ユイのリイニシャリゼ・ア・ラ・モード   作:阿羅本景

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都電に乗って息抜きにクラフトビールを飲もう(6)

 山手線で池袋から高田馬場まで言っても、平坦なルートだと思う。だけど平行して明治通りを走る都電だと、ワイルドだなこれは、と思うほどの起伏を感じる。

 だけど高戸橋の交差点で九〇度線路が曲がると、起伏はほとんどなくなる。

「終点の早稲田停留所……」

 新目白通りの真ん中にある、都電終点に到着。

 屋根のある頭端式ホームが三車線の車道の間に挟まれた光景は、都内の鉄道駅の雰囲気とは大きく異なるものがあった。

 真っ先に降りた春先生が、興味深そうに周囲を見つめていや。

「ここがワセダかぁ~」

 春先生が何をここに見つけだすかな? と無言で窺う。

「うーん……」 

 でもビルの並ぶ新目白通りの少し殺風景な風景には、興味を引くものはなかったようだ。

 後ろから大山さんが、私に聞いてくる。

「次のお店はどちらに?」

「ちょっと奥にあるので……こっちから行きましょう」

 スマートフォンで地図を確認し、先頭を切って案内する。

 新目白通りから奥に入り、神田川沿いの遊歩道に向かう。道を進んでいくと、春先生がそわそわし始めてくるのが、私にも分かった。

 コンクリートで護岸工事された、堀のように深い神田川。

 それだけなら殺風景であるが、低く水面を覆うように枝を伸ばした桜の木がアクセントとなり、緩く余裕のある川の曲がり方にいかにも江戸、という興趣を生んでいる。

「そして、歌に聞こえし神田川!」

 遊歩道の欄干から身を乗り出しすようにして、風景から発される江戸の残り香を吸収する春先生。

 この道を通らず表通り沿いにも行けたのだが、こっちにして正解だった、と思う。

 ――神田川がお好きなら、あのツアーを案内するのもいいのかも。

 別のお誘いの案件が頭をよぎったが、まだ都電とクラフトビールの旅は道半ばだ。遊歩道を示して私は言う。

「この神田川沿いの道を歩いていくと二軒目です」  

「これ、桜の木ですよね。神田川は目黒や隅田に並ぶ名所ですし」

 頭上の枝を春先生が見上げて歩く。私は頷いて答える。 

「満開の時は、次のお店はとてもじゃないけど入れないほど満員になるって聞いてますね」

「桜の名所で地ビール造り! いいですねぇ、願わくば次の人生はそういう過ごし方をしたいです」

 大山さんの言葉にいいですねぇそれ、と同意しながら、私たちは遊歩道を歩む。

 しばらく行くと見えてきた、ウッドの外装を施された三階立てのビルディング。

 Craftbeer GRANZOO。神楽坂のカンパイ!ブルーイングのブルーパブだった。二階が醸造所で一階がバーではあるが、ビルの敷地はあまり大きくない。

 そのせいか、平日のこの時間でも一階のカウンターと座席はもう満員になっているようだった。

「今日は天気良いせいか、お客さんが来るの早いですね……この店は予約なかったので」

 ――どうしようかな?

 入り口前で、私は腕組みしてちょっと考える。

 中には外国人の観光客っぽい欧米系のお客さんがいた。昼からクラフトビールが飲める場所は、割と外国人が多く集まる傾向がある。渋谷百人町のミッケラートーキョーとかがいい例だ。 

 先客はそんなに長居しそうにないと思うけど、このまま外で待ち惚けなのはちょっと頂けない。

 大山さんにどうしようか、と聞こうとした時のことだった。

「えーっと、ここで飲んでも迷惑掛からない……かな?」

 春先生が、ウェイティング用の店外ベンチを指さして尋ねてくる。

 店内にぎっしり座席を詰めて座るより、天気もいいので外で飲む方がゆったりして心地良い。それに、この神田川の光景が春先生はしごくお気に入りのようだった。

 ――災い転じて福となる、ね。

「いいですね、それで行きましょう!」 

「テーブルを出して貰えないか、ちょっと聞いてきますね?」

 大山さんも同意してくれたので、私は川縁の宴を催すために、店に入っていくのだった。

 

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