ユイのリイニシャリゼ・ア・ラ・モード   作:阿羅本景

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都電に乗って息抜きにクラフトビールを飲もう(8)

 都電は来た道を戻り、早稲田から鬼子母神、そして山手線のインコースをショートカットする上ったり降りたりの、多少ワイルドな線路を走って大塚まで行く。

 山手線とクロスするガード下にある、大塚駅前の停留所を降りると、私は南口の路地へと先導して歩き出す。

「ここが最後の店です」

 ――ここはいわば、私にとってのホームグランド。

 SmokeBeerFactory大塚店、醸造所はnamachanんブルーイング。ここも店で醸造を行うブルーパブだ。

「最初はこの店内だけで醸造してたんですが、今は椎名町と北池袋と三つも醸造所があるんですよー!」

 店を二人に紹介しながら、私はウッドテラスをスキップで上る。梯子三軒目になると、酒が回ってハイになっている。

 一階は醸造所と細いバースペースで、今の五時過ぎでもほとんど満員になっている。

 だけど予約した私たちは、奥の階段に通されて二階に上がる。ここはゆったりとしたテーブルのあるビアホールだった。

 全員結構飲んでいるので、席に座るとほぉぉぉぅ、と疲労と安堵の息が漏れる。尻が椅子に張り付く感覚が、堪らない。

 春先生が執筆後の疲労とアルコールのせいで挙動がふにゃんとしているが、ここで酒を控えろと言うほどの野暮ではない。

 着席したところを伺い、私はメニューをテーブルに広げる。

「スモークビア、ってお店の名前通り、ここは燻製のフードとビールのペアリングが」

「ビールも燻製出来るんですか?」

 大山さんがちょっと驚いた、という表情で聞いてくる。

「ドイツにラオホってスタイルがあります。ビールと言うか原材料の麦芽を泥炭で燻製するので、香りが独特なんです」

「って言うと、アイラ・ウイスキーみたいな?」

「ですね。日本でラオホを定番にしてるの、ここと所沢と富士桜くらいだったかな? 結構レアなビールなのでお楽しみください」

 私のトークに、二人がほうほう、と頷き肩を寄せ合ってタップリストを指でなぞり、選んでいる。ここはラオホ以外のビールも賞を取る実力派だ。

 夕食時なので、フードの注文は私に一任される。

 ここの燻製肉のフードプレートは、何のビールにも合う万能のペアリングだし、海産物系燻製もお勧めしたい。

 ――そういう時は全部。大丈夫、頭数は足りてる。 

 どしどしと注文している間に、どんどんお客さんたちが二階席にもやってくる。男女のカップルだったり、スーツで仕事上がりの一団だったり、こっちは地元のローカル色が強い。

「お待たせしましたー! 予約してくれてありがとうございます!」

 ビールを運んできてくれたのは、店長で醸造長の米澤さんだった。お店のTシャツにショートカットではきはきした、快活な女の方だ。

「昼から都電で梯子してまして、よろしくお願いいしますね~」

 米澤さん――通称なまちゃん、と私は関係がそれなりに深い。

 一度、頼み込んでコラボレーションビールをこの店で作ったこともあるので、ツーカーの仲だと自負している。

 十タップ近くあるお店のビールの半分は、namachanんブルーイングのオリジナル、後半分はゲストビールだ。そしてオリジナルビールを頼むと……

「ビール紹介の直筆アート! かわいい!」

 春先生がきゃぁ、と歓声を上げた。

 油彩で描かれたショートカットの少女とビール名のはがき大のキャンバスが、小さなイーゼルに乗って並べられる。

 キャンバスと並ぶオリジナルビールのグラスは、心なしか誇らしげに見えるのだった。

「これは瓶詰のラベルアートになりますし、過去の銘柄も飾られてますよ?」

 壁を指さすと、同じサイズの油彩キャンバスがずらっと並んでいる。大山さんと春先生が、ほぉぉーーと感嘆の声を上げる。

 並んだグラスを手に取り、今日三回目の――

「乾杯!」

 

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