

 悲鳴でスタイラスがズレて、原稿の変なところをなぞる。

 大山さんは大山さんで、愉快なことを考えているようだった。

 ――ならば喜んで、私も息抜きの素材にもなりましょう。

『分かりました、予約とかこっちでやるので日程のアポイントを』

 そこまで打ち込んだ時、脳の職業領域がアラートを発する。

『決めて、大丈夫ですか?』

 作家の〆切りは、往々にして可塑性だ。

 下手に事前に予約とか取ってしまうと、仕事が終わりませんまた後日にー! ということは割と、悲しいかな、よくある。

 ――他人の心配をする前に、自分のスケジュールのことを心配した方がいいのに。

『本物の〆切日ですから、問題ありません』   

 大山さんのメッセージに、変な笑いが漏れそうになった。

 彼女の温度の低い笑い顔が、脳裏を過る。

 そうかぁ、本物の〆切りかぁ――なんとなく首元に冷たさを覚えたけど、私はOKの返事を出したのだった。

 

【続く】

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