これでもう五杯目か六杯目、かなり大量に飲んでる。
でも乾杯の後のビールの一口は美味しい。たぶん十杯目で四回目の乾杯だって美味いだろう。その時が夜の何時になってるかは、予想も付かないが。
春先生はここのラオホではなく小麦の白ビール、ヴァイツェンを頼んでいた。酔眼の先生は、一口飲むときゃっきゃと嬉しそうに弾んでる。
「あっ、私このビール好き!」
「クラフトビールは同じ都内で造っていても、こんなに味が違うんですねぇ」
春先生と大山さんが、嬉しそうに言う。
くはぁぁ、と私はげっぷ混じりの吐息を漏らす。
今日、私が案内したブルーパブは三軒とも気に入って貰えたようだった。都電で梯子出来ても、肝心のビールの点数が低かったら意味がない。
案内者としての大任を果たした満足感に、どっぷり浸る。私はようやく、息抜きを開始できる。
調子に乗って注文した、燻製フードがどんどん一階のキッチンから運ばれてくる。キャンバスは他のお客さんに向かって運ばれていき、新しいnamachanんのビールが運ばれてくると新しいキャンバスがイーゼルに立てられる。
グラスも箸も止まらない。
二階席もテーブルの上も、大層賑やかになっていた。
「女性客も多くて、賑やかですね」
「こんな近所に醸造所が一杯あるだなんて……」
大山さんと春先生が、感慨深そうに語り合っている。
「でしょ?」
私はグラスを掲げる。
今日は春先生の素敵なところを堪能させて貰った。
ならば最後に、私だって格好の一つも付けてみたかった。
――これくらいの茶目っ気は許されよう。
かなり酒が回っているので、気が大きくなってたのかもしれない。素面ではキャラクターに言わせられても、自分では吐けない言葉が脳裏に並ぶ。
「日本全国のクラフトビールで見知らぬ人々と繋がっていく……そんな文化が定着しつつあります」
ある時はビアバーで、ある時はブルーパブで、ある時はビアフェスで、またある時はSNSで、動画配信で――
「一期一会のビールや出会い……」
手にしたグラスの中にはピルスナーが、IPAが、スタウトが、ウィートエールが満たされていて――
「津々浦々のビール醸造所巡り……」
東京で、大阪で、京都で、静岡で、沼津で、松本で――
「私はその楽しさを伝えていきたいのです!」
グラスを掲げ、まだ見ぬビールと友との出会いを祝福するように乾杯の仕草をした。
そんな私を春先生と大山さんが、私をじっと見つめている。
――今、恥ずかしいこと言っちゃったなぁ。
いやそんな大層ことを言っても、私は一介のクールビズならぬビールクズですし、なんて笑って誤魔化そうと思ったけど……
「アラモード先生! すごい! カッコいい憧れる!」
「乾杯!」
「お褒めいただきありがとうございます、春先生!」
何とか格好が付いた! 素晴らしいわ、クラフトビールの力は!
きっとアルコールの魔力のせいだけど、気にしない気にしない!
「私たちめちゃくちゃ飲んでるような気がしますけどね、実はまだ午後六時なんですよ!?」
「あっ本当だ! ラストオーダーまでぜんぜん余裕ー!」
「都電を使わずに四軒目も行けますよね?」
「大山さん、春先生なんか酔っぱらって大変そうなんで、アフターケアはよろしくお願いしますね?」
グラスに口を付け、大山さんが赤い顔で不敵に笑う。
「何言ってるんですか? 阿羅本先生と春河童先生、電車の方向同じですよ?」
――え、そうなの? 知らなかった。
ひゃっひゃっひゃ、と春先生が笑ってる。
お互いに最寄り駅を言うと、確かに急行での隣駅だ。
「あーそーなんだ、じゃぁ安心していきましょ――!」
「何が安心か分かりませんが、腹は括りました。次の注文行きますよー! 店員さーんカモンプリーズ!」
【おしまい】
どうも、阿羅本です。皆様お読みいただきありがとうございます。
さてご存じの方はいらっしゃるかもしれませんが、私は野上武志先生の『はるかリセット』の取材協力などをさせていただいて、その際ご一緒だった葉賀ユイ先生とニコイチになった女性化キャラクター《ユイ・阿羅本》として作中に登場させていただいております。最初見た時は美人さんでびっくりしました、ええ。
そこで初登場の回をユイ先生視点でノベライズというか、取材の時の会話やメニューなども思い出して、空想ルポルタージュっぽく書かせていただきました。
皆様にご好評いただけるのなら、ユイ先生リセット紀行も書き続けてみたいなぁと思っております。第47話のノベライズに快諾いただいた野上武志先生、突発企画にも関わらずお忙しい中にユイ先生の表紙イラストをいただいた橘柚帆さん、どうもありがとうございます。
なお、初出はコミックマーケットC102にて
ではでは!